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第6章 東の果てのイシュタル

第128話:これはGL? それともBL?

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 VRMMORPG──アルマゲドン。

 異世界に放り込まれたと錯覚するほどの真に迫るリアリティ、極限まで追求されたグラフィックは現実を超える美しさ。

 発売当初は、そのような売り文句で話題になったものだ。

「まさかホンマモンの異世界に放流されるとは思わないよねー」
「放流とか言うな。俺たちはさけか」

 まだバナナを頬張っているミロの放言に、ツバサは苦い顔をする。

「どちらかと言えば害獣を駆除するための益獣でしょうか?」
「ハブを減らすためのマングースかよ」

 クロコの比喩ひゆに、ツバサは苦い表情のまま卑屈に微笑んだ。

「あれは大失敗──生態系を荒らして終わったんだ」

 ツバサが動物生態学に詳しい学友に聞いた話。

 マングースは西アジアから東南アジアに生息する雑食性の哺乳類だが、インドでは毒蛇で有名なコブラと戦い、これを仕留める見世物がよく見られる。

 これに着想を得たある学者が、沖縄のハブ対策にと持ち込んだのは有名な話。以来、「ハブとマングース」は不倶戴天の天敵を指す言葉になったほどだ。

「正確には――ネズミ・・・とハブへの二重対策なんだけどな」

 1900年代初頭の頃である。

 当時、沖縄では砂糖の原料となるサトウキビ栽培が盛んだったのだが、ネズミの食害による被害が酷く、おまけにそのネズミを狙ってサトウキビ畑に忍び込むハブによって、農家の人々が咬まれて命を落とすという事故が頻発ひんぱつした。

 そこで――マングースを天敵として投入する。

 雑食性のマングースは小型のネズミを食べるし、毒蛇のコブラをも噛み殺す。同じ要領ようりょうでハブにも怯まず、食い殺してくれると期待したのだ。

「あれ? 全然イケそうじゃん。なんで失敗したの?」

 小首を傾げるミロに、ツバサは自然界の現実を教えてやる。

前提ぜんていからして間違っていたそうだ」

 確かにマングースはコブラにも怯まない。時として食い殺す。

 ただし――必要に迫られたらの話だ。

「戦いを挑めば自分が死ぬかも知れない強敵をえさにすることは少ない。もっと仕留めやすい獲物が他にいるなら、コブラに挑む必要はないんだ」

 マングースはお手軽に狩れる獲物を選んで食う。

 生きるか死ぬかの死闘を繰り広げて毒蛇を噛み殺すより、毒の牙も敵を絞め殺す長い体も持たない、自分より弱い動物を倒した方が早いのだ。

 カロリーの消費だって段違いである。

「天敵の少ない沖縄の固有種、天然記念物と指定される希少種……そういった襲いやすい獲物ばかりを食べて、ハブには見向きもしなかったそうだ」

 天然記念物の減少に、マングースが一役買ったという説もある。

 更に言えば、ハブとマングースでは生活時間帯が違う。

 ハブは夜行性――マングースは昼行性。

 そもそも出会いのタイミングがなかったのである。

「マングースがハブを一掃いっそうしてくれるよう願ったのだろうが……自然は誰かの思い通りにはならないってことさ」

 そして、ツバサたちもそうならない保証はない。

 ツバサたちが真なる世界ファンタジアを壊さないとも限らないのだ。

VRMMORPGアルマゲドンを作った灰色の御子の思惑通りになるかどうか……」

 そのアルマゲドンだが、ゲーム内のワールドもVRシステムとは思えないリアリティを誇っていたが、アバターに関しても革新的だった。

 ありえないほどの一体感、常軌を逸するほどの同調シンクロ率。

 これが本当の自分だと錯覚するほどの没入感。

 かつてないアバターの操作性はプレイヤーたちに高く評価されたが、それゆえに『アバターの外見を変えられない』ことに不満が寄せられた。

 初めてのログインで作製されるアバターは、運営曰く「プレイヤーの脳波を測定して本人と瓜二つのアバターを自動的に作ります」とのこと。

 この設定を改造することは、どんなプログラマーやハッカーにも不可能。

 闇サイトで「できたら金を出す」と懸賞金までかけられたほどだが、成功例を聞いた例しがない。ナアクが成功していたのかも知れないが真相は闇の中だ。

 その辺を思い出してツバサは呟いた。

「……あれって今にしてみれば、プレイヤー自身の魂を肉体から一時的に引っこ抜いて、真なる世界ファンタジアのどこかに囲っていたというアルマゲドンのワールドに放り込んでいただけなんだろうな」

