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〖174〗謎の会社
しおりを挟む「西の国では有名な製薬会社です。まあ、ご存知なくても仕方ありませんが」
彼はシオンを追い越すと、部屋の中央奥の机によりかかる。
机に、金の縁が美しい石版が立てかけられている。
CとEとOだけが大文字だ。もちろん見慣れない単語なんて読めないから、シオンは首を傾げた。
「ひとつずつ説明しましょう」
こちらの言わんとすることを察してくれたらしい。
彼は長い指をすいと立ち上げた。
「この貨物船はヨナ島に向かっています。島民の間で流行りだした病の薬品譲渡のためです」
「譲渡?」
「ええ」
テイラーが頷く。
「譲渡·····と言っても、もちろん条件はありますが」
ヨナ島は、長らく他国との関係を絶っていた閉鎖的な島国。原始的な国だが、自然豊かで伝統を重んじるヨナ民族の間で、現在、謎の病が流行っているという。
そんな中、近辺の離島でボランティア活動をしているイディオムファーマシーが、ヨナ島に立ち寄った。
イディオムはヨナでの現状を知り、ある条件と引き換えに薬を支援する提案を出したのだ。
「目当ては、ヨナ島の核宝です」
3つの国のどこかにあるという、不思議な力を持った宝。
シオンはオルトンでの出来事を思い出した。
透明な水晶が破壊されるのと共に、オルトンは海の底へ崩落した。
「ヨナ島を、滅ぼすの」
「まさか」
テイラーはため息混じりに首を振った。
「お宝はそっと頂戴して、大切に保管します。傷をつけるなんてもってのほかですよ」
丁寧な言葉だが、ふと垣間見えたのは怒気だ。
ロミオの行いは、彼らにとって相当痛手だったらしい。
しかし結局盗むんなら、詳しくは「海賊という素性を隠して製薬会社のフリをする」と言えばいいのに、ややこしい。
やっぱり悪人は死ぬまで悪人だ。
「詐欺師」
呟くと、宙に浮いていた青紫の目がこちらを捕える。
思わずギクリと体を強ばらせる。
細い瞳孔が、なんだか不気味だ。
「少し前に流行したルンゲ症ですが、その治療薬を開発したのがイディオムです。最近では海上の船乗りたちの間で問題視されていた壊血病を錠剤で防ぐことに成功しました」
「カイケ·····???」
ところどころ聞き取れなかったが、つまり、本当に実在する製薬会社で、実績もあるということだろうか。
テイラーが寄りかかっていた机から腰を離す。数メートル離れているのに、背が高いせいで、妙な威圧感がある。
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