64 / 241
新婚生活スタートです
24
しおりを挟む
でも、びっくりした。
すごく余裕そうに見えたから、戸惑ってるなんて信じられない。
実際、僕よりは余裕があるだろう。海さんは悟られないよう、そう振る舞っていただろうから。
だから、気づかなかった。ううん。気づけなかったよ。
それがなんだか申し訳なくて、僕は少しだけ視線を逸らす。
すると、そっと。海さんは撫でるのを止め、僕の頬に手を宛がった。
「普段、お前は学業。オレは仕事でお互いにそれぞれの生活を送る。その時のお前は学生で、オレはただの社会人だ。けれど、ここで共に過ごす間は『夫婦』であり、一緒なんだ。これからお互いを知って、一緒に生きていくんだ。だから……」
吸い込まれそうな瞳が、僕を捕らえて断言する。
「お前はオレを見ろ。オレだけを見ていればいい。たとえお前に……他に想う相手がいたとしても、だ」
「……っ」
僕の心臓が、ドクンと大きく鳴った気がした。
ああ。どうしよう。
何かが溢れそうになる。
なんでだろ。なんで……
「……っ」
海さんはどうしてこんなこと言うんだろう。
ダメだよ。そんなの。僕なんかに言っては。
そんなの……僕なんか……僕なんか……
「……っ!」
もう、閉じたはずなのに。
もう、消し去ったはずなのに。
要らないのに。
なのに……。
「……こ、こわいんだ」
ダメ……だよ。こんなの。
迷惑、かけたくない。
こんなこと言っても、おかしい子だって思われるだけだ。
今までのように、気持ち悪がられるだけだよ。ただでさえ、瞳の色が気味悪いって嫌われ続けていたのに。
だからダメだ。こんなの……
「うん……」
「……!」
「言ってごらん」
ダメだよ……!
「…………っ…………こ……こわい、んだ」
「怖い……」
「な、何が、かは……わからない。でも、こわいんだ……」
「いつから?」
「一年か、二年くらい前から……だと、思う。僕の周りの人たちが、変……なの」
「変?」
「おかしいんだ……何が、って聞かれると、はっきりとはわからないんだけど。でも、変なの。みんなの……様子や、僕に対する態度が。まるで、何かから僕を守るようにするんだ……」
「……」
ダメだ。
そう思いつつも、止められない僕の言葉。
僕の声。
僕の想い……。
まだ、一週間だよ。この人と一緒に過ごした時間は。
なのにどうして、今まで誰にも言えなかったことを言っちゃうんだろう。
どうして気持ちを曝しちゃうんだろう。
止まらないの。
でも。
どうしよう。このままだといけない気がする。
言っちゃいけないことを言ってしまいそうで。
晒してはならないものを外に出してしまいそうで。
ダメだ。
言っちゃダメだ。
もう出しちゃダメ。止めなくちゃ。
自分を止めなくちゃ。
「柳……」
なのに。なのに……!
「……下手だよね、みんな。何かを隠してること、知ってるよ。わかるよ。友達だもん……でも、それが何なのかは教えてくれないんだ。それと……関係、あるのかな? 僕……たまに、ね」
ピリッと、頭に何かが走る感じがする。
でも、もう自分では止められなくなっていた。
止まらなくなっていた。
海さんを前に、自制が利かない。
止まらない……。
「ほんとに、たまになんだけど。……僕の、頭」
止まらない……!