「そうなりますわね。なので、何人たりとも初期アバターの改変は不可能だったのです。自ら自分自身を変える……これほどの試練はございません」

 上級GMゲームマスターだったクロコは、これを知っていた。

 ただ、当時は機密情報だったため、いくら親愛なるツバサやミロでも明かすことはできなかった、とこちらの太ももに頬ずりしながら謝罪してきた。

 蹴り飛ばしてのは言うまでもない。

 それでも涎をたらして喜ぶのだ、この駄メイドは──。

「でもさ、アタシたちのこの身体ってもうアバターじゃなくて、魂なんでしょ? えっと……アシタヤルだっけ?」

「アストラル体な。なんだ、アシタヤルって……明日やる、か?」

 言葉の端々にニート時代を滲ませるミロだった。

「そうそう、アストラル体。その魂のアストラル体にさ、男とか女とかってあるもんなの? そりゃプレイヤーのみんなは基本、現実と同じ性別でこっちに飛ばされてるけど……ツバサさんはおっぱいだし」

「ええ、ツバサ様はこの通りおっぱいですしね」

 2人はさりげなく手を伸ばすと、それぞれ片方ずつツバサの乳房を愛でるように揉んだ。甘い声が出かかるのを抑えてツバサは額に青筋を立てる。

「んっ……それは、内在異性具現化者アニマ・アニムス、だからだろ……やめ、ろっ!」

 アホ娘と駄メイドの頭に、たんこぶができるほどの拳骨を落とす。

 それでも2人は乳から手を離さなった。

現実リアルにいた頃……聞いたことがあります」

 ようやく回復したマヤムが、よろよろと立ち上がる。その表情はまだ女の快感に緩んでおり、漏らす吐息もどことなく桃色がかっている気がした。

「確か、レオ先輩、だったと思うんですけど……」

 ゲームマスター№07──レオナルド・ワイズマン。

 クロコ(エロ駄メイド)やフミカの姉(元引きこもりニート)、それに脳筋の淑女やコミュ障の喪女という問題児ばかり押しつけられたGMだ。

 若手のホープでジェネシス幹部候補とのこと。

「生え際の後退を気にするのが玉にきずでしたわね」
「その原因はおまえらだろうが」

 マヤムはレオに誘われ、何度か2人で呑んだことがあるらしい。

 その時──こんな話をしたそうだ。

『内在異性具現化者というのは、相反する2つの力を持っているのかも知れない。男と女、人の理性と獣の野性、生と死、善と悪、創造と破壊……アルマゲドンでは何かの拍子でそれが裏返り、表に現れてしまったのだろう』

『内在していた異なるさがが具現化した……ということですか?』

『そう読み解くべきだろうな。うん、いい理解力だ』

 マヤムの言葉に、レオナルドは満足げに微笑んだという。

 回想するマヤムにクロコがにじり寄っていく。

「レオ様とサシで呑んだのですか……? その時の状況を詳しくお聞かせいただけますか? 男の娘モードで愛想振りまいて迫ったのですか? 色目を使って媚びたのですか? BLに発展する可能性はハウマッチ!?」

「ちょ、待って、クロコ先輩? 僕はレオ先輩とそういう関係じゃ……ひゃっ! またオッパイ揉むの!? あ、だめ……ま、またっ……んくぅ!」

 マヤムとレオが二人っきりで呑んだことを問い詰めつつ、そのことにレオナルドに劣情という名の思いを寄せる乙女としてではなく、腐女子のセンスで「同性愛っぽい雰囲気はあったの?」と聞いているのだ。

