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〖9〗予言書
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窓の向こうを真っ白な海猫が飛んでいった。
「どうだった?」
エドワードがグラスを片手に身を乗り出す。
彼の期待を裏切り、リヒトはあっさり首を振った。
「何の変化もない」
一瞬、ナイフを動かしていたクレイの手が止まる。
無表情は普段よりも硬い。
「はぁ~、せめて胸のデカい女にしてくれよ。俺、無駄打ちとか嫌なんだけど」
エドワードが大袈裟なため息をつくが、それに返答するものはいない。
場の空気は重苦しかった。
「一度で効果があるのかも分からない。適任が俺以外の場合もあるし、または·····」
口火を切ったリヒトは1度言葉を切る。
金のまつ毛は軽くふせられた。
エルは選ばれし者を幻の財宝へ導く案内人だ。
その能力は、エルと選ばれし者が契りを交わした時、初めて発揮されるという。
予言書の通りなら、『契り』とは性交を指す。
しかし、エルは男だ。
「妊娠薬を手に入れる必要がありそうだ」
北の魔術師のみが調合出来る妙薬だ。
服用してから24時間以内に交わえば、男でも子を成すことが可能である。
「1年も待つのかよ」
エドワードが顔をしかめる。
妊娠薬の服用は、17歳以上でなければ効果を成さない。
「最終手段だ。準備しなければいけないことも山積みだからな」
「んじゃ、そん時は順番にマワして、誰の餓鬼が産まれてくるか賭けようぜ」
ただヤるだけじゃつまんねえし、と、エドワードが嗤う。
「くだらない」
クレイがぼそりと呟く。止まっていた手は、黙々と食事を再開した。
「·····で、あいつは?」
じっと話を聞いていたリアムが瞳の端でリヒトを見やる。
「例の部屋に閉じ込めてある」
「じゃあ、次は俺ね」
エドワードが下唇を舐める。
「リアム」
リヒトは確認するように名前を呼んだ。
彼らの間には暗黙の力関係があった。
最年長であり、前ディアゼルの長の息子、リヒト。そして次に実力ではリヒトに劣らない戦闘能力を持つリアム。
二人は幼少期を共にしてきた仲だ。
エドワードとクレイは、時折、彼らの間に入ることが出来なかった。
「勝手にしろよ」
リアムは興味が無さげに顔を背けた。
力関係すら気にしていない様子だ。
そしてこんな姿を見る度、ある人物が劣等感を刺激されていることを、彼は知り得ない。
「·····じゃ、決まりだな」
エドワードは苛立ちを噛み締め、リヒトの投げた鍵を受け取った。
「おい」
リアムがエドワードへ視線を投げる。
「酷くするな」
それは予想外な釘だった。
彼の忠告を、エドワードは鼻先で笑った。
「おいおい、どういう風の吹き回しだよ。あーいうのがタイプだったのか?」
彼が他人のことを気にかけるなど珍しい。
何らかの興味があるのだろうか?もしくは、海賊らしくもなく不憫に思ったとか?下らないが、腹いせにリアムの気分を害してやろう。
そんな魂胆を持って、紫の瞳はいやらしく歪む。
「妊娠薬なんてなくても、孕んでるように見えるまで、あいつの腹に注ぎ込んでやるよ」
「使い物にならなくなったらお終いだ。そんなことも分かんねえのか?」
果たして、相手は面倒そうに口を開いた。
冷めた瞳には蔑視の色がこもっている。
明らかな侮辱だ。
「な·····っ!」
「騒ぐな」
リヒトがエドワードを戒める。
「·····クソが」
エドワードは誰にともなく吐き捨てた。
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