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それでも俺は貴女が好き
第2話
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♪♪♪~♪~♪~——
「うぐうう……… 今何時だよ…… 」
枕の側で鳴るスマホを手に取り、時間を見る。AM6:00の文字にため息がこぼれた。
休日だっていうのに目覚ましをかけたまま寝ちまったのかよ、まったく。もう一眠りするか?店が開くまではまだまだ時間があるし。
それよりも、近所でもランニングしようか。最近運動不足気味だしなぁ。
そうと決まれば即行動だ!
「おっしっ!」
バッと布団から体を勢いよく起こし、着替えをクローゼットの中から出す。ランニング用のジャージに着替えて一階へ降りると、朝食の準備をしてくれていたのか、母さんもすでに起きていた。
「おはよう、朝メシなに?」
「あら、アンタ部活もないのに何でこんな早くに起きてんの」
「ランニングしようかと思って」
そう言いながら、テーブルにつく。走る前に食べるつもりは無かったんだが、調理する匂いを嗅ぐと反射的にお腹が空きてきた。
「えらいね、今体力落としたら大学でキツイかもしれないからねぇ。ちゃんと先のこと考えてるんじゃない、アンタも」
「俺だっていつまでも子供じゃないよ」
ベーコンエッグにサラダ。牛乳とご飯茶碗を母さんが出してくれる。箸やコップは自分で食器棚から取り出し、お茶の入る容器も冷蔵庫からテーブルへと並べた。
「そんな事言うんだったら彼女の一人でも紹介して欲しいけどねぇ…… もういるんでしょ?その歳になったら」
対面の席に座り、母さんが「いただきます」と言って、自分の分を食べ始める。
「いないよ」
「なによ。せっかく見た目よく生んでやったのに、アンタはもったいないねぇ」
「『彼女なんか作って遊んでないで、勉強でもしな』って方が一般的な親じゃないのかよ」
ついつい呆れ声が出てしまう。
「そうね、勉強はした方がいいわ確かに。でもねぇ…… 空手空手ばっかりで、アンタ自分の事に見向きもしないでここまできたから心配なのよ」
確かに、今までずっと部活か道場かの生活だった。…… でも、そもそもの動機が不純である事は親には言っていない。本気で心配してくれているのようなので、ちょっと心苦しくなった。
「もしさぁ…… もしだよ、俺がすんげえ年上の人連れて来たらどう思う?」
「は?」
「友達がさ、十一歳上の人にすんげぇ憧れてて、二人が付き合うとかってなったら親としてはどう思うのかな、とさ」
自分がだとは言えず、適当に誤魔化す。
「…… 反対するんじゃないかしら。そんなに年上だと、親としては孫の事とかちょっとは考えちゃうしねぇ」
やっぱり、女性からの意見は厳しい。
「でもねぇ、お互い本気だったらありなんじゃないかしら。男が若い子と浮気するんじゃないかとか、過剰に心配してギスギスする様な事が無いようにしないと、上手くいかなくなることあるからそれは心配ねぇ」
「そっかぁ…… 」
「難儀な相手に憧れてるねぇ高校生だっていうのに、アンタの友達は」
「…… そうだな」
やっぱ親に嘘をつくのはちょっと後ろめたいや。
さてと、どこを走ろうか。
外に出て、ルートを考えながら軽く柔軟体操をやる。ご飯を食べてから時間も開けたし、きっと腹痛の心配は無いだろう。
「行った事ない道を行くか」
ぼそっと呟き、俺はいつもとは反対方向に走り出した。
二十分くらいは走っただろうか。いつもなら全然平気だったはずなのに、結構疲れてきた。
やばいな、体力落ちてる。
少し焦る気持ちが出てきた。もっと真面目にやろう、明日から毎日走らないとダメだ。
更に走るうち、河川敷が見えてきた。川の側を走るのも悪くないなと思った俺は少し急な坂を上り、川沿いに向かい走って行く。
でも、あと十分くらい走ったら引き返すか…… 。そう思いながら川の方をちらっと見た時、見覚えのある背中が目に止まった。
あれ?あの長い髪のお姉さんって——
「美鈴さーん?」と、大きな声で話し掛ける。すぐに気が付いてくれたようで、こちらの方へ手をふってくれた。
犬が一緒にいる、散歩中なのかも。
「おはようございます、散歩ですか?」
「おはよう。えぇ、そうよ。花屋って土日が案外暇なのよ。だからあえて早起きして散歩中ー。君はジョギング?」
「君じゃなく、日野ですよ」
「ふふ。じゃあ、日野君と呼ぶわね。それで、その格好はやっぱり?」
「はい。運動不足になるとマズイと思って、今日から再開したんですよ」
「そうなの、てっきり姉さんを追って来たのかと思ったわ」
「え?す、鈴音さんも居るんですか?」
疲れてきていた体から、一気に疲労が消し飛んだ。
「うん。この付近をずっと走ってるわよ、カイと一緒にね」
しゃがみこみ、犬の頭を撫でる美鈴さん。飼っている犬は、焦げ茶色をした柴犬のようだ。
「カイ?」
「姉さんの飼ってるシベリアンハスキーの名前よ」
「へぇー鈴音さんも犬飼ってたんですか。知らなかった」
「…… 全然聞いてないの?姉さんの事」
美鈴さんの言葉に、うっと声が詰まる。『ちっとも信用されてないのね』とでも言われたようにすら感じた。気不味さに、視線をそらしてしまう。話し掛けなければよかったかもとさえ、少し思えてきた。
「んじゃあれか。姉さんの過去も何も知らないわけだ」
「…… まぁ」
「そっかぁ…… まぁ、たいした秘密がある訳じゃないのよ?んでも、二人の溝の深さをちょっと見ちゃった気がしただけ。ごめんね?」
何も話せず、視線を反らしたまま黙る。
やっぱこの人苦手かも。鈴音さんと同じ顔で、全てを見透かしたような発言が多いから。
「そんな日野君に一ついい事教えてあげる!私は君の恋心の邪魔をしたいわけじゃないしね」
「え?」
俺って単純かも。美鈴さんのそんな一言を聞いただけで、パッと顔色まで変わってしまった。
「まぁ座りなよ」と言いながら、犬の頭を撫でつつ、先に座った美鈴さんが芝生を叩く。俺は言われるままに、美鈴さんの隣に座った。
「姉さんね、あれでいて結構モテるのよ。でも、毎回必ず姉さんがフラれるの」
「なぜです?あんなに美人なのに」
「『君の強い所が好き』って寄って来た男が、必ずのように『君は一人でも生きていける強い人だから』って、他に女作って去っていったなぁ……。私に惚れた大馬鹿もいて、速攻お断りしてやった事もあったわ」
「なんて勝手な」
「姉さんは確かに腕っ節は強いし、勝気な態度だけどね…… アタシよりもずっと弱い人なの」
黙ったまま、言葉の続きを待つ。
「…… だから自分の年齢も気になるし、世間体も気にし過ぎてる。色々なものが姉さんの足枷になってるの」
「そういうのも、簡単に超えれそうなふうに見えるのに」
「うん、だから男は皆姉さんから去って行くんだよ。出来ないのに、出来ないって言えないから、俺なんか居なくてもいいねってさ」
美鈴さんの犬が俺の方へやってきて、頭を脚に擦り付けてくる。答えるように頭を撫でると嬉しそうに目を細めてくれた。
「日野君は、姉さんのどこが好きなの?」
「えっと…… 腕っ節の強い所ですかね、やっぱり。…… でも最近は優しいい所かなぁ。口ではなんだかんだ言いながらも、ちゃんと構ってくれるし」
「…… そうか、えらいえらい。ちゃんと見てるじゃない」
そう言いながら腕をグッと伸ばして、俺の頭を美鈴さんが撫でてくれた。この歳で頭を撫でられ、ちょっと気恥ずかしい。
「本当に姉さんが好きならね、大事にしてあげて欲しいの。見捨てないで、決して強い人じゃないんだって事を忘れないであげてね」
「…… はい」
「君は、日野くんはホントにイイコね」
「…… ——なんでアンタがここに居るのよ」
荒れる息を整えながら、鈴音さんがこっちに戻って来た。
「お疲れ様」と言いながら、美鈴さんがタオルを差し出す。それを受け取り、鈴音さんが汗を拭いた。
長い髪をポニーテールにして、上下黒のジャージを着ている。腕に持つリードの先には、先程話しにあがったシベリアンハスキーのカイの姿があった。
「走ってたら偶然美鈴さんと会って、少し話してたんです」
「…… そう」
「あの、もう戻るんですか?」
「アンタはどうするの?」
「俺はもうちょっと走ろうと思いますけど」
「…… じゃあ、ついてきな。美鈴、カイの事頼んでいいかい?」
「いいよ、いつものように大家さんに頼めばいい?」
「うん、そうして。コイツの根性見てやってくる」
美鈴さんに犬のリードを渡し、俺の返事も聞かぬまま、鈴音さんが走り出す。
そんな姿を見て美鈴さんが「なんだ、姉さんもまんざらじゃないんじゃない」と、鈴音さんに聞こえないくらい小さな声で言った。
息を切らし、鈴音さんの後ろを一緒に走る。ペースが結構早くって、一緒にジョギングをしていると言うよりは競走している気分になってきた。
負けたくないっ!
