24 / 31
連載
時の女神の悪戯〜婚約破棄テンプレ破壊〜2
しおりを挟む「恐ろしい!王家の威信を弱めるのが目的ですの!?」
アイリスは息をするように嘘を吐けるし、被害者面して他人を貶めることもできる。無罪の人間を国賊にしたてあげることも朝飯前だ。
得意げに語っていた男は顔を真っ青にして、首を振った。
「そ、そんなはずはない!」
「いいえ。国王陛下が承認なさった正当な婚約者であるわたくしを蔑み、見知らぬ女を王妃に祭り上げようとしている。こんな大勢で寄って集って。いじめなど、どこに証拠があるというのです!あの女は傷一つなく立っているではありませんか!でっち上げた嘘で、わたくしを陥れようと企むなんて!何を喚こうが、無駄よ。もう誰も騙されないわ。この場にいる者達が陛下に証言してくれるわ、罪から逃れようなんてしないことね。そこの兵、この罪人共を捕らえなさい!国家に対する反逆を犯したわ!」
「ま、待て!」
声を上げたのは王子だった。まさか、こんな大事になるとは思っていなかったのだろう。だが皇太子の婚約破棄とはそれだけ重い意味を持つ。好きな女ができたからそっちに鞍替え、なんて簡単にできるわけないじゃない。
そんなことも分からないのか。
「ああ、殿下、あなたさまもきっと洗脳を受けてらっしゃるのね。誰か、医者もお呼びなさい」
王子と蜂蜜女を見て、嘲笑う。
「その女も捕らえなさい!主犯はこの女よ!裏には一体どの貴族がいるのかしら。それともどこかの国かしら!その身一つで我が国を滅ぼそうとするなんて、恐ろしいわ!」
びしり、とアイリスが今度は指さしてやった。
やられたら、やり返す。
ただの小娘とは思えないアイリスの命令に、騎士がつい足を動かさざるを得なかった。しかし殿下だぞ、陛下のご命令を、だがその殿下も……。
ざわめきの中、先陣を切ったのはとある貴族だった。
「はようせい!あの女を捕らえろ!」
あの女、とは。蜂蜜女だった。
今度こそ、兵が一斉に動く。
今の状況でアイリスにぶがあるのは明白。なにせ国賊やら国家反逆やら、首が飛びかねないセンシティブな単語を出したのだ。誰もアイリスに逆らえない。逆らえば、己に疑いの目が向く。政敵にいい蜜を与え、いつの間にか蜂蜜女を裏で支援していたことになるかもしれない。
貴族に保身は必須だということは、アイリスがよく知っている。アイリスみたいに白を黒だと決めてしまう怖い人間ばかりがいる世界だ。
愛や優しさだけでは、生きていけない。白を黒と、黒を白と決め、そして白は白、黒は黒と判断できる力がいる。
特に王妃であるなら、なおさら。
中には王子の手がかかった貴族もいただろうが、アイリスに加担した。そして蜂蜜女を助けようとした、「洗脳」されている王子も、兵に拘束を受ける。
「っ、何をしている!離せ、離せ!」
「殿下、どうかご冷静に。そしてご容赦を」
蜂蜜女は騎士に引きずられて、ずるずると王子から引き離されていく。
何を考えていたのかは知らないけれど。
ざまあみなさい。愚か者が王子の隣を奪おうなど考えるからよ。そして愚か者の王子も、国への忠誠心を今一度よく思い出すといいわ。
蜂蜜女は演技ではなく泣き叫んでいる。無様に。
「っ、やめて!どうして!あの女がいじめたのよ!私は何もしてないのに!殿下だって愛してると言ってくれたのに!」
冷ややかな目で見下す。
「ワインは手が滑っただけ。中庭で突き飛ばしたというのもあちらがぶつかってきただけ。いじめだなんて酷いわ。おまえの勘違いではなくて?」
このわたくしがそう言うのなら。
「それに、愛よりもまずは誇りを持つことから始めてちょうだい。誇りがない人間の愛なんて、王妃には必要ないわ」
そもそも泥棒猫だという自覚さえないらしい。恋は盲目。
盲目でもこの女を選ぶなんて、どこかのサイラスでもしないだろう。
サイラス以下の王子様、せめてサイラス並には根性鍛えてくださいませ。
微笑む。
その瞬間、シャロンの体から力が抜けた。
シャロンは目をぱちぱちと瞬かせながら、目の前の惨状に呆気に取られる。なぜか騎士に拘束されている婚約者である殿下。その殿下の心を奪った田舎娘や、その取り巻きたちは騎士に引きずられながら喚いている。
そしてシャロンの周りで、貴族たちが「お労しい」「このことは必ず陛下にお伝えします」「あんな国賊が殿下に近づいていたとは」と、唾を散らしながら怒っていた。
……どういうこと?
ずっとずっと好きだった殿下の気持ちがミレンに移ったのを知って、あれこれ手を打ったのにどうにもならなくて、空回るばかりで、自分の立場ばかりが悪くなって。
殿下にも嫌われた。ミレンに勝ち誇った顔をされた。
そして、「婚約破棄だ!」と指をさされたはずだったのに。
「……どうなってますの?」
何の記憶もないのに、なぜかシャロンが勝者らしい。
ぽかんとシャロンは立ち尽くすことしかできなかった。
14
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。