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【第7話】元彼の襲来(明智栞・談)
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丁度、今日の出勤時間的にもう退社していい時間だったので、私は慌てて会社から出てエレベーターに駆け込んだ。
(油断していた、しくじった!よりによって、このタイミングでとか!)
電話番号は携帯電話を初契約した時のままで、その時に作ったアドレスやらなんやらをずっと十年以上そのまま使用していたせいで高校時代に付き合っていた元彼から今更連絡が着やがったのだ。
『今お前の勤め先の前に居る。仕事終わるまで待ってるから、今夜俺と話せないか?』
アンタと話す事など何もない。とは正直思うけど、アレから一度も会っていない事を考えるに別段気に病む様な話じゃないかもしれない。ただ懐かしさから会いに来た、もしくは通り掛かったついでだって可能性もある。……でも別れて以来お互いに音信不通で、高校卒業後の進学先も違ったし、就職先なんか教えようが無かったのに何故向こうは知っているんだろうか。
無視も出来るが、もし放置して禍根になっても面倒だ。私と神楽井先輩とのラブラブ新婚監禁生活♡という願望を無理にでも押し通す気でいる今は、ありとあらゆる問題は全て事前に片付けておきたい。
片方の肩にかけている鞄の持ち手をぎゅっと掴み、小走り気味になってビルの外に出る。複数の企業が入る巨大なビルなだけあって人通りが多く、すぐには元彼が見付からない。何処だ?立ったまま待っている様な気質の奴じゃなかったから、柱や壁に寄り掛かっているか腰掛けていると思——
(居た。本当に居やがった)
駆けて行って、『お待たせ、待ったせちゃった?』なんて言ったら増長されそうなので、普通の速度で歩き、目の前に到着するなり「……何?」と低めの音で声掛けた。高さのある花壇の縁に座って、スマホ片手にゲームをしながら待っていたみたいだ。
「よ!久しぶりー」
着ている服を着崩し、チャラい雰囲気で軽く手をあげる。昔からそういう雰囲気の人ではあったが、今は随分と拍車がかかって『めっちゃ遊んでるな』と一目でわかる格好だ。『何でこんなんと付き合ってたんだっけ?』と過去の自分に問い掛けたくなってきた。
「相変わらず、別れた相手には冷たいのなぁ」
優しくする理由が何処にある?一方的に振った相手にそうする意味を見出せない。
「なぁ、ちょっと場所移そうぜ」
「お断りします。まだ仕事の途中だったんで」
実際には終わってるけど、事実を言う必要もないだろう。
「え、何?んな慌てて出て来てくれた感じ?めっちゃ可愛いじゃん」
可愛い言われても神楽井先輩じゃないから全然嬉しくない。『は?』と不快感に満ちた顔を向けると、「マジウケるその顔」と笑われたが、照れ隠しじゃないぞ?
「さっさと、用件をお願いします」
「何それ?さっきから他人行儀じゃね?付き合ってた相手にソレなくね?」
不機嫌そうな顔をされても知った事か。こちとら早く職場に戻って、神楽井先輩を引っ捕まえてそのまま役所に連行したい心境だっていうのに。
「ま、いっか。——いやさ、お前って、今誰かと付き合ってんの?」
「いいえ、特には」
神楽井先輩と私はまだ『加害者』と『被害者』。もしくは『持ち主』と『オナホ』の関係だ。いずれは『オナホ』から『伴侶』に昇格する気満々ではあるが、『彼氏はいる』なんて虚勢を張った嘘は言いたくない。
「やっぱそっかぁ。無理だよなお前が誰かと交際なんてさ」
「は?」
何て失礼な奴だ。お前と別れた後だって、片手を超える程度には交際経験があるって言ってやろうか?……まぁ、見事たったの二、三日でフラれてますけども。
「ならさ、俺が貰ってやるよ。嬉しいだろ?」
随分上からだな。一度私をふった時点で論外枠に入っているとは思ってもいない様だ。
「いやさぁ、栞と別れた後にいろんな女と付き合ってみたんだけど、どうも俺って束縛系みたいなんだよね。『重い』って言われてさぁ、『じゃあ栞と付き合っちゃえばいいんじゃね?』と思って来たって訳。お前束縛されたい系の痛い女だろ?売れ残ってんのも可哀想だし、貰ってやるって話ぃ」
(……何言ってんだ?コイツ)
呆気に取られて声も出ない。嘘でも、『好きで好きで好きで、どうしても忘れられなくて会いに来た』とか言えば、先週の金曜日の飲み会に参加した辺りの時間軸に居た私だったら多少は揺れたかもしれなかったが、そんな言い方をして『本当?嬉しい♡』と返事してもらえると本気で思っているのか?