必死に走り抜こうとするが、抜いてもすぐに追い抜かれてしまう。常に俺が一歩後ろを走っている状態が、随分続いた。
「鈴音さんっ」
「な、何?」
「何でそんなに早いんです?もっとペース落とさないと、もちませんよ?」
「それはアンタが軟弱だからでしょ。どうせ最近サボってたんだろ?」
「…… ず、図星です」
「あははっやっぱりね。ダメだよ、男はもっと鍛えないと!」
「…… 俺、鈴音さんに追いつきたい一心でずっと今までやってきたから」
「……」
「実際に再会できたら、嬉し過ぎてちょっと気が緩んだっていうか——」
ピタッと止まり、鈴音さんが俺の方を振り返った。
「アタシのせいか」
「違います!俺が怠けてただけです。それに気が付いたんで、今日からまた頑張ろうと思ってます」
「何だ、ちゃんと分かってるじゃないか」
ニコッと笑いかけてくれる、上機嫌の鈴音さん。
ヤバイ、すげぇ可愛い……。
「俺、やっぱどうしても鈴音さんが大好きです!俺と付き合ってもらえませんか?」
「な!何を言い出すんだ」
眉をひそめ、一歩下がられてしまった。
「色々な人の話聞きました。女の人の意見も知らないとと思って。結構色々な事情があるんだなってのはわかったんですが、それでもやっぱり俺は鈴音さんがいい」
「美鈴とも話してたのはそれか。一体何を聞いた?」
「年下がダメな理由くらいで、鈴音さんの個人情報は犬の名前くらいです」
最後の話の内容はきっとオフレコだそうと思い、黙っておいた。
「じゃあ、それで納得してもらえないか?大人には色々あるんだ」
「できません…… 鈴音さんの色々な一面を見て益々好きになったのに、今更そんな事」
「たった数週間のうちの、しかも数時間程度で何がわかるんだ。わかったフリして結局、男ってのはアタシを見ていない」
「見てますよ!強いフリしてるだけで、本当は料理やお花が好きなでとても女性らしいし。そして、傷つきやすい人だって、ちゃんとわかってる!」
図星だったんだろうか、くっと声を詰まらせ、鈴音さんが黙った。
「俺、本当に鈴音さんが……」
「黙れ!」
キッと睨まれ、肩がビクッと震えた。鈴音さんの目に少し涙が浮かんでいたから。
「どうして…… その言葉を言うのが、お前なんだ」
辛そうに顔を歪め、その顔を見せまいと下を向く。いつもの強気な雰囲気が消え、そこにいる女性がとてもか弱く見えた。
そんな鈴音さんをギュッと胸に抱き、頭を撫でる。
ああ、こんなに細い肩をしていたんだ…… 知らなかった。少し泣いているのだろうか?肩が震えている気がする。
「鈴音さん、俺何度だって言います。絶対諦めません。今までだってずっと追いつこうと頑張って、全国大会で優勝までできるくらいになったんだ」
抱き締める手に力が入る。
「好きですよ、ちゃんと。憧れや思い込みなんかじゃない…… 何気ない優しさをくれる、貴女が好きなんだ」
胸の中で首を横に振られた。ここまで言っても、否定されちゃったか。
「俺と付き合って下さい!結婚とかは、俺がもっと追いつくまで、待ってはもらえませんか?大学もあるから四年半くらいはかかるけど……」
「できるわけないがない、私は…… 好きじゃない」
グッと俺の胸を押し、鈴音さんが離れようとする。
「もうね、疲れたんだ。そういう恋愛には。待っても無駄、絶対に気持ちは変わる。しかも…… 待たせている方がな」
「そういう思いをした事があるんだ?」
「……」
返事がない、きっと過去にそういう経験をしたんだ。
……どうやったらわかってもらえる?
言葉は信じてもらえない。鈴音さんの心の壁は簡単に崩せるようなものではなさそうだ。そう思った俺は、少しだけ腕の力を緩め、鈴音さんの唇に自分の唇を重ねてみた。
ほんの一瞬。
柔かいその感触に、一瞬で終わるのを悔やみたくなるくたいの恍惚感を感じた。
チラッと鈴音さんの様子を窺うと、顔を真っ赤にして口を押さえている。
「少しは伝わった?」
「な、何がだ!」
「俺の気持ち」
「わ、わかるか!このスケベ!」
「スケベって…… 酷いなぁ、初めてだったのに」
聞き慣れない言葉に一瞬戸惑ったが、今度はギュッと強く抱き締めて、先程よりも長く唇を重ねてみた。逃げられないように、ちょっと鈴音さんの体を持ち上げて。
「んんんん‼︎」
「これでわかる?」
「アホかぁぁぁ‼︎」
唇を離すなり、さっきよりも怒られてしまった。まぁ、当然と言えば当然か。
体を必死に動かし、「わかったからはぁなぁせー!」と言いながら俺の腕から逃げようとする。確かに動く力はかなり強いが、男女の差だけでなく、こっちは空手で鍛えている体だ。抜け出す事も出来ず、鈴音さんが悔しそうな顔をした。
「はあはあはあ…… 」
暴れ過ぎで息があがっている。さっきまで走っていたせいもあってか、汗は滝のように流れ落ち、首まで真っ赤だ。
可愛い…… すんげぇ可愛い!
