天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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「…南川先輩?」
「疲れてたみたいだね? このまま帰ると、また変なのに絡まれたら大変だから。起きるの待ってた」
 ーーー待ってたって…。
 恵はポッとし、ハッとする。
「そうそうに、変な奴に絡まれません。でも南川先輩? 待ってたって…」
「待っていたかったが正解かな」
 恵は頬を染める。
「俺帰る方向北千住のルミネが在る方ですけど」
「それは奇遇だな。俺もそっち方向」
 龍之介はニコニコしながら恵を見詰める。
 ーーーほんとかなぁ。
 恵は荷物を鞄に入れると、席を立つ。龍之介も立ち上がり恵の後に続く。恵は図書館の柱時計を眺め、十八時を回っていたのに気付いた。
 ーーー帰りたくないな…。
「この近くに美味しい喫茶店見付けたんだけど、行く?」
 恵の心をまるで読んだかのように、声を掛けて来る。
「え?」
「良ければで良いよ? …無理に誘うと、さっきの馬鹿男二人と変わらないみたいで、やだし」
 肩を竦めて云う龍之介に、恵は馬鹿男二人を思い出して吹き出した。
「良いですよ? 南川先輩の奢りなら」
 恵はニッコリと微笑む。
「誘ったのは俺だから、当然奢るよ。それと」
 恵は何々? と首を傾げる。龍之介は恵の仕草に苦笑する。
 ーーーあいつらが誘うの解るな。こんなに可愛いんじゃ。
「南川先輩より、龍之介で良いよ。なんかくすぐったいから」
「さすがに呼び捨ては…じゃぁ、龍之介さん?」
 恵の見上げる双眸が、龍之介の心をドキリとさせる。二人は図書館を出ると、すっかりクリスマスムードの街中を歩く。
「すっかりクリスマスモードだね。恵君は恋人と約束でもしてるのかい?」  
 喋る毎に白い息が上がる。
「残念ながらいません。その、龍之介さんには居るんでしょう? きっと綺麗な女性だろうな」
「どうしてそう思うのかな?」
 云われて恵は横を歩く龍之介を見上げ、視線が絡み合うと頬を染めたまま俯いた。
「え? だって……龍之介さんカッコイイし…女の人がほっとかないかもって」
 恵は自分で云いながら、胸がツキンと鳴る。
 ーーーなんだよ? これ。これじゃまるで…。
「カッコイイは嬉しいな。確かに恋人は今までに何人か居たけど、皆長続きしなかったな」
 恵は不快な気分で聞いていた。
 ーーーなんだ女知ってんだ。ってか、当たり前か。大学生だし…。
「恵君っ!」
「え?」
 トラックのクラクションが大きく鳴り響く。恵は眼の前の信号が赤になっていた事に、気付かなかったのだ。
「恵君、ぼうっとしいてたら危ないよ。どうしたんだ?」
 龍之介が恵の腕を引き寄せて、自分の胸に抱き寄せていたのだ。
 ーーーたばこの匂い。
 龍之介の広い胸は、恵をすっぽりと包み込んで、ホッとさせられる反面、急に心臓が煩く高鳴った。
「あの」
「…あぁごめん。慌ててたから…気を付けて…」
「はい、すみません」
 信号が青に変わる。二人はケーキが美味しい店で本にも載ったという喫茶店に向かった。


「メールの返事、遅くなってごめん」
 恵は帰宅後私服に着替え、食事を前に平片へ携帯から電話を掛けた。
【まったくだよ。もしかしてまた無理になったかと…お前随分朝と機嫌が違くね?】
「そう?」
 恵は龍之介の事を思い出して、顔が緩む。あの後美味しいケーキを二つもチョイスして、カフェオレを飲みながら、母校だという今恵が通う中学校の話で、盛り上がったのだ。
「今日図書館で変な男二人にナンパされてさ」
【何!?】
 電話の向こうで物凄い音が響く。平片が椅子から転げ落ちたらしい。
【お前無事だったのかよ!?】
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