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その命あるかぎり…誓えますか?
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ふらふらと、あてどなく歩いた先にシャッターが下ろされたお店があった。突き出した屋根は今の僕にとってちょうど雨宿りが出来る都合の良い場所だった。
ぺたん、と尻餅をついてひとしきり泣いた。これでもかってくらい泣いた。
そのうち、ゴロゴロと鳴り出した雷さまがやってきた。ビクッと肩を竦ませ、空を見上げた。
どんよりとした、暗くて濁った空模様。雨はなおも降り続けている。
そんな雨で顔にまとわりつくのは偽物の金髪。それが目に入ると同時に、泣いたことで落ち着いたのか冷静に「ああ」と気づかされた。
そっか。これももう、いらなくなるんだ。
蒼さんが変えてくれた、僕の髪の色。今じゃ一番落ち着く色になってしまったけれど……でももう、僕は高校生になるんだから。
ぼやけた目で、僕はウィッグの金髪を一房分摘まんだ。
今までは、蒼さんが僕を変えてくれた。言葉が悪くても、素行が悪くても、僕が僕を受け入れられるようにしてくれたのは他でもない蒼さんだ。
義務教育は終わった。本当にその通りだ。今度は僕が僕自身で変わらなきゃいけない。変わっていかなくちゃいけない。
蒼さんにも、おにいさんにも、僕は甘えていた。好きだ好きだと、自分のことしか考えていなかった。他人任せにしていて、自分の気持ちをぶつけていない。二人の意思も、ちゃんと考えなければいけなかったのに。
けれどもし、蒼さんが本当に僕を嫌うなら仕方ない。義理でも兄を好きになってしまった僕を気持ち悪いと思うのも、仕方のないことだと思う。
でも、でも……だからって。
絶対に一人になんかさせてやらない。僕が駄目でも、他の誰かが蒼さんを支えてくれる。蒼さんが一人を望んだとしても、孤独にはさせない。それだけは許せない。たとえ本当に蒼さんが嫌がったって……
それが僕の仕返しなんだから。
僕はもう一度だけ瞼を拭った。拭っても、ぐちゃぐちゃなのは変わりなかったけれど。
気持ちだけは、切り替わった。
「帰らなくちゃ……」
感情のままに飛び出してしまったけれど、飛び出したところで解決はしない。やるべきことは、蒼さんと話すこと。今までだって喧嘩はたくさんしてきた。僕のことはともかく、おにいさんのことだけは悪く言われたくはない。
だったらとことん、話し合ってやる。
それから、おにいさんにもちゃんと話さなくちゃ……。三人で暮らすことはもう出来ないかもしれない。おにいさんと二人で暮らすことも、きっと出来ない。それなら……いっそのこと学校の寮に入ればいいんだ。真城ってお家にお世話になるよりは、きっとそっちの方がいい。
「よし……帰ろう」
「おー、いたいた。都合よく一人になってくれたわ」
「え……?」
突然、聞き覚えのない声が雨に混じって耳へと通った。誰だろうと振り返ると、知らない三人の男の人の姿があった。背後には停車している車が見えたから、そこから降りてきたのかもしれない。
僕よりはうんと年上だけど、年齢だけならおにいさんと同じくらいだろうか。全然知らない人たち。
でもその顔には、気味の悪い笑みを浮かべていた。これは、最近見たことがある笑み。確か、おにいさんと一緒にマルゲリータを食べに行こうとして呼び止められたあの若いお姉さんと同じものだ。
「まー、確かに可愛いっちゃ可愛いけど、ガキだなぁ」
「女じゃねえんだろ? あんま乗り気しねえなぁ」
「しょうがねえべ。あのお嬢さん、おかんむりなんだからよ」
何の話? まるでわけがわからない。わからないけれど、この人たちの視線の先は間違いなく僕へと向いている。そして手には……スマホだと思う。それで何かを確認をしながら僕を見て確証を得たらしい。
いつも、ブレットだのブレッドだのと言って追いかけてくる不良さん達とは明らかに違った。
「そんじゃまあ、これも仕事ってことで」
「ちょっと付き合ってもらおうか」
気持ちの悪い目が六つ。
僕を見た。
ぺたん、と尻餅をついてひとしきり泣いた。これでもかってくらい泣いた。
そのうち、ゴロゴロと鳴り出した雷さまがやってきた。ビクッと肩を竦ませ、空を見上げた。
どんよりとした、暗くて濁った空模様。雨はなおも降り続けている。
そんな雨で顔にまとわりつくのは偽物の金髪。それが目に入ると同時に、泣いたことで落ち着いたのか冷静に「ああ」と気づかされた。
そっか。これももう、いらなくなるんだ。
蒼さんが変えてくれた、僕の髪の色。今じゃ一番落ち着く色になってしまったけれど……でももう、僕は高校生になるんだから。
ぼやけた目で、僕はウィッグの金髪を一房分摘まんだ。
今までは、蒼さんが僕を変えてくれた。言葉が悪くても、素行が悪くても、僕が僕を受け入れられるようにしてくれたのは他でもない蒼さんだ。
義務教育は終わった。本当にその通りだ。今度は僕が僕自身で変わらなきゃいけない。変わっていかなくちゃいけない。
蒼さんにも、おにいさんにも、僕は甘えていた。好きだ好きだと、自分のことしか考えていなかった。他人任せにしていて、自分の気持ちをぶつけていない。二人の意思も、ちゃんと考えなければいけなかったのに。
けれどもし、蒼さんが本当に僕を嫌うなら仕方ない。義理でも兄を好きになってしまった僕を気持ち悪いと思うのも、仕方のないことだと思う。
でも、でも……だからって。
絶対に一人になんかさせてやらない。僕が駄目でも、他の誰かが蒼さんを支えてくれる。蒼さんが一人を望んだとしても、孤独にはさせない。それだけは許せない。たとえ本当に蒼さんが嫌がったって……
それが僕の仕返しなんだから。
僕はもう一度だけ瞼を拭った。拭っても、ぐちゃぐちゃなのは変わりなかったけれど。
気持ちだけは、切り替わった。
「帰らなくちゃ……」
感情のままに飛び出してしまったけれど、飛び出したところで解決はしない。やるべきことは、蒼さんと話すこと。今までだって喧嘩はたくさんしてきた。僕のことはともかく、おにいさんのことだけは悪く言われたくはない。
だったらとことん、話し合ってやる。
それから、おにいさんにもちゃんと話さなくちゃ……。三人で暮らすことはもう出来ないかもしれない。おにいさんと二人で暮らすことも、きっと出来ない。それなら……いっそのこと学校の寮に入ればいいんだ。真城ってお家にお世話になるよりは、きっとそっちの方がいい。
「よし……帰ろう」
「おー、いたいた。都合よく一人になってくれたわ」
「え……?」
突然、聞き覚えのない声が雨に混じって耳へと通った。誰だろうと振り返ると、知らない三人の男の人の姿があった。背後には停車している車が見えたから、そこから降りてきたのかもしれない。
僕よりはうんと年上だけど、年齢だけならおにいさんと同じくらいだろうか。全然知らない人たち。
でもその顔には、気味の悪い笑みを浮かべていた。これは、最近見たことがある笑み。確か、おにいさんと一緒にマルゲリータを食べに行こうとして呼び止められたあの若いお姉さんと同じものだ。
「まー、確かに可愛いっちゃ可愛いけど、ガキだなぁ」
「女じゃねえんだろ? あんま乗り気しねえなぁ」
「しょうがねえべ。あのお嬢さん、おかんむりなんだからよ」
何の話? まるでわけがわからない。わからないけれど、この人たちの視線の先は間違いなく僕へと向いている。そして手には……スマホだと思う。それで何かを確認をしながら僕を見て確証を得たらしい。
いつも、ブレットだのブレッドだのと言って追いかけてくる不良さん達とは明らかに違った。
「そんじゃまあ、これも仕事ってことで」
「ちょっと付き合ってもらおうか」
気持ちの悪い目が六つ。
僕を見た。
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