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⑤ 自信家・強引キャラには要注意!

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 目の前には私の好みドストライクの綺麗な顔。
 あー、やっぱりカッコいいなぁ……。見惚れちゃう。
 長身のコーエン様の唇が覆い被さるように近づいてきて、その吐息さえ感じ取れてしまいそう。
 はっ!貞操のピーンチ!!

「アンジェ……」
「ま……っ、待……っ!」

 っと。ギリギリセーフ!
 真近のイケメンにうっかり心奪われそうになったところからなんとか寸でのところで正気に返り、その逞しい胸を突っぱねた。
 たぶん今、私、真っ赤になってると思う……!
 てか、さりげなく人のこと、愛称で呼んでなかった?この人。

「なぜ逃げる」

 なぜ、って、そりゃ逃げるでしょ!
 そんな一方的な!私たち、まだ恋人同士でもなければ、婚約を承知したわけでもないんだから……!
 まさかここで既成事実を作っちゃうつもりなの?嘘でしょ?いくら18禁ゲームだからって!
 無理矢理、ダメ、絶対!

「こ……っ、こういうのはやっぱり、想いを交わし合ってからでないと……!」
「オレのことは好きではないと?」

 なにこの自信過剰ー!
 やっぱりこの方、性格に少し問題ありだわ!

「や、だって。今までお話したこともないですよね?」
「まぁ、それはそうだが」

 でしょでしょ?私なにも間違ったこと言ってないよねー?
 なんだが腑に落ちた・・・・・感じのコーエン様は、「ふむ……」と考え込む仕草を見せる。
 あー、納得して頂けたようで良かった。
 それじゃあ、この話はなかったことに……、と、そろりとコーエン様から離れかけた私は、すぐにそれに気づいたコーエン様に腕を取られた。
 ……え……、なんでしょう……?

「確かに、お前の言うことももっともだ」

 うん。だよね?だからもう離して。

「だったらこうしよう」

 真正面から私のことをみつめ下ろしてきたコーエン様に、背中へたらりと冷や汗が流れる。
 え、やだ、なになに?なんかものすごく嫌な予感。

「1ヶ月。猶予をくれ。その間にオレのことを知ってくれ」
「……え、と……? それはどういう……?」

 あー、綺麗なお顔。素敵な声。
 それだけで惚れちゃいそ……、じゃないってば!しっかりしろ私!
 頭の中でふるふると首を振る私に、コーエン様は続けた。

「宣言しよう」

 くすり、と笑ったコーエン様にドキリとしちゃう。
 どうしよう!勝てる気がしない!!(なんの勝負よ)

「1ヶ月以内にお前の心を奪ってみせる」

 いーやーー!!なにそれカッコいい……!
 他の人が言っても寒いだけのそのセリフも、コーエン様だと様になっていてカッコい……じゃ、なーい!

「……アンジェリーナ嬢」

 私の前にひざまずいたコーエン様が、私の手を恭しく取ってくる。

「1ヶ月。貴女の時間をオレに下さいませんか?」

 ……あ。ダメ。堕ちるかも……。
 すでにその時、私の頭の中には白旗がチラチラと揺れていた。




 *****




 あー、もー、ダメだ、私……。
 本日のデート・・・を終え、コーエン様に送って貰って帰宅した私は、自室の机の上にうっ伏した。

 なんでなんで?
 そりゃ、顔も声もドンピシャ好みだけど!
 自信家な強引キャラって好みじゃないはずなのよ私!!
 それがおかしい……。
 なんでドキドキ?
 いや、イケメンに迫られてドキドキするのは正常か?そうだよね。どんな相手にだって、真摯な愛を告げられればドキドキしちゃうの普通だよね!
 うん。普通普通。私、どこもオカシクナイ。

 あれ以来コーエン様とは、ほぼ1日置きに会ってます。
 うん。「会ってる」なんて言い方して誤魔化したけど、つまりは「でえと」ってヤツです。でえと。(認めたくないので思わず平仮名)

 パパンとママンなんてもう。私が王弟殿下に見初められたなんて聞いたら、驚いた後に涙流して大喜びしてましたよ。……冷静に考えればそりゃそーか。
 なんか今すぐにでも嫁に出されそうな勢い……。
 ていうか、すでに外堀埋められてて無理じゃない?これ。これでお断りとかすでに不可能じゃない?
 あ。これも計算のうちですか?確信犯?さすが策士だねー。(え?「確信犯」の使い方違うって?そこは察してスルーして。7割の人が誤用してるらしいけど、私はもうそこ気にしなくていいと思っている派ですー!)
 あ。最近、自信家・強引、に策士追加です。なんかもういろいろダメな気が。

 そもそも王族に「嫁に欲しい」って言われて断れる貴族いないよね?
 ね?ね?無理だよね?
 これで私が平民だったり、もう少し身分が低ければ反対の声もあるかもしれないけど、一応、ギリギリ伯爵家だし。あと、王子様の婚約者である悪役令嬢様の親友だし!それはだいぶ大きな援護射撃になっちゃってるよね!皮肉にも!
 毎度毎度お家デートというわけにもいかないから、いろいろ連れ出されているうちに、すでに噂は人の口から口へ……。
 いや……、私もちょっとそれは……、と思ってたのよ?でも、あの人強引で……(涙)。
 気づけばお外デート。しかも毎回間違いなく楽しいの!つい立場を忘れちゃうほどに!
 もうダメこれ?諦めるしか?

 ていうか、冷静になって考える。
 大体、なんで今までコーエン様フリーだったの?おかしくない?仮にも王弟殿下だよ?まだ決まってなくても婚約者候補くらいいたんじゃない?文句のつけようのないほどのイケメンなのに!あ。やっぱり私が知らないだけで性格悪いの?問題あり?
 あー、でも、攻略対象者ばかり気にしてて意識が疎かになってたけど、確かにコーエン様のファンクラブもあった気がするなー。
 コーエン様の婚約事情とか聞いたことないなー。私が知らないだけかもしれないけど。

 だけど、そんなことをつらつらもやもや思っていたところ、期限の1ヶ月1週間を前にして、突然パタリと連絡が消えました。




 隣国の姫君に見初められたコーエン様が、お婿さんに行くかもしれないと聞いたのは、ちょうど期限の1ヶ月になるその日のことでした。
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