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《182》血の王冠
「ノワ様、あの方に、王冠を」
ルイセが囁く。皇帝の頭から外れた王冠が階段から弾け落ちて、ゆっくりと地面を転がり、やがて動きをとめた。
「·····は·····?」
「いいですね?」
拘束が解かれる。
ノワはルイセを蹴り飛ばし、駆け出した。
腰に忍ばせた短検を握る。
相手は長剣だ。懐に入り込めば、攻撃を交わしてとどめを刺すことが出来る。
「"止まれ"」
仮面の奥で、低い声が告げた。
「·····?!」
次の瞬間、身体中に鉛を巻き付けられるような重みが加わった。
息をすることさえ困難だ。
ノワは、その場に立ち竦んだ。
(これは·····!)
生き物のマナに語りかける能力だ。
ありえないはずの現象。マナを操れるのは、この世に唯一1人と決まっている。
これは───聖女の能力の一つだ。
「やれ」
仮面の男が、誰にともなく命じる。
咄嗟に目を閉じるノワだが、悲鳴が上がったのは、貴賓の中からだった。
床に血飛吹がちらばる。
鎧の騎士が切り付けたのは、ノワが見覚えのある男だ。
「貴方が俺に背く度、1人ずつ殺していきます」
仮面の男が告げる。
彼は無造作に片手を上げた。
「とどめを───」
「やめろ!」
ノワの叫び声が、男の命令を遮った。
「·····っはぁ·····っ!」
重圧から解放される。
肺に、新しい空気が流れ込無のと同時に、ノワは倒れ込んだ男の元へ駆け出していた。
「キース!!」
崩れた体を抱きしめる。
「キース、しっかり·····」
溢れ出る鮮血が、ノワの手を赤く染めてゆく。
「ノワくんが、僕の元にかけてきてくれるなんて」
キースの肩口が震える。
彼は、可笑しそうに笑っていた。
「嬉しいよ·····」
「喋っちゃ駄目だ!」
話す度、力んだ胸元から熱い血が吹き出す。
こんな時でさえ冗談を口にするなんて、大馬鹿者だ。
ノワは彼の手を握りしめた。
「あ、あとで、いくらでも、するから!キースのして欲しいこと、全部·····!」
恐ろしいほど鮮やかな色彩だ。傷口を抑えようが関係なく吹き上がる温もりに、頭の中は真っ白だった。
大理石の床に広がる水たまりに、情けない顔が映し出された。
「そう····?」
本当に、と、念を押す声が掠れる。
大粒の汗が浮かんだ顔は、真っ青だ。
「ノワくん·····」
冷たい手がノワの手を包んだ。
「あとでなんて、待てないよ·····今·····」
「·····!」
キースの体から力が抜ける。
体重を支えきれず、二人一緒に床へ転がり込む。
「キース·····?」
微かな呼吸は、浅く、冷たくなっていった。
「いやだ·····」
こぼれ落ちた雫がキラキラと光る。異様なほど眩い輝きが、宙に弾けて消えてゆく。
ノワの意識は暗闇に霞んだ。
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