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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
不穏な事件
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起きた出来事としては――馬に乗った男とすれ違った――それだけだったが、俺たちの間に重苦しい空気が流れているのを感じていた。
それ以降は同じようなことが起きなかったものの、どこか張りつめた状態のままで移動を続けた。
俺たちは見えない影に怯えているかのようだった。
休憩をはさみながら進むうちに、やがて夕暮れが近づいてきた。
俺たちは前日と同じように森の中で開けた場所に野営することになった。
焚き火を起こしてテントを設置して、夜の見張りは交代で行う。
この日も目立った危険はなく、一日の最後は無事にすぎていった。
翌朝、俺たちは後片付けを終えて野営した場所を発った。
最初のうちはこれまでと同じような景色が続いていたが、途中から木々の量が少なくなり始め、視界が明るさを増すようになった。
出発してから二、三時間が経った頃、ついに森の切れ目が見えてきた。
大森林の向こうにちらほらと建物が並んでいるのが目に入る。長距離移動に区切りがつくと思うと心が軽くなるような気がした。
「さあ、これで森を出られるわ。順調に進んでこれてよかった」
リサはホッとするような声を出した。
俺も同じような気持ちだった。
「お疲れさまでした。フォンスのことはリサの方が詳しいと思うので引き続きよろしくお願いします」
「よしっ、これでついにフォンスに到着か」
この世界に来て二カ国目に入ることになる。
国境が分からないままの入国にはなっているが、少々感慨深いものがあった。
俺たちは呑気な観光客というわけでもないので、記念撮影をすることもなく、大森林の出口を素通りした。
数日ぶりに木々の屋根がない状態は不思議な感覚だった。心なしか普段よりも降り注ぐ日光が眩しく感じられる。
ウィリデ側と同じく、森を出て少し進むと整った道が先の方へと伸びていた。
点在する木々と青々とした草むらが左右に広がっている。
特に名前を聞いたわけではないが、おそらくフォンスに続く道だと思うので、フォンス街道と勝手に命名した。何だか趣があって我ながらいい響きだと思う。
現地語に訳すと全然違う言い方になるが。
山場を越えたからなのか、リサの進むペースが少しゆっくりになった気がする。
森を抜けなければいけないという緊張感が薄くなり、大森林の中にいた時よりも気楽に構えていられる感じがした。きっと、他の二人も同じような気持ちなのだと思った。
「まずは今夜の宿探しからね。フォンスの中心部までけっこうかかるから、手前の街で泊まるのが賢明だわ。二人、特にカナタが疲れていると思うから、今日はしっかり休めるようにしましょ」
「そうですね、僕も賛成です」
二人の意見がまとまって、これからのプランが決定した。
口を挟む必要もなかったので、意見を言うこともなく頷いて同意を示した。
森を出てからは左右にまばらに木が生えて、その周囲に草むらが広がっていた。
それからしばらく歩いていると、広大な田園風景が目に入ってきた。
「フォンスは水資源が豊富で水田がたくさん作られています。作物の一部はウィリデに出されることもあります。もっとも、ウィリデの主食は米ではないのでそこまで大量には出回っていません」
エルネスが遠くの景色を指さしながら説明してくれた。
水田の脇には水路のようなものが目に入る。
「うん、たしかにウィリデでご飯を食べた記憶がないですね」
「おそらく、フォンスで食事をする時は出されると思います。大昔からエルフは米を食べる習慣がないので、僕はあまり得意ではないのですが……」
エルネスにも苦手なものがあると知って、ほほえましい気持ちになった。
それぐらい俺の中で彼に対する評価が高かった。
森の向こうに見えていた建物までは意外に距離があり、少なくとも30分近くは歩いた感覚があった。とはいえ、今日までの大移動に比べれば大したことはない。
水田を耕す農夫たちの住居なのだろうか。
