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天使は甘いキスが好き
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「あぁえぇと。あれだ、男の子で伊吹みたいに、二番目に産まれた次男や三番目に産まれた三男ってのが、たまにだが女の人の家に入って、苗字が変わる。例えば【山田】ならお婿に入って【川崎】になるとかな。女の子は男の人の花嫁になって、【川崎】から【山田】になるって感じだ。でもそのまま【山田】が養子に入らないで、【山田】のまま結婚するのが、どちらかってえと多いかな。後は役所に訊け」
伊吹は衝撃を受けて、固まった。伊吹は困って恵の背中に額を押し当てる。
ーーーぼくはおとこのこだから、【よめ】をもらうの? でもえいじくんはぼくを【よめ】にもらうって、やくそくしたし……このまま【ようし】ってのになったら、ぼくえいじくんの【よめ】? でもでもぼくおとこのこだし?
伊吹の頭の中は見事にエンドレス状態。小さな頭を抱えてうんうん唸る。その頃英治も仲良くひとり、エンドレスに嵌っていた。
「解ったか?」
伊吹は慌てて首を縦には振った。
ーーーぼくはおとこのこ、おチンチンついてるもんっ。
お父さんみたいな、りっぱな象さんじゃないけれど。
「それはわかった…」
伊吹は英治がなんで自分を【嫁に】と望んだのかが疑問だった。恵は克幸の顔を思い出して、心の中で拳骨を喰らわせる。実際遣ったら大変だ。お縄になりたくない。恵は小さく舌打ちした。
「……伊吹…兄ちゃんの事好きか?」
伊吹は訊かれておや? と思う。今日の恵はどこか可笑しい。
「え? だいすきだよ? あたりまえじゃん」
『大好き』の言葉に恵は復活モードに入った。
「そうか~?」
恵はうんうんとほくそ笑みながら、思う。ブラコンと云われ様が、知った事ではない。そんなのはほっとけ、云わせとけ。だが、伊吹の次の葉に気分が急降下する事となる。
「あとね、はなちゃんでしょう? なつみちゃんに? さくらせんせいにえんちょうせんせいに…」
ーーー伊吹は天然だ、天然。ってか世間知らず…。
「…伊吹君。もう良いです。君の気持ちは良く解りました。お兄ちゃんはその他大勢のひとりなのね」
シクシクと泣き真似をしながら、自転車のペダルを漕ぎ続ける。
「ところでにいちゃん」
「今度はなんだ?」
「ブラコンてなに?」
「……ほっとけ」
恵の頭の中では、ブラコンの四文字がエンドレス状態。しかも、頭の中で伊吹が【ブラコン・ヘンタイ】が書かれたプラカードを手に持っている姿が描かれていた。
夜の病棟は何処も消灯時間が過ぎ、唯一の灯りは緊急病棟出入り口と薬局窓口、ナースステーションのみである。
「せんせいにもほめられたんだよ? それおかあさんにあげるの!」
「良く描けているわね。ありがとう、伊吹」
優しい微笑を浮かべながら、伊吹の頭を撫でる。寂しい想いをさせている、小さな我が子に申し訳なさが胸を過ぎる。伊吹は照れ臭げに腰掛けたパイプ椅子の上で、身を捩った。その反対側で、恵が本日の洗濯物を紙袋に詰めている。かおるは腰に枕を当てて、楽な姿勢で上半身を起こしていた。背中の中程まである茶色い髪は、昼間姑の十和子がみつ編みに結ってくれた。かおるは自分に面影の似た二人を見て、大きなお腹を擦る。
「恵も伊吹もありがとうね。おばあちゃんの云う事、ちゃんと聞くのよ?」
「俺は大丈夫。只、伊吹はお母さんの作るご飯が食べたいって、昨日泣いてたんだぜ?」
恵は伊吹を意地悪気ににやりと笑う。そんな恵を伊吹は、顔を紅くしながら見上げた。内緒にしたかった事が、ばらされたと憤慨する。
「ないてないもんっピーマンのにくづめ、きらいっていっただけだもん」
頬を蛙の頬のように膨らませると、かおるの膝の上に攀じ登った。
「あ、こら、伊吹」
慌てて恵が伊吹を抱き下ろそうとしたが、かおるは首を横に振った。六人部屋の病室は、各々寛いで過ごしている。伊吹は隣のベッドに眠る、女性の腕に繋がれた点滴を見ると、ゾクリとして眼を逸らした。先日受けた予防接種を思い出したのだ。あれは痛かった。すご~く痛かった。
「伊吹は赤ちゃんだな」
伊吹の紅い頬を突く。伊吹は嫌々をしながら、かおるに抱き付いて離れない。 伊吹は恵にべ~と可愛い舌を出して見せると、かおるを見詰めた。昨日より顔色が良い様だ。丈夫ではないかおるの身体が心配で、毎日の見舞いに来ては、かおるの顔色を窺う様になっていた。
「おかあさん、いつおうちにかえってくるの?」
「そうねぇ。赤ちゃんが産まれるまでまだ、一か月半はあるから、そのあとね?」
ふ~ん。と、伊吹は云うとかおるのお腹を擦る。
「あかちゃんはやくでておいでね?」
伊吹はかおるのお腹にキスをする。恵は眉根を寄せて伊吹を見遣った。
伊吹は衝撃を受けて、固まった。伊吹は困って恵の背中に額を押し当てる。
ーーーぼくはおとこのこだから、【よめ】をもらうの? でもえいじくんはぼくを【よめ】にもらうって、やくそくしたし……このまま【ようし】ってのになったら、ぼくえいじくんの【よめ】? でもでもぼくおとこのこだし?
