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そして彼女はいなくなった
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第一客室の掃除を終え、第二客室へと向かう途中、あるものを見つけました。鹿の絵が真ん中に書かれたネックレス。確かこれはご主人様が、よく働いたメイドに与える、といって作ったものでした。残念ながら、私はまだ貰えていません。
……あれ、でもおかしいです。メイド長以外にこれを与えられた人はいない気がします。彼女は常にこれを身につけていますし、そもそも第二客室付近へ来るとは思えません。では、ご主人様が落としたのでしょうか。それもないでしょう。ご主人様は基本的に、書斎と食堂以外はほとんど来ないですから。
とにかく、これは一度使用人室へと届けるべきです。第二客室の掃除は後回し。ご主人様から与えられたネックレスを落とすなんて、とんでもないメイドがいたものです。もしかして、ノラさん? いつの間に貰っていたんでしょうか。私の方がしっかりと仕事をしているのに。
● ● ●
やっぱりボロボロの箒じゃダメだった。掃く度に毛が抜けて、ゴミがどんどん増えていく。この時間なら、メイド長は掃除を終えているだろう。一度使用人室に戻って、メイド長から箒を借りよう。
屋敷に戻り、使用人室のドアを開けた。けれどメイド長はいなかった。チェスの間の掃除なんて、三十分もかからないと思うけどなぁ。
私は仕方なく、ロッカーからお財布を取り出した。新しい箒を買いに行こう。急いで行けば一時間で戻って来られるから、お庭掃除はそれからだ。
……それにしても。なんか屋敷が変な雰囲気になっているのは、気のせいかな。
● ● ●
食堂の掃除をしていると、ペピタがやってきた。あたりをキョロキョロしてるけど、何か探し物かな?
「ペピタ、どしたの?」
「ノラちゃん。あの、箒を探してるんだけど」
箒? もしかして、昨日拾った箒のことだろうか。エイダのロッカーが空だったから、なくしたのかと思って入れておいたけど、どうやらペピタのだったらしい。
「物置の近くに落ちてたやつなら、エイダのロッカーに入れといたよ」
別に変なことを言ったつもりはないけど、ペピタは、何言ってんの、みたいな顔で私を見てきた。
「エイダ、さん? 誰ですか?」
「え?」
今度は私が、何言ってんの、みたいな顔になっていただろう。実際、何言ってるのか分からないし。
「エイダだよ、エイダ。怖がりで、オレンジジュースが好きで、おっぱいがこれくらいの」
手で小さい丘を作る。が、ピンとこないどころか首を傾げられてしまった。ペピタってば、散々お世話になっといてそりゃないよ。
「ごめん、分からないよ」
「……まぁいいや。とにかく、一番左のロッカーに入ってるからね」
ペピタは頷くと、食堂から出て行った。変なの。まるでエイダをいないもの扱いしてるみたいだった。いないもの、いないもの。
……あ、そういえば、あの子に人魂の噂をしたのは私だっけ。人魂を見た人はどこかへ連れてかれちゃうんだぞ~、ってね。怖がりだから本気にしちゃって、可愛かったなぁ。
でも、確かメリッサも見たとか言ってた。あっちは嘘をつきそうなタイプじゃないんだけど。毎日毎日ご主人のことばっかり考えてるから、変になっちゃったのかな?