「真っ白に、なるの」
「……」
ああ、もう……
「なんでみんな、隠すんだろう……」
もう。もう……
「なんで……だろ。なんで……」
僕……
「どうして……決めちゃうの?」
「柳?」
海さんのシャツを握った手に、これでもかと言うくらいの力が入る。
それは自然と。
無意識で。
僕は。
「僕っ……僕はっ……!」
それまで誰にも出さなかった感情を、外に出す。
「いたかった……!」
それまで蓋をしていた箱から、何かがドッと溢れ出した。
面倒で。うざったくて。
自分には必要なかったモノ。
僕には要らない、むしろ捨てたかった感情。
最後だと信じているこの人だけには、決して見せたくなかったモノ。
けれどもう遅い。
どうにも止まらない。
僕の気持ちは、暴発する。
「まだっ……まだ……っ……真城にいたかった! あのお家にいたかったっ……! 結婚なんて……したくなかった!!」
吐き出すように、叩きつけるように。
僕は海さんにありったけのモノをぶつけた。
海さんが嫌いと言うわけじゃない。むしろ好きだと思った。
こんな僕をもらってくれた人だから……というのもある。
でも。そうじゃない、そんなんじゃないんだ。
だって真城は、楽しかったから。
あそこにいたみんなが僕を受け入れてくれた気がしたから。
帰ったときは、「おかえり」。寝る前は、「おやすみ」を言ってくれたから。
その生活が、一年半も続いていたんだ。
続けさせてくれたんだ。
だから。
「やっと慣れてきたところだったのにっ……! やっと『ただいま』って言えるようになったのに!」
どうして終わりは、突然来るんだろう。望んでもないのに。
なんで僕は、首を横に振ることができないんだろう。人形じゃないのに。
なぜ僕は、諦めることしかできないんだろう。ちゃんとお口は、あるはずなのに。
「なんで勝手に決めるの!? なんで僕に理由を言ってくれないの!? どうして……僕には『お家』がないの!?」
やっと……家族になれると思ったのに……。
なのに、また。
「どうしてあの時っ、僕をっ……、……っ……ぅ、あっ……!?」
……っ!
な、んだ、これ?
頭が痛い。
僕の邪魔をするように、頭が急に痛みだした。
同時に、込み上げてくるような吐き気もする。
なんだよ。邪魔、するなよ。
僕ぐらいは好きにさせてよ。僕ぐらいは自由にさせろよ!
どうして僕は僕を縛るんだよっ……!
どうしていつもこんな……
「い、だっ……、……っ……」
痛い。痛いよ。
真っ白になったり、痛くなったり。
なんだよ、これ。自分のくせに。
自分なのに……!
「……っ」
………………助けて。
すごく余裕そうに見えたから、戸惑ってるなんて信じられない。
実際、僕よりは余裕があるだろう。海さんは悟られないよう、そう振る舞っていただろうから。
だから、気づかなかった。ううん。気づけなかったよ。
それがなんだか申し訳なくて、僕は少しだけ視線を逸らす。
すると、そっと。海さんは撫でるのを止め、僕の頬に手を宛がった。
「普段、お前は学業。オレは仕事でお互いにそれぞれの生活を送る。その時のお前は学生で、オレはただの社会人だ。けれど、ここで共に過ごす間は『夫婦』であり、一緒なんだ。これからお互いを知って、一緒に生きていくんだ。だから……」
吸い込まれそうな瞳が、僕を捕らえて断言する。
「お前はオレを見ろ。オレだけを見ていればいい。たとえお前に……他に想う相手がいたとしても、だ」
「……っ」
僕の心臓が、ドクンと大きく鳴った気がした。
ああ。どうしよう。
何かが溢れそうになる。
なんでだろ。なんで……
「……っ」
海さんはどうしてこんなこと言うんだろう。
ダメだよ。そんなの。僕なんかに言っては。
そんなの……僕なんか……僕なんか……
「……っ!」
もう、閉じたはずなのに。
もう、消し去ったはずなのに。
要らないのに。
なのに……。
「……こ、こわいんだ」
ダメ……だよ。こんなの。
迷惑、かけたくない。
こんなこと言っても、おかしい子だって思われるだけだ。
今までのように、気持ち悪がられるだけだよ。ただでさえ、瞳の色が気味悪いって嫌われ続けていたのに。
だからダメだ。こんなの……
「うん……」
「……!」
「言ってごらん」
ダメだよ……!
