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たたないおれをたたせたおまえ
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ケンカは、一対一。
たとえ相手が大勢いても自分は一人だけで戦う。
そんな信念をもつ世良は、彼のことがうっとうしかった。
「……助太刀いらねぇって」
「……」
「きこえねーのかっ!」
高校初日。
おろしたての制服に身をつつんだ世良は、さっそく学校の不良たちを相手にケンカをはじめた。
校舎の裏で七対一。
ふつうなら、まず勝てる見込みはないだろう。一方的なリンチになるだけだ。事実、世良は苦戦していた。そこにフラっと、どこからともなく赤い髪をした彼があらわれたのだ。
「……」
「はぁ……はぁ、やっぱ、高校は……中学とはちがうな」地面に大の字に寝ころぶ世良。すでに不良たちはノックアウトされていて、起き上がれた者からすごすごと退散していっている。「おれが五人でおまえが二人か。……礼はいわねーからな。べつに一人だって、勝てたんだ」
「……」
世良のすぐそばで体育座りをしている真木は、コクッと無言でうなずいた。
そこでようやく、世良も異変に気がつく。
「しゃべれねーのか?」
「……」
「名前は?」
そっとブレザーのポケットから取りだした名札に書かれていた文字は〈真木〉。
それが二人の出会いだった。
そのとき風にふかれてゆれていた髪の色と同じく、今、くらやみの中に浮かんでいる光も赤い。
(事故だと……?)
山沿いの道の一部が真っ赤に染まっている。
目的地の廃墟ホテルはひとつ向こうの山の中腹あたりにあって、あの道は避けて通れない。先行したマキとクラシキもあそこを通っているはずだ、と世良が考えたとき、イヤな予感がした。
(くそ! やっぱりかっ!)
おりた自転車を横にほうり投げて、世良は猛ダッシュで駆けつける。
「――ちょっと君っ!!」
「うるせぇーーー!」つかみかかってきた救急隊員の手をはらいのけた。「マキ!! マキ!! しっかりしろ!!!!」
ちょうど、ストレッチャーにのせられた彼が救急車に運びこまれようとしていたところだった。
近くには消火剤で真っ白になった横転したバイクと、アスファルトに残る蛇行したタイヤ痕。警察官もいて、車の誘導や、事故現場の写真をとったり落ちているものを検めたりしている。
「美玖も心配だが、マキを捨てていくわけにはいかねぇ!」きっ、とするどいまなざしを救急隊員に向けた。「こいつはおれの大事な……たった一人のダチなんだ! だから、おれも病院までいっしょに――――」
「 ……」
すっ、と右手が少しあがった。
「マキ!」
「 …… ……」
その手がゆっくりと右、左へとうごく。
「おまえ……まさか『いい』っていってるのか?」
「……」あお向けのまま、目だけで世良をみた。ひたいから目の横にかけて赤い血の筋がひいている。「……」
「そうか……。けどなマキ、美玖のほうにはクラシキのバカがいってる。あいつはおれに勝ったことこそないが、そのへんの不良におくれをとるようなタマじゃねぇ。美玖にもホレてるみたいだし、火事場のバカ力でなんとかやってくれるさ」
ぐっ、と世良は真木の手を強くにぎった。
その途端、
予想もしなかったほどのすばやさで、にぎった手がふりはらわれた。
「マキ……?」
「 く、ら、し、き」
くちびるがうごいた。弱々しいながら、しっかり声も出ている。
「おまえ口が……!」
「や、つ、 は」
「なんだと? 倉敷が、いったいどうしたっていうんだ?」
「て、き。 ………………」空中をさがすように手がさまよって、世良の二の腕をつかんだ。「永次……」
「そうだったのか……あの野郎――」
「……」
真木はゆっくりと目をつむった。