ま、後でシータちゃんに聞けばいっか。さて、仕事仕事。
● ● ●
ノラちゃんに言われて、私は使用人室へ向かいました。一番左のロッカーって言ってたけど、そこは使われてなかったはずです。
ドアを開けると、メリッサさんがいました。
「お、おはようございます」
私はメリッサさんと話すと緊張してしまうので、さっさとロッカーを確認して戻ろうと思いました。ですが、メリッサさんは私を呼び止めてきました。
「ペピタ、ちょっと話があります。このネックレスに見覚えはありませんか」
メリッサさんが手に持っているのは鹿のネックレス。ご主人様から与えられる、一流メイドの証です。勤めてから一ヶ月ですが、当然、見たことはあります。メイド長がいつもつけていますから。
「えっと、鹿の、ですよね?」
「それを聞いているんじゃありません。メイド長以外にこれを与えられた人についてです」
確かに、メイド長があれを手放すなんて考えられません。あの口ぶりから、メリッサさんのものでもないです。となるとエマさんかノラちゃんですが、どちらも貰ったという話は聞いていません。
「分かりません。エマさんやノラちゃんは貰ってないと思います」
「……そうですか。もう結構です」
話が終わったので、ロッカーを確認します。一番左のロッカーには……ありました。箒は全て同じデザインですが、微妙な傷のつき方などで私のだと分かります。ああ、よかった。早速エマさんのお手伝いに行こう。
と思ったら、またメリッサさんに呼び止められました。
「待ちなさい。そのロッカーは使われていなかったはずです。なぜそこに箒があるのですか」
「えと、確かノラちゃんが間違えて入れたと言っていました」
「誰と? 何を間違えたのですか?」
なんだか、今日のメリッサさんはいつも以上に怖いです。でも、質問に答えないとメリッサさんはもっともっと怖くなります。
「ノラちゃんは、エイダさん? という方の箒と勘違いしたと言っていた気がします」
「エイダ? そんな人は働いていなかったはずですが」
「はい。だから変だなぁと思います」
なんか口調がヘンテコになってしまいました。メリッサさんはぶつぶつと考え事を始めています。私はそっと使用人室を抜けると、お庭へと駆けました。
● ● ●
おかしい。おかしいおかしいおかしい。
ふと窓を見たとき、庭にボロボロの箒がありました。今日の庭掃除の担当は誰かと思い、ポケットから担当表を確認したのです。しかし、誰もいない。おかしいです。今まで四人で屋敷の掃除を回していたのでしょうか。
ノラはサボりぐせが酷いし、ペピタはまだまだ不慣れなところが多い。メリッサは素晴らしいメイドだが、我が強すぎるところに問題あり。私も細かいミスは年に数回あり、完璧なメイドとは言い切れない。
こんな四人で、本当に今までやってきたのでしょうか。あと二人ほどいなければ、難しい気がします。ロッカーの件といい、担当不足といい、何かおかしなことが起こっているのでは……。
……あれ、でもおかしいです。メイド長以外にこれを与えられた人はいない気がします。彼女は常にこれを身につけていますし、そもそも第二客室付近へ来るとは思えません。では、ご主人様が落としたのでしょうか。それもないでしょう。ご主人様は基本的に、書斎と食堂以外はほとんど来ないですから。
とにかく、これは一度使用人室へと届けるべきです。第二客室の掃除は後回し。ご主人様から与えられたネックレスを落とすなんて、とんでもないメイドがいたものです。もしかして、ノラさん? いつの間に貰っていたんでしょうか。私の方がしっかりと仕事をしているのに。
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やっぱりボロボロの箒じゃダメだった。掃く度に毛が抜けて、ゴミがどんどん増えていく。この時間なら、メイド長は掃除を終えているだろう。一度使用人室に戻って、メイド長から箒を借りよう。
屋敷に戻り、使用人室のドアを開けた。けれどメイド長はいなかった。チェスの間の掃除なんて、三十分もかからないと思うけどなぁ。
私は仕方なく、ロッカーからお財布を取り出した。新しい箒を買いに行こう。急いで行けば一時間で戻って来られるから、お庭掃除はそれからだ。
……それにしても。なんか屋敷が変な雰囲気になっているのは、気のせいかな。
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食堂の掃除をしていると、ペピタがやってきた。あたりをキョロキョロしてるけど、何か探し物かな?
