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《183》反逆
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頭が割れそうに痛い。
目が覚めても、しばらく薄暗い天井を眺めていた。
柔らかなベッドに、体が埋もれている。
見渡すと、そこは豪奢な寝室だった。
体は清潔で、服は新しいものに変わっている。
しかし、血の匂いと濡れた感触は、記憶に新しい。
謎の仮面男と、ルイセ。そして王宮の内部にまで侵入していた反逆者の一味。
『止まれ』
あれは、聖女の能力に間違いない。
(キースや、フィアン様は·····?)
ノワはベッドから飛び起きた。
「安静にしていてください」
不意に、部屋の奥から声が聞こえた。
「聖神力の消耗が大きいはずです」
カーテンの前に、ガタイの良い男が立っていた。
会場の仮面男だ。
「お前·····!」
バランスを崩しベッドから崩れ落ちる。立ち上がろうとするが、身体には力が入らない。
頭上に影が落ちた。
「!」
目の前に、仮面をつけた男がひざまづいた。
近づいた気配は感じられなかった。
「お怪我は·····」
革の手袋をはめた手が差し出される。
「は·····?」
ノワは呆気に取られてから、伸びてきた腕を振り払った。
パシン、と、張り詰めた空気に高い音が響く。
「さ、触るな!」
男はピタリと動きを止めた。
反乱軍の指揮をとり、皇帝を殺した、恐ろしい男。
しかし、先程彼から感じられたのは、こちらを案ずるような態度だ。
何か変だ。
この背格好と声に──やはり覚えがあった。
ノワは恐る恐る手を伸ばす。相手は静かにこちらをまっていた。
合金銅の仮面は、甲高い音を立てて床に落ちた。
ノワは言葉を失った。
赤みの濃い茶髪に、シャープな輪郭。
深緑の瞳は、燃えるような輝きが閉じ込められていた。
「デリック·····?」
それはノワの全身を視線でなぞった。
怪我がないことを確かめ、精悍な顔は、ほっとしたように息を着く。
「はい、ノワくん」
ノワの頭の中は混乱してゆく。
なぜ、彼がここに?
とめどない疑問は、デリックのつぶやきに断ち切られた。
「やっと、2人きりになれましたね」
「は·····?」
「抱き上げたいので、触れることを許していただけますか?ベッドに·····」
「や·····いやだ!」
ノワは尻もちを着いたまま後ずさった。
ベッドの柱に頭をぶつける。デリックは、たちまち心配そうな顔をした。
「来ないで·····近寄らないで!」
震える声を叱咤し、叫ぶ。
「分かりました」
端正な顔立ちが俯く。高い鼻に影が落ちた。
本当に、デリックだ。
「キースは?キースは無事なの?フィアン様は?!」
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