その杯に葡萄酒を~オメガバ―ス編~

蓬屋 月餅

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第2章

15「待合室にて」

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 陸国では出産は各地域にいくつかずつ設けられている『産屋』で行うのが一般的だ。
 助産を担う女性や医師達はそれぞれ地域の中のどの産屋を利用するかが決まっているので、出産する際には自身のかかりつけ医が担当している産屋を利用して出産と産後の数日間を過ごすのである。
 そもそもかかりつけ医は自宅近くの医師であることがほとんどなので、必然的に利用することになる産屋も自宅近くになっていることがほとんどだ。
 男性オメガである夾のかかりつけ医が受け持っている産屋も酪農地域にある中ではかなり端の方に位置しているが、しかし夾の自宅からは少々歩けばつくというくらいの程よい距離感のところにある。
 男性オメガである夾は出産予定日を迎えたその日に、荷物を持った璇と共に自宅からその産屋までを歩いて向かったのだった。

 産屋は医師達が泊まり込むための部屋を備えた大きな母屋と、その母屋から扉と廊下で繋がっているいくつかの孤立した産室で構成されている。
 産室の数は産屋の規模によってまちまちであり、基本的には3~5つほどなのだが、地域の中心になればなるほどその数は増えて 中には10部屋以上設けているところもあるのだそうだ。
 母屋を中心として半円、または周りをぐるりと取り囲むような形で産室が配されているのが特徴で、待機している医師や助産、そして物資などを簡単に手早くそれぞれの産室に運びこむことができるようになっている。
 夾が利用することになっていた産屋には全部で3つの産室があったが、偶然にも他の部屋は空室になっていて夾だけが利用することになっていた。

「あっ、よく来たわね!ここまで来るのに沢山歩いたでしょう?まずは荷物を置きに行きましょうか、同時に泊まる部屋についても案内するわ」

 ようやく産屋に辿りついた璇と夾を出迎えてくれたのは以前から助産を担当することになっていた女性だ。
 彼女は夾のかかりつけ医の妻で比較的年若いのだが、同じ男性オメガである琥珀の出産にも立ち会ったことのある経験豊富な人だという。
 穏やかな声で気遣ってくれる彼女の案内に従って産屋の母屋から自身に割り振られた産室へと向かう夾。
 産室の中はそこそこの広さがあって、出産からその後数日を快適に過ごすための工夫があちこちに見られる造りをしていた。常に清潔さが保たれているらしいその部屋は初めて来たにもかかわらず とても落ち着く感じがして、心地良い。

「こっちに荷物を置いてもらって…それじゃあ軽く部屋の説明をするわね。ここが寝泊りにも使ってもらう寝台、そしてこっちにある扉の先が脱衣所と浴室よ。向こうにある小部屋は待合室になっててね、家族とかがそこで待機できるようになってるの。今通ってきた母屋との廊下からも行き来することができるから、この産室に直接来てもらうんじゃなくて、一旦待合室で手洗いとかを済ませてからこっちに来てもらうってこともできるようになってるわ。後でまた細かく見て回りましょうか。部屋について大きく説明するとこんなところかしら…この産室にある収納棚とかは全部自由に使ってもらっていいからね。着替えとかの家から持ってきたものを好きなように仕舞って使ってちょうだいな。浴布とかは母屋の方から貸し出したりもしてるから遠慮なく声をかけてね」

 そうした説明を聞きながら部屋の片隅にある小さな赤子用の寝台を見ては産まれたばかりの自身の子がそこで眠っているところを想像してみたりしてそわそわとした気分になる夾。
 だが、実はそんな彼はこの産屋に到着した時からすでに、かすかに腰に痛みを感じ始めていたのだった。
 妊娠が分かってからはこんなにも長く外を歩く機会がなかったのでそのせいで少し脚や腰を痛めたのではないかと思うところかもしれないが…しかし彼にはこれが陣痛の始まりではないだろうかという少し確信めいた思いがあって、思い切って助産の女性に声をかける。

