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天使は甘いキスが好き
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「…なんですか? 俺、これから勉強なんですけど」
「そんなのうちらが教えてあげるよ。それも愉しいお勉強」
ーーーなんの勉強だって?
恵は厭きれてシカトを決め込もうとする。
「お兄ちゃん達、と~っても優しいからさ。どっかでお勉強しようよ」
「そうそう。俺ら男もイケる口なの。お小遣いあげるしさぁ」
ーーーヘンタイかよ。
「俺、間に合ってるんで」
恵が云う。が、左隣の男が恵の腰を軽々と抱き起こした。
「な、何するんだよ!?」
「軽いなぁ、そこらの女より可愛いし。泣き声も色っぽいんじゃねぇ?」
今度は右隣の男が恵の顎を掴んで自分の方へ向ける。
「柔らかそうな唇だな。あっちはまっさら?」
恵はカッと頬を染めた。
「紅くなってんの可愛いじゃん。じゃ、俺らがお初? 優しくするよ?」
「このっ」
恵は暴れて逃れようとするが、力は向こうが上だ。リノリウムの床をつま先で足掻きながら、不意に銀縁眼鏡の男が居た席に、視線を廻らす。男は居なかった。周りの人達はこちらを見ているが、誰も助け様とはしてくれない。触らぬ神に祟り無しと、決め込んだらしい。所詮世の中そんな物だ。
ーーー誰か助けろっ!
「いいかげんにしろよ?」
後方から第三者声に、恵と男二人が振り返る。
「っ!」
恵は涙で濡れた双眸を見開いた。いつの間にか、銀縁眼鏡の男が後方に立っていたのだ。
「なんだ? てめぇ」
「ここは図書館。皆の迷惑になるって、お母さんに教わらなかった?」
男二人がカッと顔を真っ赤にする。
「うるせえっ!」
「邪魔なんだよ!」
恵を抱き締めていなかった方の男が、銀縁眼鏡の男に殴り掛かる。
「おっと」
難なく殴り掛かった男の拳を避けると、出口に親指を向ける。
「警察に通報したけど、このまま殴り合う? こう見えて実は俺、空手五段なんだよね。それにそっちから仕掛けて来たのは、此処に居るお客さん達が見ていから、正当防衛が立証されるし」
男には咄嗟に周りを見渡す。図書館内に訪れた客がざっと、五十人以上。
「おい、やばいよ」
「ちっ」
二人は場が悪いと漸く気付いたのか、恵を離して急いで逃げて行った。恵はストンとパイプ椅子に座ると、心臓を押さえた。ドクドクして、恵は助けてくれた銀縁眼鏡の男を見上げる。周りから拍手が鳴った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。君、最近この図書館利用するの?」
「はい」
「そうなんだ。最近見掛けるから。その制服懐かしいな。俺の母校だよ」
「え? そうなんですか?」
恵は緊張が取れて、漸くホッとする。近付きがたい印象だったが、そうではないらしい。
「これからは気を付けると良いよ? ああいう類は調子に乗ると、大きな事件を起こすからね」
「…はい。あの名前訊いて良いですか? 細細川恵っていいます」
「恵君か。綺麗な名前だね。俺は南川龍之介。今大学で教育学部を専攻してるんだよ」
「教師を目指しているんですか? 教育学部かぁ。南川先輩凄いです」
「はは。そうでも無いよ。もう必死。それじゃ」
龍之介は再び元居た席に戻ると、再び勉強をし始めた。恵は龍之介の後姿を眺めながら、もっと話がしたいなと思った。
ーーーかっこいいよなぁ。背も高いし。
不意に太一と同じ背丈位だと気付いたが、恵は顔をプルプルと横に振った。
ーーーなで比べるんだか…。
恵は疲れたとぐったりして、テーブルに突っ伏した。鞄の中に入れていた携帯が振動して、恵は目覚める。疲れてあのまま眠ったらしい。携帯はマナーモードにしているので、振動が鳴ったのだ。鞄から取り出した携帯は平片からで、週末の待ち合わせ時間を知らせる物だった。
【恵へ。週末俺の家に六時集合な? 絶対来いよ? ネコサマノ オナ~リ~だぜ】
「ぷっ、猫様のおなりってなんだよ? 馬っ鹿みたい」
「……恵君起きた?」
「っ」
恵はドキンとして、顔を振り上げる。左横に座っていたのは、先程助けてくれた南川龍之介だったのだ。
「そんなのうちらが教えてあげるよ。それも愉しいお勉強」
ーーーなんの勉強だって?