壊れそうなくらいに心臓がドキドキしてきているのが自分でもわかる。それと、少し感じる不思議な衝動。
「抵抗するのは、終わった?」
首を傾げてそう言うと、また睨まれてしまった。
◇
鈴音さんとジョギングをした、二日後の月曜日。
「…… ふーん?」
「なんだよ人の顔をマジマジ見て。男に見られても嬉しくないぞ?」
学校の休憩時間、ジーッと板垣に見続けられ、気持ち悪さにちょっと引く。
「お前さ、休みの間になんかいい事あっただろ?」
「分かるのか⁈」
バッと立ち上がり、大声で叫んでしまった。
次の授業の為に予習中のクラスメイト達が、五月蝿い黙れと言いたげな視線でこっちを見てくる。そんな視線がグサグサと刺さり、おずおずとした態度で座って、周囲に向かい数度頭を下げた。
またやっちまったなぁ。
「元気なのよろしいんだが、場所は選べよ?んで、何があった?」
俺の近くに寄り、板垣が小声で訊く。
「わりぃ…… いやさ、実は…… 鈴音さんと付き合える事になったんだよ」
つい頬が緩んでしまう。
「は?マジかよ⁈嘘だろう?」
ガタッと椅子をならし大声をあげた為、今度は板垣が白い目で見られた。
「しー!うるせぇって」
「…… すまん。さすがにビックリして」
咳払いをし「よくそこまで話が進んだなぁ…… まだ三週間くらいだろう?会ってから」と板垣。
「付き合ってはもらえる事になったが、好きにはなってもらえてない」
「おい待て。なんじゃそりゃ」
「ひとまずは俺を知ってもらおうと思って。でもまぁ、キスらしきもんはしたぞ!」
合意のキスじゃないし、最後の最後まで流されてもくれなかった為『らしき』と付けてしまった。
「らしきって何だよ…… おいおいおい…… 」
「俺が好きだって事は何度も伝えたんだけど、わかってもらえなくてさ。どうしょうもなくなって…… ちょっとな」
「無理にしたのか⁈一歩間違えば犯罪だぞ?しかも、大騒ぎしたら大人側が逮捕されるんじゃね?…… それでもって、意外に寛大な人でよかったなぁ」
うぐっ。確かにそうかも。
授業開始のチャイムが鳴り、「やばっ、また後でな!」と慌てて板垣が自分の席に戻る。
「おお」
俺も急いで次の授業で使う教科書を机の中から取り出し、先生が来るのを待った。
授業中、『わかったから離せ!』なんて合意の仕方で付き合うまでこぎつけはしたが、この先どうしたもんか。考えるも、いい考えはさっぱり浮かばなかった。
◇
放課後。今日もそそくさと帰る準備をして喫茶店に向かおうとすると「今日は俺も行く」と板垣に声をかけられた。
「えぇ?来るなよ」
即座に断るも、聞く気が無いらしく「ほら、急げよ」と言われ、渋々後に続く。
学校を出て、喫茶店のある商店街を二人で歩いていると、随分前に喫茶店の前で見かけたおばちゃんに声をかけられた。
「あら!アンタこの間の学生さんじゃない」
「こんにちは」と一礼。
「あらあら、こんにちは。これから今日も鈴音ちゃんのお店かい?」
見られてたのかよ。
「ええ、まぁ……」
「アンタが来るようになってからね、鈴音ちゃんの店にさ、学生さんのお客が随分増えたのよ。もしかして売り上げになるからって呼んであげたのかい?」
「え?いいえ、そういう事は全然してないですよ?」
キョトンとした顔で俺がそう言うと、おばちゃんは「あら、私の勘違いかい」と首をかしげた。
「アンタくらい顔がいいと、可愛い知り合いも一杯いるもんだねぇと思ったんだけど」
ニマニマと笑いながら肘で突付かれ、つい反射で後頭部をかく。こんなことやるのは再放送の古いドラマくらいかと思ってたけど…… 流石おばちゃんだ。
「まぁいいや。あんまりあの子に迷惑かけるんじゃないよ?この商店街の看板娘の一人なんだからね」
「はい、気を付けます」
「さて、夕飯の買い物でもしようかしらね」と言いながら、ドスドスと豪快におばちゃんが去って行く。
「へー…… 神さんって看板娘なんだ?ってか、まだ『看板娘』なんて言葉使う人いるのな」
「俺はそっちの話より、増えた客の話が気になるんだが」
顔を見合わせ、行かん事にはわからないと、お店を目指すことにした。
◇
「こんにちはー」
そう言いながらドアを開けて板垣が中に入り、俺が続いて来店しようとした。だが、奴が「うわっ」と声をもらして立ち止まり、板垣の背中にぶつかってしまった。
「なんだよ、早く入れって」
押しのけて店内を見ると、確かに先程聞いた通り、普段以上に随分と学生客が多かった。気のせいか、こっちを見てくる人も多い気がする。
キョロキョロしながらカウンターのいつもの席に座ると、「いらっしゃいませ。ご注文は?」と鈴音さんがやけに事務的な言い方で話し掛けてきた。
「え?…… あ…… えっと…… いつもの?」と言うと「少々お待ち下さい」の返事。
ん?どうしたんだ?今日は随分と堅苦しいけど。
付き合うだなんだって話を一昨日の朝にしたばかりだ。そのせいなのか?と思うも、ちょっと違う気もする。何だかすごく機嫌が悪い。それだけは確かなようだ。
どうしていいか困っていると、「あのぉ」と店内に居た子に話し掛けられた。
「はい?」と返事をすると、後ろから『こっち向いたよ!頑張って!』などと、色々な声が四方から小さく聞こえる。
「先輩、よかったらこっちで一緒にお茶しませんか?」
もじもじしながら言う君は…… 一年生か。
「ごめん、友達と一緒に来てるから」
間髪入れずに断るが「お友達もご一緒に」と言われ、腕を引っ張られる。
チラッと鈴音さんの方を見ると、少し肩が震えてる気がしなくもない。
「ゆっくりコイツと話したい事があるからっ、ごめん!無理!」
捕まれていない手で拝むように断ると、残念そうな声で「……… じゃあまた今度」と、渋々席に戻ってくれた。
待て待て待て!いったい今のはなんだ?
状況が把握できず頭を抱えていると、またさっきの子が「あの!」と声をかけてきた。
勘弁してくれよ!
そう思うも、無下に扱って傷つけてもマズイと思い「はい?」と振り返り、つい返事をする。
「私の連絡先受け取って下さい!よかったら、先輩のもお聞きしたいんですが!」
そう言いながら、一枚の可愛らしい柄の入ったメモを差し出された。
がああああああっ!なんだってよりにもよって鈴音さんの目の前でそういう事やるかな⁈
これで相手が男だったら、間違いなく顔面に拳を入れている。
それぐらい、イライラしてきた。
深呼吸をして気持ちを落ち着けようと試みる。そんな俺を不思議に思ったのか「先輩?どうしました?」とその子が訊いてきた。
「ごめん、なんでもない」
俯きながら手を振ると、『脈ありなんじゃないの?』とか言う、的外れな外野の声が。
ねえ!まったく、これっぽっちもねぇよ!
