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ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】
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そうこう駄弁っているうちに、委員会専用の校舎から別の校舎へと移っていた俺ら。ん? 今、どうやってここまで来た?
気づけば、お化け屋敷並にどんよりとした空気を醸し出している廃墟……と、見えなくもない校舎が立ちはだかっていた。ここがツインズの言う、北校舎なのか? 他の建物と違って、やけに……ひでぇ有様なんだけど。どうしたの、これ。校舎の中でもここだけ異常に廃れてるんだけど。校舎中でここだけハブられてんの? こわぁ。
「ひでぇだろ? けどここ、元から校舎じゃなく、倉庫って名目で使われてたんだと。でも、こっちの方が落ちついて勉強できるって奴もいたらしいから、自習室ってことで校舎としても開放して……」
「それがいつしか、ナニ勉強してんだよっていう都合のいい校舎になってたから、倉庫に戻したんだと。で、今は俺らに都合よく使われてるってわけ」
「掃除とかしてんの?」
「「してるに決まってるだろ」」
ハモられながら、俺は校舎の中へと案内される。こいつ等がせっせと掃除してる所なんか想像しづらいんだけど、愛しい柳と昼飯食う為なら、ワックス掛けすらもしかねない。
薄暗い校舎の中は、見た目に反してすっきりと綺麗に片付いており、埃やゴキの類いは全くといっていい程感じられなかった。うん。レトロって言葉がしっくりくるな。木造だけど。
そしてそのまま真っ直ぐ歩いた所にある一室の前で立ち止まる。ツインズの頬が緩み始めたところから、この奥に柳が待っているらしいことは明白だった。
は~。ようやく柳と飯が食える。なんか無駄に長ぇ道のりだった。
ツインズの一方が扉に手を掛けると、そのままゆっくりと開かれる。そしてその中で待っていたのは……。
鴉のように黒い髪と、鋭くも冷たい目を持った、すげぇ美形の……学生服を着た男。
「……っ」
正直、ぎょっとした。そこには、柳が待ってるだろうって期待が大きかったからかもしれないけど、まさか息を飲む程の美形がこんなところに居るなんて、誰が思うよ?
人に対して、息を飲んだのはこれで三度目だった。一人はこの、見ず知らずの学生。一人は、認めたくもない柳の旦那。そしてもう一人は……
「「柳!」」
「あ、真実に葉月! 待ってたよ~」
陽気な声にハッとする。知らない人間を見て驚いたせいか、その奥にいた柳に気付けなかった。くそっ。
辺りを見れば、そこは自習室の様な作りになっていて、学生用の机と椅子がいくつか適当に配置されていた。そこに、例の美形が突っ立っていて、その近くの椅子に柳が弁当箱を抱えて座っていた。柳の様子をすぐに確認すると、のほほんとしながら紙パックのイチゴ牛乳を飲んでたから、特に何もされていないようだ……って、イチゴ牛乳。購買に行く余裕があったんだな。
ほっと胸を撫で下ろすと、真実が揃って駆け出し、手前の美形には目もくれずに柳に抱きついた。そして柳の身体を触りまくりながら彼の無事を確認すると、揃ってギッと美形に対して睨みを利かせる。
そこでようやく。この謎の美形の正体が明かされた。
「「ちょっと会長、なにヒトの恋人と二人っきりになってんのさ」」
おいコラ。何が恋人だ。柳はお前らのモンじゃねぇぞ。美形のことよりも、こっちの方が重要だった俺。
そしてその次に、この男が何の会長であって、そしてどんな人物であるのかを、静かに理解するのと同時に、男はツインズに向かって先ほどの返答を口にした。
「貴方たちが思っているようなことは何もしていないですよ。ただ少し、話をしていただけです」
「話~?」
「柳、ホント?」
一体どんな話をしていたのか、それは俺も気になった。柳が知らない男と二人きりだったことも問題だが、この男の正体を知った上で、彼と二人きりで一体何を話していたのか。柳に関することについて、嘘をつかないツインズを信用していないわけではないが、俺は直接、この男を知っているわけではない。俺自身がこの男を信用していない限りは、柳と二人きりになんてさせたくない。
それはあの、赤髪の旦那にも言えることではあるけれど……。
ツインズに心配される柳は、きょとんとした顔で「お話してただけだよ?」と返すと、弁当箱とは別に持ってる缶コーヒーをツインズに二つ差し出した。
「はい。ここに来る前に購買で買ったんだよ。あったかいから飲んでね」
「うわ! 俺らに?」
「ありがとう、柳!」
「そうそう。さっきね、新しいお友達もできたんだよ。一人はサカモト君っていう名前で、もう一人はヘーボン君って名前でね。ヘーボン君は日系の外国人なのかな? お昼休みに僕を購買まで案内してくれたの。すごく親切な人たちだよ。それからこの人も……」
ね? と美形に微笑みかける柳。だからそんな顔、しちゃ駄目なんだってば。
いくらこの男にツインズ曰く、恋人がいるのだとしてもさ。
しかし、俺の心の中での心配は柳に伝わるはずもなく。柳に微笑まれた男は少しだけ目を瞠ってみせると、「そうですね」と言って、うっすらと口角を持ち上げてみせる。それが形だけの笑みに見えなくもなかったが、その後に続いた台詞から、柳に興味を持って話掛けていたのだということははっきりとわかった。
「流石というべきなのでしょうか。この顔の裏に、あとどれだけの顔を持っているのかなど、想像もできない……」
嫌味ではない、やんわりとした言い方。けれど、その目で確かめたかったんだろう。
俺らがこの男の正体を掴みたいのと同様に、この男も俺らのことを……柳のことを知りたいんだ。
「さて……」
と、ここで。蚊帳の外になりかけていた俺に、美形が向き直り、ゆっくりと近づいてきた。お。俺の存在はちゃんと気づいてくれていたのか。
遠目からだとすげぇ長身に見えたけど、身長はどうやら俺とどっこいどっこいって感じだ。体格は俺の方がごついからかな。向こうはどっちかっつーと細身だった。
しかし迫力がある。何を考えているのかはわかんねぇ澄まし顔なのに、その背景にはとんでもねぇ化け物を飼っているかのような、そんな底知れない人間。高校生のくせに、妙に大人びているのは、多分そのせいだ。
スッと差し出されるのは、モデルのように見栄えの良い、綺麗な手だった。
「こちらでは、初めましてですね。片岡葉月君……いや、ブレットと呼ぶべきでしょうか?」
「ブレット」。この単語に、俺は眉を顰めた。
奥に居る柳に、一瞬だけ視線をやると、柳はツインズに抱きかかえられながら、今日のお弁当箱の中身を説明していた。
再び、男に視線を戻して、姿勢もちゃんと向き直してみせると、彼は何かを察したのか、「すみません」と小さく謝罪した。うわ。こいつ、多分性格悪い部類だわ。
それでも、初対面の相手から差し出されている手を無碍にしてはいけないだろうと、俺も全く気持ちの籠っていない片方の手を差し出し、彼の手に重ねてみせた。
そして初めて実感する。この、喧嘩慣れしている、逞しさ満点の男の手を。
彼は俺に微笑みながら、自己紹介を始めた。
「この学校では生徒会会長を務めています。同じAクラスの皇若菜です……よろしく」
そして裏の顔では、チーム「クモ」のヘッドってね。
気づけば、お化け屋敷並にどんよりとした空気を醸し出している廃墟……と、見えなくもない校舎が立ちはだかっていた。ここがツインズの言う、北校舎なのか? 他の建物と違って、やけに……ひでぇ有様なんだけど。どうしたの、これ。校舎の中でもここだけ異常に廃れてるんだけど。校舎中でここだけハブられてんの? こわぁ。
「ひでぇだろ? けどここ、元から校舎じゃなく、倉庫って名目で使われてたんだと。でも、こっちの方が落ちついて勉強できるって奴もいたらしいから、自習室ってことで校舎としても開放して……」
「それがいつしか、ナニ勉強してんだよっていう都合のいい校舎になってたから、倉庫に戻したんだと。で、今は俺らに都合よく使われてるってわけ」
「掃除とかしてんの?」
「「してるに決まってるだろ」」
ハモられながら、俺は校舎の中へと案内される。こいつ等がせっせと掃除してる所なんか想像しづらいんだけど、愛しい柳と昼飯食う為なら、ワックス掛けすらもしかねない。
薄暗い校舎の中は、見た目に反してすっきりと綺麗に片付いており、埃やゴキの類いは全くといっていい程感じられなかった。うん。レトロって言葉がしっくりくるな。木造だけど。
そしてそのまま真っ直ぐ歩いた所にある一室の前で立ち止まる。ツインズの頬が緩み始めたところから、この奥に柳が待っているらしいことは明白だった。
は~。ようやく柳と飯が食える。なんか無駄に長ぇ道のりだった。
ツインズの一方が扉に手を掛けると、そのままゆっくりと開かれる。そしてその中で待っていたのは……。
鴉のように黒い髪と、鋭くも冷たい目を持った、すげぇ美形の……学生服を着た男。
「……っ」
正直、ぎょっとした。そこには、柳が待ってるだろうって期待が大きかったからかもしれないけど、まさか息を飲む程の美形がこんなところに居るなんて、誰が思うよ?
