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【24話】寮部屋
しおりを挟む早朝、爽やかな声に引き止められた。
振り返った先に、朝から拝むにしては目に悪い美形。
千秋は軽い立ちくらみを起こす。
ユランのオーラが恐ろしい黒煙だとすれば、目の前の彼が纏っているのはそれと対極するような黄金だ。
「寮の部屋を案内するよ」
どうやら寮室が与えられるらしい。
千秋は礼を言い、彼についていった。
紹介されたのは、階段を上がった右側にある8個目の扉。
「開けてごらん」
ワクワクしながらドアノブを捻る。
扉の先にあったのは、学生にしては立派すぎる一人部屋だった。
千秋の身体には大きすぎるベッドに棚、壁にはクローゼットが取り付けられ、机の上には学校支給の生活雑貨が置いてある。
「部屋にあるものは全て好きに使ってくれて構わないよ。長期休みの時に点検が入って、目立った傷があると修理費用を支払わないといけないから気をつけて」
ウィルの説明を聞きながら、千秋は奥へと進む。もう1つのドアを開けると、洗面台とバスルームがあった。
洗面所の下には、真っ白な大小のバスタオルが収納されていた。
ホテルのような造りだ。感心しながらシャワールームを覗き込んでいた所で、ふと後ろに気配を感じた。
「因みに、」
すぐ後ろから声がする。
「左側の1番奥が俺の部屋だから、何かあったら遠慮なく声掛けて」
いいね?と囁かれた甘い声は、先程より少し甘い。
驚いて振り返りかけると、左肩に手を置かれた。
長い指が肩を撫でてゆく。
「あの、ウィルさん·····」
距離が近い。
謎のドギマギを紛らわそうと「えっと」を繰り返す。
「昨日より、匂いが濃くなってる」
呟かれた言葉に、千秋の頬がカッと頬が熱くなる。
恥ずかしくて惨めで、身体は力を入れていなければ震えてしまいそうだ。
彼の方を振り向けない。
しかし囁かれたのは、予想とは違っていた。
「·····酷い噛み跡だ」
こんなに傷口を広げる必要など無かっただろうに、と、彼が言う。
首元のアザのことだろう。
心配するような言葉は、何故か、辛そうにも聞こえた。
首筋を彷徨う指がこそばゆい。
「ユランに、酷い扱いを受けてるんじゃないの?」
ウィルの質問に、千秋は押し黙った。
初め、彼にユランの事を相談したのは自分からだった。
しかし同情して欲しかったわけでも、心配して欲しかった訳でもない。
話しておいて自分勝手なことだが、彼が辛そうにそう聞く声は、むしろ千秋に罪悪感を植え付けるようだった。
千秋、と、甘い声が名を呼ぶ。
「一人で抱え込もうとしないで」
逞しい腕が腰にまわされる。身体は、彼の胸の中にすっぽりと納まってしまった。
(!?!?)
千秋はパニック寸前だった。
「俺じゃ、頼りないかな?」
(·····?!?!)
耳元に唇が付いてしまいそうだ。
一体何が?
千秋が反対方向に首をかしげると、彼もそれを追うように首を傾けてきた。
"誰も信じるな"
ふと思い出したのは、昨日のジュリオの言葉。
なぜ今それを思い出してしまったのか、千秋自身わからない。
漠然と、不穏な予感がした。戸惑う千秋の耳元へ、ウィルは触れるだけのキスを落とした。
「ひぁっ?」
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