——と叫びたい。俺が好きなのは今さっき初めて会ったお前じゃない、すぐ後ろに居る鈴音さんだって!
黙ったまま俯き、受け取ろうとしない俺を見かねて、板垣が口を開いた。
「わるい、コイツさ彼女とメールとか電話し過ぎて親にスマホの契約止められたんだわ」
デタラメな内容ではあったが、メモを差し出してきた後輩に、板垣がそれっぽい事を言って断ってくれた。
「…… え?先輩、彼女いるんですか?」
ビックリしたような声の後輩。
「ごめん、俺みたいなのでも彼女いるんだよ。だから…… そういうのはもらえないかな」
頭をかきながら、ハッキリ伝えた。
コトッ——
「お待たせしました」
鈴音さんが俺の席に、カフェオレの入るカップを差し出してくれる。恐る恐る顔を見ると、さっきより柔かい感じがした。
友達の力は借りたが、それでもちゃんと断ったからだろうか?
って事は、少しは嫉妬とかしてくれた?
確信したわけでもないのに、ちょっと嬉しい気持ちになってきた。そんな俺の表情の変化を不思議に思ったのか、後輩が首を傾げる。
マズイっ、ここで鈴音さんがその彼女だってばれたら、鈴音さんに迷惑がかかるかも。やっと付き合うって状態までこぎつけたのに、面倒だからってまた元通りはイヤだ!
「おいおい、彼女の話をしたくらいで思い出し笑いするなよ」
板垣が背中をバンバン叩きながらフォローを入れてくれる。
「…… あ、じゃあ私はこれで」
これ以上話し掛けてもしょうがない。そう思ってくれたのか、後輩の子が席に戻ってくれる。
危なかった…… 。板垣の注文分は、俺が払おうと心に決めた。
結局、今日はあれからも全然鈴音さんとは話す事が出来なかった。
連絡先を渡そうとして来たグループの子達はすぐに帰ったのだが、入れ替わりでまた何人か俺の所へと来て、話し掛けてくる。さっきと似たようなやり取りを、酷い事に今日だけで三回はさせられただろうか。
もう時間もマズイと思い、帰る前に会計をした時、レシートと一緒に鈴音さんから小さな紙を渡された。
なんだろう?そう思うも、念の為その場では見ないで店を出る。
周囲を見渡し、板垣以外に誰もいない事を確認してからメモを見てみると、そこにはメールアドレスと携帯のものらしき番号が書かれていた。
よっしゃああああ!と叫びたいくらい嬉しかったが、今はまだ店の前だ。
グッと堪え、無言のまま地面を何度も踏みつける。振り返り店内をチラッと見ると、鈴音さんと目が合った。
照れくさそうな顔をしたと思ったら、プイッと顔をそらされる。
うわー可愛いなぁ…… ホント、いい意味で年上だとは思えないや。
◇
帰宅後すぐに飯と風呂、宿題とを済ませ、スマホを手に持ちベットの上で横になる。
うつぶせになり、スマホの連絡先マークをタップして、もらったメモの通りに鈴音さんの情報を登録した。
速攻で電話しようとも思ったが…… 素直なタイプではない鈴音さんに電話をしても、勢いですぐに切られると判断し、メールを送る事に。
「『今日は色々すみませんでした。店すごい混んでましたね』っと」
慣れない手つきでどうにか打ち込む。
さて、その後何を書こうか。
「『アドレスありがとうございます』とかか?」
必死に色々考え、長々と文を打ち込み、自分の携帯番号を最後に入れて、送信マークを押す。
「…… おっし」
達成感を感じながら横になったままでいると、ちょっとウトウトしてきた。
うぐ…… もうまずい。今日は疲れたんだな…… 薄れる意識の中そう思った時、スマホの着信音が鳴り、体がビクッと跳ねた。
「え?あ?あぁ、電話か…… 」
慌てて電話に出ると『長い!』といきなり叫ばれ、耳が痛い。
「…… そんな大きな声出さなくても聞こえるよ」
『メールはもっと簡潔に済ませろ、面倒じゃないか』
「…… あれ?鈴音さん?」
『アタシ以外誰がこの番号からかけるっていうんだ』
「画面見てませんでした」
『確認してから出ろ!』
「だ、だから、大きな声はちょっと…… って、メールの返事で電話くれたんですか?メールでもよかったのに」
『あんなに長いやつに、返事なんかいちいち打ってられるか、アホっ』
女の人でも苦手な人いるのか…… ちょっと驚いた。
「でも嬉しいなぁ、電話出来るなんて」
頬を緩めながら正直に伝える。
『うくっ…… 』と言ったまま鈴音さんが黙った。
「そういや。メルアドとか、どうして教えてくれたんです?」
いきなりだったが、率直に感じた疑問をぶつけてみた。
『…… な、何度も嬉しそうに彼女とメールがどうこうと話してたから…… 。そんなに知りたいのかと、思って——』
聞こえるか聞こえないかってくらい小さな声で、鈴音さんがボソボソと話す。
うわー照れてるっ!これは絶対に照れてる!
「何であんなに店混んでたんです?昨日まで、あそこまではいなかったのに」
『お前がいつも来る時間の問題もある。昼時とか、混む時はあれくらい普通だ』
「…… なんだ。じゃあ、俺のせいじゃなかったんだ、今日のは」
『イヤ、今日のは全部アンタのせいだよ。あれだけ声かけられててわからんなんて、頭悪いのか?』
声から嫌味な色を感じ取れる。悪かったなぁ、頭悪くて。
「どうせ…… 俺はああいうのにどう対応していいかわからない子供ですよ」
『そういう事を言いたいんじゃない。もっとハッキリ断らないと、女は引き下がらないぞ?』
「引いて欲しいんだ?俺が取られるのイヤ?」
ちょっと意地の悪い声で言ってみた。少しくらい、いいだろうと思って。
『違う!別に、好きで付き合ってるわけじゃないだからな』
事実でも、事実だからハッキリ言われて何かムカツク。
「まぁ、そうですけど」
『とにかく、ああいう客が多いのは困るんだ。アンタのせいじゃないのはわかってるが…… その、あまり目立つな。只でさえ髪もこの数週間で少し伸びてきて、イメージがちょっと変わってきたというか…… 元々、目を引く容姿なわけだし』
「え、俺カッコイイの?」
『一般論だ!アタシがそう思ってる訳じゃない!』
そう言うも、なんか照れ隠しで言ってるようにしか聞こえない。声に焦った感じが見え隠れするからだ。
「俺、そんな風に照れる鈴音さんも好きですよ」
『う、五月蝿い!照れてる訳がないだろうがっ』
「すごく可愛い」
『年上をからかうな!アホが!』
「本気ですってば、絶対に俺の事好きになってもらいますからね」
『アタシは…… アンタなんか大っ嫌いだ‼︎』
プツッ
ツーツーツー——
「え?」
…… 切られた。
怒らせちゃったみたいだなぁ。
ため息をつきつつ、自分も通話を切る。明日また店行って謝るか。でも、どう言って謝るっていうんだ?俺は悪い事してないし。
形だけかもしれないが、付き合ってるんだし、好きだって伝えるのは悪い事じゃないはずだ。
鈴音さんだって、それくらいは予測していただろうし。
まいったなぁ、何て言えばいいのかサッパリ思い付かない。
…… 考えても仕方ない、今日はもう寝よう。
「うぐうう……… 今何時だよ…… 」
枕の側で鳴るスマホを手に取り、時間を見る。AM6:00の文字にため息がこぼれた。
休日だっていうのに目覚ましをかけたまま寝ちまったのかよ、まったく。もう一眠りするか?店が開くまではまだまだ時間があるし。
それよりも、近所でもランニングしようか。最近運動不足気味だしなぁ。
そうと決まれば即行動だ!