人に対して、息を飲んだのはこれで三度目だった。一人はこの、見ず知らずの学生。一人は、認めたくもない柳の旦那。そしてもう一人は……
「「柳!」」
「あ、真実に葉月! 待ってたよ~」
陽気な声にハッとする。知らない人間を見て驚いたせいか、その奥にいた柳に気付けなかった。くそっ。
辺りを見れば、そこは自習室の様な作りになっていて、学生用の机と椅子がいくつか適当に配置されていた。そこに、例の美形が突っ立っていて、その近くの椅子に柳が弁当箱を抱えて座っていた。柳の様子をすぐに確認すると、のほほんとしながら紙パックのイチゴ牛乳を飲んでたから、特に何もされていないようだ……って、イチゴ牛乳。購買に行く余裕があったんだな。
ほっと胸を撫で下ろすと、真実が揃って駆け出し、手前の美形には目もくれずに柳に抱きついた。そして柳の身体を触りまくりながら彼の無事を確認すると、揃ってギッと美形に対して睨みを利かせる。
そこでようやく。この謎の美形の正体が明かされた。
「「ちょっと会長、なにヒトの恋人と二人っきりになってんのさ」」
おいコラ。何が恋人だ。柳はお前らのモンじゃねぇぞ。美形のことよりも、こっちの方が重要だった俺。
そしてその次に、この男が何の会長であって、そしてどんな人物であるのかを、静かに理解するのと同時に、男はツインズに向かって先ほどの返答を口にした。
「貴方たちが思っているようなことは何もしていないですよ。ただ少し、話をしていただけです」
「話~?」
「柳、ホント?」
一体どんな話をしていたのか、それは俺も気になった。柳が知らない男と二人きりだったことも問題だが、この男の正体を知った上で、彼と二人きりで一体何を話していたのか。柳に関することについて、嘘をつかないツインズを信用していないわけではないが、俺は直接、この男を知っているわけではない。俺自身がこの男を信用していない限りは、柳と二人きりになんてさせたくない。
それはあの、赤髪の旦那にも言えることではあるけれど……。
ツインズに心配される柳は、きょとんとした顔で「お話してただけだよ?」と返すと、弁当箱とは別に持ってる缶コーヒーをツインズに二つ差し出した。
「はい。ここに来る前に購買で買ったんだよ。あったかいから飲んでね」
「うわ! 俺らに?」
「ありがとう、柳!」
「そうそう。さっきね、新しいお友達もできたんだよ。一人はサカモト君っていう名前で、もう一人はヘーボン君って名前でね。ヘーボン君は日系の外国人なのかな? お昼休みに僕を購買まで案内してくれたの。すごく親切な人たちだよ。それからこの人も……」
ね? と美形に微笑みかける柳。だからそんな顔、しちゃ駄目なんだってば。
いくらこの男にツインズ曰く、恋人がいるのだとしてもさ。
しかし、俺の心の中での心配は柳に伝わるはずもなく。柳に微笑まれた男は少しだけ目を瞠ってみせると、「そうですね」と言って、うっすらと口角を持ち上げてみせる。それが形だけの笑みに見えなくもなかったが、その後に続いた台詞から、柳に興味を持って話掛けていたのだということははっきりとわかった。
「流石というべきなのでしょうか。この顔の裏に、あとどれだけの顔を持っているのかなど、想像もできない……」
嫌味ではない、やんわりとした言い方。けれど、その目で確かめたかったんだろう。
俺らがこの男の正体を掴みたいのと同様に、この男も俺らのことを……柳のことを知りたいんだ。
「さて……」
と、ここで。蚊帳の外になりかけていた俺に、美形が向き直り、ゆっくりと近づいてきた。お。俺の存在はちゃんと気づいてくれていたのか。
遠目からだとすげぇ長身に見えたけど、身長はどうやら俺とどっこいどっこいって感じだ。体格は俺の方がごついからかな。向こうはどっちかっつーと細身だった。
しかし迫力がある。何を考えているのかはわかんねぇ澄まし顔なのに、その背景にはとんでもねぇ化け物を飼っているかのような、そんな底知れない人間。高校生のくせに、妙に大人びているのは、多分そのせいだ。
スッと差し出されるのは、モデルのように見栄えの良い、綺麗な手だった。
「こちらでは、初めましてですね。片岡葉月君……いや、ブレットと呼ぶべきでしょうか?」
「ブレット」。この単語に、俺は眉を顰めた。
奥に居る柳に、一瞬だけ視線をやると、柳はツインズに抱きかかえられながら、今日のお弁当箱の中身を説明していた。
再び、男に視線を戻して、姿勢もちゃんと向き直してみせると、彼は何かを察したのか、「すみません」と小さく謝罪した。うわ。こいつ、多分性格悪い部類だわ。
それでも、初対面の相手から差し出されている手を無碍にしてはいけないだろうと、俺も全く気持ちの籠っていない片方の手を差し出し、彼の手に重ねてみせた。
そして初めて実感する。この、喧嘩慣れしている、逞しさ満点の男の手を。
彼は俺に微笑みながら、自己紹介を始めた。
「この学校では生徒会会長を務めています。同じAクラスの皇若菜です……よろしく」
そして裏の顔では、チーム「クモ」のヘッドってね。
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