宿や商店というよりも素朴な作りの建物がまばらに立ち並んでいた。
屋根から壁まで全て石材で作られた無骨な作りをしている。
ウィリデに比べて建築技術や木材の加工技術が発展していないのか、あるいは予算的な問題でこういった作りになっているのかは分からなかった。
それについて特段知りたいわけでもなかったので、エルネスに訊ねる必要はないと思った。彼の方も何か説明しようという雰囲気はなかった。
こちらの世界に来てから天気が崩れるのを見たことはないが、歩き続けるうちに空が灰色の雲に覆われるのを初めて目の当たりにした。すぐに降り出しそうというほどではなくても、雨が降る前に街へたどり着きたいところだ。
建物が広がる一角を通り抜けるところで、何人かの人だかりが目に入った。
少し前を行くリサが立ち止まって、俺とエルネスの方を振り向いた。
「なんだか騒がしいわね。以前通った時はこんなことなかったけど」
「とりあえず、近くへ行ってみましょう」
「たしかに、ちょっと何事か気になりますよね」
俺たちはそのまま進んで様子を見に行くことにした。
建物が途切れて草の生えた空き地に三人の男たちが倒れていた。
それをやや遠巻きに近隣に住んでいると思われる人たちが眺めている。
「……すみません、一体何があったのでしょうか」
エルネスはその中の誰にともなく問いかけた。
「あんたら旅の人かい。よく無事だったな。あいつらはここいら周辺にいた盗賊なんだが、誰かに殺されちまったらしい。傷の具合からいって剣で斬られてるな。一体誰がやったのやら」
日焼けして短い髪型の中年男性が興奮気味に話した。
その意味を理解しようとして違和感を覚えた。
……殺されている?
まさかと思い無造作に転がる男たちを見ると、血溜まりができてピクリとも動かなかった。何か不自然とは思ったが、絶命していると気づかなかった。もしくはそんなはずはないと決めてかかって見ていたのかもしれない。
刺殺体を見るのは初めてのことなので、衝撃が大きかった。
この場を離れたい気持ちはあるものの、情報収集の必要性も感じていた。
エルネスは他の人にも訊ねたが、一様に困惑しているだけで、具体的に何が起きたのか知る人はいないようだった。
ここに長居するまでもないことを分かってから、俺たちは再び歩き始めた。
それ以降は同じようなことが起きなかったものの、どこか張りつめた状態のままで移動を続けた。
俺たちは見えない影に怯えているかのようだった。
休憩をはさみながら進むうちに、やがて夕暮れが近づいてきた。
俺たちは前日と同じように森の中で開けた場所に野営することになった。
焚き火を起こしてテントを設置して、夜の見張りは交代で行う。
この日も目立った危険はなく、一日の最後は無事にすぎていった。
翌朝、俺たちは後片付けを終えて野営した場所を発った。
最初のうちはこれまでと同じような景色が続いていたが、途中から木々の量が少なくなり始め、視界が明るさを増すようになった。
出発してから二、三時間が経った頃、ついに森の切れ目が見えてきた。
大森林の向こうにちらほらと建物が並んでいるのが目に入る。長距離移動に区切りがつくと思うと心が軽くなるような気がした。
「さあ、これで森を出られるわ。順調に進んでこれてよかった」
リサはホッとするような声を出した。
俺も同じような気持ちだった。
「お疲れさまでした。フォンスのことはリサの方が詳しいと思うので引き続きよろしくお願いします」
「よしっ、これでついにフォンスに到着か」
この世界に来て二カ国目に入ることになる。
国境が分からないままの入国にはなっているが、少々感慨深いものがあった。
俺たちは呑気な観光客というわけでもないので、記念撮影をすることもなく、大森林の出口を素通りした。
数日ぶりに木々の屋根がない状態は不思議な感覚だった。心なしか普段よりも降り注ぐ日光が眩しく感じられる。
ウィリデ側と同じく、森を出て少し進むと整った道が先の方へと伸びていた。
点在する木々と青々とした草むらが左右に広がっている。
特に名前を聞いたわけではないが、おそらくフォンスに続く道だと思うので、フォンス街道と勝手に命名した。何だか趣があって我ながらいい響きだと思う。
