3 / 237
はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―

異世界初日

しおりを挟む
 全ての準備がととのった日、村川と共に異世界への扉をくぐった。

 彼の説明は理屈が通っていたものの、実際にその目で見届けるまでは「扉」の存在については半信半疑だった。

 扉の向こう側へ足を踏み入れた瞬間、全身が波打つような奇妙な揺れを感じた。
 前後左右、上と下の感覚が曖昧になり、このまま宇宙の果てまで飛ばされそうで生きた心地がしなかった。

 途方もなく長く感じられる時間の後、前方には部屋にいた時と異なる景色が広がっていた。
 
「移動は無事成功だ」
「……ここは?」

 村川はいつもと変わらぬ平然とした様子だった。
 彼は慣れているので落ち着いているが、俺は十分に状況が飲みこめておらず、不安と期待が入り混じった気持ちになっていた。

 まるで夢の中にいるような心地で、両足を踏みしめて地面の感覚を確かめる。
 視線を上に向けると頭上には眩しいほどに澄み渡る青空が広がっていた。
 
 俺が立っているのは、周囲に草木の生えた小高い丘の上だった。
 遠くの方に緑の生い茂る山がそびえ、その手前には城壁に囲まれた街がある。
 よく観察してみると、街の中には小さめの城が建っていた。

 今さら村川を疑うはずもないが、あの風景がヨーロッパの田舎町だと言われても違和感はない。西洋風の歴史ある街並みという感想を抱いた。

「あの城壁の内側がウィリデ王国だ。あの城に王様がいて、城主であり国王にあたる。その王様と交渉が上手くいっているから、この国で現地人に襲われる可能性は低い。それに穏やかな人が多い印象だから、すごしやすいはずだ」

 彼は淡々と話しているが、聞いているうちにそれはすごいことだと理解できた。

「活動はそこまで進んでいるのか」
「初めてこの地についてから、それなりに時間がかかったからな」

 苦労もあったはずだが、それを感じさせない物言いだった。
 村川はバックパックの中から、ラベルのないスプレー缶を取り出した。
 
「転移装置を現地人に見られないようにしておく」

 彼は正面を向いたまま説明すると、スプレーの中身を吹きつけ始めた。
 少し経つと、草むらにあった転移装置の枠が周囲と同化したように見えなくなった。
 
「すごいものを持ってるじゃないか」
「特殊なルートで手に入れたんだ。手痛い出費だったが、転移装置の保護を考えたらケチるわけにはいかなかったんだ」

 村川はスプレーをしまって、正面を指さした。

「それじゃあ、ウィリデに行ってみるか。講師を務めた研究仲間から現地語の習得は問題ないと聞いている。せっかくだから、機会があれば話してみるといい」

 彼の様子は先輩留学生のように見えた。
 英語で外国人と話すのに抵抗ないが、未知の世界の言語で話すのは勇気がいる。

「まあ、そうだな、通じればいいけど」

 俺は曖昧に返事をした。

 行く前は楽しみで仕方がなかったはずなのに、いざ現地に来てみると想像以上に緊張している自分がいた。

「心配しなくても襲われたりはしない。スリや強盗も見かけたことがない」
「……そうか。とりあえず、行ってみるか」

 俺はドキドキした気持ちのまま、ウィリデの街に向かって歩き始めた。
 二人で草原を通り抜けて、城壁の方向に伸びる街道を進んでいく。

 すれ違う通行人は少ないが、服装も見た目もずいぶん異なるので、こちらを気にするような視線を向けていた。

 幸いなのは村川から説明があった通り、危なそうな雰囲気がなかったことだ。
 
 丘の上を出発してしばらく歩くと、城壁の前までたどり着いた。
 前方には門番のように衛兵が待ち構えているので、再び緊張が高まってきた。
 
「心配いらない。不審者が出入りしないように監視しているだけだ」
「……そ、そうか」

 村川がこちらを落ち着かせるように言った後、ポケットから何かを取り出した。
 
「それは?」
「この国の客人である証明みたいなものだ」

 彼はそれを手にしたまま、先へ進んだ。
 俺もおいていかれないようについていく。

「おやっ、客人の方ですね。お連れの方もウィリデにようこそ」
「どうも、こんにちは」

 村川が自然な様子でやりとりをした。

 衛兵は明らかに歓迎している雰囲気だった。
 そして、現地語が理解できたことにちょっとした感動を覚えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...