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09 アルタニア帝国

213 アルタニアの魔王8

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 【発狂】のタイミングが最悪だったせいで、魔王の攻撃をまともに受けてしまったイロナは地面を平行に飛び、城壁にぶつかった。

「イロナ!?」

 魔王に向けて走っていたヤルモは、イロナが飛んで行った方向を目で追い、瞬時に頭を入れ換える。

「俺が魔王を惹き付ける。勇者パーティでイロナの元へ向かってくれ」

 頑丈が売りのヤルモが作戦を告げると、オスカリが反論する。

「アホか。誰に物を言ってんだ」
「でも、俺が耐えたほうが……」
「俺たちのこと、ナメてるのか? 勇者だぞ。勇者パーティだぞ。五人で挑めば、いくらでも時間が稼げるってんだ」

 オスカリがムッとしながら返すと、ヤルモが吹き出す。

「ブッ……倒すんじゃないのかよ」
「それは嬢ちゃんに任さないとあとが怖いだろ」
「よくわかってんな」
「俺たちも調教済みだからな」

 お互い笑みを浮かべると、ヤルモは最後の言葉を残す。

「ちなみにアレは発狂だ。死ぬなよ」
「ああ。お前も嬢ちゃんに殺されるなよ」

 ヤルモとオスカリは拳をゴツンと当てると、各々の役割を果たすために動き出すのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「さってと……かっこつけてしまったけど、アレってどうしたらいいもんかね?」

 魔王を中心に、赤黒く巨大な槍が何十本と立ち、その次の瞬間には触手剣で輪切りにされて崩れ落ちる光景を見て、オスカリは皆に相談を持ち掛けた。

「俺が耐える」
「私も支援に回る」

 パラディンのトゥオマスと賢者ヘンリクは防御に立候補。

「俺はとりあえず攻撃魔法だな」
「俺も効くかどうかわからないけど、それだ」

 大魔導師リストと魔法剣士レコは惹き付け役に手をあげる。

「じゃあ、俺はマルチに動くって感じだな。てか、いつも通りじゃねぇか」
「「「「わはははは」」」」

 オスカリが締めると笑いが起こり、その数秒後には顔を引き締めた。

「うっし! 嬢ちゃんが復活するまで粘んぞ!!」
「「「「おう!!」」」」

 こうして勇者パーティは負け戦とわかりつつ、初めての魔王戦に突入するのであつた。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「イロナ!? どこだ!?」

 勇者パーティが戦闘を開始した同時刻、ヤルモは城壁に突っ込んだイロナを探していた。
 その城壁はイロナがぶつかった場所から崩れ、瓦礫が散乱しているのでなかなか見付からない。ヤルモは大きな瓦礫を中心に遠くに投げ捨てて、イロナの探索を続けていた。

「あ~~~……クソッ!!」

 この声は、ヤルモの声ではない。

「イロナ!?」

 そう。イロナが瓦礫を押し退けて普通に立ち上がってから発した声だ。

 ヤルモは瓦礫を掻き分け、傷だらけのイロナに駆け寄った。

「大丈夫か??」
「ミスッていいのをもらったが、なんとかな。これぐらいなら動くには支障もない」
「いやいや、そのまま戦うな。エクスポーション飲んでくれよ」
「う~ん……まぁいいか。よこせ」

 ヤルモがお願いすると、イロナは渋々受け取った。おそらく、魔王の強さが自分の上を行っていたので、このままでは負ける可能性を考えてしまったのだろう。
 ちなみに、このエクスポーションもヤルモがダンジョン深くで掻き集めた物で、売ったら超お高い。HPも千は回復するので、イロナの減ったHPなら四本もあれば全快に近い数字となった。

「そういえば、我はどれぐらい寝ていた?」
「さあ? 5、6分ぐらいかな??」
「戦闘中の気絶なんて、いつ振りだろうか……」
「そんなことより、勇者たちを助けてやってくれないか? あいつらのほうが死にそうだ」
「ほう……奴らが魔王と戦っているのか。少し見学するか」
「いや、いますぐ行ってやってほしいな~??」

 ヤルモがやんわり助けを求めても、イロナは聞きゃしない。ヤルモを肩に担いで、勇者たちの戦闘がよく見える場所へと一瞬で移動するのであった。


「おお~。やってるやってる」

 イロナの視線の先には、発狂中の魔王が勇者パーティに襲い掛かる姿。盾や防御魔法で必死に耐え、たまにオスカリが触手剣を自身の剣で弾いている。
 その後方からは魔法が飛び交い、ほとんどが触手剣に斬られて霧散。たまに体にヒットしているが、すぐに回復するのでダメージが入っているかはわからない。

「やはりあいつらはいいな。我でもてこずる敵に物怖じしていない」
「そうだけど、めちゃくちゃ綱渡りだぞ。あと何分持つか……」

 勇者パーティは全力で応戦しているが、ヤルモの目には刻一刻と死に近付いているように見える。

「てか、ここからどうするんだ? 一緒に戦うか??」

 発狂中ならば残りHPは少ないので、ヤルモとしては全員で押し切りたい。

「我が負けるとでも思っているのか……」

 しかし、イロナがそれを許してくれず。殺気まで放つので、ヤルモは殺されると思った。だが、イロナはすぐに殺気を引っ込ませて顔を崩す。

「まぁこのままでは負ける可能性が高いな」
「えっ……」
「見ろ。発狂が止まった」

 せっかくイロナが一時間も掛けて魔王の膨大なHPを削ったというのに、振り出しへ。また一からHPを削るには、イロナでも疲れるのだろう。

「仕方ない。主の命令だ。イロナ、一緒に戦え」

 そんな状態ならば、ヤルモも伝家の宝刀。主従関係を思い出させ、ムリヤリ共闘させようとする。

「ほう……我に命令するか……」
「ここは譲れん!!」

 命の掛かった修羅場だ。国はどうでもいいが、冒険者として自分の命が掛かっているのだから、ヤルモも引けない。

「まぁよかろう」

 意外にもイロナがすぐに折れてくれたので、ヤルモは胸を撫で下ろした。

「ヤツは我が倒すから、主殿たちでしばらく時間を稼いでくれ」
「いや、それじゃあ、最初と変わらないだろ」
「大丈夫だ。我にも奥の手がある。あまり気乗りせんが、あの魔王では仕方あるまい」
「てことは、俺みたいのができるってことか?」
「アレとは違うが、近いモノがな。少々時間が掛かるから、それまでは繋いでおいてくれ」
「……わかった。任せろ!!」

 何が起こるかわからないが、ヤルモはイロナを信じて走り出したのであった。
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