世良も、なにかを決意するように目をつむり、ふかい呼吸のあとで、またあけた。
「なぁっ!」
そばで二人のやりとりを見守っていた救急隊員の肩がビクッとあがる。
「こいつの具合は、どうなんだ? 教えてくれ!」
「え? えーと……頭に傷があるから検査が必要だけど、体のほうは奇跡的に大けがはないみたいだね」
「助かるよな? な!」
「最善はつくすけど……」
たのむ、と手をとって両手でつかむ世良。
たのむ、ともう一度、かすれるような声でいう。
ばたん、と救急車のドアがしまった。
(マキ……かならずカタキはとる)
自転車を起こし、停まっているパトカーのわきを抜けてふたたび立ちこぎで前進する。
事故の影響で道路は通行止めになっていて、まっくらな山道に世良の自転車のライトだけがホタルのように光っていた。
(倉敷にハメられたんだな……マキはああ見えて、いつだって安全運転だった。こんなときに事故なんか起こすはずがねぇ)
世良はもう一度心の中でくり返す。
「かならずカタキは――とりますよ、美玖さん‼‼」
じゃり、と小石をふみしめた音をならして、せまく暗い廃墟ホテルの一室に大男が入ってきた。
「倉敷さん!」
「おおっ、なんと不肖クラシキのことを〈さん〉づけで呼んでもらえるなんて。とっっっても光栄ですよ、うるわしの美玖さん」
「あの……た、助けて下さい!」
「もちろんもちろん。おれはあなたに永遠の忠誠を誓う、ナイトですからねっ!」
アフロヘアーの男が、もっとも有名なカンフースターのようなファイティングポーズでかまえる。
「さあ、かかってきやがれ!」
「倉敷か」ズボンのポケットに片手をつっこんだまま、ソフトリーゼントの南雲がいう。「このへんじゃ有名なヤツだ。ただし世良に連戦連敗の、残念なヤンキーとしてだがな」
ポケットから手をだし、ぎゅっとこぶしをつくる。
二人の視線が、そのこぶしを間にはさんで交差した。
「……あ?」
南雲は片目をほそめた。
突然、目の前に〈まった!〉のような手のひらが出たからだ。
「――いや、やっぱり、美玖さんの前で暴力をふるうのはシノビねぇ。ここじゃあ、せますぎるしな」
「おいおい。まさかビビってんじゃないだろうな?」
「となりの部屋に移動しろや南雲。そこでやってやるぜ!」
見知った人間が来てくれて、すこし安心した美玖だったが――
(いま『ナグモ』って呼んでた……? 倉敷さんのほうも、あの人のことを知ってたのかな?)
と、ちょっとしたことが気になっていた。
ううん、たまたま他校のケンカが強いヒトってことで耳に入ってただけだよ。
しかし、ほかにも美玖は違和感をおぼえていた。
たとえば、部屋の外には三人の男たちがいたはず。なのになぜ、彼らと言い争うような物音もなく、すんなりと倉敷さんは入ってこれたのか。
ううん……それは、じょうずにかくれて進んで、たまたま気づかれなかったから。
なら、あの人はどうやってこの場所を知ったの?
私をさらった車についてきていたのなら、あまり時間差はなく助けにきてくれたはず。ついてこれなかったのなら、場所を知ることさえできなかったはず。
もしかして――あらかじめ場所を知っていた?
そんなはずは……。
大丈夫。
(あの人は味方だって!)
心の中で美玖は自分を怒鳴りつけた。
そうでもしないと、このマイナスのイメージは取りのぞけない。
ひび割れたガラス窓に両手でセルフハグする姿が映っている。
足がふるえている。制服のスカートからのぞく無防備な体を少しでもかくしたくて折りたたんで座っているのだが、それはふるえを押さえつけるためでもあった。
(――笑い声?)
廃墟に不似合いな、談笑のような。
とっさに美玖はうしろ、壁際までさがる。立とうと思っても、もう立てない。世良に電話をかけて以降、美玖はか弱くなっていた。まるで自分から〈度胸〉や〈強さ〉が抜けてしまったかのように。
(永次、永次、はやくきて! お願い!)