「おっしっ!」
バッと布団から体を勢いよく起こし、着替えをクローゼットの中から出す。ランニング用のジャージに着替えて一階へ降りると、朝食の準備をしてくれていたのか、母さんもすでに起きていた。
「おはよう、朝メシなに?」
「あら、アンタ部活もないのに何でこんな早くに起きてんの」
「ランニングしようかと思って」
そう言いながら、テーブルにつく。走る前に食べるつもりは無かったんだが、調理する匂いを嗅ぐと反射的にお腹が空きてきた。
「えらいね、今体力落としたら大学でキツイかもしれないからねぇ。ちゃんと先のこと考えてるんじゃない、アンタも」
「俺だっていつまでも子供じゃないよ」
ベーコンエッグにサラダ。牛乳とご飯茶碗を母さんが出してくれる。箸やコップは自分で食器棚から取り出し、お茶の入る容器も冷蔵庫からテーブルへと並べた。
「そんな事言うんだったら彼女の一人でも紹介して欲しいけどねぇ…… もういるんでしょ?その歳になったら」
対面の席に座り、母さんが「いただきます」と言って、自分の分を食べ始める。
「いないよ」
「なによ。せっかく見た目よく生んでやったのに、アンタはもったいないねぇ」
「『彼女なんか作って遊んでないで、勉強でもしな』って方が一般的な親じゃないのかよ」
ついつい呆れ声が出てしまう。
「そうね、勉強はした方がいいわ確かに。でもねぇ…… 空手空手ばっかりで、アンタ自分の事に見向きもしないでここまできたから心配なのよ」
確かに、今までずっと部活か道場かの生活だった。…… でも、そもそもの動機が不純である事は親には言っていない。本気で心配してくれているのようなので、ちょっと心苦しくなった。
「もしさぁ…… もしだよ、俺がすんげえ年上の人連れて来たらどう思う?」
「は?」
「友達がさ、十一歳上の人にすんげぇ憧れてて、二人が付き合うとかってなったら親としてはどう思うのかな、とさ」
自分がだとは言えず、適当に誤魔化す。
「…… 反対するんじゃないかしら。そんなに年上だと、親としては孫の事とかちょっとは考えちゃうしねぇ」
やっぱり、女性からの意見は厳しい。
「でもねぇ、お互い本気だったらありなんじゃないかしら。男が若い子と浮気するんじゃないかとか、過剰に心配してギスギスする様な事が無いようにしないと、上手くいかなくなることあるからそれは心配ねぇ」
「そっかぁ…… 」
「難儀な相手に憧れてるねぇ高校生だっていうのに、アンタの友達は」
「…… そうだな」
やっぱ親に嘘をつくのはちょっと後ろめたいや。
さてと、どこを走ろうか。
外に出て、ルートを考えながら軽く柔軟体操をやる。ご飯を食べてから時間も開けたし、きっと腹痛の心配は無いだろう。
「行った事ない道を行くか」
ぼそっと呟き、俺はいつもとは反対方向に走り出した。
二十分くらいは走っただろうか。いつもなら全然平気だったはずなのに、結構疲れてきた。
やばいな、体力落ちてる。
少し焦る気持ちが出てきた。もっと真面目にやろう、明日から毎日走らないとダメだ。
更に走るうち、河川敷が見えてきた。川の側を走るのも悪くないなと思った俺は少し急な坂を上り、川沿いに向かい走って行く。
でも、あと十分くらい走ったら引き返すか…… 。そう思いながら川の方をちらっと見た時、見覚えのある背中が目に止まった。
あれ?あの長い髪のお姉さんって——
「美鈴さーん?」と、大きな声で話し掛ける。すぐに気が付いてくれたようで、こちらの方へ手をふってくれた。
犬が一緒にいる、散歩中なのかも。
「おはようございます、散歩ですか?」
「おはよう。えぇ、そうよ。花屋って土日が案外暇なのよ。だからあえて早起きして散歩中ー。君はジョギング?」
「君じゃなく、日野ですよ」
「ふふ。じゃあ、日野君と呼ぶわね。それで、その格好はやっぱり?」
「はい。運動不足になるとマズイと思って、今日から再開したんですよ」
「そうなの、てっきり姉さんを追って来たのかと思ったわ」
「え?す、鈴音さんも居るんですか?」
疲れてきていた体から、一気に疲労が消し飛んだ。
「うん。この付近をずっと走ってるわよ、カイと一緒にね」
しゃがみこみ、犬の頭を撫でる美鈴さん。飼っている犬は、焦げ茶色をした柴犬のようだ。
「カイ?」
「姉さんの飼ってるシベリアンハスキーの名前よ」
「へぇー鈴音さんも犬飼ってたんですか。知らなかった」
「…… 全然聞いてないの?姉さんの事」
美鈴さんの言葉に、うっと声が詰まる。『ちっとも信用されてないのね』とでも言われたようにすら感じた。気不味さに、視線をそらしてしまう。話し掛けなければよかったかもとさえ、少し思えてきた。
「んじゃあれか。姉さんの過去も何も知らないわけだ」
「…… まぁ」
「そっかぁ…… まぁ、たいした秘密がある訳じゃないのよ?んでも、二人の溝の深さをちょっと見ちゃった気がしただけ。ごめんね?」
何も話せず、視線を反らしたまま黙る。
やっぱこの人苦手かも。鈴音さんと同じ顔で、全てを見透かしたような発言が多いから。
「そんな日野君に一ついい事教えてあげる!私は君の恋心の邪魔をしたいわけじゃないしね」
「え?」
俺って単純かも。美鈴さんのそんな一言を聞いただけで、パッと顔色まで変わってしまった。
「まぁ座りなよ」と言いながら、犬の頭を撫でつつ、先に座った美鈴さんが芝生を叩く。俺は言われるままに、美鈴さんの隣に座った。
「姉さんね、あれでいて結構モテるのよ。でも、毎回必ず姉さんがフラれるの」
「なぜです?あんなに美人なのに」
「『君の強い所が好き』って寄って来た男が、必ずのように『君は一人でも生きていける強い人だから』って、他に女作って去っていったなぁ……。私に惚れた大馬鹿もいて、速攻お断りしてやった事もあったわ」
「なんて勝手な」
「姉さんは確かに腕っ節は強いし、勝気な態度だけどね…… アタシよりもずっと弱い人なの」
黙ったまま、言葉の続きを待つ。
「…… だから自分の年齢も気になるし、世間体も気にし過ぎてる。色々なものが姉さんの足枷になってるの」
「そういうのも、簡単に超えれそうなふうに見えるのに」
「うん、だから男は皆姉さんから去って行くんだよ。出来ないのに、出来ないって言えないから、俺なんか居なくてもいいねってさ」
美鈴さんの犬が俺の方へやってきて、頭を脚に擦り付けてくる。答えるように頭を撫でると嬉しそうに目を細めてくれた。
「日野君は、姉さんのどこが好きなの?」
「えっと…… 腕っ節の強い所ですかね、やっぱり。…… でも最近は優しいい所かなぁ。口ではなんだかんだ言いながらも、ちゃんと構ってくれるし」
「…… そうか、えらいえらい。ちゃんと見てるじゃない」
そう言いながら腕をグッと伸ばして、俺の頭を美鈴さんが撫でてくれた。この歳で頭を撫でられ、ちょっと気恥ずかしい。
「本当に姉さんが好きならね、大事にしてあげて欲しいの。見捨てないで、決して強い人じゃないんだって事を忘れないであげてね」
「…… はい」
「君は、日野くんはホントにイイコね」
「…… ——なんでアンタがここに居るのよ」
荒れる息を整えながら、鈴音さんがこっちに戻って来た。
「お疲れ様」と言いながら、美鈴さんがタオルを差し出す。それを受け取り、鈴音さんが汗を拭いた。
長い髪をポニーテールにして、上下黒のジャージを着ている。腕に持つリードの先には、先程話しにあがったシベリアンハスキーのカイの姿があった。
「走ってたら偶然美鈴さんと会って、少し話してたんです」
「…… そう」
「あの、もう戻るんですか?」
「アンタはどうするの?」
「俺はもうちょっと走ろうと思いますけど」
「…… じゃあ、ついてきな。美鈴、カイの事頼んでいいかい?」
「いいよ、いつものように大家さんに頼めばいい?」
「うん、そうして。コイツの根性見てやってくる」
美鈴さんに犬のリードを渡し、俺の返事も聞かぬまま、鈴音さんが走り出す。
そんな姿を見て美鈴さんが「なんだ、姉さんもまんざらじゃないんじゃない」と、鈴音さんに聞こえないくらい小さな声で言った。
息を切らし、鈴音さんの後ろを一緒に走る。ペースが結構早くって、一緒にジョギングをしていると言うよりは競走している気分になってきた。
負けたくないっ!
