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〖173〗ようこそ
しおりを挟む「お部屋まで行きましたのに」
伸びてきた影が言う。
横に立ったのはテイラーだった。
これは驚いた。彼も一緒に攫われてきたのだろうか。
「ここ、どこ?」
「リアス湾とフォラン大陸の東西、シア島の東·····からは随分離れていますが、強いて言うならその辺りに位置する海上です。海名はありません。 満潮で海に沈むくらいの無人島が散らばっていますね」
そんなことを聞いてるんじゃない。
目が覚めたら見たことも無い船内にいて、白い制服を着た船員たちが皆自分を腫れ物扱いするのだ。
どういう状況かを説明して欲しい。
シオンは不満げにテイラーを見上げた。
「海賊船は?ジェ····他の人たちは?」
無意識に呼びかけた人物の名前を飲み込む。
「まず私たちは、今から海賊ではなくなります」
返ってきたのは、なかなか理解し難い台詞だった。
無意識に顔を顰めていたらしい。
目が合うと、彼はふっと鼻先で笑った。
「まず、着替えましょうか」
─────────────
「あ」
ボタンのかけ違えがひどい、大きすぎるシャツ。
股の間には丁度涼しい風が通り過ぎていった。
裸同然の格好だ。
「小さな島国が見えるでしょう」
肩に手を回してきたテイラーが正面を見据える。
シオンは彼にならい、海の向こうに視線をやった。
散らばった陸地の真ん中に、その中では大きな島があった。
国と言うには緑が多く、建物はあまり無いようにも見える。
「できるだけ小さいサイズの服を」
テイラーはそばにいた船員へ耳打ちし、
「ヨナ島です」
シオンが島を見つけたのを確認し、そっと背中を押してきた。
聞いたことのない島だ。
そして残念なことに、彼は攫われたというよりも、ここの船員達に顎で指示できるような立ち位置らしい。
シオンは彼に促されるまま、さっきとは違う部屋へ連れられた。
広い執務室だった。
そんなことより、海賊ではなくなるとは。
まさか心を入れ替えて足を洗うとか?
冗談じゃない。
悪いことなんて何もしてないのに、彼らの連れとして今度は牢屋に囚われてしまうなんてあんまりだ。
神様は自分を恨んでいるのだろうか。
うんうん唸っていると、間もなくして扉を叩く音が響いた。
テイラーはやってきた全員から服を受け取ると、それをこちらへ差し出しながらニッコリ微笑んだ。
「イディオム・カンパニーへようこそ、エル」
「はい?」
与えられたのはベージュのシャツとハーフパンツ。胸元のバッヂは、テイラーのベストに付けられたのと似ているが、比べると少し安っぽかった。
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