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【90話】積極的な彼
しおりを挟む繋いでいた手に指が滑り込んでゆく。返答を待つ彼の瞳はこちらだけを見つめ、眩しそうにまぶたを細めた。
千秋はあわあわと口を動かした。
聞こえてきたのは、柔らかな笑い声だった。
「もしかして、緊張してる?」
どんなに美しい花も褪せるほどの美形だ。
千秋の頬は軽率に赤らんだ。
「だって」
だって、ともう一度呟いて、千秋はやはり黙ってしまった。
彼は、自分のことを好きだと言った。そんな彼と二人きりで、緊張しない方がおかしい。
「緊張というよりも·····」
ふと、千秋の顔に影が落ちた。
すぐ近くで聞こえた彼の声に、身体が強ばる。
「凄く、意識してるみたいだ」
「·····へっ?」
驚いてウィルを見上げる。
黄金を溶かしたような瞳が、恍惚とこちらを見下ろしていた。
逃げるように顔を背けるが、彼の腕は千秋を閉じ込めるようにして、手すりへ回された。
「???」
距離感がバグっている。
目を瞑ると、まぶたの上に何かがふれる。
あたたかい吐息が肌を撫でた。
「千秋を、前夜祭にエスコートしたい」
「·····?」
先程も聞いた覚えのある単語だ。
千秋はパチリと目を開けた。
「ぜ、前夜祭·····?」
それなら、沢山の生徒がウィルと行きたがっていたはずだ。
「さっきの人達は、いいんですか?」
あれだけ懇願していた人達がいたのに、頼んでもない自分が彼を独り占めする訳にはいかない。
ウィルは少しの間呆気に取られてから、すいと眉をひそめた。
それは、胸が締め付けられる程切ない表情だった。
「俺は千秋と行きたいんだ」
翳りを帯びた眼差しに戸惑う。
初めて見た。
ウィルの、こんなにも純朴な顔は。
「···それとも千秋は、俺と他の誰かが一緒の方がいい?」
「え?違···そうじゃなくて、あの···」
声音は怒っているようにも聞こえる。
千秋は冷や汗が吹き出そうだった。
「ごめんなさい···」
思わず謝る。
彼が気分を悪くするくらいだ。
きっと自分が良くないことを言ってしてしまったに違いない。
「···いや、俺のほうこそごめん」
ウィルが軽く頭を振る。
彼の手が離れてゆく。
置いていかれた手は寂しく感じた。
「君に関しては、余裕が無いんだ」
「え·····っ」
ぱっと彼を振り返り、千秋は慌てて俯く。
喜ぶなんて、お門違いだ。
自分はユランの元にいることを決めた。
あの、と、口を開きかける千秋の声は、先に口火を切ったウィルにかき消されてしまう。
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