ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい

古森きり

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伯母と伯父

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 すぐるの出した名前に、りんが異様なほどに肩を跳ね上げ、顔を真っ青にする。
 え? なに? 誰? 礼一郎?
 なんだろう、どこかで聞いた名前……。
 でも、どこで? 私は少なくとも会ったことがない。
 でもなんか聞き覚えのある名前なんだけれど。
 
「その礼一郎様や春月しゅんげつ様に連絡は取れないのでしょうか? お二人ならお嬢の現状を打開できるのでは」
「す、すぐる様……いけません……れ、礼一郎様のお名前は……っ」
「え? な、なにかいけないのですか?」
「せ、千頭山せんずやまのお家では……礼一郎様の話は……しては、い、いけないのです……。お、奥様が……お、お、お怒りに……な、なります……」
「え……あ……そ、そうなのですね。き、気をつけます」
 
 神妙な空気になっちゃった。
 りんの怯え方にすぐるもなにか察してコクコク、と小さく何度も頷く。
 い、いったいりんはなにを知っていて、話せないんだろう?
 
「ここには私たちしかいないわ。それでも教えてもらえない? 私の親戚のことなんでしょう? 私は知っておくべきだと思うんだけれど……」
「うっ……。そ、それは……でも……」
「知ったところで私の立場は変わらないじゃない。これ以上嫌われることもないと思うわ。家から出されているんだもの」
「もしかして、俺がいるからでしょうか? でしたら、十分ほど席を外しますね」
「あ……」
 
 そう言ってすぐるは個室から出ていく。
 しょ、小二の七歳児がこんなに気を使えるもの、なの……?
 衝撃的すぎるんだけれど……!?
 これが商店育ちの商売人一族の末っ子!?
 す、すごくない?
 躾がされているとこんなにしっかりとしている子に育つものなのか……前世の小学校二年生なんて悪ガキかクソガキしかいないと思ってた。
 名士の家の子ってこんなにおとなびているんだなぁ。
 わ、私ももっとしっかりしないと……中身がおとななのに敗北感がものすごい。
 
「――礼一郎様は、真宵お嬢様のお父様、礼次郎さまのお兄様です」
 
 ぽそり、と話し始めるりん
 やはり、あのマザコンクソ親父は一人っ子ではなかった。
 しかしだとしたら疑問が生まれる。
 ムチュコタンLoveの鬼ババアが、どうして次男のマザコンクソ親父を溺愛するのか。
 もしかしなくても……。
 
「亡くなっているの?」
「は、はい。わたしが千頭山せんずやま家に引き取られた少しに……。あの……わたしも子どもで、理解ができなかったのですが……奥様の礼一郎様への執着は、今思うと本当に……異常でございました……」
 
 顔を真っ青にしながらりんは話してくれた。
 当時の子どもなりんには『家族だから』そういうものなのか、納得できていたらしい。
 しかし、鬼ババアにはもう一人娘がいた。
 長女であり長子である春月しゅんげつさん。
 私や私の母のように離れに住まわせ、長男と次男を母屋で育てる。
 息子たちだけは徹底的に溺愛して長女の春月しゅんげつさんを毛嫌いし、虐げたという。
 十代半ばになると母屋に呼び寄せ、春月しゅんげつさんを使用人のように扱い、お茶がぬるいとか礼儀がなっていないとか理不尽ないちゃもんをつけて殴る蹴るは日常茶飯事。
 十八になった春月しゅんげつさんが安部宗家の嫡男見初められて掻っ攫われるように嫁に行ってしまってから、長男の礼一郎さんも逃げ出した。
 マザコンクソ親父礼次郎と違って、礼一郎さんはごく普通の感覚も持ち合わせていたのだろう。
 よくその環境で、と思ったが、りんの目には『お姉様の春月しゅんげつ様との年子であり、関係が良好だったため奥様が春月しゅんげつ様に暴力を振るうのにいつもお心を痛めておられました』らしい。
 なるほど、年子で幼少期は一緒に育った姉と急に引き離され、別居していたら数年後急に母屋に戻ってきたと思って喜んでいたら母親のサンドバッグ……これは心を病んでも無理がないかも。
 それでも姉が安部家に嫁いでいなくなれば――次のサンドバッグは自分かもしれない。
 だってもう、自分の代わりの“愛玩人形”はもう一人いるのだ。
 鬼ババアの溺愛の仕方も異常だった。
 朝は一緒の布団で起きて、着替えも一人ではやらせず母の手でやり食事の際は「あーん」。
 学校にも校門の前まで見送り、迎えに行く。
 制服も手ずから着替えさせ、夕飯も「あーん」で食べさせてお風呂も一緒。
 今はもはやいにしえの死語であれと願う『タオルで拭いて・パンツ履かせて・パジャマ着せて』or準備しての略語『タオパンパ』を地でやってあげる鬼ババア。
 次男が生まれてからは、さすがに使用人がやるようになったらしいが鬼ババアのタオパンパは次男に移行。
 もう聞いているだけで吐き気がする。
 でもまあそうして自分に向けられた熱量が少しづつ次男に向けられ始めた事実に『姉の次は自分』という危機感を持たせるには十分で、礼一郎さんは高校二年生から寮に入ると言い出した。
 家から逃げるために。
 私からすると実にまっとうな判断のように思う。
 だがそうならなかったらしい。
 
「礼一郎様は……結界の外に逃げていかれたそうです……あの、わたしが、聞いた限りですと……ですが……」
「結界の、外……」
 
 もう、そこまで聞けばいくらなんでも察してしまう。
 結界の外に行ったきり帰ってこない。
 それって、礼一郎さんはもう……って、こと……だろうな。
 あの鬼ババア、溺愛していた我が子も手にかけているってこと?
 直接手にかけていなくても、なにかしらでってことでしょう?
 ……もう、人間じゃないんじゃないの? あの鬼ババア。


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