(思ってんだろうなぁ……)
ドヤ顔をしている所を見るに、残念ながら間違いなさそうだ。
「まだ仕事ってたよな。どっか近くの店入って待っててやるから、とりま金貸してくんね?んで、どっかこの辺のホテル調べておくから、仕事終わったら行こうぜ」
「は?やだ。無理」
スンッと冷めた声で即返す。激重執愛気質の人であれば大概の発言と行動が許せるが、コイツは無理だ。
「何ふざけた事言ってんだよ、彼氏には尽くすもんだろうがっ」と言い、凄んでくる。どんな生き方したらこんな価値観に育ってしまうというんだ。
「だって、付き合うって了承もしていないし。それに、三井君の『重い』は、『愛情が』じゃなくって、ただの『お荷物』って意味じゃん」
「んだと⁉︎」と叫ぶ様に言いながら三井君が手を振り上げ、私を殴ろうとした。それを私は即座に、明確な意思を持って腕でガードしたうえで、そのまま受け流した。
「んなっ」と一瞬驚きはしたが『当たらなかった』という事実が癪に障りでもしたのだろう。「コイツ!」と叫びながらまた飛びかかって来たので、今度はその腕を掴んで捻り、一寸の容赦もなく地面に投げ飛ばしてやった。うつ伏せにさせ、腕を後ろ側に捻りあげる。力技で抜けようとしても、少し動くだけで関節が悲鳴を上げるから大の男であってもこれで簡単には逃げ出せない。柔術などを学んでいる相手では通じないだろうが、勢い任せで過信型のド素人であれば男であっても短時間なら制圧出来るくらいに鍛えておいて正解だったな。
(『この人だ!』って思った相手以外に無理な事はされない様に、護身術学んでおいて良かったぁ♡)
フフッと勝ち誇った気持ちでいると、「——明智!」と聞き覚えしかない声で呼ばれて顔を上げた。……神楽井先輩、だ。
「……えっと」
単騎で男性を制圧している私の姿を見て神楽井先輩がめちゃくちゃ困っている。周囲を歩く人達も、通報するべきか否か逆に迷っているみたいだった。
「きゃ、きゃぁ、助けてぇ?」
一応言いはしてみたが、とんでもなく芋演技である。周りからの視線が恥ずかしくって大声では言えなかったせいで余計に緊迫感がまるで無かった。
「離せって!」と踠くが、すぐに「いてててててっ!」と三井君が悲鳴をあげる。上から自重も掛けているからお主程度では抜け出すのは無理なのにバカな奴だ。
傍まで駆け寄って来てくれ、神楽井先輩が「もうオレも居るから離して大丈夫だ。明智は、その、スカートだし、さ……」と声を掛けてくれた。
(優しぃぃぃぃ!コレですよこれ!)
