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第3章 アーサー王伝説編

83話 アーサー王

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「ようやくお城に到着だ」

 城下町を越えて城の門をくぐり、中庭を抜けてお城に入る大きな扉の前に到着する。馬から降りてここまで連れていた騎士たちを解散させるとランスロットはグリムの縄を持って城の中へと入った。

「このまま城の最上階まで歩くのか?」

 遠くから見てもかなり高い事は分かっていたが、あらためて間近で城を見るとシンデレラのお城とは比にならないほどの高さだった。

「まさか、そんなことをしてたら日が暮れちまうよ」

 ランスロットはそう言いながらグリムを連行して城の中を歩いていく。しばらくすると不可思議な紋章のようなものが地面に描かれた場所にたどり着いた。

「これは?」

「マーリンの魔法でね、これに乗ると玉座の間にひとっとびさ」

 いわゆるワープ装置だとランスロットは説明する。このお城の至る所にこの魔法陣が設置されているらしい。

「それじゃあ行きますか」

 ランスロットの声に合わせて二人同時に魔法陣の上に乗る。すると地面に描かれていた魔法陣が光を発し始める。瞬きをすると次に視界に映ったのは先ほどまでいた場所ではなく、荘厳な扉の前だった。

「な、楽ちんだろ?」

 ランスロットは驚いていたグリムに笑いかけてくる。
 窓から外の景色を除くと雲にも届きそうな場所にいつの間にか移動していた。

「この扉の先が玉座の間だ」

 視線の先にある扉を見てランスロットは話す。

「円卓の騎士なのに玉座があるのか?」

「円卓があるのはまた別の場所だよ。王様にだって一人になれる場所が必要だろ?」

 ランスロットはグリムの質問にさらりと答えながら扉の前に立つ。

「さて、この先にいるのは王様だ、粗相の内容にな」

 ランスロットはそう言ってゆっくりと扉を開く。

 こうしてグリムはこの世界の物語の主人公であるアーサー王との対面の時を迎えるのだった。


    ◇


「アーサー、今宵こそは!」

 扉を開けた先、最初に聞こえてきたのは女性の声だった。

 見ると玉座に座る全身を鎧で包んだ人間が一人、その人間に駆け寄っている女性が一人いた。

 扉が開かれたのに気付いた女性はすぐに玉座に座る人間から離れて距離を取る。

「……何の用かしらランスロット」

「おやおや、今日もお熱いねぇ」

 女性が冷ややかな目でランスロットを睨む。それに対して彼はグリムに接するのと変わらないようにケロっとした態度を見せた。

「用がないなら出て行ってくれるかしら?」

「グィネヴィア王妃、邪魔したのは謝るが、こちとら王の命令でここに来たんでね」

 目の前にいる女性の名前をグィネヴィアとランスロットは言った。

 グィネヴィア王妃。アーサー王の妻であり、後にランスロットと不貞の仲になる、この物語を終幕へと向かわせるのに欠かせない役割を与えられた女性である。

「アーサーが?」

 グィネヴィアの視線が玉座に座る人間に向かう。

「……そうだ、我が彼に頼んでそこの人間を連れてくるように命じた」

 アーサーと呼ばれた人間がゆっくりと口を開いた。鎧をかぶっているせいか、声がくぐもっていて少しだけ聞き取りづらかった。

 アーサー王。この世界の主役であり、円卓の騎士を束ねる王様である。
 アーサー王伝説という物語はシンデレラや赤ずきんと比較するとかなり長い。桃太郎やかぐや姫のように主役を与えられた者が生まれるところから世界が始まる世界だった。

 この物語の終盤では今この場にいるランスロットとグィネヴィアが駆け落ちし、中庭で出会ったアーサー王の息子であるモードレットによって謀反を起こされ、最後には幻想の泉にてアーサー王は最期を迎える。

 明確には言われていないがアーサー王は息子のモードレット同様に死をもってこの世界は完結するものだった。

 玉座の後ろには立派な肖像画が壁に取り付けられており、そこには勇猛な姿で剣を掲げている騎士の姿が描かれていた。肖像画のモデルとなったのは鎧の姿形が一致する目の前のアーサー王に違いなかった。

「まさかまた「白紙の頁」の人間を!?」

 グィネヴィアと呼ばれた女性が怪訝そうな顔をする。

「アーサー、どういうつもり?私は「白紙の頁」の人間は嫌いって言ったわよね!」

 グィネヴィアは真剣な表情でアーサーに詰め寄った。

「まぁまぁ、人間は男ですし、王妃がそこまで怒らなくても」

「ランスロットは黙ってなさい!」

 グィネヴィアはぎろりと彼を睨んで言葉を飛ばす。ランスロットは肩をすかしてため息を吐く。

 「今回は男」と彼は言った。その事から前回この世界に訪れた「白紙の頁」所有者は女性だったことをグリムは知る。アーサー王の妻であるグィネヴィアからしてみれば外の世界からやってきた女性とアーサーが仲良くなるのが気に食わないのは当然といえば当然だった。

「すまない、グィネヴィア。今回で最後にするつもりだから許してほしい」

 アーサーは王妃に向かって申し訳なさそうに謝罪をする。

「……アーサーがそこまで言うのなら」

 アーサーの言葉を聞いてグィネヴィアは一歩引いた。

「ランスロット、その者の縄をほどいてくれるか」

 アーサー王の命令に従い、ランスロットは剣を抜いてグリムの全身を縛っていた縄をほどいた。

「それで、この人間をどうするおつもりで?」

 ランスロットが本題に入ろうとする。アーサー王がグリムを呼んだ理由についてはグリムも気になっていた。

「……しばらくの間、この者と二人にさせてくれるか」

「「「な」」」

 その言葉を聞いてグリムを含めたこの場にいるアーサー王以外の全員が驚いた表情をした。

「どうしてまた「白紙の頁」の人間と二人に!」

 再びグィネヴィアがアーサー王に詰め寄った。

「王よ、彼はただの「白紙の頁」人間ではありません。マーリンと同様に魔法を使えるのです。そんな人間とあなたをこの場に残すのは流石に危険すぎませんか」

 二人はアーサー王の意見に否定的だった。客観的に見ても彼らの意見は正しく、仮にグリムがアーサー王だったとしてもその発言はおかしいと思えた。

「……我が信頼できないか?」

 アーサー王はグィネヴィアが叫んでいる中でもはっきりと聞こえる声でそう言った。

「そ、そういうつもりで言ったわけでは……」

 アーサー王の威厳かそれとも風格のせいか、グィネヴィアが怯んだ。

「……分かりました」

 ランスロットはアーサー王の言葉を承諾するとそのままグィネヴィアの近くまで歩み寄り、彼女を脇に抱えた。

「ちょっと、何をするのよ、離しなさい!」

「いつまでも王を困らせちゃだめですよ」

「私一人で歩けるわよ、恥ずかしいから離しなさい!」

 グィネヴィアの文句を無視してランスロットは彼女を抱えたまま扉を後にした。

「それでは王の命令通りに、全員この場を離れます」

「……すまないな」

 ランスロットの言葉を聞いてアーサー王は礼を言う。

「ちょっと、扉の外にいるだけでいいじゃないのよ。なんで私も下に行く事になってるのよ!」

「王妃がうるさすぎてご迷惑になるからですよ」

「な、なんですってー!」

 扉が閉まってもその声はしばらく聞こえてくる。少し時間がたつとその声も消えた。魔法陣に乗って移動を終えたのだろう。

 こうしてこの場にいるのはアーサー王とグリムの二人だけになった。
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