現地語に訳すと全然違う言い方になるが。
山場を越えたからなのか、リサの進むペースが少しゆっくりになった気がする。
森を抜けなければいけないという緊張感が薄くなり、大森林の中にいた時よりも気楽に構えていられる感じがした。きっと、他の二人も同じような気持ちなのだと思った。
「まずは今夜の宿探しからね。フォンスの中心部までけっこうかかるから、手前の街で泊まるのが賢明だわ。二人、特にカナタが疲れていると思うから、今日はしっかり休めるようにしましょ」
「そうですね、僕も賛成です」
二人の意見がまとまって、これからのプランが決定した。
口を挟む必要もなかったので、意見を言うこともなく頷いて同意を示した。
森を出てからは左右にまばらに木が生えて、その周囲に草むらが広がっていた。
それからしばらく歩いていると、広大な田園風景が目に入ってきた。
「フォンスは水資源が豊富で水田がたくさん作られています。作物の一部はウィリデに出されることもあります。もっとも、ウィリデの主食は米ではないのでそこまで大量には出回っていません」
エルネスが遠くの景色を指さしながら説明してくれた。
水田の脇には水路のようなものが目に入る。
「うん、たしかにウィリデでご飯を食べた記憶がないですね」
「おそらく、フォンスで食事をする時は出されると思います。大昔からエルフは米を食べる習慣がないので、僕はあまり得意ではないのですが……」
エルネスにも苦手なものがあると知って、ほほえましい気持ちになった。
それぐらい俺の中で彼に対する評価が高かった。
森の向こうに見えていた建物までは意外に距離があり、少なくとも30分近くは歩いた感覚があった。とはいえ、今日までの大移動に比べれば大したことはない。
水田を耕す農夫たちの住居なのだろうか。
宿や商店というよりも素朴な作りの建物がまばらに立ち並んでいた。
屋根から壁まで全て石材で作られた無骨な作りをしている。
ウィリデに比べて建築技術や木材の加工技術が発展していないのか、あるいは予算的な問題でこういった作りになっているのかは分からなかった。
それについて特段知りたいわけでもなかったので、エルネスに訊ねる必要はないと思った。彼の方も何か説明しようという雰囲気はなかった。
こちらの世界に来てから天気が崩れるのを見たことはないが、歩き続けるうちに空が灰色の雲に覆われるのを初めて目の当たりにした。すぐに降り出しそうというほどではなくても、雨が降る前に街へたどり着きたいところだ。
建物が広がる一角を通り抜けるところで、何人かの人だかりが目に入った。
少し前を行くリサが立ち止まって、俺とエルネスの方を振り向いた。
「なんだか騒がしいわね。以前通った時はこんなことなかったけど」
「とりあえず、近くへ行ってみましょう」
「たしかに、ちょっと何事か気になりますよね」
俺たちはそのまま進んで様子を見に行くことにした。
建物が途切れて草の生えた空き地に三人の男たちが倒れていた。
それをやや遠巻きに近隣に住んでいると思われる人たちが眺めている。
「……すみません、一体何があったのでしょうか」
エルネスはその中の誰にともなく問いかけた。
「あんたら旅の人かい。よく無事だったな。あいつらはここいら周辺にいた盗賊なんだが、誰かに殺されちまったらしい。傷の具合からいって剣で斬られてるな。一体誰がやったのやら」
日焼けして短い髪型の中年男性が興奮気味に話した。
その意味を理解しようとして違和感を覚えた。
……殺されている?
まさかと思い無造作に転がる男たちを見ると、血溜まりができてピクリとも動かなかった。何か不自然とは思ったが、絶命していると気づかなかった。もしくはそんなはずはないと決めてかかって見ていたのかもしれない。
刺殺体を見るのは初めてのことなので、衝撃が大きかった。
この場を離れたい気持ちはあるものの、情報収集の必要性も感じていた。
エルネスは他の人にも訊ねたが、一様に困惑しているだけで、具体的に何が起きたのか知る人はいないようだった。
ここに長居するまでもないことを分かってから、俺たちは再び歩き始めた。
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