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世界再生編
幸せな人生
しおりを挟む「最初からお別れするつもりだったんですよね、あいつは。ここの制御はあいつにしかできないですし、あいつはギア・フィーネの製造方法をすべて知っている唯一の存在。起きていると不都合もあるでしょう。本当は私も一緒に制御機能の一つとしてここで眠ろうかと思っていたんですけど、嫌いな女と共寝は無理と断られました」
「それは、まあ……でも……」
言いそうである。とても。
「元々起きるつもりはなかったんですから、いいんじゃないんですか。私も世界が落ち着いたら、研究塔の地下に帰って眠ろうと思っています。不死者など生者の世界にいない方がいい。デュレオやクレアは……あれは仕方ない。人間が生み出した怪物です。眠ることもできないのだから、人間が責任を持って面倒を見てください」
「ナルミさんも……いつかは寝てしまうんですか」
「君たちが生きている間は寝ないから大丈夫」
それにしたっていきなりすぎる。
でも、らしいな、とも思う。
「ギア・フィーネは成層圏で、これからしばらく創世神の成長エネルギーとなる。そのあとは創世神の神力を世界に注ぐパーツ。ギアンの狙い通り、人類は生き延びるためにギア・フィーネを捨てた。……ヒューバート、君が千年越しに果たした功績だよ」
「……俺は……そんなふうには思わないよ」
「そうだね。英雄はやるべきことをやっただけの人間だ。君はそれでいい。それに、すぐにそれどころではなくなる。父親になるのだから。……週一休むのを忘れないようにね」
「うっ」
「大丈夫です! それは今後もわたしが見張ります!」
「うっ!」
日常に帰るんだ。
色々なものを差し出して、それでも。
————それからの話をしよう。
約半年後に、レナは男の子を出産した。
俺は父になって、その二年後に父から王位を継いだ。
国中どころか世界中から祝福され、あまりの緊張と重さにこっそり吐いたよね。
ラウトにはドン引きされたとも。
土地は順調に戻り、国は増え、案の定戦争をしようとした国もあった。
もちろん、他国の重圧というのは強く、うちの神様たちのガチ怒りに捌きを食らったりして世界は俺の在位中一度も戦争を起こさなかった。
これはちょっと自慢していいと思ってる。
クレアはデュレオの提案通り、俺の息子の友人になってくれたし側近として護衛として、ずっと支えてくれたしね。
ちょっとクレアが可愛すぎて、息子の性癖が捻じ曲げられた感がしないでもない。
無事にお嫁さんをもらってほしい。
87歳の時にいよいよ加齢で動けなくなり、成人済みの息子に王位を譲った。
シワが増えても美しいレナに手を握られながら、俺は間もなく息を引き取る。
——「陽夢浪」
ベッドに寝ていたはずなのに、俺は前世の両親の座る食卓に立っていた。
これは、界渡りの権能……。
神格を創世神に献上してから、俺は神ではなくなったはずなのに、どうして……?
「俺が傘を忘れなければっ」
「あたしが傘を持って行ってなんて頼まなければ……!」
線香の匂い。
それに、遺骨がまだ祭壇に残っている。
前世の俺が死んでまだ間もないのか。
不思議なこともあるものだ、と思いながら、嘆くかつての両親に声をかけた。
「父さん、母さん」
「!? 陽夢浪!? ……陽夢浪、なの?」
「陽夢浪……! ああ、なんだ、どうして……!」
「……父さん、母さん、聞いてほしいんだけど——」
俺は自分の人生を二人に話した。
結構な冒険をしたし、王様になって国を治めて、そして在位中一度も戦争をさせなかった偉業。
綺麗で優しくて可愛い奥さんが息子を始め五人も子どもを産んでくれて、一緒に育てたこと。
「俺は幸せだったんだよ」
「……あ、ああ……っ」
「そうか、そうか、すごいんだなぁ」
「うん。だから——二人も、悲しまないで。俺は幸せだった。本当に。死んでよかったとはさすがに言えないが、俺の人生は——幸せだったのだから」
ゆっくり二人の姿がぼやけていく。
でも、笑ってくれていたからきっともう大丈夫だろう。
最期にまた前世の世界に来て、両親に会えて。
「心残りがなにもなくなってしまったな」
「わたしもすぐに、お側に参りますわ」
「そう言わず、ゆっくりおいで……レナ。……君を愛してるよ」
「わたしもです」
本当に、なんの心残りもなく俺はこの世を去った。
「あれ」
去ったはずである。
「ここ、研究塔? なんで?」
「あれぇ、王サマさっき葬式したじゃん。なにそれ、うっす」
「デュレオっ! え、俺……どうなってんの!?」
研究塔の九階。
うちの守護神たちが屯する休憩スペースではないか。
葬式を終えたデュレオが上着を椅子に放り投げ、俺の姿を見て「半透明なんだけど。なに、成仏できなかったの?」と言い出す。
嘘だろ!? 俺思い残すこと特にございませんが!?