すぐにぱっと腕を離し、三井君から離れて神楽井先輩の背中に隠れる。今更『きゃーこわーい』みたいな顔をしてはみたが、まぁ誰も表情通りには受け取ってくれんだろうな。
「な、何だよ、お前は!」
情けなく地面に座り込んだまま、三井君が叫ぶような声で訊いた。
「……明智の職場の、先輩、かな?」と言う神楽井先輩の背後で、声を被せるみたいに「『ご主人様』だよ!」と言う。
「は?意味わかんねぇんだけど」
三井君だけじゃなく、先輩まで動揺させてしまったのか「……オレも、ちょっと意味が」と先輩に言われてしまった。
「一生使ってくれるんですよね?なら、『ご主人様』ですよね?」
「そ、そうだけど、此処で今ソレ、言う?」
フードの奥で顔を真っ赤にする神楽井先輩がめちゃくちゃ可愛い。
「何?もしかしてもう、お前らヤッてんの?」
「あぁ」と先輩の方が即答してくれた。『オレの』って宣言されたみたいでめっちゃ嬉しい。人通りの多い場所でもあるから、神楽井先輩の地声の音量が小さくて助かった。
「んだよ……ソレ先に言えよ。付き合ってる奴はいないってから、こっちだってまだいけると思うじゃん」と言いながら立ち上がり、三井君が服に付いた砂埃を叩き落とす。
「お前の『初めて』あげられる相手に逢えたんだな、良かったじゃん」
そう言って、神楽井先輩の背後からひょこっと顔を出していた私の頭を三井君がわしゃりと乱暴に撫でた。
「あー……すまん。さっきのはマジで俺が悪っかった。先走り過ぎたな。お前、『一生添い遂げる相手じゃないとやらん』って言ってたの覚えてたからさ、俺なりの誠意のつもりだったんだ。金はその、単純に手持ちが無かっただけで返す気だったし」
わかんねぇわ、その誠意。と正直思ったけど、穏便に済みそうなので笑顔だけを返す。
「連絡先とかも全部消しておくから、もう心配すんな。せいぜい逃げられん様に頑張れよー」
その言葉を最後に、三井君があっさりと帰ってくれた。——ホッとしたのも束の間、凄い形相で「……アイツ、何?」と神楽井先輩に訊かれてしまった。色素の薄い瞳の瞳孔が完全に開いていてめっちゃドキドキする。
「も、元彼、ですね。えっと、高校の時に付き合ってました」
「元か——」まで言って、ガリッと先輩が自分の唇を噛んだ。少し血が滲んでいて痛々しい。
「『求める愛情が重い』ってフラれて、手を繋いだ経験も無いんで、『彼氏』と言っていいのかも……その……」
「じゃあ手、貸して」
「あ、はい」と言って手を差し出すと、ぎゅっと優しく握ってくれた。『手を繋ぐ』と言うよりかは、『握手』って感じだけどなんか嬉しい。
「……人目多いから、一旦社内に戻ろ。——あ、そうだ、スマホ。これ椅子の所に落として行ってたから、届けようと思ったんだけど、何か外で騒動になってて、ビックリした」
「ありがとうございます」
興奮している時とは違って辿々しく喋る先輩もめっちゃ可愛い。ずっと見上げていたくなるが、手を引かれるまま、少し後ろを一緒について行った。
(油断していた、しくじった!よりによって、このタイミングでとか!)
電話番号は携帯電話を初契約した時のままで、その時に作ったアドレスやらなんやらをずっと十年以上そのまま使用していたせいで高校時代に付き合っていた元彼から今更連絡が着やがったのだ。
『今お前の勤め先の前に居る。仕事終わるまで待ってるから、今夜俺と話せないか?』
アンタと話す事など何もない。とは正直思うけど、アレから一度も会っていない事を考えるに別段気に病む様な話じゃないかもしれない。ただ懐かしさから会いに来た、もしくは通り掛かったついでだって可能性もある。……でも別れて以来お互いに音信不通で、高校卒業後の進学先も違ったし、就職先なんか教えようが無かったのに何故向こうは知っているんだろうか。
無視も出来るが、もし放置して禍根になっても面倒だ。私と神楽井先輩とのラブラブ新婚監禁生活♡という願望を無理にでも押し通す気でいる今は、ありとあらゆる問題は全て事前に片付けておきたい。
片方の肩にかけている鞄の持ち手をぎゅっと掴み、小走り気味になってビルの外に出る。複数の企業が入る巨大なビルなだけあって人通りが多く、すぐには元彼が見付からない。何処だ?立ったまま待っている様な気質の奴じゃなかったから、柱や壁に寄り掛かっているか腰掛けていると思——
(居た。本当に居やがった)
駆けて行って、『お待たせ、待ったせちゃった?』なんて言ったら増長されそうなので、普通の速度で歩き、目の前に到着するなり「……何?」と低めの音で声掛けた。高さのある花壇の縁に座って、スマホ片手にゲームをしながら待っていたみたいだ。
「よ!久しぶりー」
着ている服を着崩し、チャラい雰囲気で軽く手をあげる。昔からそういう雰囲気の人ではあったが、今は随分と拍車がかかって『めっちゃ遊んでるな』と一目でわかる格好だ。『何でこんなんと付き合ってたんだっけ?』と過去の自分に問い掛けたくなってきた。
「相変わらず、別れた相手には冷たいのなぁ」
優しくする理由が何処にある?一方的に振った相手にそうする意味を見出せない。
「なぁ、ちょっと場所移そうぜ」
「お断りします。まだ仕事の途中だったんで」
実際には終わってるけど、事実を言う必要もないだろう。
「え、何?んな慌てて出て来てくれた感じ?めっちゃ可愛いじゃん」
可愛い言われても神楽井先輩じゃないから全然嬉しくない。『は?』と不快感に満ちた顔を向けると、「マジウケるその顔」と笑われたが、照れ隠しじゃないぞ?
