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第4章 いばら姫編

106話 再会の少女

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「では、食事をご用意したお部屋へ案内します」

 着替えを終えた二人はメイドに案内されて大広間のような場所へとたどり着く。

「……あれは」

 そこには見覚えのある顔がいた。

「………!」

 こちらの視線に気が付いたのか、食事の最中だった一人の少女は食べるのをやめてナイフとフォークを更に置きながら口元を隠す。

「…………お久しぶりです、ワーストさん」

 食べているものを飲み込んだマロリーがナプキンで口元をふきながらグリムに声をかける。

 相変わらず見た目の年齢に対して大人びた口調の少女だとグリムは思った。

「久しぶりだな……一人なのか?」

「いいえ、ローズは城の中を探索していますが、彼ならそこにいますよ」

 マロリーは座っている席から少し離れた円柱の柱の方に目を向ける。
 そこには赤ずきんの世界で出会った銀髪の騎士が腕を組んで立っていた。

 銀髪の騎士はグリムの方を見ると何事もなかったかのように再び目を閉じる。

「挨拶ぐらいしたらどうですか?」

 見かねたマロリーが銀髪の騎士に注意する。それを聞いた彼は仕方がないといった態度を隠すことなくそのまま軽く会釈をする。

「まさか羅針石なしでまたお会いするなんて……あら、そちらの方は……」

 グリムに話しかけている途中でもう一人の女性の存在に気が付いたらしく、言葉が途切れる。

「……あなた、シンデレラの世界にいた……」

 少女の言葉を聞いてサンドリオンはグリムの方を見た。

 おそらくアーサー王の世界でグリムが彼女に対して似たような反応をしていたのを覚えていたのだろう。

「私はシンデレラの世界を訪れたことはない。半年ほど前にある世界で生まれて、今はサンドリオンと名乗る「白紙の頁」の所有者だ」

「サンドリオン……でもシンデレラとは関係ないのですね」

 マロリーはボソリと言葉を漏らしながら笑った。サンドリオンの方は分からないといった反応を示す。

「サンドリオンさん、挨拶が遅れました。私はマロリーと申します。あちらに立っているのは私と共に旅をする銀髪の騎士です」

 マロリーは席を立って深々とお辞儀をすると彼女と連れの自己紹介をする。

「お二人も食事をとりにきたのですか?」

「そんなところだ」

「ここの食事はとてもおいしいですよ」

 赤ずきんの世界でも赤ずきんの母親の料理をおいしそうに食べていた彼女だったが、この場の彼女もあの時と同じくらいおいしそうな表情を浮かべていた。

 グリムとサンドリオンがマロリーと反対側の席に座るとメイドたちが次々と料理を二人の前に並べていく。マロリーの言う通りそのどれもがおいしかった。

「なぁ、一つ聞いてもいいか」

「なんでしょうか?」

 グリムの声に対してデザートをおいしそうに食べながらマロリーが反応する。

「シツジという少年からこの世界で起きている問題は聞いた。マロリーはいったいどうやって解決するんだ?」

「それは……ですね」

 先ほどまでの幸せそうな表情は曇り、マロリーはピタリと動きをやめて下を向いた。

「……王様の命令で人前では言えません。この後、東の塔最上階の部屋にきてください」

 そこで詳しくお伝えしますというとマロリーはデザートを食べ終えてから席を立ち、銀髪の騎士と共にこの部屋から出ていった。

「王様の命令か……」

 シツジも詳しい方法は聞かされていないと言っていた。何かこの世界の人々には言えないような方法なのか、今のグリムには何もわからなかった。

「気になるのか?」

 食事を終えたサンドリオンがグリムに尋ねる。

「彼女なら、大丈夫だとは思うが……」

 そう言ったもののマロリーの表情が気になった。
 この場にいなかったもう一人の騎士が関わっているというのなら、何か良くない方法を強要されている可能性もある。

 細柄の騎士、ローズはシンデレラの世界では魔女の役割を持った人間に「物語通り進ませたら楽園に行ける」とそそのかしてリオンを舞踏会から遠ざけた。
 赤ずきんの世界では猟師の役割を持った人間に「主要な役割を与えられた人間なら何をしてもいい」と助言をして結果的に猟師は赤ずきんの親子を襲った。

 そのどちらもグリムからしてみれば理解が出来なかった。彼によって物語と世界は本来あるべき形から外れていると思えた。

 もしもこの世界で彼がまたなにかをしているのなら見過ごすわけにはいかなかった。

「マロリーもグリムと同じ、「頁」を持たない者だったか」

 食事中に少女と交えた会話の中で知り得た情報についてサンドリオンは触れてくる。
 グリムはそうだな、と肯定しながら食事を終えた口を布巾で拭った。

「頁」を持たない存在がグリム以外にいるとは思ってもいなかった。赤ずきんの世界で彼女と出会ってからは楽園の存在について以前ほど懐疑的ではなくなった。

「あの少女はどうして旅をしている?」

「確か……本を読む為と言ってたな」

「本?」

 サンドリオンにマロリーの語った楽園の存在と本について説明する。グリムも全てを理解しているわけではないが、出来る限りを伝えるとサンドリオンは「なるほどな」と顎に手を当てて興味深そうにした。

「役割を持った「頁」を持った人間と役割の記載されていない「白紙の頁」を持つ人間、そして「頁」を持たない人間……役割の書かれた「頁」を持った人間はともかく、役割を持たない私たちはいったい何の為に生まれてきたのだろうな」

 サンドリオンは氷の入ったコップを手に取り、揺らしながらつぶやいた。

「アーサー王の言葉を借りるなら、それをこれから見つければいいんじゃないか?」

 少なくともグリムはシンデレラの世界に訪れる前までは自身の存在意義についてわからずにいた。

 人との出会いによって生きる理由を見つけることもある。

 グリムはシンデレラの世界で出会ったリオンの言葉を頼りに今も旅を続けていた。

「……そうだな」

 視線を前に向けた彼女を見てグリムは立ち上がる。

「俺はマロリーのところへ行く」

「それなら私も付き合おう」

 彼女も合わせるように席から離れ、二人でマロリーが向かった東の塔の最上階へと歩き出した。
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