恵は厭きれてシカトを決め込もうとする。
「お兄ちゃん達、と~っても優しいからさ。どっかでお勉強しようよ」
「そうそう。俺ら男もイケる口なの。お小遣いあげるしさぁ」
ーーーヘンタイかよ。
「俺、間に合ってるんで」
恵が云う。が、左隣の男が恵の腰を軽々と抱き起こした。
「な、何するんだよ!?」
「軽いなぁ、そこらの女より可愛いし。泣き声も色っぽいんじゃねぇ?」
今度は右隣の男が恵の顎を掴んで自分の方へ向ける。
「柔らかそうな唇だな。あっちはまっさら?」
恵はカッと頬を染めた。
「紅くなってんの可愛いじゃん。じゃ、俺らがお初? 優しくするよ?」
「このっ」
恵は暴れて逃れようとするが、力は向こうが上だ。リノリウムの床をつま先で足掻きながら、不意に銀縁眼鏡の男が居た席に、視線を廻らす。男は居なかった。周りの人達はこちらを見ているが、誰も助け様とはしてくれない。触らぬ神に祟り無しと、決め込んだらしい。所詮世の中そんな物だ。
ーーー誰か助けろっ!
「いいかげんにしろよ?」
後方から第三者声に、恵と男二人が振り返る。
「っ!」
恵は涙で濡れた双眸を見開いた。いつの間にか、銀縁眼鏡の男が後方に立っていたのだ。
「なんだ? てめぇ」
「ここは図書館。皆の迷惑になるって、お母さんに教わらなかった?」
男二人がカッと顔を真っ赤にする。
「うるせえっ!」
「邪魔なんだよ!」
恵を抱き締めていなかった方の男が、銀縁眼鏡の男に殴り掛かる。
「おっと」
難なく殴り掛かった男の拳を避けると、出口に親指を向ける。
「警察に通報したけど、このまま殴り合う? こう見えて実は俺、空手五段なんだよね。それにそっちから仕掛けて来たのは、此処に居るお客さん達が見ていから、正当防衛が立証されるし」
男には咄嗟に周りを見渡す。図書館内に訪れた客がざっと、五十人以上。
「おい、やばいよ」
「ちっ」
二人は場が悪いと漸く気付いたのか、恵を離して急いで逃げて行った。恵はストンとパイプ椅子に座ると、心臓を押さえた。ドクドクして、恵は助けてくれた銀縁眼鏡の男を見上げる。周りから拍手が鳴った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。君、最近この図書館利用するの?」
「はい」
「そうなんだ。最近見掛けるから。その制服懐かしいな。俺の母校だよ」
「え? そうなんですか?」
恵は緊張が取れて、漸くホッとする。近付きがたい印象だったが、そうではないらしい。
「これからは気を付けると良いよ? ああいう類は調子に乗ると、大きな事件を起こすからね」
「…はい。あの名前訊いて良いですか? 細細川恵っていいます」
「恵君か。綺麗な名前だね。俺は南川龍之介。今大学で教育学部を専攻してるんだよ」
「教師を目指しているんですか? 教育学部かぁ。南川先輩凄いです」
「はは。そうでも無いよ。もう必死。それじゃ」
龍之介は再び元居た席に戻ると、再び勉強をし始めた。恵は龍之介の後姿を眺めながら、もっと話がしたいなと思った。
ーーーかっこいいよなぁ。背も高いし。
不意に太一と同じ背丈位だと気付いたが、恵は顔をプルプルと横に振った。
ーーーなで比べるんだか…。
恵は疲れたとぐったりして、テーブルに突っ伏した。鞄の中に入れていた携帯が振動して、恵は目覚める。疲れてあのまま眠ったらしい。携帯はマナーモードにしているので、振動が鳴ったのだ。鞄から取り出した携帯は平片からで、週末の待ち合わせ時間を知らせる物だった。
【恵へ。週末俺の家に六時集合な? 絶対来いよ? ネコサマノ オナ~リ~だぜ】
「ぷっ、猫様のおなりってなんだよ? 馬っ鹿みたい」
「……恵君起きた?」
「っ」
恵はドキンとして、顔を振り上げる。左横に座っていたのは、先程助けてくれた南川龍之介だったのだ。
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