「あの…ちょっとさっきから腰が痛い、かもしれないんですが」

 そう打ち明けた夾に「え゛っ!?」という大袈裟な反応を示したのは、助産の女性ではなく璇だった。
 呆然とその場に立ち尽くしている璇をよそに、助産の女性は「どんな感じの痛み?痛みに間隔はある?」と落ち着いた様子で訊ねながらそばにある長椅子へ腰掛けるよう促す。

「今も痛む?」
「いえ…ちょっと収まったかもしれない、です。シクシクするような感じの痛み…というか……歩いた疲れなのかどうかがよく分からない感じで…でも確かに言われてみると間隔があるような気も…」
「うーん、少しこのままじっとして、ちゃんと間隔があるかを測ってみたほうがいいわね。もう今日が予定日だからこのまま陣痛になってもおかしくはないし、ちょっと様子を見てみましょうか」

 そうして様子を見ながらしばらく話をしていた夾だったが『やはり気のせいだったのだろうか』と思っているとやはり腰の辺りが痛みだし、それを伝えると助産の女性は「波があるってことなら本当に陣痛が始まりつつあるのかもしれないわね」と壁に掛けられている時計に目を遣った。

「これから徐々に間隔が短くなって痛みも強くなっていくと思う。そうしたら本格的にお産になるけど、でも私達もきちんと備えているから安心してちょうだいね」

「そろそろ医者の先生も来る頃だからそれまでは間隔を測りつつなるべく歩くようにしていましょうか。無理はしなくていいけど、なるべく歩いて体を動かしていた方がお産の進みがよくなるからね。今から色々と支度を整えていって それが全部済んだ頃に軽く湯を浴びて体を温めましょう。これも もちろん無理のない程度でね。湯で体を温めるともっとお産が進みやすくもなるから、なるべく浴びるようにした方が良いのよ」

 そう言って出産に使う寝台のための敷き具などを母屋へと取りに行った女性。
 言われた通りに部屋の中を歩き始めた夾が「すみません璇さん、持ってきた荷物を棚に仕舞っていってくれませんか」と声を掛けると、璇はおろおろとした様子で荷解きを始める。

「な、なぁ、外から歩いてきたばかりで休む間もなくそうやって歩き続けようっていうのか?ちょっと休んでた方がいいんじゃないのか、無理はするなって言われただろ」

 心配そうにしている璇に、夾は「大丈夫ですよ、俺はそもそもよく歩いてたじゃないですか」と何の気なしに答える。

「どうせこれからもっと痛みは増してくるんですから今のうちになるべく動いて赤ちゃんが下がってきやすいようにしていたいんです。男のオメガは少しでもお産が長引くと危険だと聞きますし、赤ちゃんも早く外へ出てきたいでしょうから」

 夾のそのあまりの落ち着きように驚く璇。
 彼がこんなにも落ち着いているのは、男性オメガの先輩である琥珀からの助言によるものが大きかった。

《僕の初産のときは産屋に向かう途中でお腹が痛くなりだしてさ、それからすぐにお産になったからすごくバタバタしちゃったんだ。よく歩いたのが陣痛のための良いきっかけになったんだろうって先生も言ってたよ。泊まる産室に着いてからは荷解きをする間もなくすぐそうなっちゃって…特に初めてのお産のときはそんな感じで慌しかったな、あくまでも“僕の場合は”だけどね。でもコウ君もそんな風にしてお産が始まったりすることもあるかもしれないから ただ産室に泊まるための準備だけじゃなくて、そのままお産が始まってもいいように軽く飲み物とかを用意していくといいかも》

《陣痛が始まると“力はつけた方がいいけどそんなに物を食べられない”って状況になるから、例えば果実を絞ったのとか、そういうちょっとした飲み物や一口で食べられるような軽食を用意しておくと良いんだ。僕は初産のときにそういうのがすぐ手に入らなくて結構大変だったから2度目の出産のときに用意して行ったんだけど、甘い果実を絞ったのがあるだけでも随分違ったよ》

