気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

古森きり

文字の大きさ
6 / 27

お見合いしてみた 5

しおりを挟む

 病弱だなんて、ジェラール様って薄幸の美少女だったのか?
 あまりのことにますます守らなければ、と誓いを新たにする。
 ジェラール様のお話をまとめると、ジェラール様は先天性の魔力過剰症。
 自然魔力が常に多く体に取り込まれて、過剰気味になる。
 人の多い場所――例えばここ、王都のような場所は魔石道具などで常に自然魔力が消費され、ジェラール様は少ない自然魔力を取り込みづらくなりそれなりに適量の魔力になる。
 それはいいことのように思ったのだが、都会は雑念が自然魔力に交じって魔力質が悪く、体内に入っていく質の悪い魔力で体が入ることで体調を崩してしまうそうだ。
 なので普段、王都郊外にある領地の自然が多い場所に建てた別邸で過ごしている。
 王都にある学園に通うと、週末には起き上がれないほど体調を崩してしまう。
 魔力が多いからこそ、取り込む魔力も多くてその魔力質が関係する。
 なるほど……。

「魔力が多くて困ることはないのですか?」
「自然魔力の質の方が関係しているんです。溢れる魔力は――それはそれで周りの人が僕の魔力で魔力酔いさせてしまうのです」
「わあ……」

 やはり色々問題があるのだな、と話を聞きながら思う。
 マリーリリー様は生まれつき魔力がからっきし。
 ジェラール様の体質を考えると、まるで魔力のないマリーリリー様なら側にいても魔力酔いにはならない。
 地位的にも釣り合うし、我儘放題で世話役のメイドをクビにすることもあるマリーリリーを城から追い出したい王家としては、王都郊外に領地のある公爵家に嫁に出した方がいいと思っていたようだ。
 穏やかなジェラール様と一緒なら、あの苛烈な性格も丸くなるかもしれない。
 そんな期待も寄せながら、二人の婚約は結ばれた。
 けれど、その結果があの婚約破棄。

「しかし、それほど魔力が多いのであれば魔導師として活躍できたのではないですか?」
「我々も最初はそう期待したのですが……」
「僕には……ウィザードの適性がなかったんです」
「え」

 この国に限らず、この世界では王侯貴族は大きく七つの『クラス』と呼ばれる“分類”適性がある。
 私のクラスは『ナイト』――騎士だ。
 ナイトの分類適性を持つ者は身体強化魔法が使えるが、逆に言うと身体強化魔法しか使えない。
『ウィザード』――魔導師の適性があれば、攻撃魔法や補助魔法が使えるはずだが……その適性がないとは。

「では、もしかして『セイント』の適性が?」

『セイント』――聖なる者。
 回復魔法や補助魔法、結界魔法、封印魔法などが使える。
 この適性を持つ者は大変珍しいが、魔力が多いのも特徴の一つ。
 ジェラール様ならばむしろセイントでないとおかしいかもしれない。
 しかしその物珍しさと善性から、たかられやすくて周りの人間がわざとセイントであることを隠す傾向にもある。
 ど直球に聞くべきではなかったか、と慌てて「答えなくても大丈夫です」と両手を振ったが、ジェラール様は首を横に振った。
 あれ?

「セイントでもないのです」
「そ、そうなのですか。でも、では、ええと……」

 残るクラスは『キング』『クイーン』『デビル』『プロフェット』。
 デビル以外はセイントよりもレア。
 レアというか、一国に一人、現れるかどうかのクラス。
 え、まさか、そ、そうなのか?

「まさか……小悪魔……?」
「こあくま?」
「ぐぅっ! な、なんでもございません」

 それなら納得、と思った瞬間後ろからルビのド突き。
 あまりにもひどい。
 こんなに可愛いのだからジェラール様は小悪魔かもって思うじゃない?

「実は……プロフェットなのです」
「っ!」

『プロフェット』――預言者。
 未来のことを予知、または予知夢で知ることができる超特殊クラス。
 その特殊性からキングやクイーンと同等かそれ以上の出現確率で、国に一人現れればその国はプロフェットがある間、あらゆる災を回避できる。

「でも、僕は今申し上げた通り魔力過剰症で体調と精神が安定せず、予知も予知夢も見たことがなくて……」
「そうなのですか」
「マリーリリー様も最初は僕がプロフェットのクラス適性と聞いて喜んでおられましたが、結果的にはこんな感じで……だからあの、フォリシア嬢にはきっと、がっかりされると思うのですが――婚約については本当に考え直していただいて構わな……」
「では、質の良い自然魔力の土地で過剰な魔力をなにかで消費して整えればよいということですね。魔石作りや魔石浄化などいかがですか!?」
「え?」
「え?」

 そうなんだ、大変だな。
 魔力量が多い人がやる仕事といえばこれだよな、と提案したら目を丸くされた。
 ジェラール様だけでなく、ご両親まで。
 あ……公爵家のご子息が魔石作りや魔石浄化など、確かにやるべきではないな!

「も、申し訳ありません! 変なことを……!」
「い、いえ、あの……魔石というのは魔物から出てくるのですよね? 人の手で作れるのですか?」
「え? あ、はい。むしろ人の手で作られた魔石の方が、市民の手に届きやすく安価で出回っております。魔物を倒した時に出る魔石は、どうしても浄化の過程が必要となり内包魔力も多いので軍事用に回されがちなので」


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」 ……カッコイイ。  画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。  彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。  仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。  十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。  当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。  十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。  そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】ちょっと、運営はどこ? 乙女ゲームにラノベが混じってますわよ!?

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「俺は、セラフィーナ・ラファエル・スプリングフィールド公爵令嬢との婚約を解消する」  よくある乙女ゲームの悪役令嬢が婚約を破棄される場面ですわ……あら、解消なのですか? 随分と穏やかですこと。  攻略対象のお兄様、隣国の王太子殿下も参戦して夜会は台無しになりました。ですが、まだ登場人物は足りていなかったようです。  竜帝様、魔王様、あら……精霊王様まで。  転生した私が言うのもおかしいですが、これって幾つものお話が混じってませんか?  複数の物語のラスボスや秘密の攻略対象が大量に集まった世界で、私はどうやら愛されているようです。さてどなたを選びましょうかしら。 2021/02/21、完結 【同時掲載】小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑
恋愛
侯爵令嬢リリナ・カフテルには、道具のようにリリナを利用しながら身体ばかり求めてくる婚約者がいた。 貞操を守りつつ常々別れたいと思っていたリリナだが、両親の反対もあり、婚約破棄のチャンスもなく卒業記念パーティの日を迎える。 しかし、運命の日、パーティの場で突然リリナへの不満をぶちまけた婚約者の王子は、あろうことか一方的な婚約破棄を告げてきた。 王子の予想に反してあっさりと婚約破棄を了承したリリナは、自分を庇ってくれた辺境伯と共に、新天地で領地の運営に関わっていく。 そうして辺境の開発が進み、リリナの名声が高まって幸福な暮らしが続いていた矢先、今度は別れたはずの王子がリリナを求めて実力行使に訴えてきた。 けれど、それは彼にとって破滅の序曲に過ぎず―― ※8/11完結しました。 読んでくださった方に感謝。 ありがとうございます。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

処理中です...