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天使は甘いキスが好き
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英治は一瞬何の事かと固まる。そして恵の横でジャンバーを着る伊吹。そのジャンバーは、今流行のヒーロー物のキャラクターがプリントされた、男物だ。女の子はけっしてそんなキャラクター物は着ない。残念ながら。
どうだまいっかと恵は高笑い。
ーーーざまあ見ろ。
「おとこ?」
ーーーおとこ? オトコ? これが?
まるで恵に小悪魔な尻尾が生えた様だ。恵は英治の狼狽ににたりと笑う。爽快だ。非常に気分が良い。
「解ったら、伊吹に今後近付くなよ!」
ーーー帰ったら消毒だ消毒っ。
ビシッと指を英治に向けて、それを見た伊吹はぺしっとその手を叩いた。
「ひとにゆびをむけちゃダメなんだぞ? おかあさんにおこられるからな?」
うっと恵は顔を顰める。痛い所を点かれた。恵は母親のかおるに弱い。泣き虫で気が強い。その性格は、恵も伊吹もしっかりかおるから受け継いだ。恵は黙って伊吹の手を掴むと、外へと促す。
貴重な母親の面会時間が削られるのだ。こんな事などしてられるかと、本来の遣るべき事を思い出した。
「いぶき」
伊吹は我に返った英治に呼ばれて振り返る。伊吹が男でも今は構わないと、この時英治は純粋に感じたのだ。
「やくそく、まもれよな」
英治は胸の鼓動が収まらない。もっと一緒に居たかった。初めての気持ちに、英治は戸惑うが云わずにはいられなかった。伊吹は頬を染めて頷く。
「…うん。バイバイ、またあしたね」
恵はハタと、脚を止める。訝しげに英治を振り返る。嫌な予感は何故か良く当たるのだ。
「何の約束だ?」
英治を見据える恵を気にも留めず、伊吹は暢気にえ~とと小首を傾げた。
「う~んとね、よめになれといわれたの! ところでけいにいちゃん【よめ】ってなに?」
その台詞に恵も英治も驚愕した。恵の怒りが増える。
ーーー嫁だぁ!?
英治は英治で、伊吹の疑問に呆気に取られ、溜息。
ーーーやっぱりいみ、わかってなかったのか。
それを聞いた恵は、完璧に頭に血が上った様子で英治を振り、今度こそ英治を小馬鹿にした様に、フッと笑った。が、眼は笑ってなどいない。
「やい、そこのクソガキ野郎、日本じゃ認められない法律ってぇもんがあるんだよ。で、お前に親切に教えてやる。そこのガキんちょ、耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ! 伊吹は男。お前も男だ、残念だったな」
ケッと悪態を吐くと、今度こそ伊吹を連れて教室から出た。高笑いをしながら立ち去る恵と、手を引かれる伊吹を見送りながら、英治は自分の唇を指で触れてみた。息吹の暖かな唇の感触がまだ残っている。
「さぎだ、おんなじゃない? かわいかったぞ? キスしちまったぞ?」
伊吹の優しい笑顔を思い出して、ポッと胸が熱くなる。やっぱり男でも可愛い! まるで天使が降りて来た。なのに…。
オトコ、オトコ、オトコ………エンドレス。
恵の悪態に伊吹はムッとしたままだ。
「けいにいちゃんことばがわるいぞ。おかあさんにまたおこられるからね?」
ママチャリの補助シートに乗せられた伊吹は、バンバンと恵の細い背中を叩く。夜空をチラと見上げれば、英治と見て綺麗だと思った丸い月は、白い雲に隠れて、銀色に鈍く光っている。
「煩い。もうあんな奴には近付くなっ」
伊吹は納得が行かないと、恵の背中を睨む。
ーーーそりゃあ、チュウされたけど。
伊吹は思い出してまた紅くなる。
「どうして? せっかくおともだちになったし、おじさんともなかよくするって、やくそくしたもん。やくそくはまもるためにあるんだろう? にいちゃんよくぼくにいうじゃないか!」
うっと恵は言葉に詰まる。 確かに云った。何度もいくどとなく。のほほん親父に代わって自分がしっかりせねばと、伊吹が産まれた時から神様に誓った。が、しかし、あれは(キス)は許せない。
「当たり前だ! 俺の可愛い弟にキスなんかしやがって! 伊吹は男だぞ、お婿に行けなくなったらどうしてくれるんだ?」
恵の開き直りに、伊吹は呆気に取られ、そうだと思い出す。
伊吹はキョトンとして、恵の背中のコートを引っ張る。
「けいにいちゃんにしつもんです」
「なんだ?」
「よめとおむことなにがちがうの?」
どうだまいっかと恵は高笑い。
ーーーざまあ見ろ。
「おとこ?」
ーーーおとこ? オトコ? これが?