「本当だ。なんだこれ。ヒューバートがガキの頃の姿でいるな」
「ヒューバート……さすがにあれだけ盛大に見送られて、成仏できないのはどうかと思う……なにかやり残したことでもあるのか?」
「命日ぶりだな?」
「うぅっそおおおお!」
なんかラウトにもディアスにもシズフさんにも見えてるらしいよ。
ディアスの優しさが心に痛い。
なにこれ、ほんとになにこれ? なにこれ!?
「俺、幽霊!? なんで!?」
「え~、そんなのこっちが知りたいけどぉ?」
「だが神格を感じる。死んでから神格化したのではないか? こんなことあるんだな」
「信仰神というやつか」
「生前から信仰対象のようなものだったからな。肉体から解放されて霊魂体だけで神格化したのか。こういうこともあるのだな」
「えええええぇ!?」
みんな冷静に分析しすぎでは?
つまりなに、俺って、ガチで神様になってしまったの?
洒落ではなく?
「そんな、そんなことあるぅ!? なにしろって言うのぉ!? やること別にないんですけどぉ!」
「そう言わずにルオートニス守護神の一人として子孫見守ってあげたらぁ? そうなっちゃったらしゃーないでしょ」
「息子より年下の姿になってそれはキツいよぉ!」
「慣れれば姿などどうとでもできるのでは? ラウトも再会した時十代の頃の姿だったしな」
「掘り返すな、ディアス・ロス!」
「食べ物は食べられるのか? クッキー食べるか?」
「じゃ、じゃあ……」
シズフさんにクッキーを手渡されるも、すり抜けて落下した。
ああ、もったいない!
じゃ、なくて!
「俺、幽霊……」
「実態がないのだろう。アグリットのように石晶巨兵に入って生活してみたらどうだ? あ、サイボーグ技術でも石晶巨兵を造れるか、やってみるか?」
「絶対にやめておけ」
「死人が生き返ったようで怖いのではないか?」
「王サマが蘇ったってますます信仰に拍車がかかりそうで面白そう~! やるなら手伝うよ、俺」
「や、やめろお!」
なんなのこの神たち!
俺の状況楽しんでない?
俺はこんなに混乱してるのに!
「まあ、けれど……とりあえずおかえり?」
「この場合ようこそか?」
「ようこそ」
「王サマがサプライズ登場したら楽しそうだよねぇ。ねぇねぇ、いつドッキリする? その気になったらこのデュレオ・ビドロが全力サポートするから言ってね!」
「……っっっ」
よもや俺自身が五人目の『ルオートニス守護神』になるなんて。
いや、別にいいけど!
いいけど!? いいのか!?
「レナも来てくれないかなぁ!」
「来るんじゃない? レナも長い間信仰対象みたいなもんだし」
「そうなったら夫婦神として祀られるな」
「ルオートニス守護神にレナも追加か。少し楽しみだな」
「……っ!」
レナと夫婦神。
悪くないな、と思ってしまった。
終
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…そうですね、大概の人は世界を救おうとは思わない。 そして「大切な人」を殺してまで世界を救う選択ができる「正しさ」を持っているのは神(システム)だけだ。 松本零士先生の短編の一つにも「完璧な正しさを持つ存在は、人の社会では(異物)でしかない」という趣旨の作品がある。
こんにちは!
某SFアニメってもしや「生き残りたい~生き残りたい~まだ生きてたくなる~♪」のアレですよね!?
好きなんでちょっと興奮しちゃいました(笑)