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第二章 メモリー&レイルート

俺と彼女の物語。 後編

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 ……時刻は昼時。プールサイドにある出店でお互い向き合いながら昼食を共にしている。…のだが。

「………。」

「…………。」

 両者共に一言も喋らない。とてつもなく気まずい空気が流れている。まあ、それもそうか。あれだけの事があったのだから。

 俺の心臓は未だに高鳴っている。彼女の胸の感触も手に残っていて、緊張、なのかよく分からないような感覚に苛まれる。

 …そしてそんな長い静寂の中、先に口を開いたのは彼女だった。

「……ねぇ、シンイチロー?」

「お、おう!どうした。」

 彼女は頬を赤く染めながら俺に何か尋ねてくる。そんな彼女に俺は明らかに動揺しながら返事する。恐らく俺の顔も赤くなっているだろう。

「…さっきのウォータースライダーの時、シンイチロー……私の事名前で呼んだよね?七海って。」

「そ、そうだっけ?」

 それに関しては全く覚えていなかった。恐らく無意識の内に言っていたのだろう。それに彼女の身体に触れたときの感触が鮮烈に脳に記憶された為に他の些細な事など覚えていない。

「あの時ね、ちょっと嬉しかったんだ、私。…だってシンイチロー私の名前全然呼んでくれないんだもん。」

 彼女の名前。確かに思い返してみれば俺は彼女の名前を呼んだことが無かったかもしれない。いや、呼んでこなかったのだ。…俺は彼女の名前を呼ぶことに対して気恥ずかしさの様なものを感じていたから。

「だからさ、これから私の事は七海って呼んでくれたら嬉しいなーって。」

「…よ、呼ばなきゃ駄目なのか?それは。」

「……シンイチローが呼びたく無いならそれでいいよ。…でも、そうか~私の事はそこまでにしか思ってないのか~残念だな~。」

 悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女。彼女は目の下に手をやって泣いている様なジェスチャーをする。

 俺が彼女を思ってないなんて、そんなことあるはずがない!寧ろその逆だ。俺は彼女を愛しているがゆえに、気恥ずかしさに下の名前で呼ぶことが出来ないのだ。

 でもこれはチャンスだ。彼女との距離を縮める絶好の機会。俺は恥など捨てて、彼女の名を呼ぶのだ!行けっ!神林慎一郎!

「いや、そんなこと無い。俺はお前の事は本当に大切に思ってるよ……七海。」

 ……その名を、呼んだ。…すると彼女は驚いた様な表情になったかと思うと、段々と顔を赤らめていった。

 俺は彼女の反応を不思議に思っていたが、暫くして気付く。彼女の反応の意味に。

 ……さっきの言葉、まるで告白じゃないか。

 そう気付いた瞬間、俺はとてつもない羞恥の感情に襲われて、顔を真っ赤にして慌てふためく。

「い、いや!何でもない!忘れてくれっ!」

 思わずそう言うが、彼女からの反応は無い。またもや静寂が場を支配する。居たたまれない感情を抱くもどうしようもない。そんな中、口を開いたのはまたしても彼女だった。

「……本当なの?さっきの言葉。」

「え?」

 彼女から放たれた言葉、それは予想外の質問だった。

 この話を掘り返してくるとは思わず、俺は変な声を出してしまう。彼女はもう一度、はっきりと俺に問う。

「シンイチローは私を大切に思ってくれている?」

 ……どう答えるべきか、俺は悩んだ。嘘は付きたくなかった。だから選択肢は真実を伝えるか否か。だが速効で俺は決めた。

 本当は夏祭りの時に伝えたかったが、そんな事は大して気にすることでもない。だから俺は今ここで伝える。ありのままの真実を…。

「ああ、俺は七海を大切に思っているし、大好きだ。だから……だからこれからもよろしくな?」

 上手く言葉は纏まらなかったが、思いは伝えられた。彼女は俺のその言葉を聞いて、涙を流して首肯した。

 照りつける太陽、場所はプールサイドの出店。……ムードと言うのには少し欠けるがこれでよかった。

 ……この空のように晴れて俺たちは恋人同士になったのだから。








 夏祭りの季節がやって来た。

 ……というよりかはここ最近はずっと夏なので、祭りの季節はとうに来ている。正しくは祭りの日がやって来た、だ。

 祭り囃子や喧騒に、俺は浮かれてしまっていた。せっかく彼女との初デートなのだ。男の俺がしっかりしなければ。

 彼女が来るのを待つ。……だがこの時の俺は全く予想だにしていなかった。


 ……これから起こる、悲劇の出来事を。





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