伊吹の頭の中は見事にエンドレス状態。小さな頭を抱えてうんうん唸る。その頃英治も仲良くひとり、エンドレスに嵌っていた。
「解ったか?」
伊吹は慌てて首を縦には振った。
ーーーぼくはおとこのこ、おチンチンついてるもんっ。
お父さんみたいな、りっぱな象さんじゃないけれど。
「それはわかった…」
伊吹は英治がなんで自分を【嫁に】と望んだのかが疑問だった。恵は克幸の顔を思い出して、心の中で拳骨を喰らわせる。実際遣ったら大変だ。お縄になりたくない。恵は小さく舌打ちした。
「……伊吹…兄ちゃんの事好きか?」
伊吹は訊かれておや? と思う。今日の恵はどこか可笑しい。
「え? だいすきだよ? あたりまえじゃん」
『大好き』の言葉に恵は復活モードに入った。
「そうか~?」
恵はうんうんとほくそ笑みながら、思う。ブラコンと云われ様が、知った事ではない。そんなのはほっとけ、云わせとけ。だが、伊吹の次の葉に気分が急降下する事となる。
「あとね、はなちゃんでしょう? なつみちゃんに? さくらせんせいにえんちょうせんせいに…」
ーーー伊吹は天然だ、天然。ってか世間知らず…。
「…伊吹君。もう良いです。君の気持ちは良く解りました。お兄ちゃんはその他大勢のひとりなのね」
シクシクと泣き真似をしながら、自転車のペダルを漕ぎ続ける。
「ところでにいちゃん」
「今度はなんだ?」
「ブラコンてなに?」
「……ほっとけ」
恵の頭の中では、ブラコンの四文字がエンドレス状態。しかも、頭の中で伊吹が【ブラコン・ヘンタイ】が書かれたプラカードを手に持っている姿が描かれていた。
夜の病棟は何処も消灯時間が過ぎ、唯一の灯りは緊急病棟出入り口と薬局窓口、ナースステーションのみである。
「せんせいにもほめられたんだよ? それおかあさんにあげるの!」
「良く描けているわね。ありがとう、伊吹」
優しい微笑を浮かべながら、伊吹の頭を撫でる。寂しい想いをさせている、小さな我が子に申し訳なさが胸を過ぎる。伊吹は照れ臭げに腰掛けたパイプ椅子の上で、身を捩った。その反対側で、恵が本日の洗濯物を紙袋に詰めている。かおるは腰に枕を当てて、楽な姿勢で上半身を起こしていた。背中の中程まである茶色い髪は、昼間姑の十和子がみつ編みに結ってくれた。かおるは自分に面影の似た二人を見て、大きなお腹を擦る。
「恵も伊吹もありがとうね。おばあちゃんの云う事、ちゃんと聞くのよ?」
「俺は大丈夫。只、伊吹はお母さんの作るご飯が食べたいって、昨日泣いてたんだぜ?」
恵は伊吹を意地悪気ににやりと笑う。そんな恵を伊吹は、顔を紅くしながら見上げた。内緒にしたかった事が、ばらされたと憤慨する。
「ないてないもんっピーマンのにくづめ、きらいっていっただけだもん」
頬を蛙の頬のように膨らませると、かおるの膝の上に攀じ登った。
「あ、こら、伊吹」
慌てて恵が伊吹を抱き下ろそうとしたが、かおるは首を横に振った。六人部屋の病室は、各々寛いで過ごしている。伊吹は隣のベッドに眠る、女性の腕に繋がれた点滴を見ると、ゾクリとして眼を逸らした。先日受けた予防接種を思い出したのだ。あれは痛かった。すご~く痛かった。
「伊吹は赤ちゃんだな」
伊吹の紅い頬を突く。伊吹は嫌々をしながら、かおるに抱き付いて離れない。 伊吹は恵にべ~と可愛い舌を出して見せると、かおるを見詰めた。昨日より顔色が良い様だ。丈夫ではないかおるの身体が心配で、毎日の見舞いに来ては、かおるの顔色を窺う様になっていた。
「おかあさん、いつおうちにかえってくるの?」
「そうねぇ。赤ちゃんが産まれるまでまだ、一か月半はあるから、そのあとね?」
ふ~ん。と、伊吹は云うとかおるのお腹を擦る。
「あかちゃんはやくでておいでね?」
伊吹はかおるのお腹にキスをする。恵は眉根を寄せて伊吹を見遣った。
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