「クロコ、話の腰を折るな。それとマヤムさんの胸を揉むの止めろ」

「これは失礼しました──ツバサ様も揉みますよね」

「俺に勧めるな! って、こら! 本当に揉ませんなよッ!?」

 クロコはマヤムの胸から手を離すとツバサの両手をサッと掴み、有無を言わさずにマヤムの胸へと誘導した。反射的に鷲づかみにしてしまう。

「あっ、やっあ……っ!」

 その瞬間、マヤムは年上とは思えない可愛らしい声で喘いだ。

 厚着な衣装の上からの感触だし、ミロより1ランク下のカップ数ゆえに揉み応えはそれほどでもないが……やっぱり、おっぱいはいい。

 久し振りに──男心が絶好調で喜んでいた。

 気付けば1度では足りず、2度3度と4度目まで揉んでいた。

「あ、あの、ツバサ君……そんな揉まれると僕、また、気持ちよくぅ……」
「……え? あああっ、す、すいません!」

 慌てて手を離すと5歩ぐらい退いてから深々と頭を下げた。

 謝罪として「大丈夫、おっぱい揉む?」などと、冗談半分なノリでこちらの乳房を提供して、明るいジョークで場を和ませようとか考えた。

 しかし、アホ娘と駄メイドの目があったので止めておこう。
 この2人はそういうのを利用して悪ノリする。

 だが、2人の瞳は“キラーン!”と悪巧みに煌めいていた。

「これはいけませんね……謝罪と返礼を兼ねて、ツバサ様の豊穣なる爆乳をマヤム君にも揉ませてあげるべきです。それでイーブンとなりましょう」

「なっ……おまえが揉ませたんだろうが!?」

 怒鳴るツバサの背中を、クロコが素早く押してきた。

「そーだねー。男だった頃を思い出して、あんな情熱的にマヤちゃんのおっぱいをモミモミしちゃったんだからねー。これはツバサさんも揉まれとかんと」

「ミロ!? おまえ誰の味方だよ!?」

 クロコを手伝うように、ミロまで背中を押してくる。

 押し出す先は勿論──マヤムの前だ。

 こうなれば自分よりも年上の男性(中身は)であるはずの、マヤムの理性を信じるしかない。社会人の常識に頼ろうとしたのだが……。

「ツ、ツバサ君のおっぱい揉んでもいいの!? そ、そうだよね、僕だって揉まれたんだから……うん、今はもう女の子同士だから問題ないよね!」

 ヤバい──やる気満々だ、この人。

 近付いていくツバサの乳房にマヤムは魅入ってる。

 黒目が点になるほど大きく見開いて、半笑いの口からは「はあ……はあ……」と美少女の外見に相応しくない、変質者の吐息を繰り返していた。

 差し詰め、ツバサは捧げられる生け贄か?

 とうとう大興奮するマヤムの前までツバサは押しやられる。

 マヤムは今すぐにでもおっぱいを揉みたそうに指を開いたり握ったりを繰り返している。それでも一応、上目遣いに尋ねてきた。

「ツ、ツバサ君……ホントにいいの!?」
 夢と期待に震える美少女の声、無下には断れない。

 それに駄メイドというアクシデントがあったとはいえ、男の頃を思い出して彼女の胸を揉みまくったのはツバサが先だ。

 こちらの胸を差し出そうと思ったのもあって──。

「あ……まあ、その……先に揉んだのは俺だったわけで……」

 どうぞ……ツバサはためらいがちに胸を持ち上げる。

「じゃ、じゃあ……遠慮なくいただきます!」
「は、はい……って、躊躇ちゅうちょなくっ!? あくぅ! ひっ……ああっ!」

 マヤムは人懐っこい犬みたいに飛び掛かり、その小さな手ではカバーしきれないツバサの巨大な乳房に片手ずつ添えたかと思えば、あらん限りの手管を尽くして、この大きすぎる双球を丹念に揉みほぐしてきた。

「うわぁ……いいなぁ、大きなおっぱい……僕もこれくらい大きくしたかったなぁ……おお、柔らかいのに弾力が……ゴム? モチ? マシュマロ? いやプリンみたいな……たとえようもない、この極上の触り心地……」

「あっ、マヤムさん、そんな手付き……表面を撫で回すのやめ……あっ、んッ! そこ、先っぽをほじくるみたいに……ふわぁ、指をめり込ませないで……!」

 宝玉を撫でるみたいに乳房の上で掌を滑らせたり、乳房の先端の一番敏感な部分を見つけてはそっと指で摘んだり、乳房を持ち上げるように脇の下から手を回していくと、指先をめり込ませながら揺らしたり……。

 マヤムの掌は、縦横無尽にツバサの乳房を愛撫する。

 興奮してきたマヤムは乳房を揉むだけでは飽きたらず、もっと間近で見ようと顔を寄せてきて、ついにツバサの谷間に顔を突っ込んだ。

「ちょっと、マヤムさん!? 待って……はぁん♪」

 谷間に熱い吐息を吹きかけられ、ツバサの背筋がゾクリとする。

「おお、この圧倒的な重量感……ッ! 重くて圧迫感がすごいのに、安らぎを覚えて沈みたくなる安息感が……これが地母神のおっぱい……」

 とうとう胸の谷間へ完全に顔を埋めたマヤムは、両手を広げて乳房を抱き寄せると、俗に言う“パフパフ”を始めていた。

 本当にヤバい──ツバサの気分もたかぶってきた。

 マヤムはそれ以上なのだろう。明らかに表情がやる気・・・だ。

 マヤムの攻めは、乳房への執拗な愛撫に留まらない。

 厚手なローブをかきわけて、ツバサほどではないが女性らしく皮下脂肪の乗った太ももを露わにして、ツバサの足の間へと差し込んできた。

 そのまま、こちらの足の間にある敏感な部分を刺激してくる。

 反応したら深みにはまるだけなのに、ツバサは押しつけられるマヤムの太ももを拒むことができず、自分から押し当ててしまっていた。

「はぁ、あっ、んんっ……ツ、ツバサ君……なんだか、濡れてきたような感じがするよ……? 胸とか、その、股間とか……湿って……んんっ♪」

「ダ、ダメ……マヤムさん、それ、言ったら……はぁ……んんっ!」

 ジャケットの下ではハトホルミルクが漏れている。マヤムの手は上着の中に忍び込み、ミルクに濡れそぼる胸を舐めるように撫で回していた。

 2人の柔らかくなった、女性的な太ももが絡み合う。

 自然と互いの秘所を擦り合わせ──たえなる水音が聞こえた気がした。

 危険だ! 危険すぎる! どっちも本気になりつつある!

 だが、火照ほてった身体は止まらないし、津波みたいに押し寄せる女性の快感に元は男性の2人は抗う術を知らず、流されるままになっていた。

 そこへ──駄メイドが入らぬ気を回す。

「ツバサ様! マヤム君!」

 叱責しっせきにも似た鋭いクロコの美声に、ツバサもマヤムもビクリと震える。

 その瞬間、両者とも──軽く達した・・・・・感じがあった。

 ツバサとマヤム、気付けばお互いにくんずほぐれつ抱き合うような態勢になっており、そのままで蒸気が上がりそうな赤ら顔をクロコに向ける。

 クロコの背後には、巨大な円形ベッドが用意されていた。

「オカン系男子な美少年と男の娘な美青年! そんな2人が麗しき女神に転生してイチャイチャパラダイス……それを立ったまま事に及ぶなど言語道断! できればベッドの上でヌチャヌチャグチョグチョに交わってくださいませ! そう、さながらナメクジの交尾のようにドロッドロになるまで!」

 こちらにご用意いたしました! とクロコはベッドを示す。

「さあ、どうぞ遠慮なさらずに! 私のような駄メイドの視線など気にせず、欲情の赴くままに慰め合ってくださいませ! 元男性同士ですから中身はBLですが、見た目的には濃厚なGL! 百合! レズ!」

 一粒で二度美味しいとは正にこのこと! とクロコは大興奮だ。

 感涙と鼻血と涎を振りまいて小躍りしている。

「薔薇の花と百合の花が同時に咲き乱れる一時をッ! 私に一挙両得なシーンを思う存分拝見させてくださいませッッッ!」

「「できるかあああああああああああああああああぁぁぁーーーッ!!」」

 ツバサは真っ赤にした顔から本当に炎を噴き出してクロコを吹き飛ばし、マヤムはありったけの空間水晶スペース・クォーツを作って叩きつけた。

 ようやく──我に返ることができた。

「あ、危ないところでしたね……もう少しで、とんでもない痴態をこいつらの前で晒すところでした……大丈夫ですか、マヤムさん?」

 軽く絶頂を迎えていたのは内緒だ──バレてない、きっと多分。

 マヤムも顔を赤らめたまま、瞳を潤ませて訴えてくる。

「ご、ごめん……ぼ、僕……その、イッてた・・・・みたい……」

 どうして自爆するかな、この人は……。

「ミロォッ! どうしておまえも止めなかったッ!?」
 俺が不倫していたようなもんだろ!? と自分の恥を棚上げする。

 これにミロは、楽しげな笑顔で答える。

 面白いものが見られた、と喜ぶ王様のような余裕の笑みだ。

「女の子とキャッキャッウフフするなら全然いいよー♪ アタシも見物したり混ざったりして楽しめるしね。ただし…………」

 男とやったら殺す──その男を存在ごと消す。

 ハイライトの消えた瞳で、ミロはくすんだ笑みをこぼした。

「ツバサさんを男として・・・・愛するのはアタシだけだ。男のアタシが女として愛するのはツバサさんだけ……この関係を汚す者は万死に値する」

「おまえ……そういうところは病んでるよな」

 実はウチのアホガール──ヤンデレ要素持ちなのだ。

 元々、百合というかレズ気質があったため、女同士のエロス方面には大らかだが、ツバサが他の男と関係を持つと嫉妬を爆発させるらしい。

 ツバサが他の男に抱かれる心配はない──絶対にだ。

 最近、ミロは男の娘になる方法を覚えた。それはミロだから受け入れているわけであって、他の男が性的に迫ってきたらツバサが殺すだろう。

 ミロの手を汚すまでもない。

 ツバサを女として抱いていいのは──ミロだけなのだ。

「しかし、すっかりパーフェクトオカンへと進化ししつつあると思ってたけど……やっぱりツバサさんもまだ男の子なんだね。うん、良かった」

 ミロは腕を組んでしみじみと頷いていた。

 ミロの言葉に賛同するべく、クロコも舞台裏バックヤードから戻ってくる。
 ツバサたちの攻撃をあれで回避したらしい。

「ええ、マヤム君のおっぱいを揉む時の表情など、年頃の男の子その物でございましたしね。そして、揉まれるマヤム君の表情もまた……BLにしてGL、セットでお得でございました。是非ともまたお目にかかりたいですわね」

 ところでミロ様、とクロコはミロの顔を覗き込む。

「パーフェクトオカンとは?」

「うん、二人っきりの時にツバサさんと色々試しててね。アタシのムスコ・・・をちゃんと使えるように訓練してもらってるんだー♪」

「こら、あんまり大声でその話をするな! 誰かに聞かれたら……」

 もう遅い──その誰かが耳聡く拾っていた。

「え、ムスコって……ミロちゃん生えてるの・・・・・!?」
 この話を聞いてマヤムは愕然とする。

 これにミロは得意げなドヤ顔で胸を張った。

「むっふっふっー♪ ミロさんはいつの頃からかムテキな美少女とステキな男の娘、どちらにでもなれる不思議パワーを手に入れていたのだーッ!」

 当初は“世界を変える過大能力”の一端かと思っていた。

 しかし、どうも違うらしい。

 ミロも恐らく──内在異性具現化者アニマ・アニムスなのだ。

 それもツバサやアハウのように女や獣になったままではなく、自由に男女の肉体に入れ替われる、完成された内在異性具現化者なのだろう。

 しかし、ツバサはこの事実をミロにはまだ伝えていない。

 この手の話をすると、ミロアホは調子に乗る。

 もう少し──精神的に成長してから話してやるつもりだった。

「ところでミロ様、ツバサ様とミロ様のムスコの訓練とは?」
「ああ、それね。暇を見てはやってるんだけど……」

 手でしごいてもらったり、胸で挟んでもらったり、素股ではさんでもらったり、お尻の谷間に押しつけたり、授乳しながらしごいてもらったり、お口で奉仕してもらったり…………。

「ついに先日、ようやっと安全日には本番・・・・・・・を……ッ!」
「ミロおおおおおおぉぉぉーーーッ!?」

 ツバサは真紅と呼ばれそうなくらい顔を赤らめると、ミロを黙らせるために本日2度目の拳骨を落とした。たんこぶが2段重ねになる。

「おまっ……それは絶対に内緒だって約束しただろーッ!?」
「あ、しまったそーだった。話の流れでつい……」

 このおだて上手め♪ とミロは「テヘペロ♪」とかいう擬音が聞こえてきそうな表情で、人差し指2本を使ってクロコを指し示した。

 指されたクロコは──感動に打ち震えながら感涙の涙を流した。

「お……おめでとうございます、ツバサ様! ミロ様! ついに男女としてのあるべき交合も果たされたのですね! 百合の花が咲き乱れる女同士の園から、ミロ様から芽生えた雄しべ・・・が、ツバサ様の雌しべ・・・に……おっほ♪」

 クロコは感激のあまり、鼻血を噴き出して引きつけを起こす。

 だが卒倒せず持ち堪えると、こちらに向けて親指を立ててきた。

「拠点に帰りましたら直ちにお赤飯を用意をいたします!」
「やかましい! お赤飯ならとっくに済ませたわ! 不本意ながら!」

 触れずにいたが──神族の女性にも生理はある。

 ツバサにも周期的に“あの日”が訪れている。

 初めてそうなった時は、知っていたがパニクったものだ。

 その上、男の娘になったミロに、女性として抱かれたことまで暴露されてしまうなんて……猛烈な羞恥心に脳髄まで沸き立ってきた。

「あ、あの……大丈夫だよ、ツバサ君!」
 ツバサの心中を察したのか、マヤムが気を遣ってくる。

「僕もアハウさんに、その……女として抱かれたけど・・・・・・・・・……すっごく気持ちいいから大丈夫だよね!? 正直、癖になるでしょ、ね、ね、ねッ!?」

「なにカミングアウトしてんだアンタは!?」

 はっきり否定できず、同意したくなるのが元男子として嘆かわしい。
 もう反論できないし認めるしかないのだ。

 ツバサもマヤムも──完全な女性になっている。

「マヤム君、やはり既にアハウ様と……その詳細を是非ッ!」
「黙れ淫乱メイド! 他人様ひとさまの性生活をほじくるな!」

 あーもう! とツバサは恥ずかしさを紛らわせるため大声を出す。
「さっきから話が横道に逸れてばっかりだ!」

 ツバサはマヤムの背後に回り、そのツバサよりも小柄で細くて抱き締めやすそうな両肩を掴んで、“この人が本題だろ”と主張しつつ言った。

「話の論点は、マヤムさんがどーして性転換したのかってことだろうが! いつになったら本題に行き着くんだよ!?」

「そーいえばそうでしたわね。忘れかけてました」
「だからアルマゲドン振り返ってたのに……どーしてこーなった?」

「俺が聞きたいよ! 大概おまえらのせいだろ!?」

 ミロとクロコがいらぬ茶々を連続コンボで突っ込んでくるから、話が遅々ちちとして進まないのだ。立ち話というのも良くないかも知れない。

「クロコ、おまえの舞台裏バックヤードを貸せ」
 喫茶店の代わりぐらいは務まるだろう、とツバサは促した。

 承知いたしました、と一礼するクロコメイド

「喫茶店と言わず、ラブホテルでもカラオケボックスでも……」
「座って喋れる場所があればいいんだよ」

 ミロに続いて、クロコにも2度目の拳骨を振り落とした。



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