いまの美玖では、とても男を相手に殴りかかってはいけない。あの日、河川敷でからんできたヤンキーを撃退できたときとは体も心もちがう。
どうすることも……と思っていたとき、手になにかがふれた。
スマホだ。
そうだ。チャンス。このスキに警察に電話を――――
「ふー」
もともとドアがあったと思われる入り口の枠に、ぬっ、と黒い物体。
「やれやれ。美玖さん。話はつきましたよ」
「え? 話って?」
「とりあえず土下座しろ」
黒いアフロが斜め45度にかたむいて、倉敷が別人のような冷たい目つきで美玖を見下ろす。
アゴをさすりながら、
「おまえ、あのときはよくもやってくれやがったなぁ~~~。女だと思ってナメてたら信じられねーフィジカルしやがってよぉ」
声色も、さっきまでとは変わっていた。
低くドスがきいている。
「……あのとき?」
「おいおい、おぼえてないとかヌカすなよ。あれだけのことをやったんだ。なぁ!?」
「……っ!」手首をつかまれた。悲鳴をあげれない。美玖は完全に恐怖でかたまっていた。
「ずーっとおまえのことを狙ってたんだぜ。絶対に痛い目にあわせてやろうってな。女に熱をあげる、一途なバカのふりまでしてつきまとって」
「は、はな、してよ……」
「おまえをラチった連中はおれの仲間だ。南雲は実行メンバーじゃなかったが、ま、これもなりゆきってやつだろう。あいつには〈チョコ〉と〈アイス〉おごってやるっつったらすぐに商談成立さ。さばけたら百万ってとこだ……な!!!」
力まかせに美玖を地面に押し倒した。
そのとき、
うっ
と、うめき声。美玖はたしかに聞いた。
一回、二回と連続して、やっと倉敷の注意が向いたところで三回目。
四回目の声は、一際大きかった。
「あーーーーーーーーーーーーっ‼‼」
ごっ、とかたいもの同士がぶつかった音がして、
振動で地面がわずかにゆれた。
その三秒後、入り口の横から長身の南雲が顔をだした。
うす暗くて、顔はよく見えない。
「おい。どうした。なにかあったのか」
「……」
「返事しろや! おれは手前が入ってる〈リンクズ〉のリーダーだろうが!」
「ぶん殴りからの一本背負い」それは、美玖のよく知っている男のつぶやき。「おまえにも見せてやりたかったぜ倉敷」
べちゃっ、とソフトリーゼントの頭の先から地面にくずれ落ちると、背後には黒い影が立っていた。
世良永次だ。
そして、ここに彼を立たせたのは、まぎれもなく新名美玖である。
「一対一だ」静かな声で世良は言った。「おれの最後のケンカを、おまえに買わせてやる」
たとえ相手が大勢いても自分は一人だけで戦う。
そんな信念をもつ世良は、彼のことがうっとうしかった。
「……助太刀いらねぇって」
「……」
「きこえねーのかっ!」
高校初日。
おろしたての制服に身をつつんだ世良は、さっそく学校の不良たちを相手にケンカをはじめた。
校舎の裏で七対一。
ふつうなら、まず勝てる見込みはないだろう。一方的なリンチになるだけだ。事実、世良は苦戦していた。そこにフラっと、どこからともなく赤い髪をした彼があらわれたのだ。
「……」
「はぁ……はぁ、やっぱ、高校は……中学とはちがうな」地面に大の字に寝ころぶ世良。すでに不良たちはノックアウトされていて、起き上がれた者からすごすごと退散していっている。「おれが五人でおまえが二人か。……礼はいわねーからな。べつに一人だって、勝てたんだ」
「……」
世良のすぐそばで体育座りをしている真木は、コクッと無言でうなずいた。
そこでようやく、世良も異変に気がつく。
「しゃべれねーのか?」
「……」
「名前は?」
そっとブレザーのポケットから取りだした名札に書かれていた文字は〈真木〉。
それが二人の出会いだった。
そのとき風にふかれてゆれていた髪の色と同じく、今、くらやみの中に浮かんでいる光も赤い。
(事故だと……?)
山沿いの道の一部が真っ赤に染まっている。
目的地の廃墟ホテルはひとつ向こうの山の中腹あたりにあって、あの道は避けて通れない。先行したマキとクラシキもあそこを通っているはずだ、と世良が考えたとき、イヤな予感がした。
(くそ! やっぱりかっ!)
