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第二章 メモリー&レイルート

貴方は…私のヒーローです。

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 俺、神林慎一郎。通称チロは、現在北の国の城内の一室でレイに看病をしてもらっている所である。

「ぶえっくしゅん!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「はは、大丈夫大丈夫。面目無い。」

 別に症状は風や寒気が原因では無いのだが、俺は派手にくしゃみをする。何処かの誰かが俺の噂でもしているのだろうか。

 まあ、それはともかく、俺は巨大イカとの戦闘後、急に吐き出してそのまま気絶するというとんでもなく無様な醜態を晒したわけだが、それでもやさしくレイは付きっきりで看病をしてくれたようだ。

「いやはや、本当に申し訳ない。」

「いえいえ、それは此方の台詞です。チロさんがいなければ私達イカの餌でしたよ。」

 イカの餌(性的な意味で)だったろうな。今だから分かるが、あのイカは俺たちを攻撃するような真似は恐らくしてこなかったと思う。実際にユキやカナに直接的な危害は与えず、あくまで触手で縛り付けていただけだったし、そう言うプレイが好みだったんだろう。お(か)しい人を亡くした…。

「ですから、その借りを返すのにはこの程度ではもの足りません。何かあったら言ってください、出来る限り何でもします。」

 ん?今何でもするって言ったよね?……でも俺にはそんな勇気無い、ヘタレだからな。

「いや、こうしてレイさんみたいな美人に付き添い看病してもらえるだけで幸せだよ。」

「……思ってたんですけどチロさんって…。」

 レイが言葉を継ぐのを躊躇するように口ごもる。言って良いのか悪いのか、それを考えるように。そしてやがてその口を開いて…

「……変身魔法とか使えたりします?」

「………え?」

「い、いえ、何となくですが、そちらの中央の国の守護者の方などは貴方について同性愛者と思っているそうですが、私から見て、その、なんと言いますか、…男らしいなと、そう思いまして…。……ご免なさい失礼なことをお聞きしました。」

「そ、それで本当は男で?変身して女になって?ってそう言う事?」

 レイの考えがあまりに核心をついていたため、動揺して反論の声が上ずる。あまりにも怪し過ぎるぞ、俺。ああ、レイちゃんの目付きが鋭くなった。

「……で、実際のところ?その確率は何パーセント位だと思う?」

 その質問の返答に、レイは暫し間を開ける。そしてレイがチロに向ける懐疑の視線がより厳しくなる。


「…………たった今の質問で確信しましたが、…………100パーセントですね。」

 全身から冷や汗が滝のように流れ出る。おい!何やってんだ、俺!!とんでもなくデカイ墓穴掘りやがって、不味い、不味いぞ、これは。て言うか、前にもこんなこと無かったか?西の国で。

「何故ですか?何が目的なんですか?チロさんは恩人ではありますが、理由によってはどうなるかは分かりませんよ。」

 先程まではやさしく、親しくしてくれたレイであったが、今では自分の胸を抱き寄せて、俺に対してはもう不審者を見るような目を向けている。

「ちょっ、ちょま、待て!!誤解だ!!これには深い訳が!!」

 完全に嘘しか感じられない弁明に、レイの視線はさらに厳しいものとなる。だが違う、俺は悪くない。だから俺は弁明する……そう、自分の都合の言いように…。




 ……俺の必死の弁明によりレイの説得にはなんとか成功した。

「……つまり、チロさんは男であったが理由の分からない何らかの現象で女の体になってしまった。自分の性別が曖昧になってしまい、回りの混乱を避けるために女を演じているという訳ですか…。」

 実際のところ間違いはないだろう。只、元の世界、ここではない現実の世界の事は言及しなかった。しても話がややこしくなるだけだろう。

「でも、……それではお風呂の時とかは、やはり私達を性的な目で見てたのですか……?」

「……それはもう男の子ですから………って痛ぁ!!」

 顔を真っ赤にしたレイにポカポカ殴られる。実際は全く痛くない。むしろ何故だろうか、癒される。

「エッチ変態!!死ねバカヤロー!!」

「言い過ぎじゃない!?あとキャラ変わりすぎじゃない!!?」

 顔を真っ赤にして、うー、と唸るレイ。何だ、この可愛い生き物は。

「まあ、俺の事は変なレズビアンだと思ってくれれば良いから。」

「……もう男性にしか見えなくなってしまいました。」

 何てこったい、吉なのか凶なのか、全く分からないが。俺はふと思い付いた質問を投げ掛ける。

「もし、俺を男性として見て、……俺の事をどう思う。」

「変態スケベのバカヤローです。」

「酷くないっ!!?」

 期待してた訳では無いが、あまりにも酷いレイの俺評に肩を落とす。

 そこに北の国の守護者の一人がやって来る。

「チロ様、レイ様。お食事が完成しました。チロ様の体調の方は大丈夫でしょうか。」

「ああ、大丈夫だ。腹も減ってるし、飯も難なく食えそうだ。」

「左様ですか。では食堂まで案内致します。」

 その瀟洒な守護者に続き、部屋を後にしようと所に…

「……ちょっとよろしいですか?」

 そう言って俺の肩を叩き、小声で尋ねてくるレイ。俺は無言で振り向く。

「貴方が、本当は男だと知っているのは私の他に誰かいるんですか?」

「他に………ああ、ナオだな。西の国側近の。」

 西の国側近のナオ。アイツに俺の正体がばれたときは本当に死んだかと思ったね。

 そしてそんな質問をしてきたレイは何故か安堵の表情を浮かべる。

「ナオさんですか、なら大丈夫そうですね。」

「?、どういう事だ?」

「いいえ、何でもありません。それより早く食堂に向かいましょう。」

 レイにそう言われ、先程の守護者の方へ向き直ると、彼女は律儀にそこで待っていた。

「ああ、すまん。食堂に行こうか。」

 俺がそう言うと、瀟洒な守護者は会釈し、再び俺らに背を向けて歩く。そして俺らは彼女の背中を追うのだった。






「……チロさん。貴方は変態スケベのバカヤローです。……ですが……。」

「私を助けてくれた。……ヒーローです。」

 レイのその呟きは誰にも届かず消えていった。

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