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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を育てる
2.シロの母
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「そうか。ルーフは先代の魔王に仕えていたのか。今は何をやって暮らしている?」
ユーロンも酒を一口飲み尋ねた。
「適当さ。城で働いていた頃の蓄えがあるから金には困ってねぇな。それに金が欲しけりゃギルドに行くし、博打で稼ぐ時もある。酒飲んで、旨いもん食って、適当な奴とヤって寝る。そんだけ」
ヘラヘラと答えるルーフを見て、ユーロンは長いため息をついた。
「…本当に適当な生活だな。正直、お前にこのままシロを預けていいのか心配になる」
「じゃあお前が納得できる環境に連れて行けばいいさ。俺はシロと暮らしてもいいって言ってるだけで、暮らしたいわけじゃない」
自分の生き方を干渉されたくないルーフは少しうんざりした顔で答えた。シロと暮すことに問題はないが、その事について他人から干渉されるようになったらめんどくさい。
「そんな事言うな。シロがお前と暮らしたいと望んでいるんだから。それにあの子は本当に帰る場所がないんだ」
ユーロンは困ったように頭をガシガシと掻いた。
「…シロの事を告発した奴は?少なくともそいつはシロの事、心配してんじゃねぇの?」
「はは、まるで告発者が誰か知っているような言い方だ」
「知らねぇけど…、なんとなく察しは付く。竜人は自分の子供を命に代えてでも守るって聞いたことがあるからな。告発者はシロの親じゃないのか?」
「…ああ。シロの母親であるフレア・ローハンだ」
「そいつはシロを引き取らないのか?」
「まあな。実は3日前、ゲイルの今後の処遇を話すためローハン邸を訪ねたんだ。フレアは泣きながらシロの事を話してくれたよ」
ユーロンは少し辛そうな顔をして話だした。
「彼女も長い間ゲイルの歪な思想の元で虐げられて生きてきたんだ。かなり前から精神を病んでしまっていたそうだ。
10年前、孤独だった彼女に手を差し伸べたのは、当時ローハン家の使用人でシロの父親でもある『カイト』という竜人だったらしい。フレアの妊娠をゲイルが知った翌日にカイトは姿を消したそうだ。逃げ出したのか、ゲイルに消されたのか、今だに分かっていない。
それからフレアは今まで以上に孤独な環境になってしまって、さらに自分の心に閉じこもってしまったんだ。生まれたばかりの我が子を守る余裕も無かったんだろう。…だが、今回シロが屋敷からいなくなったとメイドから聞いて、カイトと同じようにゲイルに消されてしまったんじゃないかと怖くなったらしい」
「ふーん。それで聖騎士団に告発したのか」
ユーロンは頷き、フレアとの会話を思い出す。
使用人は全員いなくなり、静まり返ったローハン邸の客室にやせ細った体のフレアが出迎えてくれた。
「…あの子は無事でしたか?」
消え入りそうな小さな声でフレアは聞いた。声にも顔にも覇気がない。まるで人形と話しているようだとユーロンは思った。
「ああ。ゲイルにやられたケガもすっかり治っていたよ」
「…そう」
ユーロンの答えにフレアの口元が少し緩んだ。表情が乏しい彼女だが、きっと安心したんだろう。ユーロンはシロの話を続けた。
「オオカミ魔族のルーフという男に助けられて、今もそいつの世話になっている。『シロ』と呼ばれていた。…貴方の息子で間違いないな?」
「ええ、黒髪に赤い瞳の竜人なんてあの子ぐらいしかいませんよ。でもあの子に名前はありませんでした。
…『シロ』ね。ふふ、可愛らしい名前で呼ばれてるのね。子供の名前は親が最初に贈るプレゼントなんて聞いた事があるけど、私はそれさえしてあげられませんでした。父を恐れるあまり、あの子を一度も抱きしめる事も触れる事もせずに手放してしまった…。私はあの子の顔さえ覚えていません。本当に最低な母親です。いえ、母親なんていえる資格もない…」
フレアが震えながら俯くと、握りしめた手の甲にポタリと大きな雫が落ちた。
「フレア、貴方は育児放棄の罪で裁判にかけられるだろう。ただ貴方もゲイルの被害者だ。おそらく情状酌量で投獄されることはないだろう。…シロに会って謝罪しないか?これからは親子で一緒に暮らせるかもしれないぞ。」
「…あの子を見捨てた私に今更会う資格なんてないんですよ。それに謝罪をしたところで私があの子にしてしまった仕打ちは許されません。謝罪は私の罪悪感を減らすだけの行為になってしまう。…それに私はあの子の姿を見ると『呪われた竜』と思ってしまうんです。」
「そんなもの大昔の差別的な迷信だ。」
ユーロンがすぐに否定したが、フレアは力無く笑った。
「分かっています。頭では分かってるのに、どうしても心のどこかで『呪われた竜』として見てしまうんです。やっぱり私にも父の思想が根付いてるんです。こんな最低な私があの子と一緒に暮らせると思いますか?」
フレアの光を映さない瞳に見つめられ、ユーロンは何も言えず俯いた。
「分かった。確かにシロにとって貴方と暮らすより、ルーフと暮らした方が幸せなのかもしれない。もちろん騎士団もシロのサポートをしていく。だからシロの事は心配するな。」
ユーロンはそれだけ言ってローハン邸を去った。
ユーロンも酒を一口飲み尋ねた。
「適当さ。城で働いていた頃の蓄えがあるから金には困ってねぇな。それに金が欲しけりゃギルドに行くし、博打で稼ぐ時もある。酒飲んで、旨いもん食って、適当な奴とヤって寝る。そんだけ」
ヘラヘラと答えるルーフを見て、ユーロンは長いため息をついた。
「…本当に適当な生活だな。正直、お前にこのままシロを預けていいのか心配になる」
「じゃあお前が納得できる環境に連れて行けばいいさ。俺はシロと暮らしてもいいって言ってるだけで、暮らしたいわけじゃない」
自分の生き方を干渉されたくないルーフは少しうんざりした顔で答えた。シロと暮すことに問題はないが、その事について他人から干渉されるようになったらめんどくさい。
「そんな事言うな。シロがお前と暮らしたいと望んでいるんだから。それにあの子は本当に帰る場所がないんだ」
ユーロンは困ったように頭をガシガシと掻いた。
「…シロの事を告発した奴は?少なくともそいつはシロの事、心配してんじゃねぇの?」
「はは、まるで告発者が誰か知っているような言い方だ」
「知らねぇけど…、なんとなく察しは付く。竜人は自分の子供を命に代えてでも守るって聞いたことがあるからな。告発者はシロの親じゃないのか?」
「…ああ。シロの母親であるフレア・ローハンだ」
「そいつはシロを引き取らないのか?」
「まあな。実は3日前、ゲイルの今後の処遇を話すためローハン邸を訪ねたんだ。フレアは泣きながらシロの事を話してくれたよ」
ユーロンは少し辛そうな顔をして話だした。
「彼女も長い間ゲイルの歪な思想の元で虐げられて生きてきたんだ。かなり前から精神を病んでしまっていたそうだ。
10年前、孤独だった彼女に手を差し伸べたのは、当時ローハン家の使用人でシロの父親でもある『カイト』という竜人だったらしい。フレアの妊娠をゲイルが知った翌日にカイトは姿を消したそうだ。逃げ出したのか、ゲイルに消されたのか、今だに分かっていない。
それからフレアは今まで以上に孤独な環境になってしまって、さらに自分の心に閉じこもってしまったんだ。生まれたばかりの我が子を守る余裕も無かったんだろう。…だが、今回シロが屋敷からいなくなったとメイドから聞いて、カイトと同じようにゲイルに消されてしまったんじゃないかと怖くなったらしい」
「ふーん。それで聖騎士団に告発したのか」
ユーロンは頷き、フレアとの会話を思い出す。
使用人は全員いなくなり、静まり返ったローハン邸の客室にやせ細った体のフレアが出迎えてくれた。
「…あの子は無事でしたか?」
消え入りそうな小さな声でフレアは聞いた。声にも顔にも覇気がない。まるで人形と話しているようだとユーロンは思った。
「ああ。ゲイルにやられたケガもすっかり治っていたよ」
「…そう」
ユーロンの答えにフレアの口元が少し緩んだ。表情が乏しい彼女だが、きっと安心したんだろう。ユーロンはシロの話を続けた。
「オオカミ魔族のルーフという男に助けられて、今もそいつの世話になっている。『シロ』と呼ばれていた。…貴方の息子で間違いないな?」
「ええ、黒髪に赤い瞳の竜人なんてあの子ぐらいしかいませんよ。でもあの子に名前はありませんでした。
…『シロ』ね。ふふ、可愛らしい名前で呼ばれてるのね。子供の名前は親が最初に贈るプレゼントなんて聞いた事があるけど、私はそれさえしてあげられませんでした。父を恐れるあまり、あの子を一度も抱きしめる事も触れる事もせずに手放してしまった…。私はあの子の顔さえ覚えていません。本当に最低な母親です。いえ、母親なんていえる資格もない…」
フレアが震えながら俯くと、握りしめた手の甲にポタリと大きな雫が落ちた。
「フレア、貴方は育児放棄の罪で裁判にかけられるだろう。ただ貴方もゲイルの被害者だ。おそらく情状酌量で投獄されることはないだろう。…シロに会って謝罪しないか?これからは親子で一緒に暮らせるかもしれないぞ。」
「…あの子を見捨てた私に今更会う資格なんてないんですよ。それに謝罪をしたところで私があの子にしてしまった仕打ちは許されません。謝罪は私の罪悪感を減らすだけの行為になってしまう。…それに私はあの子の姿を見ると『呪われた竜』と思ってしまうんです。」
「そんなもの大昔の差別的な迷信だ。」
ユーロンがすぐに否定したが、フレアは力無く笑った。
「分かっています。頭では分かってるのに、どうしても心のどこかで『呪われた竜』として見てしまうんです。やっぱり私にも父の思想が根付いてるんです。こんな最低な私があの子と一緒に暮らせると思いますか?」
フレアの光を映さない瞳に見つめられ、ユーロンは何も言えず俯いた。
「分かった。確かにシロにとって貴方と暮らすより、ルーフと暮らした方が幸せなのかもしれない。もちろん騎士団もシロのサポートをしていく。だからシロの事は心配するな。」
ユーロンはそれだけ言ってローハン邸を去った。
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