「さっさと、用件をお願いします」
「何それ?さっきから他人行儀じゃね?付き合ってた相手にソレなくね?」
不機嫌そうな顔をされても知った事か。こちとら早く職場に戻って、神楽井先輩を引っ捕まえてそのまま役所に連行したい心境だっていうのに。
「ま、いっか。——いやさ、お前って、今誰かと付き合ってんの?」
「いいえ、特には」
神楽井先輩と私はまだ『加害者』と『被害者』。もしくは『持ち主』と『オナホ』の関係だ。いずれは『オナホ』から『伴侶』に昇格する気満々ではあるが、『彼氏はいる』なんて虚勢を張った嘘は言いたくない。
「やっぱそっかぁ。無理だよなお前が誰かと交際なんてさ」
「は?」
何て失礼な奴だ。お前と別れた後だって、片手を超える程度には交際経験があるって言ってやろうか?……まぁ、見事たったの二、三日でフラれてますけども。
「ならさ、俺が貰ってやるよ。嬉しいだろ?」
随分上からだな。一度私をふった時点で論外枠に入っているとは思ってもいない様だ。
「いやさぁ、栞と別れた後にいろんな女と付き合ってみたんだけど、どうも俺って束縛系みたいなんだよね。『重い』って言われてさぁ、『じゃあ栞と付き合っちゃえばいいんじゃね?』と思って来たって訳。お前束縛されたい系の痛い女だろ?売れ残ってんのも可哀想だし、貰ってやるって話ぃ」
(……何言ってんだ?コイツ)
呆気に取られて声も出ない。嘘でも、『好きで好きで好きで、どうしても忘れられなくて会いに来た』とか言えば、先週の金曜日の飲み会に参加した辺りの時間軸に居た私だったら多少は揺れたかもしれなかったが、そんな言い方をして『本当?嬉しい♡』と返事してもらえると本気で思っているのか?
(思ってんだろうなぁ……)
ドヤ顔をしている所を見るに、残念ながら間違いなさそうだ。
「まだ仕事ってたよな。どっか近くの店入って待っててやるから、とりま金貸してくんね?んで、どっかこの辺のホテル調べておくから、仕事終わったら行こうぜ」
「は?やだ。無理」
スンッと冷めた声で即返す。激重執愛気質の人であれば大概の発言と行動が許せるが、コイツは無理だ。
「何ふざけた事言ってんだよ、彼氏には尽くすもんだろうがっ」と言い、凄んでくる。どんな生き方したらこんな価値観に育ってしまうというんだ。
「だって、付き合うって了承もしていないし。それに、三井君の『重い』は、『愛情が』じゃなくって、ただの『お荷物』って意味じゃん」
「んだと⁉︎」と叫ぶ様に言いながら三井君が手を振り上げ、私を殴ろうとした。それを私は即座に、明確な意思を持って腕でガードしたうえで、そのまま受け流した。
「んなっ」と一瞬驚きはしたが『当たらなかった』という事実が癪に障りでもしたのだろう。「コイツ!」と叫びながらまた飛びかかって来たので、今度はその腕を掴んで捻り、一寸の容赦もなく地面に投げ飛ばしてやった。うつ伏せにさせ、腕を後ろ側に捻りあげる。力技で抜けようとしても、少し動くだけで関節が悲鳴を上げるから大の男であってもこれで簡単には逃げ出せない。柔術などを学んでいる相手では通じないだろうが、勢い任せで過信型のド素人であれば男であっても短時間なら制圧出来るくらいに鍛えておいて正解だったな。
(『この人だ!』って思った相手以外に無理な事はされない様に、護身術学んでおいて良かったぁ♡)
フフッと勝ち誇った気持ちでいると、「——明智!」と聞き覚えしかない声で呼ばれて顔を上げた。……神楽井先輩、だ。
「……えっと」
単騎で男性を制圧している私の姿を見て神楽井先輩がめちゃくちゃ困っている。周囲を歩く人達も、通報するべきか否か逆に迷っているみたいだった。
「きゃ、きゃぁ、助けてぇ?」
一応言いはしてみたが、とんでもなく芋演技である。周りからの視線が恥ずかしくって大声では言えなかったせいで余計に緊迫感がまるで無かった。
「離せって!」と踠くが、すぐに「いてててててっ!」と三井君が悲鳴をあげる。上から自重も掛けているからお主程度では抜け出すのは無理なのにバカな奴だ。
傍まで駆け寄って来てくれ、神楽井先輩が「もうオレも居るから離して大丈夫だ。明智は、その、スカートだし、さ……」と声を掛けてくれた。
(優しぃぃぃぃ!コレですよこれ!)
すぐにぱっと腕を離し、三井君から離れて神楽井先輩の背中に隠れる。今更『きゃーこわーい』みたいな顔をしてはみたが、まぁ誰も表情通りには受け取ってくれんだろうな。
「な、何だよ、お前は!」
情けなく地面に座り込んだまま、三井君が叫ぶような声で訊いた。
「……明智の職場の、先輩、かな?」と言う神楽井先輩の背後で、声を被せるみたいに「『ご主人様』だよ!」と言う。
「は?意味わかんねぇんだけど」
三井君だけじゃなく、先輩まで動揺させてしまったのか「……オレも、ちょっと意味が」と先輩に言われてしまった。
「一生使ってくれるんですよね?なら、『ご主人様』ですよね?」
「そ、そうだけど、此処で今ソレ、言う?」
フードの奥で顔を真っ赤にする神楽井先輩がめちゃくちゃ可愛い。
「何?もしかしてもう、お前らヤッてんの?」
「あぁ」と先輩の方が即答してくれた。『オレの』って宣言されたみたいでめっちゃ嬉しい。人通りの多い場所でもあるから、神楽井先輩の地声の音量が小さくて助かった。
「んだよ……ソレ先に言えよ。付き合ってる奴はいないってから、こっちだってまだいけると思うじゃん」と言いながら立ち上がり、三井君が服に付いた砂埃を叩き落とす。
「お前の『初めて』あげられる相手に逢えたんだな、良かったじゃん」
そう言って、神楽井先輩の背後からひょこっと顔を出していた私の頭を三井君がわしゃりと乱暴に撫でた。
「あー……すまん。さっきのはマジで俺が悪っかった。先走り過ぎたな。お前、『一生添い遂げる相手じゃないとやらん』って言ってたの覚えてたからさ、俺なりの誠意のつもりだったんだ。金はその、単純に手持ちが無かっただけで返す気だったし」
わかんねぇわ、その誠意。と正直思ったけど、穏便に済みそうなので笑顔だけを返す。
「連絡先とかも全部消しておくから、もう心配すんな。せいぜい逃げられん様に頑張れよー」
その言葉を最後に、三井君があっさりと帰ってくれた。——ホッとしたのも束の間、凄い形相で「……アイツ、何?」と神楽井先輩に訊かれてしまった。色素の薄い瞳の瞳孔が完全に開いていてめっちゃドキドキする。
「も、元彼、ですね。えっと、高校の時に付き合ってました」
「元か——」まで言って、ガリッと先輩が自分の唇を噛んだ。少し血が滲んでいて痛々しい。
「『求める愛情が重い』ってフラれて、手を繋いだ経験も無いんで、『彼氏』と言っていいのかも……その……」
「じゃあ手、貸して」
「あ、はい」と言って手を差し出すと、ぎゅっと優しく握ってくれた。『手を繋ぐ』と言うよりかは、『握手』って感じだけどなんか嬉しい。
「……人目多いから、一旦社内に戻ろ。——あ、そうだ、スマホ。これ椅子の所に落として行ってたから、届けようと思ったんだけど、何か外で騒動になってて、ビックリした」
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興奮している時とは違って辿々しく喋る先輩もめっちゃ可愛い。ずっと見上げていたくなるが、手を引かれるまま、少し後ろを一緒について行った。
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