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156、イライラ 透side

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口に薬は含めたが水が飲めなくて固まっている。
このままでは苦くなってしまう。
飲み込むのが怖いんだろうけどここは頑張ってもらわなきゃな…

「奏くん、お水飲むよ。」

コップを唇に当てたが硬く閉じた唇は開かない。

はぁ、本当はこんなことしたくないけど、

「奏くん、水を飲みなさい。」

いつもとは違う低い声で命令する。

肩に力が入り目が泳ぐ。
ごめんな、怖いよな。

ガタガタ震えた手でコップを持って口に流し込む。
上手に飲めるよう上から添える。


ゴックン

「飲めたね。偉いね。」

いつもの声で話しかけるが呆然と前を見つめる。
多分今俺が触ったら怖がってしまう。

もし今目が見えていなかったら斗真が触ってもパニックを起こすかもしれない。

「斗真、上着貸して」

斗真が羽織っている服を丸めて奏くんのそっと鼻に当てる。

服に手が伸びる。
受け取った奏くんは服に顔を埋めたまま大きく深呼吸をする。

「とうま…さん…」

「ここにいるよ。奏くん、」
斗真は落ち着いた声で話しかけ手を重ねる。
ゆっくりと斗真を見る目には今にも零れそうな涙が溜まっている。

「おいで、」

両手を広げた胸に勢いよく飛びつく。

肩を震わせて静かに泣く奏くんは斗真の胸に何度も顔を擦り付ける。

多分奏くんは五感の中で嗅覚が一番いいんだろう。
視覚や聴覚、触覚、味覚は今までの環境では感じたくないものだったのだろう。
だからこうやって一番感じる嗅覚で斗真を感じようとしているのか。


「斗真さん…斗真さん……っぅ…」

「どうした?大丈夫、大丈夫、痛いのもうすぐなくなるからね。」

フルフル
「体…おかしくなるの…体が…体が…」

「大丈夫、大丈夫、おかしくならないよ。大丈夫、大丈夫だよ。」

何度もこの会話を繰り返す。

体がおかしくなる。…多分媚薬を飲まされていたのだろう、
こんな幼い子になんて物を飲ませるんだ…
性処理もまともに知らない子にそんなものを飲ませたらトラウマになるのは当たり前だ。
どれだけ辛くて怖かったことか、

はぁ、

ダメだ、なんかイライラしてきた。

「ごめん、ちょっと外の空気吸ってくる。」

「え?お、おん、分かった。」

縁側に腰を下ろす。

気持ちを落ち着かせようと庭に来たがなかなか落ち着かない。
一度感情的になるとなかなか落ち着かない。俺の悪い癖だ…
職場では患者とは一線引いて関わっているからなかなかここまではならないが、斗真の家に来て気が緩んでたのか、それとも距離感が上手く掴めていなかったのか…

どっちにせよ俺がこんなんじゃダメだ。
俺がイライラしたって奏くんの過去が変わるわけでも心の傷が癒えるわけでもない。
今は医師として寄り添うことが俺のやるべき事だ。

大きく深呼吸をしてからリビングに戻る。




「大丈夫か?」

斗真が聞いてきた。
奏くんも落ち着いたのか俺の顔色を伺っている。

「大丈夫だよ。ごめんごめん心配かけた~?」

斗真はともかく、奏くんには心配かけたくなくてわざと明るく返した。
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