169 / 217
〖166〗剃り合わない双子
しおりを挟む誘ったとか何とかという話だろうか。
よく分からないし、とにかく今は、特にバレンが嫌いだ。
シオンは知らないフリをした。
「あ、ちょっと、エル~」
「お食事を持ってきました」
テイラーが手に持っていたのは、食器を乗せたトレイだった。
スープにライ麦パン、3種類のハムに、カラフルな付け合せ。手のひらサイズのボールには、昨夜気に入った木の実がたっぷり入っている。
囚われ人に与えるにしては、豪華すぎる料理だった。
「なんでこんなことするんですか」
「こんなこと?」
テイラーが聞き返してくる。
「こんな·····」
こんなに良くしてもらう理由がわからない。
懐柔しようとか、思ってるんだろうか。
けれど様子を見るに、そんな面倒なことをする必要も無いはずだ。
真新しいシャツを肩にかけられる。
テイラーはベットの端に腰掛け、長い足を組んだ。
「ボスの命令です。不自由はさせません。望むものを、望んだ時に差し上げるのが私たちの役目です」
「そうそう、だから俺は、てっきり"あっち"をお望みなのかと思って」
「黙っていろと言ったはずだが?」
またもや口を挟んだバレンはテイラーに釘を刺される。
相変わらず減らず口で、調子が良い。
昨日面食らった顔をしていたのが、嘘みたいだ。
(じゃあ、テイラーやバレンは·····)
シオンはそっと彼を見つめ返す。
目が合うと、テイラーは少し嬉しそうに微笑んだ。
「下心や目的はありません。私たちを恨んでいても、信用しなくても良いのです。ですから·····」
「いや、俺にはありますよ、下ごこr」
「せめて遠慮せず、お望みの事があらば仰ってください」
もはや、双子のかたわれの方はいないものとして話を続けられる。
バイオレットの瞳が、瞬きの度にきらめく。
うっとりしてしまいそうな輝きだった。
·····ぐー。
静かな部屋に、間抜けな音が鳴る。
シオンは慌てて腹を抑えた。
腹の虫は、追い打ちをかけるように、ぐぅぅ、と、空腹を訴える。
「ごゆっくり」
テイラーはそれを最後に部屋を出ていってしまった。
取り残されたのは、暖かな食事と、自分と、そして二人きりにはなりたくなかった男。
彼がいたら、ごゆっくりできない。叫びたいところだが、ここには既に彼と自分しかいない。
スプーンを手に取り、スープを啜る。
こちらが食事する様子を、バレンはにこにこしながら眺めていた。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる