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最終章

【第七話】御心

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 騒々しかった家臣達は各々の持ち場に戻り、すっかり静まりかえった謁見の間の中。
「良かったのですかな?私は事前にご報告をしたはずですが」
 玉座に座ったまま肘置きに頬杖をついてじっと動かないでいるレーニア国王に対し、司祭であるウネグが彼に声をかけながら近づいて行く。
「あぁ、もちろん覚えているさ」
 レーニアは瞼を閉じて、軽く頷いた。
「“純なる子”であるトウヤの命を、あの子が——ライエンが、狙っているという件だろう?」
「そこまで知っていて、何故『ワタシが幽閉塔まで案内しましょう』と言った申し出を迷う事無く聞き入れたのですかな?トウヤ様に何かあっては、ユラン王子をお助けする事も出来なくなるというのに」
 確かにその通りだな、とレーニアが深く頷く。だが、そう訊かれるのはもう知っていたかの様に、彼は微笑を浮かべた。
「そうだな。だがこのままでは、歪な心を抱えた者が残ってしまうだろう?それは今後必ず問題となって、国を滅ぼしかねない亀裂になる。ライエンは生まれてから一度も、自らユランに会おうとはしてこなかった。兄に対し色々思う事があるのは誰が見ても明らかだ。ならばもう、互いにぶつかり合って、解決させるしかないと思ってな」
「そう上手くいくのでしょうかのう。いい大人になってから初の兄弟喧嘩となると、悪い想像しか出来ませぬわ。皆が無事に、怪我なく戻るとよいのですがのう…… 」
 腕を組み、ウネグが鼻息荒く溜息をついた。
「だが、兄弟喧嘩に親が立ち会うのも拗れるだけだろう?ライエンの場合は、余計にだ。…… でもまぁ、そうは言ってもだ。念の為に保険はかけた」
「ん?保険ですと?」
「二人とも私の大事な息子だ。殺し合いにまで発展しても困るからな。何かあれば『お前が間に入れ』と言っておいた者が、幽閉塔で既に待機済みだ」
 ニッと笑ったレーニアの顔を見て、ウネグが呆れ顔になった。
「…… まさか、あの者を頼ったのですか?国王よ!」
 耳の痛くなる声を張り上げ、ウネグが問いかける。
「お前の立場的には決して相容れぬ者だとはわかっているが、アレはアレでなかなか話のわかる奴だぞ?もう和解もしているのだしな」
 ウサギ耳の生えるスキンヘッドの頭を両手で覆い、ウネグが『んのぁぁぁ』と叫び出しそうに体を震わせる。怒っているのか、悲しんでいるのか、何とも読み取れぬその反応を前にして、流石にレーニアも困惑の色を漂わせた。
「まあまあ、もう賽は投げられたのだ。全てをありのままに受け止めるしかないぞ?」
「…… 私は国王の意に従うだけではございますが、結果次第ではどうなるかわかりませぬぞ」
「ははは!子供の頃の様に尻でも叩くか?それは怖いな。…… あぁ、かなり怖いな」
 最初は楽しそうだったレーニアが、昔を思い出したのか、サーッと顔色を悪くした。
 子供の頃にレーニアの教育係りでもあったウネグには、昔から頭が上がらない。互いの立場は変わっても、根底に染み付いた習性はどうにもならなかった。
「それがお望みとあらば、その様に!」
「いや、流石にもっと違う説教で頼むよ。もういいおっさんなんだよ?私は」
 威厳無く慌てるレーニアに対し、ウネグが苦笑しながら、また溜息を吐いた。
「説教程度で済むと思っている時点で、相変わらず楽観主義ですなぁ」
「従者だというルナールとかいう者も居るのだし、何とかなるさ」
「私としては、彼に期待するばかりです。これ以上関わる者が増えては、話がややこしくなるだけですからのう…… 」
「あぁ、そうだな」
 二人が視線を合わせ、苦笑しあう。
 この部屋からは見えぬ幽閉塔のある方向へ顔を向け、ただ無事を祈るのだった。
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