必死に走り抜こうとするが、抜いてもすぐに追い抜かれてしまう。常に俺が一歩後ろを走っている状態が、随分続いた。
「鈴音さんっ」
「な、何?」
「何でそんなに早いんです?もっとペース落とさないと、もちませんよ?」
「それはアンタが軟弱だからでしょ。どうせ最近サボってたんだろ?」
「…… ず、図星です」
「あははっやっぱりね。ダメだよ、男はもっと鍛えないと!」
「…… 俺、鈴音さんに追いつきたい一心でずっと今までやってきたから」
「……」
「実際に再会できたら、嬉し過ぎてちょっと気が緩んだっていうか——」
ピタッと止まり、鈴音さんが俺の方を振り返った。
「アタシのせいか」
「違います!俺が怠けてただけです。それに気が付いたんで、今日からまた頑張ろうと思ってます」
「何だ、ちゃんと分かってるじゃないか」
ニコッと笑いかけてくれる、上機嫌の鈴音さん。
ヤバイ、すげぇ可愛い……。
「俺、やっぱどうしても鈴音さんが大好きです!俺と付き合ってもらえませんか?」
「な!何を言い出すんだ」
眉をひそめ、一歩下がられてしまった。
「色々な人の話聞きました。女の人の意見も知らないとと思って。結構色々な事情があるんだなってのはわかったんですが、それでもやっぱり俺は鈴音さんがいい」
「美鈴とも話してたのはそれか。一体何を聞いた?」
「年下がダメな理由くらいで、鈴音さんの個人情報は犬の名前くらいです」
最後の話の内容はきっとオフレコだそうと思い、黙っておいた。
「じゃあ、それで納得してもらえないか?大人には色々あるんだ」
「できません…… 鈴音さんの色々な一面を見て益々好きになったのに、今更そんな事」
「たった数週間のうちの、しかも数時間程度で何がわかるんだ。わかったフリして結局、男ってのはアタシを見ていない」
「見てますよ!強いフリしてるだけで、本当は料理やお花が好きなでとても女性らしいし。そして、傷つきやすい人だって、ちゃんとわかってる!」
図星だったんだろうか、くっと声を詰まらせ、鈴音さんが黙った。
「俺、本当に鈴音さんが……」
「黙れ!」
キッと睨まれ、肩がビクッと震えた。鈴音さんの目に少し涙が浮かんでいたから。
「どうして…… その言葉を言うのが、お前なんだ」
辛そうに顔を歪め、その顔を見せまいと下を向く。いつもの強気な雰囲気が消え、そこにいる女性がとてもか弱く見えた。
そんな鈴音さんをギュッと胸に抱き、頭を撫でる。
ああ、こんなに細い肩をしていたんだ…… 知らなかった。少し泣いているのだろうか?肩が震えている気がする。
「鈴音さん、俺何度だって言います。絶対諦めません。今までだってずっと追いつこうと頑張って、全国大会で優勝までできるくらいになったんだ」
抱き締める手に力が入る。
「好きですよ、ちゃんと。憧れや思い込みなんかじゃない…… 何気ない優しさをくれる、貴女が好きなんだ」
胸の中で首を横に振られた。ここまで言っても、否定されちゃったか。
「俺と付き合って下さい!結婚とかは、俺がもっと追いつくまで、待ってはもらえませんか?大学もあるから四年半くらいはかかるけど……」
「できるわけないがない、私は…… 好きじゃない」
グッと俺の胸を押し、鈴音さんが離れようとする。
「もうね、疲れたんだ。そういう恋愛には。待っても無駄、絶対に気持ちは変わる。しかも…… 待たせている方がな」
「そういう思いをした事があるんだ?」
「……」
返事がない、きっと過去にそういう経験をしたんだ。
……どうやったらわかってもらえる?
言葉は信じてもらえない。鈴音さんの心の壁は簡単に崩せるようなものではなさそうだ。そう思った俺は、少しだけ腕の力を緩め、鈴音さんの唇に自分の唇を重ねてみた。
ほんの一瞬。
柔かいその感触に、一瞬で終わるのを悔やみたくなるくたいの恍惚感を感じた。
チラッと鈴音さんの様子を窺うと、顔を真っ赤にして口を押さえている。
「少しは伝わった?」
「な、何がだ!」
「俺の気持ち」
「わ、わかるか!このスケベ!」
「スケベって…… 酷いなぁ、初めてだったのに」
聞き慣れない言葉に一瞬戸惑ったが、今度はギュッと強く抱き締めて、先程よりも長く唇を重ねてみた。逃げられないように、ちょっと鈴音さんの体を持ち上げて。
「んんんん‼︎」
「これでわかる?」
「アホかぁぁぁ‼︎」
唇を離すなり、さっきよりも怒られてしまった。まぁ、当然と言えば当然か。
体を必死に動かし、「わかったからはぁなぁせー!」と言いながら俺の腕から逃げようとする。確かに動く力はかなり強いが、男女の差だけでなく、こっちは空手で鍛えている体だ。抜け出す事も出来ず、鈴音さんが悔しそうな顔をした。
「はあはあはあ…… 」
暴れ過ぎで息があがっている。さっきまで走っていたせいもあってか、汗は滝のように流れ落ち、首まで真っ赤だ。
可愛い…… すんげぇ可愛い!
