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7.フォックスの怒り
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いつもより随分と低い声でそう聞いてきた。なぜ、そんなことを言い出したのだろうか。俺は自分の鼓動が早くなっていくことに気づいた。そしてあっと、気がついた。あの羽根の音。大きな音ではなかった。小さな鳥だろう。そうまるで……
「ウッドペッカー……?」
丁度フォックスの横に立っているウッドペッカーに目をやると、今までに見たことのないくらいの無表情から、スッと薄ら笑いを浮かべた。こいつ、何か企んでいる。
「答えろよッ! ウッドペッカーが見てきたんだよ」
フォックスは俺に一気に近寄ってきて胸ぐらをつかんだ。黄金の瞳が、いつになく大きく見開かれている。こんなフォックスは見たことがない。これはかなり、まずい。
「フォックス、落ち着いて」
「落ち着いていられるわけねえだろ! お前は俺のもんなんだ! 他の誰にも渡さない」
そう言うとフォックスは空いている手で自分の尻尾をこすると先端に炎が灯った。動物で唯一、自分の体から炎を発生させることのできる『キツネの火』だ。フォックスは森の端に住み、この『キツネの火』を使って生活している。そんな火を灯して、どうするのだろうか。とてつもなく嫌な予感がする。
「何する気だ」
「オークツリーさえいなくなればいいんだ。あんな化け物の木なんて燃やしてしまえばいい」
「ば、馬鹿なことを言うな! あの木を燃やしてしまったら、森全体が燃えてしまう」
隣にいたウッドペッカーは驚いているようだ。
「クロウをあいつに盗られる前に、こっちからしかける。俺はもうクロウがいるならそれでいい」
黄金の瞳はこんなに濁っていただろうか。いつからこんなにフォックスは狂ってしまったのだろうか。それもこれも、原因は俺なのだろうか。
そう考えているうちにふと思った。このままではオークツリーは燃やされ、この不思議な力を蓄えた森も焼けてしまう。ここに住むみんなが死んでしまうかもしれない。アウルやラーク、リンクス。そしてたくさんの仲間達がいなくなってしまう。何よりオークツリーが、いなくなってしまう。それはどうしても嫌だ。この世界が、オークツリーがなくならずに済む方法はただ、一つ。
「……フォックス。俺がお前と一緒にいるようにするから、それだけはやめてくれ」
小さく呟いたその言葉に、胸ぐらをつかんでいた手をフォックスは緩めた。
「何だよ、初めから、そう言ってくれたら、いいのに」
灯っていた尻尾の灯りが消える。それを見て俺は安堵した。フォックスも肩を揺らしながら、息を整えている。ウッドペッカーは青い顔をしてこちらを見ていた。オークツリー、ごめん。でも俺が、お前を守るから。
その日から俺はオークツリーに会いに行かなくなった。フォックスは安心したのか、あれ以降、強引なことはしなくなった。森のはずれの住まいで二人で暮らす、それだけでいいんだと呟いたときのフォックスはもう落ち着いていた。翼を触りながら、いつもの細い目で笑うフォックス。俺の心はフォックスに向いてないことが分かっているだろうに、そばに居て楽しいのだろうか。抜けた羽根を一枚手に取り、クルクルと回す。以前はオークツリーのベッドでこの羽根を同じ様にして眺めていたっけ。ジワ、と目が潤みそうになって俺はグッと堪えた。
森の上を遠くから見下ろした先にオークツリーの枝が揺れているのを見たことがあった。オークツリーはきっと心配してくれているだろう。でもいまそこに逃げてしまったらフォックスは次こそ容赦しない。俺が小さくため息をつき、立ちあがろうとしたとき、フォックスは突然目を開いた。
「どうした?」
「誰か来る」
「ウッドペッカー……?」
丁度フォックスの横に立っているウッドペッカーに目をやると、今までに見たことのないくらいの無表情から、スッと薄ら笑いを浮かべた。こいつ、何か企んでいる。
「答えろよッ! ウッドペッカーが見てきたんだよ」
フォックスは俺に一気に近寄ってきて胸ぐらをつかんだ。黄金の瞳が、いつになく大きく見開かれている。こんなフォックスは見たことがない。これはかなり、まずい。
「フォックス、落ち着いて」
「落ち着いていられるわけねえだろ! お前は俺のもんなんだ! 他の誰にも渡さない」
そう言うとフォックスは空いている手で自分の尻尾をこすると先端に炎が灯った。動物で唯一、自分の体から炎を発生させることのできる『キツネの火』だ。フォックスは森の端に住み、この『キツネの火』を使って生活している。そんな火を灯して、どうするのだろうか。とてつもなく嫌な予感がする。
「何する気だ」
「オークツリーさえいなくなればいいんだ。あんな化け物の木なんて燃やしてしまえばいい」
「ば、馬鹿なことを言うな! あの木を燃やしてしまったら、森全体が燃えてしまう」
隣にいたウッドペッカーは驚いているようだ。
「クロウをあいつに盗られる前に、こっちからしかける。俺はもうクロウがいるならそれでいい」
黄金の瞳はこんなに濁っていただろうか。いつからこんなにフォックスは狂ってしまったのだろうか。それもこれも、原因は俺なのだろうか。
そう考えているうちにふと思った。このままではオークツリーは燃やされ、この不思議な力を蓄えた森も焼けてしまう。ここに住むみんなが死んでしまうかもしれない。アウルやラーク、リンクス。そしてたくさんの仲間達がいなくなってしまう。何よりオークツリーが、いなくなってしまう。それはどうしても嫌だ。この世界が、オークツリーがなくならずに済む方法はただ、一つ。
「……フォックス。俺がお前と一緒にいるようにするから、それだけはやめてくれ」
小さく呟いたその言葉に、胸ぐらをつかんでいた手をフォックスは緩めた。
「何だよ、初めから、そう言ってくれたら、いいのに」
灯っていた尻尾の灯りが消える。それを見て俺は安堵した。フォックスも肩を揺らしながら、息を整えている。ウッドペッカーは青い顔をしてこちらを見ていた。オークツリー、ごめん。でも俺が、お前を守るから。
その日から俺はオークツリーに会いに行かなくなった。フォックスは安心したのか、あれ以降、強引なことはしなくなった。森のはずれの住まいで二人で暮らす、それだけでいいんだと呟いたときのフォックスはもう落ち着いていた。翼を触りながら、いつもの細い目で笑うフォックス。俺の心はフォックスに向いてないことが分かっているだろうに、そばに居て楽しいのだろうか。抜けた羽根を一枚手に取り、クルクルと回す。以前はオークツリーのベッドでこの羽根を同じ様にして眺めていたっけ。ジワ、と目が潤みそうになって俺はグッと堪えた。
森の上を遠くから見下ろした先にオークツリーの枝が揺れているのを見たことがあった。オークツリーはきっと心配してくれているだろう。でもいまそこに逃げてしまったらフォックスは次こそ容赦しない。俺が小さくため息をつき、立ちあがろうとしたとき、フォックスは突然目を開いた。
「どうした?」
「誰か来る」
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