 そんな琥珀からの手紙に書かれていた助言に忠実に従っていた夾。
 彼はその通りに飲み物などを持参してきていたので、助産の女性に「とっても良い備えをしてきてたのね…!」と大いに褒められることになった。
 陣痛が始まるかもしれないということをあらかじめ頭に入れてきていたので、彼は実際に痛みを感じだしても『あ、やっぱり始まったな』という認識だけでそう慌てることもなく対処することができたのだ。
 その後、かかりつけ医も来て痛みの間隔などを再度確認すると、たしかに陣痛が始まっているらしいということになる。
 通常、男性オメガの初産は陣痛が始まってから7~8時間程度であるとされているのだが、それを上回る速さでどんどんと彼の陣痛の間隔は短くなりつつあって、助産の女性も「もう湯で体を軽く流してきちゃいましょう。体の洗い方については…」と夾を備え付けの浴室へ案内していった。
 その間にも産室では出産のための準備が着々と整えられていっているのだが、璇は『まさか本当にこのまま出産になるのだろうか』と未だに少し信じられずにいて、荷解きを終えた後も呆気に取られたまま、なすすべもなく部屋の隅に立ち尽くしている。
 やがて浴室から着替えて出てきた夾はもう歩き回ることなどできないくらいになっていて、そのまま寝台に横になったのだった。

「お…おい、大丈夫なのか…?いや…大丈夫なわけがないよな……」

 寝台のすぐそばで夾の手を握り締めながら狼狽える璇。
 夾は脂汗を滲ませながら吐く息までもを震わせて痛みに堪えている。
 しかしそんな中でも彼は時折両足や腰を伸ばすなどしてなんとかお産の進みを促そうとしていた。
 女性体の場合は筋肉などが比較的柔らかく、骨盤も体の構造上いくらか広がりやすいようにできているが、男性体である男性オメガはそうではないので女性に比べると陣痛の痛みそのものの種類も少し違うのではないかとさえ言われているほどだ。
 だからこそ『痛いからといって縮こまっていては余計に体が固くなってお産が進みづらくなってしまうだろう』と考えた夾は何とか腰を伸ばしたりして体が痛みによって硬直しきってしまわないようにとしていたのである。
 懸命な姿の夾を前にした璇は自身のあまりの無力感に「韶…韶、俺はどうしたらいいんだよ、こんな……」とらしくもない弱々しさを露わにしながらそばにい続ける。
 握った手に込められている力は相当なものだ。
 …だが夾はそれよりもなによりも璇の顔色が真っ白になっていることに気付いて目を瞬かせた。
 まさに顔面蒼白。
 血の気の引いた顔色である。
 夾は「璇さん…ちょっと落ち着いてください…」と息も絶え絶えになりながら口を開く。

「俺は大丈夫ですから、そんなに…心配しないでください」
「何言ってんだ、心配するに決まってるだろ!韶がこんな…こんなになってるのに……!」
「ちょっと、本当に俺より璇さんの方が心配になりますってば…」

 きっと貧血でも起こしているに違いないというくらいの璇の様子に夾も気を取られてしまい、それまで腰の痛みのことしか考えられていなかったにもかかわらず そうした痛みがふっと和らいだかのように思えてきてしまう夾。
 それからしばらくして「どう?赤ちゃんもだいぶ下の方へ来たみたいなんだけど、そろそろいきみたいくらいになってきた?」と助産の女性に声をかけられたときには、なんとすっかり痛みがなくなってしまっていたのだった。

「え…なんだか痛みがおさまってきちゃったような感じが…する、んですけど………」

 少し前まではあんなにも痛みがあったというのに一体どうしたのだろうかというほど体が楽になってしまった夾がそう話すと、助産の女性も「あら…陣痛が遠のいちゃった、のかもしれないわね」と少し苦笑いを浮かべてかかりつけ医と共に脈診などから赤子が無事でいることを確認したりする。

