17 / 19
魔法国珍道中
第16話 抱える事情
しおりを挟む
「……」ジーッ
「(……近くね?)」
それで見えているのかという超近距離で、ラビ太の体を視姦もとい視認(ガン見)をするクレア。
「表情筋がまるでない顔……バランスの悪い頭身……起毛のある肌……派手な体色……しかも人語まで話す……」
聞こえるか聞こえないかの声量でぼそぼそと呟くクレア。観察はそのままお構いなく続く。
自分の潔白をどうにか示すことが出来たと安堵したのも束の間、間髪入れずにこの状況になった倫太郎には当然困惑しかない。
下手に動くとまた警戒されてしまうかと思うと、身動きの取れないまま流れに身を任せる他ないのであった。
「なるほど……分かりました」
一人納得して一歩後ろに下がるクレア。倫太郎の緊張感も解ける。
「えっと、分かったって何が……?」
「あなたが見たこともない不可解な生き物だと分かりました」
「そ、そうですか」
「それと」
「それと?」
「あの至近距離で無防備な私に何かする気配が無かったので、一先ず敵意が無いことも確認しました」
「そんなこと確認してたんか……。俺に敵意とか悪意があったらそもそも救助してないでしょうに」
「それもそうですが、念には念をです」
クレアの朴訥と受け答えをするその姿には冗談も洒落っ気もない。彼女は至って本気の言動である。
まだ互いに様子見なところはあるものの、拳や刃ではなく言葉を交わせることは何よりも大きいことであった。
「ホントに何もする気はないから心配しないでほしい。というか、俺に何かしたら勝手に面倒ごとが起きるから穏便にいこう」
「こうして話が出来るのも驚きですが、まさか魔物から停戦の申し出をされるとはさらに驚きです」
「驚かれることなんだ……。そっかー。俺ってやっぱり魔物かー」
「それ以外には見えませんが?」
改めて突きつけられる現実に軽くショックを受ける倫太郎。
しかし。どうしようもない。どこからどう見ようとも人には決して見えない。見た目は100%人外なのである。
そもそもどこまで説明すべきか、どう説明するか測りかねる状況。
「自分は別世界から来た転移者で、魂の器として着ぐるみが肉体となり、女神様の恩恵で異常スキルを獲得し、化物怪物の巣窟でサバイバルをしてランクを爆上げして、そして今現在ここでトラブルを巻き起こしている」―――と正直に話したところで、そんな話を信じる酔狂な者はそう滅多にいない。
これからも付きまとうであろう『Who are you??」問題を考えると、倫太郎の心の中は虚しさでいっぱいになりそうであった。
「ん?」
肩を落とす倫太郎にトコトコと駆け寄って手を握る少女。上目遣いでニコッと微笑むその姿に不安や悩みなど一気に爆散する。
実に現金な男である。
「魔物を信頼するというのは土台難しい話ではあるのですが、なぜかソラが懐いているようなのでここはソラに免じてあなたを信じることにします」
「理由はなんであれ信じてもらえるなら何よりだよ。そっか。君はソラちゃんって言うのかぁ~。かわいいねぇ~。へへへ」
「……」カチャ
「え!?なんで武器構えるの!?」
「いえ。なにか不健全さを感じたので咄嗟に」
「いやいや!デレただけ!デレただけだから!」
ポーカーフェイスでありながらも蔑んだ眼でダガーを握るクレア。滲み出る変態性に危機察知が反応したのである。
刃越しのジト目はハッキリと怖い。
「以後、お気を付けください」
「……はい」
クレアの圧に屈服した倫太郎。ただの脅しとはいえ思わず正座である。
「さて。悠長にこんな事している場合ではないですね。そろそろ行かないと」
「え?いやまだ万全じゃないでしょ?ちゃんと体は休めんと」
「動けるようになってるだけで充分です。こんな所で長居はしてられません」
「何をそんなに急いでるの?」
「そこまでお話する義理はありません」
「いや、でもさ」
「自分たちの問題に他人―――他魔物を巻き込むつもりはありませんので」
「た、他魔物……」
聞き馴染みのないパワーワードに倫太郎は素でたじろぐ。
わざわざ言い直されたことで、自分がはっきり魔物として認知をされていることも思いの外メンタルに突き刺さる。
「本当に巻き込むつもりはないのです。ご容赦ください」
深々と一礼するクレア。あくまで独立独歩。頑なに「自分でどうにかする」という意思がひしひしと伝わって来る。
そこまでの確固たる意思を感じて、逆にクレアの事情が増々気になってくる倫太郎。
しかし。巧みな話術も狡猾な心理術も持ち合わせない倫太郎では、これ以上追及する術も度胸もない。
情けなくも手打ち止めである。
「ソラ。行きましょうか」
『……。……。』
クレアに手を引かれながら倫太郎の方をチラチラと振り返るソラ。その目はどこか不安げでもあり、悲しげでもあった。
本当に行ってしまった二人の方向を見ながら、倫太郎は一人その場に取り残される。
侘しさと無力感がじんわりと感情に染み入ろうとする中、倫太郎は腕を組んで考え込む仕草を取る。