まるで恵に小悪魔な尻尾が生えた様だ。恵は英治の狼狽ににたりと笑う。爽快だ。非常に気分が良い。
「解ったら、伊吹に今後近付くなよ!」
ーーー帰ったら消毒だ消毒っ。
ビシッと指を英治に向けて、それを見た伊吹はぺしっとその手を叩いた。
「ひとにゆびをむけちゃダメなんだぞ? おかあさんにおこられるからな?」
うっと恵は顔を顰める。痛い所を点かれた。恵は母親のかおるに弱い。泣き虫で気が強い。その性格は、恵も伊吹もしっかりかおるから受け継いだ。恵は黙って伊吹の手を掴むと、外へと促す。
貴重な母親の面会時間が削られるのだ。こんな事などしてられるかと、本来の遣るべき事を思い出した。
「いぶき」
伊吹は我に返った英治に呼ばれて振り返る。伊吹が男でも今は構わないと、この時英治は純粋に感じたのだ。
「やくそく、まもれよな」
英治は胸の鼓動が収まらない。もっと一緒に居たかった。初めての気持ちに、英治は戸惑うが云わずにはいられなかった。伊吹は頬を染めて頷く。
「…うん。バイバイ、またあしたね」
恵はハタと、脚を止める。訝しげに英治を振り返る。嫌な予感は何故か良く当たるのだ。
「何の約束だ?」
英治を見据える恵を気にも留めず、伊吹は暢気にえ~とと小首を傾げた。
「う~んとね、よめになれといわれたの! ところでけいにいちゃん【よめ】ってなに?」
その台詞に恵も英治も驚愕した。恵の怒りが増える。
ーーー嫁だぁ!?
英治は英治で、伊吹の疑問に呆気に取られ、溜息。
ーーーやっぱりいみ、わかってなかったのか。
それを聞いた恵は、完璧に頭に血が上った様子で英治を振り、今度こそ英治を小馬鹿にした様に、フッと笑った。が、眼は笑ってなどいない。
「やい、そこのクソガキ野郎、日本じゃ認められない法律ってぇもんがあるんだよ。で、お前に親切に教えてやる。そこのガキんちょ、耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ! 伊吹は男。お前も男だ、残念だったな」
ケッと悪態を吐くと、今度こそ伊吹を連れて教室から出た。高笑いをしながら立ち去る恵と、手を引かれる伊吹を見送りながら、英治は自分の唇を指で触れてみた。息吹の暖かな唇の感触がまだ残っている。
「さぎだ、おんなじゃない? かわいかったぞ? キスしちまったぞ?」
伊吹の優しい笑顔を思い出して、ポッと胸が熱くなる。やっぱり男でも可愛い! まるで天使が降りて来た。なのに…。
オトコ、オトコ、オトコ………エンドレス。
恵の悪態に伊吹はムッとしたままだ。
「けいにいちゃんことばがわるいぞ。おかあさんにまたおこられるからね?」
ママチャリの補助シートに乗せられた伊吹は、バンバンと恵の細い背中を叩く。夜空をチラと見上げれば、英治と見て綺麗だと思った丸い月は、白い雲に隠れて、銀色に鈍く光っている。
「煩い。もうあんな奴には近付くなっ」
伊吹は納得が行かないと、恵の背中を睨む。
ーーーそりゃあ、チュウされたけど。
伊吹は思い出してまた紅くなる。
「どうして? せっかくおともだちになったし、おじさんともなかよくするって、やくそくしたもん。やくそくはまもるためにあるんだろう? にいちゃんよくぼくにいうじゃないか!」
うっと恵は言葉に詰まる。 確かに云った。何度もいくどとなく。のほほん親父に代わって自分がしっかりせねばと、伊吹が産まれた時から神様に誓った。が、しかし、あれは(キス)は許せない。
「当たり前だ! 俺の可愛い弟にキスなんかしやがって! 伊吹は男だぞ、お婿に行けなくなったらどうしてくれるんだ?」
恵の開き直りに、伊吹は呆気に取られ、そうだと思い出す。
伊吹はキョトンとして、恵の背中のコートを引っ張る。
「けいにいちゃんにしつもんです」
「なんだ?」
「よめとおむことなにがちがうの?」
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