「でも今日中には出産になるのは間違いないと思うから、もう少し待てばまた陣痛は起こるはずよ」

 だが陣痛が遠のいてしまった理由に心当たりのある夾はこうしてずっと待っていても再び陣痛が強くなることはないだろうと考えて、璇に声をかける。

「…璇さん、まだもう少し産まれるまでには時間がかかるかもしれないので、ひとまず隣の待合室で休んできてください。…ね?顔色が良くないので…心配なんです」

 もちろん璇はそう言われて『じゃあ…』と大人しく従うような男ではない。
 待合室で1人休むなどというのは彼には以ての外で「そんなことできるわけないだろ…!」と反対する。

「俺もここにいるよ、韶を1人にはしない。韶のそばにいないと俺は…」
「…ありがとうございます、璇さん…でも本当に血の気が引いた顔色をしているので心配なんです……ちょっと休んできてください、ね?」
「だけど……」

 それでも食い下がる璇を説得するように、夾は「もしこのままでいて倒れたりなんかしたらどうするんですか?」と呼吸を落ち着かせながら言った。

「今だって大変なのに…璇さんまで倒れてしまったら先生達がもっと大変になっちゃうじゃないですか…だから…だからひとまず休んで来てください……」

 その説得を聞いた璇は医師達の仕事を増やすことで韶の身を危うい状況にさせてしまいでもしたらまずいと察したのだろうか。
 渋っていた璇は、結局 待合室で休んでくることを受け入れたのだった。
 握り合っていた手を離れがたく思いながら解く璇。
 彼は何度も夾のことを振り返って見つめながら隣にある待合室に向かった。


ーーー


 張り詰めていた気がぷっつりと切れてしまったのか、待合室の扉を閉めた璇は途端にさぁっと体中の血の気が引いていくような感覚になる。
 眩暈によって足までもがもつれたようになり、ふらふらとしだした彼は待合室の中に備えつけられている可愛らしい柄の長椅子の上へと腰を下ろした。
 手や足の指先が少し痺れているようだ。
 視界はじわじわと端の方からざらついているかのようになり、いくら瞬きをしても消えないそれはやがて目を見えづらくさせてゆく。
 さらにその上、いつの間にか聞こえ出していた妙に低い耳鳴りは次第にサァァッというような細かく高い音に変わっていった。
 璇は初めて『貧血がもたらす症状』というものを体験したのである。
 机に突っ伏しながら耳鳴りなどが止むのをひたすら待つ璇。…だがなかなかそれは止みそうになく、彼はぼぅっとしてしまう頭の中でただひたすらに『こんなことになってる場合じゃないだろ、早く治れ…!』と念じた。

(俺がこんな風に具合悪くなってどうするんだ…?俺が韶のそばにいないとだめだろ…あんな状態の韶を1人にするなんて絶対にダメだ)

(早く韶のそばに戻らないといけないんだ…あぁもう耳鳴りが何だっていうんだ、眩暈も…早く治れ…治ってくれ……)

 強くそう念じながら頭を抱えるようにしてしばらくじっとしていると、その念によるものなのかは定かではないが、ようやく徐々に耳鳴りが落ち着き、視界のざらつきも消え、手や足の感覚も元に戻っていく。
 もうあと何度か深呼吸をしたりして呼吸を整えさえすれば大丈夫だろう。
 まだ少しふらつきながらも机に手をついて立ち上がった璇は夾の元へ戻ろうとしてなんとか扉の前に立つ。
 しかしふと脳裏に(このまま戻ろうとしたらまずいんじゃないか…?扉を叩いて報せて…それで向こうから返事が返ってきてからじゃないとダメなんじゃないか…?)という考えがよぎり、動きを止めた。
 そして璇が軽く握りこぶしを作り、扉を叩こうとしたその時だった。

「っ……??」

 扉の向こうから、それはそれは大きな音…“泣き声”が璇の耳に響いてきたのだった。
 断続的なその泣き声はとても大きく、扉越しでもハッとしてしまうほどだ。
 これまでに聞いたことがないようなそれがどういったものなのかは本能的に璇も理解していた。

(これ…赤ちゃんの泣き声だ……)