「ペピタ、どしたの?」
「ノラちゃん。あの、箒を探してるんだけど」
箒? もしかして、昨日拾った箒のことだろうか。エイダのロッカーが空だったから、なくしたのかと思って入れておいたけど、どうやらペピタのだったらしい。
「物置の近くに落ちてたやつなら、エイダのロッカーに入れといたよ」
別に変なことを言ったつもりはないけど、ペピタは、何言ってんの、みたいな顔で私を見てきた。
「エイダ、さん? 誰ですか?」
「え?」
今度は私が、何言ってんの、みたいな顔になっていただろう。実際、何言ってるのか分からないし。
「エイダだよ、エイダ。怖がりで、オレンジジュースが好きで、おっぱいがこれくらいの」
手で小さい丘を作る。が、ピンとこないどころか首を傾げられてしまった。ペピタってば、散々お世話になっといてそりゃないよ。
「ごめん、分からないよ」
「……まぁいいや。とにかく、一番左のロッカーに入ってるからね」
ペピタは頷くと、食堂から出て行った。変なの。まるでエイダをいないもの扱いしてるみたいだった。いないもの、いないもの。
……あ、そういえば、あの子に人魂の噂をしたのは私だっけ。人魂を見た人はどこかへ連れてかれちゃうんだぞ~、ってね。怖がりだから本気にしちゃって、可愛かったなぁ。
でも、確かメリッサも見たとか言ってた。あっちは嘘をつきそうなタイプじゃないんだけど。毎日毎日ご主人のことばっかり考えてるから、変になっちゃったのかな?
ま、後でシータちゃんに聞けばいっか。さて、仕事仕事。
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ノラちゃんに言われて、私は使用人室へ向かいました。一番左のロッカーって言ってたけど、そこは使われてなかったはずです。
ドアを開けると、メリッサさんがいました。
「お、おはようございます」
私はメリッサさんと話すと緊張してしまうので、さっさとロッカーを確認して戻ろうと思いました。ですが、メリッサさんは私を呼び止めてきました。
「ペピタ、ちょっと話があります。このネックレスに見覚えはありませんか」
メリッサさんが手に持っているのは鹿のネックレス。ご主人様から与えられる、一流メイドの証です。勤めてから一ヶ月ですが、当然、見たことはあります。メイド長がいつもつけていますから。
「えっと、鹿の、ですよね?」
「それを聞いているんじゃありません。メイド長以外にこれを与えられた人についてです」
確かに、メイド長があれを手放すなんて考えられません。あの口ぶりから、メリッサさんのものでもないです。となるとエマさんかノラちゃんですが、どちらも貰ったという話は聞いていません。
「分かりません。エマさんやノラちゃんは貰ってないと思います」
「……そうですか。もう結構です」
話が終わったので、ロッカーを確認します。一番左のロッカーには……ありました。箒は全て同じデザインですが、微妙な傷のつき方などで私のだと分かります。ああ、よかった。早速エマさんのお手伝いに行こう。
と思ったら、またメリッサさんに呼び止められました。
「待ちなさい。そのロッカーは使われていなかったはずです。なぜそこに箒があるのですか」
「えと、確かノラちゃんが間違えて入れたと言っていました」
「誰と? 何を間違えたのですか?」
なんだか、今日のメリッサさんはいつも以上に怖いです。でも、質問に答えないとメリッサさんはもっともっと怖くなります。
「ノラちゃんは、エイダさん? という方の箒と勘違いしたと言っていた気がします」
「エイダ? そんな人は働いていなかったはずですが」
「はい。だから変だなぁと思います」
なんか口調がヘンテコになってしまいました。メリッサさんはぶつぶつと考え事を始めています。私はそっと使用人室を抜けると、お庭へと駆けました。
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おかしい。おかしいおかしいおかしい。
ふと窓を見たとき、庭にボロボロの箒がありました。今日の庭掃除の担当は誰かと思い、ポケットから担当表を確認したのです。しかし、誰もいない。おかしいです。今まで四人で屋敷の掃除を回していたのでしょうか。
ノラはサボりぐせが酷いし、ペピタはまだまだ不慣れなところが多い。メリッサは素晴らしいメイドだが、我が強すぎるところに問題あり。私も細かいミスは年に数回あり、完璧なメイドとは言い切れない。
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