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その命あるかぎり…誓えますか?【海 side】
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オレは柳に構わず感情を露に言葉をぶつけた。
「オレはいま、柳に結婚の申し込みをしている。それに対して逃げるな。嫌ならはっきりと断れ」
「で…………でも……僕…………お、男、で…………」
「それを言うならオレも男だ。性別が理由で断るなら、同性の女しか好きになれないと言うお前の友人の性癖も簡単に許容するな」
「うっ……」
「他人は良いのに自分は駄目だと? 履き違えるな。自分を許容してこその他人だ。まずは自分を優先しろ。そう言っただろう。世間体も、外聞も、余計なことをごちゃごちゃと考えるな」
どこまでも自分を後回しにしようとするその性分に腹が立つ。そしてこの子をそうさせたもの全てにも。
あの時……二年前の正月の時、一緒に暮らそう、暮らしたいと打ち明けた時の柳の微笑みは本物だったと感じた。オレに会いたかったと、抱きついた時の感情に偽りなどないのだと……そう信じた。言葉で確かめずとも、柳もオレと同じ想いを抱いているのだと。
そして「結婚」という括りで過ごした柳もまた、オレを求めてくれるようになったのだと。
それをどうして消さなければならない。殺さなければならない。
ああ、腹が立つ。
この子をそうさせてしまった……オレ自身に腹が立つ。
あの頃……蒼から拒絶の言葉を吐かれて辛かったろうに。知らない連中に追い回されて怖かったろうに。車に轢かれて痛かったろうに。苦しかったろうに。
そうさせてしまったのはオレだ。
柳に惹かれたのはオレが先だった。なのに柳は蒼や他の連中と同じようにオレを見ていた。それが気に入らなくてオレに興味を持つよう意図的に仕向けた。
柳がオレを見るよう、そうしたのはオレだというのに、オレはこの子から大切だったものを奪った。
だからこの子からオレがいなくなったのも必然的なことだった。罰なら仕方ない。当然の報いだ。何度そう言い聞かせたか。
新しい人生を始めて柳が幸せになるならそれでいいと、本当にそう願った。陰ながらでも一生この子を支えていこうと……。
だが真城から……龍一から柳の中に僅かでもオレが残っている可能性を聞かされた時からそう願うのを止めた。願うことを止めた。
今度こそは、失わない。失くさせやしない。奪わせやしない。
そう誓った。誓っただろう。
だったらもう遠慮はしない。この子の中にはまだ、僅かでもオレがいるのだから。
「おい! もうそれ以上、柳を追い詰めん……」
「煩い。黙れ。邪魔するなら殺すぞ」
「うっ……!」
片岡医師の孫が口を出そうとしたから繕うことなく黙らせた。引き攣った顔が視界に入ったがそれをどうとも思わない。普段の口調も、言い方も、頭から飛んでしまうくらい今のオレには余裕がない。
いや、他のことなどどうでもいい。感情に任せて、オレは取り巻く全てに憤る。
瞳孔を震わせ、怯え見つめる柳に対し、オレはただ溢れる想いを言葉に乗せた。
「オレは柳のことが好きだ。この世の中の誰よりも……それ以外は愛さないし、愛せない。柳は?」
どうなんだと真っ直ぐに見据えるも、まだなお柳は俺から目を逸らそうとする。
「そ、そんな、の…………だ、駄目、だよ。僕、好きになっちゃ……だめ。だめ、なんだよ……」
「嫌」なら許せる。しかし「駄目」は納得できない。睨むように見つめるオレからそれが伝わったのか、柳は恐る恐る理由を口にした。
「僕が好きになったら……お、にいさんが……嫌われ、ちゃう……気持ち悪いって………………蒼さん、に……嫌われちゃう、よ……」
だから駄目なんだ、と。か細い声でそう告白した。
ああ……ようやく理由がわかった。呆れるくらい、柳らしい理由だった。
オレは柳の、傷つけられていない方の頬を摘まみ、軽く引っ張った。
「ふえ?」
間抜けた声を上げ、オレをきょとんと見上げる柳がやはり愛しかった。
しかしそれはそれだ。
オレは今、腹が立っているんだ。
