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〖63〗かけっこ
しおりを挟む青年の手を引いたまま、シオンは廊下の先を駆け出した。
「───こ、降参する!頼む、命だけは·····!」
対戦のブザーが鳴ってすぐ、男は両手を震わせながら跪いた。
1人目の対戦相手は手に持った武器を両手ごともいでやった。2人目は威勢が良かったので、少し遊んでから両眼をくり抜き四肢を折ってやった。
このトーナメント戦には裏審査がある。
残酷な殺し方をすればするほど追加ポイントが溜まり、対戦回数をスキップすることが可能だ。
「妻と2人で旅をしていて、たまたまこの国に立ち寄っただけなんだ!こんなイカれた戦いに参加する気なんて、これっぽっちも無かったんだ!」
男が必死に命乞いをする。
視界の端に、妻と思しき女が両手で格子を握りしめ、なにやら狂ったように叫んでいる。
市民権をかけたバトルの参加募集期間中にやってきた旅人は、女と14以下の子供を抜き全員が闘いに強制参加となる。
拒否した場合は一生を奴隷として働かされる決まりだ。
「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!!!」
観戦者たちのコールは、コロシアムの天井高くまで昇ってゆく。
「·····。」
褐色の若者は、腰のホルスターから短剣を取り出す。
こうなったのは全てこの男自身の過ちだ。
「どうかお願いします!妻の腹に、赤ん坊が·····───」
必死に声を上げていた男の喉から、ぐえ、と、獣のような呻き声が上がった。
妻の慟哭は周りの歓声にかき消される。
弱い者は狩られ、何一つ守ることは出来ない。
自然の摂理であり、恨むのならば、無力な自分自身を恨むのが道理だ。
頬に飛び散った血液を軽く拭う。
試合終了のブザーを背に、男はフィールドを後にした。
「はぁ、はぁ、は、はぁ·····」
不規則に左右を曲がり進んでいたシオンは、スタート地点から遠い北練でやっと立ち止まった。
万が一、先程の男たちに小細工がバレて捕まりでもしたら、何をされるか知れたものはない。
絶え絶えな呼吸を繰り返しながら、シオンは後ろの青年を振り返った。
助けてくれと言われた訳でもないのに、こんな所まで連れてきてしまった。
こちらにならって立ち止まった彼は、しかし無機質な建物のように動かない。
「あの·····」
遠慮がちに声をかけてみる。
相手がこっちを見下ろす。うつろな視線と裏腹に、輝くルビーレッドに吸い込まれそうになる。
彼の視線は、続いておもむろに俯かれた。視線の先には繋いだままの手があった。
シオンはぱっと手を離した。
血色のない肌と唇。
感情も、人間らしい体温も感じない。この青年からは何も感じとれない。
まさに機械のような青年だ。
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