おりた自転車を横にほうり投げて、世良は猛ダッシュで駆けつける。
「――ちょっと君っ!!」
「うるせぇーーー!」つかみかかってきた救急隊員の手をはらいのけた。「マキ!! マキ!! しっかりしろ!!!!」
ちょうど、ストレッチャーにのせられた彼が救急車に運びこまれようとしていたところだった。
近くには消火剤で真っ白になった横転したバイクと、アスファルトに残る蛇行したタイヤ痕。警察官もいて、車の誘導や、事故現場の写真をとったり落ちているものを検めたりしている。
「美玖も心配だが、マキを捨てていくわけにはいかねぇ!」きっ、とするどいまなざしを救急隊員に向けた。「こいつはおれの大事な……たった一人のダチなんだ! だから、おれも病院までいっしょに――――」
「 ……」
すっ、と右手が少しあがった。
「マキ!」
「 …… ……」
その手がゆっくりと右、左へとうごく。
「おまえ……まさか『いい』っていってるのか?」
「……」あお向けのまま、目だけで世良をみた。ひたいから目の横にかけて赤い血の筋がひいている。「……」
「そうか……。けどなマキ、美玖のほうにはクラシキのバカがいってる。あいつはおれに勝ったことこそないが、そのへんの不良におくれをとるようなタマじゃねぇ。美玖にもホレてるみたいだし、火事場のバカ力でなんとかやってくれるさ」
ぐっ、と世良は真木の手を強くにぎった。
その途端、
予想もしなかったほどのすばやさで、にぎった手がふりはらわれた。
「マキ……?」
「 く、ら、し、き」
くちびるがうごいた。弱々しいながら、しっかり声も出ている。
「おまえ口が……!」
「や、つ、 は」
「なんだと? 倉敷が、いったいどうしたっていうんだ?」
「て、き。 ………………」空中をさがすように手がさまよって、世良の二の腕をつかんだ。「永次……」
「そうだったのか……あの野郎――」
「……」
真木はゆっくりと目をつむった。
世良も、なにかを決意するように目をつむり、ふかい呼吸のあとで、またあけた。
「なぁっ!」
そばで二人のやりとりを見守っていた救急隊員の肩がビクッとあがる。
「こいつの具合は、どうなんだ? 教えてくれ!」
「え? えーと……頭に傷があるから検査が必要だけど、体のほうは奇跡的に大けがはないみたいだね」
「助かるよな? な!」
「最善はつくすけど……」
たのむ、と手をとって両手でつかむ世良。
たのむ、ともう一度、かすれるような声でいう。
ばたん、と救急車のドアがしまった。
(マキ……かならずカタキはとる)
自転車を起こし、停まっているパトカーのわきを抜けてふたたび立ちこぎで前進する。
事故の影響で道路は通行止めになっていて、まっくらな山道に世良の自転車のライトだけがホタルのように光っていた。
(倉敷にハメられたんだな……マキはああ見えて、いつだって安全運転だった。こんなときに事故なんか起こすはずがねぇ)
世良はもう一度心の中でくり返す。
「かならずカタキは――とりますよ、美玖さん‼‼」
じゃり、と小石をふみしめた音をならして、せまく暗い廃墟ホテルの一室に大男が入ってきた。
「倉敷さん!」
「おおっ、なんと不肖クラシキのことを〈さん〉づけで呼んでもらえるなんて。とっっっても光栄ですよ、うるわしの美玖さん」
「あの……た、助けて下さい!」
「もちろんもちろん。おれはあなたに永遠の忠誠を誓う、ナイトですからねっ!」
アフロヘアーの男が、もっとも有名なカンフースターのようなファイティングポーズでかまえる。
「さあ、かかってきやがれ!」
「倉敷か」ズボンのポケットに片手をつっこんだまま、ソフトリーゼントの南雲がいう。「このへんじゃ有名なヤツだ。ただし世良に連戦連敗の、残念なヤンキーとしてだがな」
ポケットから手をだし、ぎゅっとこぶしをつくる。
二人の視線が、そのこぶしを間にはさんで交差した。
「……あ?」
南雲は片目をほそめた。
突然、目の前に〈まった!〉のような手のひらが出たからだ。
「――いや、やっぱり、美玖さんの前で暴力をふるうのはシノビねぇ。ここじゃあ、せますぎるしな」
「おいおい。まさかビビってんじゃないだろうな?」
「となりの部屋に移動しろや南雲。そこでやってやるぜ!」
見知った人間が来てくれて、すこし安心した美玖だったが――
(いま『ナグモ』って呼んでた……? 倉敷さんのほうも、あの人のことを知ってたのかな?)
と、ちょっとしたことが気になっていた。
ううん、たまたま他校のケンカが強いヒトってことで耳に入ってただけだよ。
しかし、ほかにも美玖は違和感をおぼえていた。
たとえば、部屋の外には三人の男たちがいたはず。なのになぜ、彼らと言い争うような物音もなく、すんなりと倉敷さんは入ってこれたのか。
ううん……それは、じょうずにかくれて進んで、たまたま気づかれなかったから。
なら、あの人はどうやってこの場所を知ったの?
私をさらった車についてきていたのなら、あまり時間差はなく助けにきてくれたはず。ついてこれなかったのなら、場所を知ることさえできなかったはず。
もしかして――あらかじめ場所を知っていた?
そんなはずは……。
大丈夫。
(あの人は味方だって!)
心の中で美玖は自分を怒鳴りつけた。
そうでもしないと、このマイナスのイメージは取りのぞけない。
ひび割れたガラス窓に両手でセルフハグする姿が映っている。
足がふるえている。制服のスカートからのぞく無防備な体を少しでもかくしたくて折りたたんで座っているのだが、それはふるえを押さえつけるためでもあった。
(――笑い声?)
廃墟に不似合いな、談笑のような。
とっさに美玖はうしろ、壁際までさがる。立とうと思っても、もう立てない。世良に電話をかけて以降、美玖はか弱くなっていた。まるで自分から〈度胸〉や〈強さ〉が抜けてしまったかのように。
(永次、永次、はやくきて! お願い!)
いまの美玖では、とても男を相手に殴りかかってはいけない。あの日、河川敷でからんできたヤンキーを撃退できたときとは体も心もちがう。
どうすることも……と思っていたとき、手になにかがふれた。
スマホだ。
そうだ。チャンス。このスキに警察に電話を――――
「ふー」
もともとドアがあったと思われる入り口の枠に、ぬっ、と黒い物体。
「やれやれ。美玖さん。話はつきましたよ」
「え? 話って?」
「とりあえず土下座しろ」
黒いアフロが斜め45度にかたむいて、倉敷が別人のような冷たい目つきで美玖を見下ろす。
アゴをさすりながら、
「おまえ、あのときはよくもやってくれやがったなぁ~~~。女だと思ってナメてたら信じられねーフィジカルしやがってよぉ」
声色も、さっきまでとは変わっていた。
低くドスがきいている。
「……あのとき?」
「おいおい、おぼえてないとかヌカすなよ。あれだけのことをやったんだ。なぁ!?」
「……っ!」手首をつかまれた。悲鳴をあげれない。美玖は完全に恐怖でかたまっていた。
「ずーっとおまえのことを狙ってたんだぜ。絶対に痛い目にあわせてやろうってな。女に熱をあげる、一途なバカのふりまでしてつきまとって」
「は、はな、してよ……」
「おまえをラチった連中はおれの仲間だ。南雲は実行メンバーじゃなかったが、ま、これもなりゆきってやつだろう。あいつには〈チョコ〉と〈アイス〉おごってやるっつったらすぐに商談成立さ。さばけたら百万ってとこだ……な!!!」
力まかせに美玖を地面に押し倒した。
そのとき、
うっ
と、うめき声。美玖はたしかに聞いた。
一回、二回と連続して、やっと倉敷の注意が向いたところで三回目。
四回目の声は、一際大きかった。
「あーーーーーーーーーーーーっ‼‼」
ごっ、とかたいもの同士がぶつかった音がして、
振動で地面がわずかにゆれた。
その三秒後、入り口の横から長身の南雲が顔をだした。
うす暗くて、顔はよく見えない。
「おい。どうした。なにかあったのか」
「……」
「返事しろや! おれは手前が入ってる〈リンクズ〉のリーダーだろうが!」
「ぶん殴りからの一本背負い」それは、美玖のよく知っている男のつぶやき。「おまえにも見せてやりたかったぜ倉敷」
べちゃっ、とソフトリーゼントの頭の先から地面にくずれ落ちると、背後には黒い影が立っていた。
世良永次だ。
そして、ここに彼を立たせたのは、まぎれもなく新名美玖である。
「一対一だ」静かな声で世良は言った。「おれの最後のケンカを、おまえに買わせてやる」
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