 扉を叩こうとしていたのも忘れてしまった璇は、聞こえてきていた泣き声がおさまるのを呆然と立ち尽くしながら聞く。
 そうして微動だに出来ずにいた璇。
 どれだけ経ったかして、璇のすぐ目の前にあった待合室の扉は向こう側から軽やかな音を立てて叩かれ、そして開いた。

「うわぁっ!びっくりした!」

 扉を開けたのは助産を務めてくれていた女性だったのだが、開けるやいなや真正面の一点をじっと見つめたまま まるで彫像のように立っている璇がいたので、彼女は飛び上がらんばかりに驚いたのだった。


ーーー


 助産の女性に「もう体調は良くなりましたか?こっちのお部屋に来ても大丈夫ですよ、ぜひどうぞ」と促されるまま璇は待合室を出る。
 言われる前に自ら「手…まずは手をよく洗わないと……」と手を洗った璇は、足音一つ立てるのもいけないような気持ちになりながらそっと産室に立てられていた衝立の向こうに顔を覗かせた。
 寝台の上では髪を汗にしっとりとさせながらも誇らしく微笑む夾がいて、璇が「韶…?」と名前を呼びかけると、彼は力が抜けきったような声で囁くように応える。

「璇さん」

 夾以外には目がいかない璇が吸い込まれるかのようにしてその手を握ると、夾は璇に足元の方を見るよう視線で促した。
 まさかと思いながらゆっくりとそちらの方を見てみると…

「早くお父さん達のところに行きたいのよね?うん…さぁ、ようやく準備ができたわよ。お父さん達のところに行きましょうか」

 柔らかな白い窓かけが掛けられた小窓のそばにある小さな寝台。
 穏やかにその中へと語りかけていた助産の女性がゆっくりと腕を差し込み、白い包みを大切そうに抱えあげる。
 それからゆっくりと振り向いた女性は璇と夾のそばにやってきた。

「…璇さんに抱っこをさせてあげてください」

「初めての抱っこは璇さんにしてもらいたいって…ずっとそう思っていたんです」

 夾がそう話すと、助産の女性は頷いてから「それじゃあ…腕と手をこんな風にしてもらって…」と璇に腕の形を真似させる。
 ごくりと息をのみながらなんとか同じように構えた璇。
 すると助産の女性は「いい?少しずつ乗せるからこの首と頭のあたりをしっかり支えてあげて、それから胸元に抱き寄せて…」と小声で話しながら白い包みを璇の腕の中に受け渡した。
 まだ包みの中を見ることはできていない。
 しかしそっと胸元に引き寄せて腕と体で支えるようにすると、ようやく彼はその顔を見ることができたのだった。

(……………!!)

 言葉にならない思い。
 その中にいたのはまぎれもなく璇と夾との間に産まれた赤子だった。
 小さな鼻や目や口。
 全身を使って声を張り上げるようにして泣いた名残もあってか赤々としている肌。
 包み越しでもしっかりと伝わってくる、熱いとすら感じるほどの体温…。

「おめでとうございます。とっっても元気な男の子です」

「体重も身長も、なにもかもがすこぶる健康ですよ」

 医師と助産の女性から祝福されながらも腕に抱いた赤子から目を離すことができない璇。
 腕の中でかすかにもぞもぞと動くその感覚はこれまでにまったく味わったことのない感情を胸に込み上げさせてくる。

「…どうですか?俺達の赤ちゃん、抱っこしてみて」

 夾がそう静かに話しかけてくる夾に、璇はゆっくりと目を向けて、そして思わず小声になりながら答えた。

《すごく…ものすごく可愛い……! 》

 璇は慎重に体を傾けて夾にも赤子の顔が見えるようにする。

「赤ちゃん…はじめまして、ようやく会えたね」
「ずっと会いたかったんだよ…皆で待ってたんだ」

 そうして初めて顔を合わせた我が子をじっと見つめながら、2人はなんとも言えない気持ちになってひそかに目を潤ませたのだった。
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