「元からオレは嫌われてるから、そんなの今さらどうってことないんだけど」
「へ……?」
「オレはいま、柳に結婚の申し込みをしている。それに対して逃げるな。嫌ならはっきりと断れ」
「で…………でも……僕…………お、男、で…………」
「それを言うならオレも男だ。性別が理由で断るなら、同性の女しか好きになれないと言うお前の友人の性癖も簡単に許容するな」
「うっ……」
「他人は良いのに自分は駄目だと? 履き違えるな。自分を許容してこその他人だ。まずは自分を優先しろ。そう言っただろう。世間体も、外聞も、余計なことをごちゃごちゃと考えるな」
どこまでも自分を後回しにしようとするその性分に腹が立つ。そしてこの子をそうさせたもの全てにも。
あの時……二年前の正月の時、一緒に暮らそう、暮らしたいと打ち明けた時の柳の微笑みは本物だったと感じた。オレに会いたかったと、抱きついた時の感情に偽りなどないのだと……そう信じた。言葉で確かめずとも、柳もオレと同じ想いを抱いているのだと。
そして「結婚」という括りで過ごした柳もまた、オレを求めてくれるようになったのだと。
それをどうして消さなければならない。殺さなければならない。
ああ、腹が立つ。
この子をそうさせてしまった……オレ自身に腹が立つ。
あの頃……蒼から拒絶の言葉を吐かれて辛かったろうに。知らない連中に追い回されて怖かったろうに。車に轢かれて痛かったろうに。苦しかったろうに。
そうさせてしまったのはオレだ。
柳に惹かれたのはオレが先だった。なのに柳は蒼や他の連中と同じようにオレを見ていた。それが気に入らなくてオレに興味を持つよう意図的に仕向けた。
柳がオレを見るよう、そうしたのはオレだというのに、オレはこの子から大切だったものを奪った。
だからこの子からオレがいなくなったのも必然的なことだった。罰なら仕方ない。当然の報いだ。何度そう言い聞かせたか。
新しい人生を始めて柳が幸せになるならそれでいいと、本当にそう願った。陰ながらでも一生この子を支えていこうと……。
だが真城から……龍一から柳の中に僅かでもオレが残っている可能性を聞かされた時からそう願うのを止めた。願うことを止めた。
今度こそは、失わない。失くさせやしない。奪わせやしない。
そう誓った。誓っただろう。
だったらもう遠慮はしない。この子の中にはまだ、僅かでもオレがいるのだから。
「おい! もうそれ以上、柳を追い詰めん……」
「煩い。黙れ。邪魔するなら殺すぞ」
「うっ……!」
片岡医師の孫が口を出そうとしたから繕うことなく黙らせた。引き攣った顔が視界に入ったがそれをどうとも思わない。普段の口調も、言い方も、頭から飛んでしまうくらい今のオレには余裕がない。
いや、他のことなどどうでもいい。感情に任せて、オレは取り巻く全てに憤る。
瞳孔を震わせ、怯え見つめる柳に対し、オレはただ溢れる想いを言葉に乗せた。
「オレは柳のことが好きだ。この世の中の誰よりも……それ以外は愛さないし、愛せない。柳は?」
どうなんだと真っ直ぐに見据えるも、まだなお柳は俺から目を逸らそうとする。
「そ、そんな、の…………だ、駄目、だよ。僕、好きになっちゃ……だめ。だめ、なんだよ……」
「嫌」なら許せる。しかし「駄目」は納得できない。睨むように見つめるオレからそれが伝わったのか、柳は恐る恐る理由を口にした。
「僕が好きになったら……お、にいさんが……嫌われ、ちゃう……気持ち悪いって………………蒼さん、に……嫌われちゃう、よ……」
だから駄目なんだ、と。か細い声でそう告白した。
ああ……ようやく理由がわかった。呆れるくらい、柳らしい理由だった。
オレは柳の、傷つけられていない方の頬を摘まみ、軽く引っ張った。
「ふえ?」
間抜けた声を上げ、オレをきょとんと見上げる柳がやはり愛しかった。
しかしそれはそれだ。
オレは今、腹が立っているんだ。
「元からオレは嫌われてるから、そんなの今さらどうってことないんだけど」
「へ……?」
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