壊れそうなくらいに心臓がドキドキしてきているのが自分でもわかる。それと、少し感じる不思議な衝動。
「抵抗するのは、終わった?」
首を傾げてそう言うと、また睨まれてしまった。
◇
鈴音さんとジョギングをした、二日後の月曜日。
「…… ふーん?」
「なんだよ人の顔をマジマジ見て。男に見られても嬉しくないぞ?」
学校の休憩時間、ジーッと板垣に見続けられ、気持ち悪さにちょっと引く。
「お前さ、休みの間になんかいい事あっただろ?」
「分かるのか⁈」
バッと立ち上がり、大声で叫んでしまった。
次の授業の為に予習中のクラスメイト達が、五月蝿い黙れと言いたげな視線でこっちを見てくる。そんな視線がグサグサと刺さり、おずおずとした態度で座って、周囲に向かい数度頭を下げた。
またやっちまったなぁ。
「元気なのよろしいんだが、場所は選べよ?んで、何があった?」
俺の近くに寄り、板垣が小声で訊く。
「わりぃ…… いやさ、実は…… 鈴音さんと付き合える事になったんだよ」
つい頬が緩んでしまう。
「は?マジかよ⁈嘘だろう?」
ガタッと椅子をならし大声をあげた為、今度は板垣が白い目で見られた。
「しー!うるせぇって」
「…… すまん。さすがにビックリして」
咳払いをし「よくそこまで話が進んだなぁ…… まだ三週間くらいだろう?会ってから」と板垣。
「付き合ってはもらえる事になったが、好きにはなってもらえてない」
「おい待て。なんじゃそりゃ」
「ひとまずは俺を知ってもらおうと思って。でもまぁ、キスらしきもんはしたぞ!」
合意のキスじゃないし、最後の最後まで流されてもくれなかった為『らしき』と付けてしまった。
「らしきって何だよ…… おいおいおい…… 」
「俺が好きだって事は何度も伝えたんだけど、わかってもらえなくてさ。どうしょうもなくなって…… ちょっとな」
「無理にしたのか⁈一歩間違えば犯罪だぞ?しかも、大騒ぎしたら大人側が逮捕されるんじゃね?…… それでもって、意外に寛大な人でよかったなぁ」
うぐっ。確かにそうかも。
授業開始のチャイムが鳴り、「やばっ、また後でな!」と慌てて板垣が自分の席に戻る。
「おお」
俺も急いで次の授業で使う教科書を机の中から取り出し、先生が来るのを待った。
授業中、『わかったから離せ!』なんて合意の仕方で付き合うまでこぎつけはしたが、この先どうしたもんか。考えるも、いい考えはさっぱり浮かばなかった。
◇
放課後。今日もそそくさと帰る準備をして喫茶店に向かおうとすると「今日は俺も行く」と板垣に声をかけられた。
「えぇ?来るなよ」
即座に断るも、聞く気が無いらしく「ほら、急げよ」と言われ、渋々後に続く。
学校を出て、喫茶店のある商店街を二人で歩いていると、随分前に喫茶店の前で見かけたおばちゃんに声をかけられた。
「あら!アンタこの間の学生さんじゃない」
「こんにちは」と一礼。
「あらあら、こんにちは。これから今日も鈴音ちゃんのお店かい?」
見られてたのかよ。
「ええ、まぁ……」
「アンタが来るようになってからね、鈴音ちゃんの店にさ、学生さんのお客が随分増えたのよ。もしかして売り上げになるからって呼んであげたのかい?」
「え?いいえ、そういう事は全然してないですよ?」
キョトンとした顔で俺がそう言うと、おばちゃんは「あら、私の勘違いかい」と首をかしげた。
「アンタくらい顔がいいと、可愛い知り合いも一杯いるもんだねぇと思ったんだけど」
ニマニマと笑いながら肘で突付かれ、つい反射で後頭部をかく。こんなことやるのは再放送の古いドラマくらいかと思ってたけど…… 流石おばちゃんだ。
「まぁいいや。あんまりあの子に迷惑かけるんじゃないよ?この商店街の看板娘の一人なんだからね」
「はい、気を付けます」
「さて、夕飯の買い物でもしようかしらね」と言いながら、ドスドスと豪快におばちゃんが去って行く。
「へー…… 神さんって看板娘なんだ?ってか、まだ『看板娘』なんて言葉使う人いるのな」
「俺はそっちの話より、増えた客の話が気になるんだが」
顔を見合わせ、行かん事にはわからないと、お店を目指すことにした。
◇
「こんにちはー」
そう言いながらドアを開けて板垣が中に入り、俺が続いて来店しようとした。だが、奴が「うわっ」と声をもらして立ち止まり、板垣の背中にぶつかってしまった。
「なんだよ、早く入れって」
押しのけて店内を見ると、確かに先程聞いた通り、普段以上に随分と学生客が多かった。気のせいか、こっちを見てくる人も多い気がする。
キョロキョロしながらカウンターのいつもの席に座ると、「いらっしゃいませ。ご注文は?」と鈴音さんがやけに事務的な言い方で話し掛けてきた。
「え?…… あ…… えっと…… いつもの?」と言うと「少々お待ち下さい」の返事。
ん?どうしたんだ?今日は随分と堅苦しいけど。
付き合うだなんだって話を一昨日の朝にしたばかりだ。そのせいなのか?と思うも、ちょっと違う気もする。何だかすごく機嫌が悪い。それだけは確かなようだ。
どうしていいか困っていると、「あのぉ」と店内に居た子に話し掛けられた。
「はい?」と返事をすると、後ろから『こっち向いたよ!頑張って!』などと、色々な声が四方から小さく聞こえる。
「先輩、よかったらこっちで一緒にお茶しませんか?」
もじもじしながら言う君は…… 一年生か。
「ごめん、友達と一緒に来てるから」
間髪入れずに断るが「お友達もご一緒に」と言われ、腕を引っ張られる。
チラッと鈴音さんの方を見ると、少し肩が震えてる気がしなくもない。
「ゆっくりコイツと話したい事があるからっ、ごめん!無理!」
捕まれていない手で拝むように断ると、残念そうな声で「……… じゃあまた今度」と、渋々席に戻ってくれた。
待て待て待て!いったい今のはなんだ?
状況が把握できず頭を抱えていると、またさっきの子が「あの!」と声をかけてきた。
勘弁してくれよ!
そう思うも、無下に扱って傷つけてもマズイと思い「はい?」と振り返り、つい返事をする。
「私の連絡先受け取って下さい!よかったら、先輩のもお聞きしたいんですが!」
そう言いながら、一枚の可愛らしい柄の入ったメモを差し出された。
がああああああっ!なんだってよりにもよって鈴音さんの目の前でそういう事やるかな⁈
これで相手が男だったら、間違いなく顔面に拳を入れている。
それぐらい、イライラしてきた。
深呼吸をして気持ちを落ち着けようと試みる。そんな俺を不思議に思ったのか「先輩?どうしました?」とその子が訊いてきた。
「ごめん、なんでもない」
俯きながら手を振ると、『脈ありなんじゃないの?』とか言う、的外れな外野の声が。
ねえ!まったく、これっぽっちもねぇよ!
——と叫びたい。俺が好きなのは今さっき初めて会ったお前じゃない、すぐ後ろに居る鈴音さんだって!
