206 / 237
こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

精鋭たちの潜入作戦

しおりを挟む
 今までは死者はおろか負傷者さえ見かけることはほとんどなかった。

 しかし、モンスターの大群を退けた後、仲間の何人かが傷ついていた。
 幸いにも重傷者はいないようだったが、血の跡や傷口が生々しかった。

「乱戦のたびにこれでは、味方が消耗してしまう。魔王のところへ先を急がねば」
「オーウェン殿、潜入経路はここから離れていません。すぐに案内しましょう」

 わずかに焦燥感を漂わせるオーウェンに対し、冷静沈着なサスケが投げかけた。

 オーウェンは何も言わずに頷き、選ばれた者たちに声をかけ始めた。
 そして、すぐに俺のところにもやってきた。

 彼は、さあ行こうとだけ言うと離れていった。

 想像以上に厳しい状況となり、オーウェンが余裕を失いかけているのを見た。
 自制が効かないほどではないようなので、作戦の進行は問題ないだろう。

 オーウェンの呼びかけが終わると、魔王のところへ向かうメンバーが集まった。

 サスケは表情を変えず、落ち着いているようにも不機嫌なようにも見える。
 もしかしたら、案内役としての重圧を感じているのかもしない。

 リュートは危険を前にしているにもかかわらず、鷹揚な様子を見せている。
 エレンは何かを考えるような表情をしているが、不安はほとんど感じさせない。

「乗りかかった船なんで、魔王とやらを倒してウィリデに戻りましょう」

 心細い気持ちでいると、シモンが声をかけてきた。

「ああっ、そうだね」
「カナタとこうして話していると、カルマンの戦いを思い出しますな」

 シモンはしみじみとした感じで遠くを見上げた。 

 たしかにクルトやシモンと共に戦った頃から時間が経過している。
 偶然にここまでやってきて、モンスターの支配する世界で旅を続けた。

「我々は魔王討伐に向かう。邪魔が入らぬように後方の守りは任せた」
「……ご武運を」

 仲間の一人が神妙な顔つきでオーウェンに声をかけた。

「……無事に戻ってくることを約束しよう」

 彼は強がりを感じさせない自然な態度で、しっかりと言った。

「さあ、魔王を討つぞ!」

 オーウェンの呼びかけに選ばれた仲間たちが声を上げた。
 シモンは陽気な様子で拳を振り上げている。

 いよいよ、決戦の時だと思うと全身に身震いするような感覚が走った。
 
 不安もあるが、この仲間たちが一緒ならきっと大丈夫だ。
 そう自分に言い聞かせながら、先へと足を運んだ。


 サスケの案内で細い通路を進み始めた。
 少し歩いたところで、オーウェンがサスケに質問をした。

「サスケ、敵の一陣が多かったが、この先はどうなのだ?」
「オーウェン殿、こちらのルートは後方から攻められない限り、大軍に押されるようなことはないと思います。ただ……」
「ただ? 何かあるのか」

 近くで聞いていた俺もサスケの間が気にかかった。

「潜入した際に腕の立ちそうなモンスターがいくつかおりました。あまり見かけたことのない種類なので、警戒が必要かと思います」
「うむ、そうか……」

 サスケの説明を聞いて、オーウェンは考えこむような態度を見せた。  

 彼が悩むのも理解できる気がした。

 精鋭を絞りこんだとはいえ、強敵を相手にしていたら魔王まで辿り着けるか分からない。それに戦力がダウンした状態で魔王を討てるだろうか。

 サスケが説明したモンスターに出会わないことを願うばかりだった。

 
 細く長い通路を慎重に進み続けると、道の先に広間があった。

 ようやく広い場所に出るところで、サスケが制止するように合図を送ってきた。
 それぞれに少し離れて歩いていたが、それを見た仲間たちは一箇所に集まった。

「この先に危険なモンスターがいます。動きは鈍いですが、狙われると厄介です」
「……わかった。皆も注意してくれ」
「ワタシが先に行くので、それに続いてください」

 サスケはやけに固い表情をしている。
 その様子から相当危ないモンスターがいることを想像した。

 それから、サスケが最初に行くことになった。

 彼は広間を進みかけたところで、再確認するように音を立てるなと注意喚起のハンドシグナルを送った後、通り抜ける風のように広間の中を進んだ。

 続いてオーウェンが進み、シモンがその後に続いた。
 二人とも問題なく、広間の向こう側へと移動していた。

 残る俺、リュート、エレンの三人は互いを見渡した。
 二人の槍使いは意見が一致したようで、まずは俺が行くように促された。 

 何も言わずに頷いて、細い通路を出た。
 広間は想像以上に大きく、座席の取っ払われたホールぐらいの大きさがあった。
 
 どんな危険があるのか気になりながら、音を立てないように慎重に進む。
 ゆっくりにしか歩けないので、反対側までの距離がやけに長く感じる。

 ――ふと、視界の端に何かが見えた気がした。
 
 気に留めている場合ではないのだが、どうしても気になってしまう。
 顔を正面に向けたまま目だけを横に向けて、ちらりと見やる。 

 ――な、なんだ、あれは!?

 思わず声が出そうになったのを押し殺した。

 広間の奥には玉座のような特大の椅子があり、背丈が三メートル以上ありそうな巨大なオークが鎮座していた。

 こんな巨体に襲いかかられてはまずい。
 本能的な脅威を感じつつ、そそくさと広間の端へと通過した。

 先を行くサスケたちのところへ着くと、イヤな汗が額から垂れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...