20 / 21
12月31日(日)午後0時
しおりを挟む
なんちゃっておせち作りにも区切りを打って、キッチンを旦那に明け渡す。どうしても作っておきたいものは一通り済んだし、どうせ、お互いの実家を行き来して適当に摘むから、今のところは自分たちの食べたいものと、作りやすいものさえ作ってしまえば、それでいい。
義実家の味は義姉さんが受け継いでるし、実家の方で受け継ぐべきレシピはせいぜいお雑煮ぐらい。どうしても食べたかった時に、記憶を辿って作れたこともある。どうしてもというものがあれば、牧人の奥さん、桃子さんに頑張ってもらおう。
康徳さんの手で、主に子供向けのカレーが作られていく。お昼を済ませたら、あとは明日のお雑煮用の準備と、夜のお蕎麦が段取りできれば十分。午後は子供たちを連れ出して外へ行ってもらうし、時間ができれば年内最後のお絵かきまでやれればベストではある。
「明日は何時着だっけ?」
康徳さんはルーを鍋に割り入れ、お玉でかき混ぜながら言った。私はスマホを取り出して、母とのやりとりを確認する。
「えーっと、お昼前ならOKだって」
「お昼前、か。泊まれるなら今晩行っちゃう方が楽な気もするけど、それはダメなんだよね?」
私が頷くと、彼は「そっかー」と言いながら、鍋の様子を見て火を点けた。だんだん、カレーの匂いが強まってくる。
「布団が足りないんだって」
「じゃあ、仕方ないか」
私は彼の動きに合わせて、食器とご飯を用意しようとする。彼は「あー、いいよ。ゆっくり座ってて」と私に食卓へ座っているように勧めた。
「朝から動きっぱなしだろう? 昼ご飯ぐらい、僕に任せて」
彼はカレーが焦げ付かないようにかき混ぜながら、ご飯や食器の準備を進める。娘たちのスプーンも並べ、ドリンクも用意した。匂いに誘われた娘たちが、準備がバッチリ整った食卓へやって来る。
私は二人を連れて、洗面所へ移動した。彼女らと手をしっかり洗い、食卓に戻る。康徳さんは、私たちが戻って来るタイミングに合わせて、配膳を終えた。娘たちを椅子に座らせ、「いただきます」と食事を開始する。
今日のカレーも、いつも通りにちゃんと美味しい。明日明後日とおせちに飽きても、このカレーが待っているのは心強い。
「明日の朝からだと、めちゃくちゃ混みそうだよね」
康徳さんはカレーを口に運びながら言った。道路状況は確かに、彼のいう通りだろう。とはいえ、今日もすでにそれなりに混雑しているとも聞く。
「思い切って電車、も混むよね。多分」
私はそれにも頷いた。頑張って電車で行ったとしても、恩恵はほとんど受けられない。行きも帰りも手間が増えるだけ。だったら、飲めないドライバーさんには申し訳ないけど、渋滞を覚悟で車を選んだ方が賢明な気がする。
「めちゃくちゃ早い時間に出発して、どこかで時間調整する?」
康徳さんは、「二人が寝ている間に車に乗せてさ」と付け加えた。
「早くって、何時ぐらい?」
「六時じゃあんまり変わらない気がするから、五時とか?」
五時か。早めに寝れば無理な時間ではない。ただ、そんな早くに出たとして、時間調整するような場所があったっけ?
「一応、ダメ元で聞いてみるね」
私はそう言いながらスマホを取り出して、母にメッセージを送ってみた。カレーを食べている間に、「早くても大丈夫だよ」と返事が来た。
「お父さんが起きているから、来てくれても大丈夫、だって」
康徳さんは「そっか、そっか」と頷いた。父も老いたとは言ってたけど、もうそんな調子だったとは。私は、「じゃあ、そのつもりでよろしく」と母に返信した。
(完)
義実家の味は義姉さんが受け継いでるし、実家の方で受け継ぐべきレシピはせいぜいお雑煮ぐらい。どうしても食べたかった時に、記憶を辿って作れたこともある。どうしてもというものがあれば、牧人の奥さん、桃子さんに頑張ってもらおう。
康徳さんの手で、主に子供向けのカレーが作られていく。お昼を済ませたら、あとは明日のお雑煮用の準備と、夜のお蕎麦が段取りできれば十分。午後は子供たちを連れ出して外へ行ってもらうし、時間ができれば年内最後のお絵かきまでやれればベストではある。
「明日は何時着だっけ?」
康徳さんはルーを鍋に割り入れ、お玉でかき混ぜながら言った。私はスマホを取り出して、母とのやりとりを確認する。
「えーっと、お昼前ならOKだって」
「お昼前、か。泊まれるなら今晩行っちゃう方が楽な気もするけど、それはダメなんだよね?」
私が頷くと、彼は「そっかー」と言いながら、鍋の様子を見て火を点けた。だんだん、カレーの匂いが強まってくる。
「布団が足りないんだって」
「じゃあ、仕方ないか」
私は彼の動きに合わせて、食器とご飯を用意しようとする。彼は「あー、いいよ。ゆっくり座ってて」と私に食卓へ座っているように勧めた。
「朝から動きっぱなしだろう? 昼ご飯ぐらい、僕に任せて」
彼はカレーが焦げ付かないようにかき混ぜながら、ご飯や食器の準備を進める。娘たちのスプーンも並べ、ドリンクも用意した。匂いに誘われた娘たちが、準備がバッチリ整った食卓へやって来る。
私は二人を連れて、洗面所へ移動した。彼女らと手をしっかり洗い、食卓に戻る。康徳さんは、私たちが戻って来るタイミングに合わせて、配膳を終えた。娘たちを椅子に座らせ、「いただきます」と食事を開始する。
今日のカレーも、いつも通りにちゃんと美味しい。明日明後日とおせちに飽きても、このカレーが待っているのは心強い。
「明日の朝からだと、めちゃくちゃ混みそうだよね」
康徳さんはカレーを口に運びながら言った。道路状況は確かに、彼のいう通りだろう。とはいえ、今日もすでにそれなりに混雑しているとも聞く。
「思い切って電車、も混むよね。多分」
私はそれにも頷いた。頑張って電車で行ったとしても、恩恵はほとんど受けられない。行きも帰りも手間が増えるだけ。だったら、飲めないドライバーさんには申し訳ないけど、渋滞を覚悟で車を選んだ方が賢明な気がする。
「めちゃくちゃ早い時間に出発して、どこかで時間調整する?」
康徳さんは、「二人が寝ている間に車に乗せてさ」と付け加えた。
「早くって、何時ぐらい?」
「六時じゃあんまり変わらない気がするから、五時とか?」
五時か。早めに寝れば無理な時間ではない。ただ、そんな早くに出たとして、時間調整するような場所があったっけ?
「一応、ダメ元で聞いてみるね」
私はそう言いながらスマホを取り出して、母にメッセージを送ってみた。カレーを食べている間に、「早くても大丈夫だよ」と返事が来た。
「お父さんが起きているから、来てくれても大丈夫、だって」
康徳さんは「そっか、そっか」と頷いた。父も老いたとは言ってたけど、もうそんな調子だったとは。私は、「じゃあ、そのつもりでよろしく」と母に返信した。
(完)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる