マスコット・ロールプレイ ―人外珍道中なんて聞いてない―

結城あずる

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魔法国珍道中

間章 聖職者は祈らない

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運命という言葉が嫌いだった。


自分の知らない『誰か』に従わされているようで受け入れられなかった。


でも。どれだけ嫌がってもそれに抗えるのは力を持った人だけ。無力な人間に抗う術なんてない。


奴隷として親に売られた私は子どもながらにそれを知った。


自由はおろか人としての在り方すら認められない毎日は、容易に私たちの自我をすり潰していく。


何が苦痛なのかも分からないほどに麻痺した身体はいつしか奴隷の動きだけをその身に刻まれていって、そして生きる意味すらも消失していく。


私たちは入れ替え可能な消耗品。


一人、また一人と壊れていく同胞の姿はまるで合わせ鏡のように私の未来を映す。


あぁ次は私かもしれない―――。

もう明日は来ないかもしれない―――。


私は心の底から運命というものに絶望した。


絶望して絶望して絶望して一滴の希望も零れないくらいに絶望した。


何もかもが壊れる寸前で師匠と呼ぶことになる人と出会ったのだが、その出会いが良くも悪くも私の分岐点。


出会いは唐突だった。


奴隷主の領地に単身乗り込んで来たかと思うと、あっという間にその場を地獄絵図に変貌させた。


見境なんてなく、奴隷主はもちろんその部下も雇っていた傭兵も残っている同胞たちすらも、そこにいる者を手当たり次第に葬って行くその姿は悪魔にも見えた。


奴隷として命を落とす恐怖とは違う圧倒的な畏怖。感情なんて死んでいたはずだったのに勝手に震え出す身体。


あれは本能に直接打ち込まれる純然たる力そのものだった。


脳裏に浮かぶは『死』の一文字。でも、奴隷として使い捨てられるくらいなら悪魔に奪われた方がほんの少し納得が出来る。


そう思ってその時を待った。でも、その時は来なかった。


目を開けるとそこには、夥しい数の死体の真ん中で肩の汚れをほろうその人の姿があった。


呆然とその姿を見る私の他にも周りには同じ顔をした仲間がいた。


残ったのは私を含めた数人の同胞だけだった。


生き残った……いや生かされた事に何か理由があったという訳ではない。あの人曰く「疲れたし」という事で私たちは見逃されたらしい。


驚くほどあっさりと壊された私たちの日常。でも。私たちに自由と生に対する喜びは無かった。この時点ではもう自分たちの命の使い方が分からなくなってしまっていたから。


そんな抜け殻のような私たちをあの人―――師匠は引き取った。でもそれは善意でも慈悲でも同情ですらもない。師匠の研究に丁度いいモルモットとして拾われたのだった。


奴隷からモルモットへ。それはただただ絶望を引き継いだだけのようだけど、それが人生の転機になるとは私も同胞も思わなかった。


師匠の研究のテーマは『覚醒』。いかに才能と力を強制的にこじ開ける事が出来るのかというものだったが、師匠には遠慮なんてものは微塵もなく私たちはその研究という名の理不尽と暴虐を死なない限り受け続けた。


結果。その研究の過程で運よくそれぞれの才能を開花させた。


それは師匠にとってもとんだ拾い物になったらしく、この時初めて好奇心に任せて私たちを正式に弟子とする事にした。


師匠の理不尽に色々やられはしたけども、力を身に付けていった事で自分を取り戻していった私たちはその師弟関係もまんざらでもなかった。


でもそれはほんのひととき。


私たちが成熟する頃には師匠も別の事に興味が移ったみたいで、「好きに生きろ」の一言だけを残して私たちの前から姿を消した。


後腐れないというか気ままというか。それはそれであの人らしかった。


残った同胞で一緒に暮らすという選択肢もあったけど、誰一人としてそれを口に出すのはいなかった。


いがみ合っていた訳ではない。でも、私たちは奴隷として生きたその時に色んなものを失い過ぎていた。


生きる為の力を得る事が出来ても、肝心の『生きる意味』が私たちの中には無かった。


だから私たちはそれぞれ散った。自分らが求めるものを探すために。


皆と離れてからはずっと野営をしながら遭遇する魔物を狩る日々。


『人』に対する拒絶感というものが思っていた以上に根を張っていて、必然と孤独な時間だけを重ねていく。


身体と心はこんなにも分離することを初めて知って、ますます生きる意味は分からなくなった。


そんな時に私は一人のシスターと出会う。


彼女は見た目は気品ある大人な女性なのにどこか抜けていて、出会ったその時も今まさに襲われそうになっている魔獣相手に気さくに話しかけて諭そうとしていた。


そこを助けたのがきっかけで彼女とは何かと顔を合わせる事になる。


彼女は見た目の通りある教会のシスターだった。抜けたり空回ったりしていたけど、献身的な彼女の周りはいつも誰かの笑顔で囲まれていた。


こっちの事なんかお構いなく手を引いてその輪の中に引き込む彼女に、私はどこか惹かれていた。


彼女のようになりたい……というのは少し違う。彼女が持っているものが私の求めているものかもしれない。そう思えた。


でも、彼女は秘密を抱えていた。誰にも言えない想いを笑顔の下に隠しながら、いつも一人で縋るように祈っていた。


その姿を私だけが知っている。でも、その姿の意味を私は知らない。知らなかった。


そして彼女は命を落とした。


自分の非力さと無力さを嘆きながら、最後まで祈るように誰かを想っていた。


残ったのは彼女の所持品と意志と一人の少女だけ。


私は彼女の意志を継ぐようにシスターの服を身に纏い、彼女が命を賭して守った一人の少女を守ると決めた。


成り行きではあった。でも。そうしたら、自分の求めていた何かを埋められる気がしたから。


それに。私の手を握る身なりがボロボロな少女の姿が、どこか昔の自分と重なったというのも私がやろうと思った一つだったかもしれない。











ここまで生半可ではなかった。


追手に追われ、休むことなく戦いを強いられ、命を擦り切らしていくような緊張感が体を蝕み続ける。


約束も少女も、守ることがこんなにも苦しくて難しいものだとは思わなかった。


昔も今も、私には力が無い。


途中で珍妙なウサギの魔物にやられて、挙句助けれらたりしたのがその証拠。


……敵を前にして、なんで今になってこんな事を思い出して考えに馳せているんだろうか。


今までの追手とはまるきり違うと分かる異様な空気を纏う刺客。果たしてここを私に乗り切れるだろうか。


でも。やるしかない。ここには私とソラしかいない。


私が私を見つける為に、シスターの想いを守る為に、何の罪もないこの子ソラの為に、持てる力を以ってここで戦う。


シスターすら救わなかった神様が私たちを救うはずもないのだから……。


だから私は祈らない。何あろうと決して祈らない……。
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