その体勢で数十秒。倫太郎は一つ気持ちを抽出する。
「……うん。やっぱ放ってはおけんな」
お節介だと分かった上で探索者を発動する倫太郎。位置を捉えるともうすでに200メートル以上先に進んでいる。
スピードで考えても歩行ではなく走行しているのは明らかで、万全じゃない体に鞭を入れているクレアの姿が容易に目に浮かぶ。
巻き込むつもりが無いと何も語らなかったが、さすがの倫太郎でも二人が何かから逃げている事は想像できてしまう。
そもそも。二人の関係性もよく分からないところで、姉妹にも親子にも見えない年齢差である。シスターと少女という組み合わせで考えると孤児院のような所で繋がりがあるようにも考えられるが、あれだけ戦闘に長けたシスターは普通とは言えず少女には生活感がないくらい身なりがボロボロでもあった。
倫太郎が首を突っ込む理由にも、そうしたものが気になってしまっていたからというものがある。
「これは安全確認のため……これは安全確認のため……。決してストーキングではない」
うかうかしているとどんどんと引き離されそうになるので、追跡を開始した倫太郎は誰への言い訳かも分からないことを呟きながら林の中を移動して行く。
しかし。探索者で位置は見失うことはないものの、一向にスピードを緩めないクレアに追い付けない。
ランクがSSSとは言え、元々基礎のステータスが差ほどでもない倫太郎に化け物じみた運動能力があるわけではない。
もちろん上がったランクとレベル分の底上げはされているが、それでもいいとこ"着ぐるみの割には機動性が高い奴"レベルなのである。
差が開くまま、気付けばクレアらはもうすでに林を抜け出そうとしていた。
「全然追い付けないんだけど……ん?」
探索者に二人とは違う反応を感知した倫太郎。
その反応は全部で2つ。しかもそれは何の前触れもなく突如として現れた。
出現したポイントは丁度クレアとソラがいるその場所。嫌な予感しかしない。
そしてその予感はすぐ実感に変わる。
「なんだあれ!?」
上空を見上げる倫太郎の目に映るのは、直径20mはあろうかという巨大な氷塊。それがなぜか空中に浮かんでいる。
そして。嫌な予感と共に出現したその氷塊は、重力落下ではないスピードで真下に落下して轟音を響かせる。
その衝撃の余波はまだ離れた所にいる倫太郎の下へも丸々届く。
落下したそこは間違いなくクレラ達がいるポイント。
十割十分の厄介事がそこにはあることを確信しつつ、倫太郎は走るその足に力を込めて二人の下へ急ぐのだった。
「(……近くね?)」
それで見えているのかという超近距離で、ラビ太の体を視姦もとい視認(ガン見)をするクレア。
「表情筋がまるでない顔……バランスの悪い頭身……起毛のある肌……派手な体色……しかも人語まで話す……」
聞こえるか聞こえないかの声量でぼそぼそと呟くクレア。観察はそのままお構いなく続く。
自分の潔白をどうにか示すことが出来たと安堵したのも束の間、間髪入れずにこの状況になった倫太郎には当然困惑しかない。
下手に動くとまた警戒されてしまうかと思うと、身動きの取れないまま流れに身を任せる他ないのであった。
「なるほど……分かりました」
一人納得して一歩後ろに下がるクレア。倫太郎の緊張感も解ける。
「えっと、分かったって何が……?」
「あなたが見たこともない不可解な生き物だと分かりました」
「そ、そうですか」
「それと」
「それと?」
「あの至近距離で無防備な私に何かする気配が無かったので、一先ず敵意が無いことも確認しました」
「そんなこと確認してたんか……。俺に敵意とか悪意があったらそもそも救助してないでしょうに」
「それもそうですが、念には念をです」
クレアの朴訥と受け答えをするその姿には冗談も洒落っ気もない。彼女は至って本気の言動である。
まだ互いに様子見なところはあるものの、拳や刃ではなく言葉を交わせることは何よりも大きいことであった。
「ホントに何もする気はないから心配しないでほしい。というか、俺に何かしたら勝手に面倒ごとが起きるから穏便にいこう」
「こうして話が出来るのも驚きですが、まさか魔物から停戦の申し出をされるとはさらに驚きです」
「驚かれることなんだ……。そっかー。俺ってやっぱり魔物かー」
「それ以外には見えませんが?」
改めて突きつけられる現実に軽くショックを受ける倫太郎。
しかし。どうしようもない。どこからどう見ようとも人には決して見えない。見た目は100%人外なのである。
そもそもどこまで説明すべきか、どう説明するか測りかねる状況。
「自分は別世界から来た転移者で、魂の器として着ぐるみが肉体となり、女神様の恩恵で異常スキルを獲得し、化物怪物の巣窟でサバイバルをしてランクを爆上げして、そして今現在ここでトラブルを巻き起こしている」―――と正直に話したところで、そんな話を信じる酔狂な者はそう滅多にいない。
これからも付きまとうであろう『Who are you??」問題を考えると、倫太郎の心の中は虚しさでいっぱいになりそうであった。
「ん?」
肩を落とす倫太郎にトコトコと駆け寄って手を握る少女。上目遣いでニコッと微笑むその姿に不安や悩みなど一気に爆散する。
実に現金な男である。
「魔物を信頼するというのは土台難しい話ではあるのですが、なぜかソラが懐いているようなのでここはソラに免じてあなたを信じることにします」
「理由はなんであれ信じてもらえるなら何よりだよ。そっか。君はソラちゃんって言うのかぁ~。かわいいねぇ~。へへへ」
「……」カチャ
「え!?なんで武器構えるの!?」
「いえ。なにか不健全さを感じたので咄嗟に」
「いやいや!デレただけ!デレただけだから!」
ポーカーフェイスでありながらも蔑んだ眼でダガーを握るクレア。滲み出る変態性に危機察知が反応したのである。
刃越しのジト目はハッキリと怖い。
「以後、お気を付けください」
「……はい」
クレアの圧に屈服した倫太郎。ただの脅しとはいえ思わず正座である。
「さて。悠長にこんな事している場合ではないですね。そろそろ行かないと」
「え?いやまだ万全じゃないでしょ?ちゃんと体は休めんと」
「動けるようになってるだけで充分です。こんな所で長居はしてられません」
「何をそんなに急いでるの?」
「そこまでお話する義理はありません」
「いや、でもさ」
「自分たちの問題に他人―――他魔物を巻き込むつもりはありませんので」
「た、他魔物……」
聞き馴染みのないパワーワードに倫太郎は素でたじろぐ。
わざわざ言い直されたことで、自分がはっきり魔物として認知をされていることも思いの外メンタルに突き刺さる。
「本当に巻き込むつもりはないのです。ご容赦ください」
深々と一礼するクレア。あくまで独立独歩。頑なに「自分でどうにかする」という意思がひしひしと伝わって来る。
そこまでの確固たる意思を感じて、逆にクレアの事情が増々気になってくる倫太郎。
しかし。巧みな話術も狡猾な心理術も持ち合わせない倫太郎では、これ以上追及する術も度胸もない。
情けなくも手打ち止めである。
「ソラ。行きましょうか」
『……。……。』
クレアに手を引かれながら倫太郎の方をチラチラと振り返るソラ。その目はどこか不安げでもあり、悲しげでもあった。
本当に行ってしまった二人の方向を見ながら、倫太郎は一人その場に取り残される。
侘しさと無力感がじんわりと感情に染み入ろうとする中、倫太郎は腕を組んで考え込む仕草を取る。
その体勢で数十秒。倫太郎は一つ気持ちを抽出する。
「……うん。やっぱ放ってはおけんな」
お節介だと分かった上で探索者を発動する倫太郎。位置を捉えるともうすでに200メートル以上先に進んでいる。
スピードで考えても歩行ではなく走行しているのは明らかで、万全じゃない体に鞭を入れているクレアの姿が容易に目に浮かぶ。
巻き込むつもりが無いと何も語らなかったが、さすがの倫太郎でも二人が何かから逃げている事は想像できてしまう。
そもそも。二人の関係性もよく分からないところで、姉妹にも親子にも見えない年齢差である。シスターと少女という組み合わせで考えると孤児院のような所で繋がりがあるようにも考えられるが、あれだけ戦闘に長けたシスターは普通とは言えず少女には生活感がないくらい身なりがボロボロでもあった。
倫太郎が首を突っ込む理由にも、そうしたものが気になってしまっていたからというものがある。
「これは安全確認のため……これは安全確認のため……。決してストーキングではない」
うかうかしているとどんどんと引き離されそうになるので、追跡を開始した倫太郎は誰への言い訳かも分からないことを呟きながら林の中を移動して行く。
しかし。探索者で位置は見失うことはないものの、一向にスピードを緩めないクレアに追い付けない。
ランクがSSSとは言え、元々基礎のステータスが差ほどでもない倫太郎に化け物じみた運動能力があるわけではない。
もちろん上がったランクとレベル分の底上げはされているが、それでもいいとこ"着ぐるみの割には機動性が高い奴"レベルなのである。
差が開くまま、気付けばクレアらはもうすでに林を抜け出そうとしていた。
「全然追い付けないんだけど……ん?」
探索者に二人とは違う反応を感知した倫太郎。
その反応は全部で2つ。しかもそれは何の前触れもなく突如として現れた。
出現したポイントは丁度クレアとソラがいるその場所。嫌な予感しかしない。
そしてその予感はすぐ実感に変わる。
「なんだあれ!?」
上空を見上げる倫太郎の目に映るのは、直径20mはあろうかという巨大な氷塊。それがなぜか空中に浮かんでいる。
そして。嫌な予感と共に出現したその氷塊は、重力落下ではないスピードで真下に落下して轟音を響かせる。
その衝撃の余波はまだ離れた所にいる倫太郎の下へも丸々届く。
落下したそこは間違いなくクレラ達がいるポイント。
十割十分の厄介事がそこにはあることを確信しつつ、倫太郎は走るその足に力を込めて二人の下へ急ぐのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる