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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~

192 女王誕生祭 六日目 1

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 女王誕生祭六日目。今日はハンターと騎士との交流試合が行われるらしい。場所は城の訓練場はふさがっているので、ハンターギルドの訓練場を使うみたいだ。
 城に行って見れない人が多いんじゃないかと聞くと、交流試合のチケットを城に持って行けば、別日に入れるプレミアムチケットらしい。チケットはそこそこ高いにも関わらず人気があって、手に入れられる人が少ないとのこと。
 このもよおしを知った時には、残念ながらチケットは売り切れてしまっていた。と言う訳で、スティナに無理を言って入れてもらう。昨日のギャンブルで儲けたみたいで、ふたつ返事で許可を得られた。

 ギルドに着くと、スティナの案内で特別観覧室に案内される。どうやらここは、急遽、他国のお偉いさんが来て、ゴネた時に通される部屋らしい。
 今日は空いているとの事で、リータ、メイバイ、エミリ、アイパーティも誘ってやって来たのだ。

「スティナ。みんにゃの席まで用意してくれて、ありがとにゃ」
「シラタマちゃんはギルドに貢献してくれてるから、これぐらいお安いご用よ」
「にゃ……また無理難題ふっ掛けるにゃ?」
「まさか~。今日はしないわよ~」
「今日じゃなかったらするんにゃ……」
「あははは~」

 やはりか……その乾いた笑いが正解と言っておる。はぁ……

「そう言えば、わしにはお声が掛からにゃかったけど、出なくていいにゃ?」
「出てくれるの!?」
「いや、聞いただけにゃ~。近いにゃ~」
「うそうそ。冗談よ。シラタマちゃんが出たら目立つから、騎士もハンターもかすんじゃうわ」

 つまり猫のわしが邪魔なのか……無理矢理やらされるのも嫌じゃけど、一言も声を掛けられないのは寂しいのう。

「出場者はどういった条件で決まるにゃ?」
「ランクとギルドへの貢献度ね。そこからリストアップして声を掛けるの。高ランクは変人揃いで、なかなか出てくれないから大変よ」
「そうにゃんだ。リスの着ぐるみを着た奴もいるもんにゃ~」
「猫のぬいぐるみもね」

 え? わしも変人枠に入ってるの? みんな温かい目でうなずいておる……

「まだ高ランクじゃないにゃ~! 変人枠に入れにゃいで~!!」
「じゃあ、シラタマちゃんは猫枠ね」
「そのままにゃ~!」

 変人枠は回避されたのか、されていないのかわからないが、スティナは仕事があると言って特別室から出て行った。
 皆にわしが変人かどうかを聞いて回るが、返事が無い。ただ撫でるだけだ。そうこうしていると、騎士とハンターの交流試合が始まった。

 あれが高ランクハンターか……。騎士に押されて、あまり強いように見えんのじゃが……

「どうしたの?」

 わしが頬杖ついて難しい顔で試合を見ていると、アイが質問して来た。

「あのハンターは、高ランクにゃの?」
「さっき、Cランクハンターって言ってたわよ。最前線で何度か見た顔だし、高ランクで間違いないわ」
「じゃあ、アイ達も高ランクハンターに入るにゃ?」
「いいえ。Cランクでもピンキリなの。私達は良くて中堅に入ったところかしら」
「にゃるほど……あ~。負けちゃったにゃ」

 わしが残念そうな声を出すと、アイがハンターの特徴を説明してくれる。

「私達ハンターは、対人戦に弱いからね~。騎士は毎日のように練習してるでしょ?」
「そうにゃけど……盗賊と闘う事もあるにゃ。人にも慣れてにゃいといけないと思うにゃ~」
「たしかに……」
「バーカリアンだって、リスさんだって、対人戦に慣れていたにゃ。これはどんにゃ相手でも対応できるって事にゃ。トップクラスとの違いは、ここにあるんじゃないかにゃ?」
「……そうかもしれないわね」

 わしの言い分に、アイも何やら思う事がありそうだ。

「アイは初見のリータに負けたにゃ。わしは、あの試合は十回に一回の勝率が、一回目に来たと思っているにゃ」
「耳が痛いわね。たしかにアレは、あとから考えたら、やりようがあったと気付いたわ」
「にゃ~? 毎日とは言わないけど、パーティメンバーと乱取りはしたほうがいいにゃ」
「そうね。時間がある時は練習するわ。やっぱり猫ちゃんは凄いわね。私のほうがハンター歴が長いのに、教わる事ばかりよ」
「あ……ちょっと説教臭くなっちゃったにゃ。ごめんにゃ~」

 わしが謝ると、アイは優しくわしの頭を撫でる。

「ううん。リーダーになると、教わる事が少ないから助かるわ。ありがとう」
「少しは助けになれたみたいでよかったにゃ」
「それにしても、猫ちゃんはどんな相手でも対応できるのがうらやましいわ」
「わしの場合は特殊にゃ。産まれてから、数多くの獣を見て来たからにゃ。やらなきゃ生きて来られなかったにゃ」
「それはマネ出来ないわね」

 アイが諦めたような顔をするので、わしは他の学習方法を提示する。

「そうだにゃ。でも、見て学ぶ事は出来るにゃ。今日の試合も真剣に見て、自分だったらって当てはめれば勉強になるにゃ」
「あ! なるほど。みんな聞いてた? この機会を逃しちゃダメよ」
「「「「はい!」」」」

 この話の後、アイ達は集中して試合を観戦し、わしが話し掛けても無視するか、うるさいと言われてしまった。

 リータとメイバイまで、うるさいと怒らなくてもいいのに……

「よしよし」
「ゴロゴロ~」

 エミリがわしを独占して撫でておる。まぁたまにはいいか。

 わしがゴロゴロだらしない声を出して観戦していると、リータとメイバイが睨んでいて、ぎょっとする。

「「………」」
「にゃ!? 言いたい事があるなら言ってにゃ~」
「いえ。いまは忙しいです」
「帰ったら、覚えておくニャー!」
「にゃ……」

 何を覚えておくんじゃ? 怒られるのか? 怒られるんじゃろうな~。

 それからもわしは、ゴロゴロ時々ムシャムシャと言いながら観戦する。時折、怒ったような視線が飛んで来るが、皆、忙しいみたいで何も言われなかった。きっと帰ってから怒られるのであろう。


 騎士とハンターの交流試合は続き、ハンターの勝ち星が少ない中、時間が過ぎ、お昼休憩となる。

「「「「ゴロゴロ、ムシャムシャうるさいのよ!」」」」

 帰る前に全員から怒られてしまった。

「すいにゃせん!!」

 こうなっては平謝りしかない。謝りながら皆に、次元倉庫からエミリに作ってもらったお弁当と飲み物を取り出して、食事に気を取られている内に逃げ出した。だって、怒られたくないんじゃもん。

 特別室から飛び降り、王族のいる観客席までわしは走る。今回は下から声を掛け、許可を得てから観客席に飛び乗った。
 前回怒られた事を覚えているとは、わしは出来る猫だ。

「それでも失礼には代わり無いわよ!」

 声を掛けても女王に怒られた。

「どうせ向こうで怒られて、逃げて来たんでしょ~?」
「にゃぜそれを……」
「だってシラタマちゃんだも~ん」

 さっちゃんにバレるとは思っていなかった。たまにさといんじゃよな~。いや、しょっちゅう怒られているからか。

「挨拶に来るんじゃにゃかった……」
「じょ、冗談よ。よしよし~」

 わしは子供か!

 わしがさっちゃんに撫で回されていると、女王が質問する。

「それでシラタマは出ないの?」
「お声が掛からなかったにゃ。まぁ掛かっても断っていたけどにゃ」
「え~~~! シラタマちゃんの闘うところを見れると思っていたのに~。いまからでも出てよ~」
「スティナが、わしが出ると邪魔って言ってたから無理にゃ」
「たしかに……」

 さっちゃんのわがままに、わしが出ない理由を説明すると、女王の納得は早かった。

「そんな事ないよ~。お母様。なんとかなりませんか?」
「シラタマはイサベレを簡単に倒す猫よ? こんな小さな猫に、国の騎士が倒されるのを、他国の者に見せるわけにはいかないわ」
「あ……」
「そういうわけにゃ」
「むう……じゃあ撫でる!」
「にゃんでそうなるにゃ~。ゴロゴロ~」
「これあげるから~。あ~ん」

 さっちゃんがフォークで刺したモノを口の前に持って来たので、わしは咄嗟とっさに口を開けてしまう。これは食い意地が張っているというわけでなく、猫の習性だ……と、思いたい。

「あ~ん。モグモグ」

 うまい! これは……チョコケーキか? スポンジもふわふわじゃ~。

「これはどうしたにゃ?」
「エミリと料理長が協同で作ったみたい。昨日の晩餐会で出てたよ。貴族や他国の人に、すっごく評判だったの」
「にゃんですと……」
「招待状は出したんだから、シラタマちゃんも来ればよかったのに」

 そう言えば、わし一人で行くのは気が引けたから断ったんじゃった。こんなうまい物が出るなら行っておけばよかったな。
 国民の贈り物はチョコレートで、貴族達にはチョコケーキじゃったのか。行っていれば、二度美味しかった。

「はい。あ~ん」
「あ~ん。モグモグ。そう言えば、コーヒーはどうだったにゃ?」

 さっちゃんにチョコケーキを口に入れられながら女王に質問すると、答えてくれる。

「匂いに驚いた者が多かったけど、なかなか好評だったわ。貴族の間で流行りそうよ」
「モグモグ。そうにゃんだ~。それにゃら、商売として成立しそうだにゃ~」
「そうね。誕生祭が終わったら、国の出資でチョコとコーヒーを販売する店を出すから、行くといいわ」
「にゃ? それってエミリはどうなるにゃ?」
「心配しなくて大丈夫よ。権利関係はちゃんとしているし、エミリの口座を料理長と孤児院の院長が責任持って管理してくれるわ。シラタマも管理する?」

 料理長も院長のババアも、わしの中では信頼に足る人物じゃな。二人に管理させるって事は、もしもババアが使い込もうとしても、料理長が止めるって感じか。

「いいにゃ。二人にゃら任せられるにゃ。モグモグ」
「あ、次の試合が始まるわね」
「にゃ!? 帰らにゃきゃ!」
「もう試合の邪魔になるわ。ここにいなさい」

 わしが帰ろうとすると女王に止められ、そのすぐあとに、さっちゃんがチョコケーキを口に運ぶ。

「あ~ん」
「モグモグ……にゃっ……はかったにゃ!? わしを食べ物で釘付けにしていたにゃ~!!」
「なんの事かしら~?」
「そんな事しないよ~?」

 やられた。さっちゃんに餌付けされてしまった。試合が始まったら、すぐに二人して撫で出したし、確信犯じゃ。
 撫でられるとゴロゴロ言ってしまうんじゃけど、女王達は怒らないかな? それなら、向こうで見るより怒られないかも……

 こうしてわしは、さっちゃんと女王の膝を行き来し、安心して試合を観戦するのであっ……

「「ゴロゴロうるさ~い!」」
「撫でるからにゃ~~~!」
「「あ……」」

 やっぱり怒られるわしであったとさ。
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