207 / 237
こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

キングオークの脅威

しおりを挟む
 俺が広間を通り終えた後、続いてリュートたちが来ようとしていた。

 壁の影からオークの巨体を確かめると、目をつぶって眠っているように見えた。
 今のうちなら安全かもしれない。

 すぐにリュートが通路を出てこちらに歩いてきた。

 武芸に秀でているだけあって、必要以上に音を立てずに通り過ぎた。
 王様のようなキングオークはまだ眠っている。

 エレンは出るタイミングを見計らっている。
 あちらからはオークの状態が分からず、慎重になっているようだ。

 先に通過して状況を把握したリュートがエレンを急がせるように手で合図する。
 彼はやや憮然とした表情を見せた後、通路を出てこちらへ向かおうとした。

 よしっ、最後の一人がこれで完了だ。

 そう思いかけたところで――何かがビュンと風を切った。
 
 その直後、地面に重量のある何かが落下する音がした。

「……くっ」

 エレンの方を見ると、彼の近くに巨大な斧が落ちていた。

「……ウマそうなニンゲンのにおいがするぞ」

 オークが目を閉じたまま声を上げた。
 エレンの位置を正確に狙った投擲から、とても眠っているように見えなかった。

 さすがの彼もオークの脅威を前に身動きが取れなくなっている。

「サスケ、彼を助けに行けないか?」
「……無闇に飛び出すのは危険です」

 オーウェンの呼びかけをサスケは諫めるように制した。

 しかし、リュートは堪えきれなくなったようで、エレンのところに向かった。

 二人は合流して、すぐにこちらへ向かおうとした。
 そこへ進行を遮るように普通の大きさのオークが数体現れた。

 彼らの実力なら簡単に倒せる相手。
 瞬く間にオークたちを退けた。

 だがしかし、その時間が命取りになってしまった。
 寝ていたはずのキングオークが起きていた。

 危険な状況に身震いした。
 寝起きにもかかわらず、その視線はリュートとエレンを捉えているように見えた。
 
 そして、その巨体とは裏腹に素早い動作で二人に接近した。

 キングオークは地面に突き刺さった斧を抜き取り、猛然と襲いかかった。

「――オーウェン殿、助けたいお気持ちは分かります。しかし、先を急ぐ必要が」
「……ああっ、分かっている」

 サスケとオーウェンの悲痛なやりとりが耳に入った。

 二人の考えも理解できる。
 ただ、俺とサスケにオーウェン、シモンの四人だけで魔王を倒せるのだろうか。

 そもそも、旅を共にした二人の槍使いを見捨てていいはずがない。

「……シモン、二人を助けたい。力を貸してくれる?」
「もちろん、お安い御用で」

 シモンはこちらの頼みを快諾すると、死角から飛び出て参戦した。
 俺も遅れを取らないように、リュートたちの戦う場へ駆け出した。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 ここは森の中に比べて広い。 
 味方を巻きこまないように注意すればどの魔術も使えるはずだ。

 リュートとエレンだけでは押され気味だった。
 しかし、凄腕のシモンが加わったことで互角の戦いになっている。

 キングオークはその腕力を活かして、巨大な斧を風車のように回している。
 その動きは凄まじい速さと破壊力があり、接近戦に向かない魔術師の領分ではないと感じた。

 俺にできることは、隙を突いて遠目から魔術で攻撃することだろう。

 氷で動きが止められるとは思えず、雷魔術のように流動的では味方を巻きこんでしまう。
 おそらく、この状況で発動するなら炎の魔術がベストになる。
  
 集中を高めて、千載一遇の好機に狙いを定める。

 キングオークはウドの大木であってほしいと思っていた。
 しかし、シモンの剣戟を捌ききるということは決して弱くない。

 もっとも、腕前は優れていても人間を食らうことは受け入れられない。

 やつの椅子の近くには無造作に捨てられた人骨と血の飛び散ったような痕跡がある。
 人間を美味そうと表現する以上、そういったことは想定してもいいはずだ。

 端的に言って、戦闘不能になることはキングオークの胃袋に直行することを意味する。
 何が何でも倒さねばならない。
 
 リュートとエレン、それに加えてシモンが攻撃を繰り出すしても動きを止められるほどのダメージに至らなかった。

 額をイヤな汗が伝う。
 シモンが攻めあぐねているのを初めて見た気がした。

 時折攻撃が当たってはいるものの、厚い毛皮に覆われた体躯を傷つけるのは難しいようだ。

 キングオークから距離を置いて好機を窺っているが、つけ入る隙がない。
 無闇に魔術を使えば、三人を巻きこみかねなかった。

「……カナタ、サスケが手助けしてくれるようだ」

 ふいに後ろから声をかけられた。
 振り向くとオーウェンが立っていた。

「……どうしました?」
「彼らの腕前なら動きさえ止められたら好機を作れる。それに魔術で攻撃できるはずだ。その隙をサスケが作れるようだ」

 オーウェンの近くにサスケもおり、何かを手にしていた。

「ここは戦わずに通るつもりだった。ただ、オーウェン殿が頼むから仕方ないわな」

 サスケは煩わしげな様子だった。
 こちらに聞こえるようにするためなのか、日本語で呟いている。

「オークとて所詮は猪(しし)。脅かせば怯むもの」

 そう言って、彼は大きな癇癪玉のような物をキングオークの向こうに投げた。

 バンっと何かが爆ぜるような大きな音がした。

 リュートたちも驚いていたが、それ以上にキングオークに効き目抜群だったようだ。
 存分に振り回していた斧を床に落とし、茫然とした様子で棒立ちになっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...