黙ったまま俯き、受け取ろうとしない俺を見かねて、板垣が口を開いた。
「わるい、コイツさ彼女とメールとか電話し過ぎて親にスマホの契約止められたんだわ」
デタラメな内容ではあったが、メモを差し出してきた後輩に、板垣がそれっぽい事を言って断ってくれた。
「…… え?先輩、彼女いるんですか?」
ビックリしたような声の後輩。
「ごめん、俺みたいなのでも彼女いるんだよ。だから…… そういうのはもらえないかな」
頭をかきながら、ハッキリ伝えた。
コトッ——
「お待たせしました」
鈴音さんが俺の席に、カフェオレの入るカップを差し出してくれる。恐る恐る顔を見ると、さっきより柔かい感じがした。
友達の力は借りたが、それでもちゃんと断ったからだろうか?
って事は、少しは嫉妬とかしてくれた?
確信したわけでもないのに、ちょっと嬉しい気持ちになってきた。そんな俺の表情の変化を不思議に思ったのか、後輩が首を傾げる。
マズイっ、ここで鈴音さんがその彼女だってばれたら、鈴音さんに迷惑がかかるかも。やっと付き合うって状態までこぎつけたのに、面倒だからってまた元通りはイヤだ!
「おいおい、彼女の話をしたくらいで思い出し笑いするなよ」
板垣が背中をバンバン叩きながらフォローを入れてくれる。
「…… あ、じゃあ私はこれで」
これ以上話し掛けてもしょうがない。そう思ってくれたのか、後輩の子が席に戻ってくれる。
危なかった…… 。板垣の注文分は、俺が払おうと心に決めた。
結局、今日はあれからも全然鈴音さんとは話す事が出来なかった。
連絡先を渡そうとして来たグループの子達はすぐに帰ったのだが、入れ替わりでまた何人か俺の所へと来て、話し掛けてくる。さっきと似たようなやり取りを、酷い事に今日だけで三回はさせられただろうか。
もう時間もマズイと思い、帰る前に会計をした時、レシートと一緒に鈴音さんから小さな紙を渡された。
なんだろう?そう思うも、念の為その場では見ないで店を出る。
周囲を見渡し、板垣以外に誰もいない事を確認してからメモを見てみると、そこにはメールアドレスと携帯のものらしき番号が書かれていた。
よっしゃああああ!と叫びたいくらい嬉しかったが、今はまだ店の前だ。
グッと堪え、無言のまま地面を何度も踏みつける。振り返り店内をチラッと見ると、鈴音さんと目が合った。
照れくさそうな顔をしたと思ったら、プイッと顔をそらされる。
うわー可愛いなぁ…… ホント、いい意味で年上だとは思えないや。
◇
帰宅後すぐに飯と風呂、宿題とを済ませ、スマホを手に持ちベットの上で横になる。
うつぶせになり、スマホの連絡先マークをタップして、もらったメモの通りに鈴音さんの情報を登録した。
速攻で電話しようとも思ったが…… 素直なタイプではない鈴音さんに電話をしても、勢いですぐに切られると判断し、メールを送る事に。
「『今日は色々すみませんでした。店すごい混んでましたね』っと」
慣れない手つきでどうにか打ち込む。
さて、その後何を書こうか。
「『アドレスありがとうございます』とかか?」
必死に色々考え、長々と文を打ち込み、自分の携帯番号を最後に入れて、送信マークを押す。
「…… おっし」
達成感を感じながら横になったままでいると、ちょっとウトウトしてきた。
うぐ…… もうまずい。今日は疲れたんだな…… 薄れる意識の中そう思った時、スマホの着信音が鳴り、体がビクッと跳ねた。
「え?あ?あぁ、電話か…… 」
慌てて電話に出ると『長い!』といきなり叫ばれ、耳が痛い。
「…… そんな大きな声出さなくても聞こえるよ」
『メールはもっと簡潔に済ませろ、面倒じゃないか』
「…… あれ?鈴音さん?」
『アタシ以外誰がこの番号からかけるっていうんだ』
「画面見てませんでした」
『確認してから出ろ!』
「だ、だから、大きな声はちょっと…… って、メールの返事で電話くれたんですか?メールでもよかったのに」
『あんなに長いやつに、返事なんかいちいち打ってられるか、アホっ』
女の人でも苦手な人いるのか…… ちょっと驚いた。
「でも嬉しいなぁ、電話出来るなんて」
頬を緩めながら正直に伝える。
『うくっ…… 』と言ったまま鈴音さんが黙った。
「そういや。メルアドとか、どうして教えてくれたんです?」
いきなりだったが、率直に感じた疑問をぶつけてみた。
『…… な、何度も嬉しそうに彼女とメールがどうこうと話してたから…… 。そんなに知りたいのかと、思って——』
聞こえるか聞こえないかってくらい小さな声で、鈴音さんがボソボソと話す。
うわー照れてるっ!これは絶対に照れてる!
「何であんなに店混んでたんです?昨日まで、あそこまではいなかったのに」
『お前がいつも来る時間の問題もある。昼時とか、混む時はあれくらい普通だ』
「…… なんだ。じゃあ、俺のせいじゃなかったんだ、今日のは」
『イヤ、今日のは全部アンタのせいだよ。あれだけ声かけられててわからんなんて、頭悪いのか?』
声から嫌味な色を感じ取れる。悪かったなぁ、頭悪くて。
「どうせ…… 俺はああいうのにどう対応していいかわからない子供ですよ」
『そういう事を言いたいんじゃない。もっとハッキリ断らないと、女は引き下がらないぞ?』
「引いて欲しいんだ?俺が取られるのイヤ?」
ちょっと意地の悪い声で言ってみた。少しくらい、いいだろうと思って。
『違う!別に、好きで付き合ってるわけじゃないだからな』
事実でも、事実だからハッキリ言われて何かムカツク。
「まぁ、そうですけど」
『とにかく、ああいう客が多いのは困るんだ。アンタのせいじゃないのはわかってるが…… その、あまり目立つな。只でさえ髪もこの数週間で少し伸びてきて、イメージがちょっと変わってきたというか…… 元々、目を引く容姿なわけだし』
「え、俺カッコイイの?」
『一般論だ!アタシがそう思ってる訳じゃない!』
そう言うも、なんか照れ隠しで言ってるようにしか聞こえない。声に焦った感じが見え隠れするからだ。
「俺、そんな風に照れる鈴音さんも好きですよ」
『う、五月蝿い!照れてる訳がないだろうがっ』
「すごく可愛い」
『年上をからかうな!アホが!』
「本気ですってば、絶対に俺の事好きになってもらいますからね」
『アタシは…… アンタなんか大っ嫌いだ‼︎』
プツッ
ツーツーツー——
「え?」
…… 切られた。
怒らせちゃったみたいだなぁ。
ため息をつきつつ、自分も通話を切る。明日また店行って謝るか。でも、どう言って謝るっていうんだ?俺は悪い事してないし。
形だけかもしれないが、付き合ってるんだし、好きだって伝えるのは悪い事じゃないはずだ。
鈴音さんだって、それくらいは予測していただろうし。
まいったなぁ、何て言えばいいのかサッパリ思い付かない。
…… 考えても仕方ない、今日はもう寝よう。
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