「…………っ…………こ……こわい、んだ」
「怖い……」
「な、何が、かは……わからない。でも、こわいんだ……」
「いつから?」
「一年か、二年くらい前から……だと、思う。僕の周りの人たちが、変……なの」
「変?」
「おかしいんだ……何が、って聞かれると、はっきりとはわからないんだけど。でも、変なの。みんなの……様子や、僕に対する態度が。まるで、何かから僕を守るようにするんだ……」
「……」
ダメだ。
そう思いつつも、止められない僕の言葉。
僕の声。
僕の想い……。
まだ、一週間だよ。この人と一緒に過ごした時間は。
なのにどうして、今まで誰にも言えなかったことを言っちゃうんだろう。
どうして気持ちを曝しちゃうんだろう。
止まらないの。
でも。
どうしよう。このままだといけない気がする。
言っちゃいけないことを言ってしまいそうで。
晒してはならないものを外に出してしまいそうで。
ダメだ。
言っちゃダメだ。
もう出しちゃダメ。止めなくちゃ。
自分を止めなくちゃ。
「柳……」
なのに。なのに……!
「……下手だよね、みんな。何かを隠してること、知ってるよ。わかるよ。友達だもん……でも、それが何なのかは教えてくれないんだ。それと……関係、あるのかな? 僕……たまに、ね」
ピリッと、頭に何かが走る感じがする。
でも、もう自分では止められなくなっていた。
止まらなくなっていた。
海さんを前に、自制が利かない。
止まらない……。
「ほんとに、たまになんだけど。……僕の、頭」
止まらない……!
「真っ白に、なるの」
「……」
ああ、もう……
「なんでみんな、隠すんだろう……」
もう。もう……
「なんで……だろ。なんで……」
僕……
「どうして……決めちゃうの?」
「柳?」
海さんのシャツを握った手に、これでもかと言うくらいの力が入る。
それは自然と。
無意識で。
僕は。
「僕っ……僕はっ……!」
それまで誰にも出さなかった感情を、外に出す。
「いたかった……!」
それまで蓋をしていた箱から、何かがドッと溢れ出した。
面倒で。うざったくて。
自分には必要なかったモノ。
僕には要らない、むしろ捨てたかった感情。
最後だと信じているこの人だけには、決して見せたくなかったモノ。
けれどもう遅い。
どうにも止まらない。
僕の気持ちは、暴発する。
「まだっ……まだ……っ……真城にいたかった! あのお家にいたかったっ……! 結婚なんて……したくなかった!!」
吐き出すように、叩きつけるように。
僕は海さんにありったけのモノをぶつけた。
海さんが嫌いと言うわけじゃない。むしろ好きだと思った。
こんな僕をもらってくれた人だから……というのもある。
でも。そうじゃない、そんなんじゃないんだ。
だって真城は、楽しかったから。
あそこにいたみんなが僕を受け入れてくれた気がしたから。
帰ったときは、「おかえり」。寝る前は、「おやすみ」を言ってくれたから。
その生活が、一年半も続いていたんだ。
続けさせてくれたんだ。
だから。
「やっと慣れてきたところだったのにっ……! やっと『ただいま』って言えるようになったのに!」
どうして終わりは、突然来るんだろう。望んでもないのに。
なんで僕は、首を横に振ることができないんだろう。人形じゃないのに。
なぜ僕は、諦めることしかできないんだろう。ちゃんとお口は、あるはずなのに。
「なんで勝手に決めるの!? なんで僕に理由を言ってくれないの!? どうして……僕には『お家』がないの!?」
やっと……家族になれると思ったのに……。
なのに、また。
「どうしてあの時っ、僕をっ……、……っ……ぅ、あっ……!?」
……っ!
な、んだ、これ?
頭が痛い。
僕の邪魔をするように、頭が急に痛みだした。
同時に、込み上げてくるような吐き気もする。
なんだよ。邪魔、するなよ。
僕ぐらいは好きにさせてよ。僕ぐらいは自由にさせろよ!
どうして僕は僕を縛るんだよっ……!
どうしていつもこんな……
「い、だっ……、……っ……」
痛い。痛いよ。
真っ白になったり、痛くなったり。
なんだよ、これ。自分のくせに。
自分なのに……!
「……っ」
………………助けて。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
562
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる