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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―

魔術学校への勧誘

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 俺たちは城壁を抜けて街の中へやってきた。
 丘の上から眺めた時と同じように、目の前の景色はヨーロッパの古い街並みに似ている気がした。

 とにかく、目に映る全てが不思議すぎる。
 地球とは別の世界が存在して、そこに見知らぬ国があるなんて。
 
 出発前はあんなに楽しみにしていたのに、今はまだ頭の整理が追いつかない。

 扉をくぐる前、事前勉強と暇つぶしを兼ねて、異世界ファンタジーに目を通してきた。
 しかし、物語の登場人物と同じようには浮かれることのできない自分がいる。
  
「……どうした、夏井? 表情が堅いぞ」
「いや、何というか、まだ別の世界に来たっていう実感がなくて」
「僕も初めてここに来た時はそうだった。生まれて初めて海外旅行に出たようなもんさ。じきに慣れるだろ」
「……そういうもんか」

 思いやるような語り口ではないものの、村川はフォローしてくれているように感じられた。 
 俺は浮き足立った心地のまま、不慣れな街の中を歩いていった。
 
 何気なく辺りを眺めてみると、商店や宿屋、食堂が道沿いに建っている。
 八百屋みたいなところでは、新鮮な野菜や果物が軒先に並んでいて好奇心が刺激されたが、近づく勇気はまだなかった。

「二人で王様に会いに行こうと思っていたが、その感じだと緊張して顔を合わせづらいだろうな。もう少し散策して、街の雰囲気に慣れてからにしよう」
「あ、ああっ、気をつかわせて悪い」
「いいさ、気にするな」

 俺たちはウィリデの街中をあっちへこっちへと歩き回った。
 村川は地理を把握しているようで、道に迷うことはなかった。

 しばらく通りを歩いていたところで、一つの看板が目に留まった。

「……魔術学校?」
「どうした、何か気になるものでもあったか」
「いや、魔術って何かと思って」
「そういえば、まだ説明してなかったが、この世界には魔術、いわゆる魔法が存在するんだ。なかなか信じられないだろうな」
「へえ、なるほど」

 大人になってからはそうでもないが、子どもの頃はRPGが好きだった。
 それに魔法学校を題材にしたフィクションも抵抗なく楽しめる。

 俺は「魔術」というものに理由もなく惹かれていた。

「あら、何か御用ですか?」
  
 看板のかかった建物から、金髪の女性が出てきた。
 白く透明感のある肌と細く長い耳が特徴的だった。

 たしか、こういう特徴の人は……何だったか。
 目の前の女性が美しすぎて、頭が上手く回らない。

「異国の人がいらしていると聞いてたんですけど、あなたたちがそうなんですね」
 
 彼女は有名人と街で鉢合わせたかのような反応を見せている。
 見開くような眼差しで、テンションが上がっているような様子だった。

「はじめまして、ユキオといいます」
「こちらこそはじめまして、エルザです」

 村川が名字を伝えなかったのを見て、こちらでは家名のつく人はほとんどいないということを思い出した。

「……カナタといいます。よろしくお願いします」
「ユキオさんとカナタさんですね。魔術学校に興味があるんですか?」
「はい、そうですね。どんなところかなと思いまして」

 頼りない気持ちになりながら、たどたどしい現地語で会話を続ける。

「それなら、今度入門コースに参加してみてはいかがですか? 簡単な内容ですよ」
「へえ、入門コースか。……でも、お高いんでしょう?」
「王立なので、王様の客人であればお代はけっこうです」
「えっ、それは魅力的かも……」

 いきなりのことに決めていいものか悩んでいた。

「いいんじゃないか。ここの生活に慣れるのにちょうどいい気がする」
「入門コースが終われば、人気講師のエレノアの指導も受けられるので、今の時期に始めるのはおすすめですよ。彼女の指導は分かりやすいと評判なんです」
「……じゃあ、入ってみようかな」

 元営業マンが異世界でセールストークに乗せられてしまった。
 とりあえず、良心的な売りこみだったのでよしとしよう。
 
 村川には、このお姉さんが美人だから決めたと思われないことを祈る。
 そう思われるのは何となく恥ずかしい。

「私の見立てではカナタさんは素質がありそうなので、異国の人であっても魔術が向いている気がします。意外に思われるかもしれませんけど」
「へえ、何か理由が?」
「いいえ、私の勘です。えへっ」
 
 エルザとの会話で、いつの間にか緊張がほぐれていたことに気づいた。
 こんな感じで現地の人と交流していけばいいのかもしれない。
 
 こうして、俺は異世界で魔術を習い始めることになった。
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