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第七章:
夢殿で逢いましょう③
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全くもって状況がわからない。わたしがデッドエンド直後の身体に入り込んでからの一ヶ月間、ガワの人とどうにかして話せないかといろいろ試してみたけど、そのすべてが空振りだったのだ。なんで今ごろになってこんなボーナスステージが発生してますか!?
そりゃ嬉しいよ、推しキャラだもの! ついさっきまで鏡で好きなだけ見まくってたけど、やっぱり中の人が違うと表情の作り方とか所作とかが全然優雅で見とれてしまう。苦節一ヶ月、あきらめないでファンやっててよかった! て、即座にガッツポーズ取りたくなったし。
でもそんな心境とは裏腹に、今現在の場所とか状況的に不安しかない。だって相手は少なくとも一回死んでて(多分)、わたしは何故か元の姿に戻ってるのだ。
オタ友が好きだった異世界転生モノ的な展開だと、けっこうかなりヤバいのではなかろうか。何はともあれ聞いてみないと始まらないので、正直めっちゃ怖かったけど口を開くことにした。
「あの、アンリエットだよね……?」
『ええ、そうよ。どうぞアンリと呼んでちょうだい』
「は、はい、じゃあ遠慮なく……アンリさん、今ってどういう状況? わたし、もう帰らなきゃいけない感じ?」
友達ほど熱心に読んでなかったからそこまで詳しくないけど、いちばんあり得るのはこのパターンだろう。もしこっちに呼ばれた原因があるとしたら、死にかけてて自分じゃ動けないガワの人の代理として、真実を突き止めるまでがわたしの役目だ。それが終わって、本人が戻って来られるなら、もう『エトクロ』の世界に居続ける理由はない。
あ、でも、だとしたらもう一回だけみんなに会いたい。実は中身が違ってたってことは言っちゃいけないかもだけど、ちゃんとお世話になった人たちにお礼を言っておきたい。ついでにヴァイスブルクも見納めだからおみやげを、いや物は持って帰れないか? じゃあみんなと行けそうなとこは全部見て回って、思い出づくりして……
(ああ、だけど、もしかしたら記憶すら持って帰れないかもしれないなぁ)
質問したそばからあれこれ思いが浮かんできて、それがなんだか妙に寂しくて、気が付いたら目頭が熱くなっていた。こんなに涙もろかったっけ、わたし。
『――ごめんなさい、驚かせてしまって。あなたはこの世界と、みんなのことをとても好いてくれているのね』
それは相手にも伝わってしまったみたいで、ふいにぎゅっと抱きしめられてしまった。でも全然痛くないし、あったかいし、お花みたいないい香りがする――
『あの、でもね? とっても、本当に、ものすごく言いにくいのだけれど…………帰れないの、実は』
「、へっ?」
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