正しい恋はどこだ?

嵯峨野広秋

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再告白の前ぶれ

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 画面を見つめたまま、どれだけ時間がったかわからない。
 おれの出来できのよくない頭を占めているワードは「連れ子」と「結婚」。
 ツレゴってアレだよな、一回結婚して、離婚した人がツれてる子どものことだよな?
 つまり「おれ」と、幼なじみで男勝りな女子の「ゆう」のことだ。
 それが「結婚」だって?
 勇のやつ……パソコンでなんでそんなこと調べてんだ?
 そこでいきなり、

 がちゃ

 とドアがあいた。
 心臓が、のどからとびでるかと思った。
 まさか勇⁉
 あいつって、はや風呂だったっけ?

「!」
「あれ? 正ちゃん?」

 抱くように洗濯物をもった、勇のお母さん――おれのお母さんになる予定でもある――が部屋に入ってきた。
 お、お、おちつけ。
 キャッカン的には、おれはただパソコンをさわっているだけだ。
 下着を漁ったりだの、ベッドをくんかくんかだのをやっていたわけじゃない。

「パソコンなんて、めずらしいね。なになに」お母さんの目が細くなる。この目。ネコのように愛嬌があって、大きさも形も、ほんとに勇そっくりだ。「えっちな動画とか見てたクチ~?」

 それだ!
 そういうことにしたら、おれがヘンな検索履歴をみつけてしまったことが、ばれないぞ!
 いけっ!

「そうなんですよ……はは……」

 アリバイづくりで、おれはエロい動画がめっちゃあるページにとんだ。
 とんだだけなのに。
 いったいどういう神様のイタズラが、発動してしまったんだろう。

「……ん……んっ、……こら、だめだってば」
「母さん‼」

 大音量で何かの動画の再生がはじまった。
 画面では、もうどうしようもないくらい〈からみ〉まくっている。

「あん」
「き、きもちいい?」
「ナマイキね。つ……、うっ、つ、連れ子のくせに……」

 洗濯物を床にぼろりと落とし、勇のお母さんの足が後ろに退いた。

 ◆

 翌日は日曜日。
 おれは病院のロビーにいた。

「すこし、話をしようや」

 目の前にはシブいオジサン。ただのオジサンじゃなくて、家族のオジサン。おれの父さんのお兄さん。

「ずいぶん寒くなったなぁ……」

 ガラス張りの向こうの中庭をみながら言う。
 すこし雪がふっている。
 もう12月。クリスマスも近い。あと、あんまり考えたくないが、来週には期末テストがある。

しょう

 ひげを生やした顔に、刑事のようなロングコート。
 身長はおれと同じぐらい。
 この人が、ほんとまじでシブい。映画俳優みたいに。
 近くをとおった人が、撮影? とつぶやいて、カメラをさがすようにきょろきょろしている。
 確かにおれとオジサンのツーショットは、やばいぐらいがきまっている。

「ばあちゃんのことだがな……」

 リアルな話題で、急に現実にもどされた。
 今、ここに入院している、おれのばあちゃん。おれの父さんのお母さん。
 まだ60とかだと思うけど、病弱で、おれが小学生のときからばあちゃんは入退院をくり返していた。
 オジサンはいう。
 今回は、覚悟しといてくれ、と。

「そんな……」

 目の前がまっくらになった。
 あの……やさしい、ばあちゃんが?
 甘やかしすぎだって父さんから注意されるぐらい、おれをたくさん甘やかしてくれたばあちゃんが?

「年末までには退院できるって……」
「できるさ。なにも、問題がなければな」
「そんなにわるかったんですか?」
「そんな気はしなかったか?」
「いえ――」

 今年の夏から秋にかけて、ばあちゃんは急にやせた。
 だから、だからおれは〈急がないといけない〉って思ったんだ。

 ばあちゃんを、安心させたい。

 それにはこい
 想い想われの恋人を紹介することで、それができると信じてる。
 プラス、ぜひ未来のパートナーに、ばあちゃんに会ってもらいたいんだ。おれっていう人間を、つくってくれた大事な家族に。

 おれはバカだから、まちがっているかもしれない。
 そんなことしなくていいのかもしれない。
 でも……

「正くん。うわー、相変わらず、あんたは“イケメンさん”やねぇ」
「だろ?」

 ばあちゃんのベッドの横で、かっこよくポーズをきめる。
 オジサンはロビーに残ってる。
 今は先生も看護師さんもいない。
 部屋には、おれとばあちゃんの二人きりだ。
 ばあちゃんはうすいブルーの、浴衣みたいな形の服をきている。

「これならモテモテよね?」
「まあね」
「だったら――――」

 ばあちゃんは、ちょっとかすれた声で、こう言った。

「正くんの彼女に、一目ひとめ、会いたいなぁ……」

 不覚にも泣きそうになった。
 バカ。おれが泣いてどうする。
 元気づけるために、ここにきたんだろ。

「ああ! いいぜ! 今度……つれてくるよ。絶対。今度な。だから、さ」

 ばあちゃんは、うなずいた。
 そのゆっくりした動きと、ほほえんだ顔だけで、コトバはいらなかった。
「いつまでも待ってるわ」という気持ちが、はっきり伝わってきた。
 その、先生たちが入ってきて何かやりはじめたので、邪魔になったおれは部屋を出た。

「勇」
「あっ」

 病院の廊下で、向こうから来たあいつと出くわした。
 伊良部いらぶ勇。
 昔から家族ぐるみのつきあいをしてて、とうとう家族になることになった幼なじみ。

「ばあちゃん、今なんか検査みたいなのしてるから」
「そう。じゃ、あとにしようかな」

 一階に移動し、自販機の横にある休憩スペースにきた。

「なんか飲むか?」
「いい」

 おれは缶コーヒーを買った。

「急いでよ……14人目」
「わかってるさ」
「わたしでもいいんだよ?」
「冗談はやめろ。おまえにはとっくに彼氏がいるだろ」

 コーヒーは、想像よりもだいぶ甘かった。
 おれはポエムみたいなことを考える。
 おれは〈正しい恋〉をさがしてる。
 一方通行じゃなく、どっち通行でもある、つよい恋心。それによって、おたがいが満たされた関係。
 好き↔好き、って状態のことだ。
 それをさがして、13人もの女子に告白に告白を重ねたんだが、おれの中身に魅力がまったくないせいで、どれもうまくいってない。

(時間がない、か……)

 ふっ、とかすかなため息をつく勇。
 シックなモノトーンのアウターに、あまり色落ちしてないデニムパンツ。
 おれほどじゃないが、こいつも、まあまあ……きれいな横顔のラインしてやがるな。あごや首回りに、ムダなぜい肉がついてなくて。
 体も、出るトコは出て……ガサツな性格のわりに女の子してるっていうか――

 連れ子同士_結婚できる?

 昨晩のあの画面がフラッシュした。

 連れ子同士_結婚できる?
 連れ子同士_結婚できる?
 連れ子同士_結婚できる?

「ええーーーい!」

 ばっさばっさと、頭のまわりを両手ではらう。

「……どしたん?」
「気にするな。ただの発作ほっさだ」

 ちょうど近くをとおった白衣の人が、えっ、という顔でこっちを見た。
 ちがうんです、とおれはへらへらしてあやまる。

「おバカ。病院で、まぎらわしいこと言わないの!」
「はは……」

(まったく調子がくるうぜ。あんなものを見ちまったから)

 スマホがぶるった。
 この名前。
 最初に告白した子だ。
 ラインでみじかいメッセージ。


 わたしと、よりをもどさない?

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