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第2章
14「手と足と手のひらと」
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男性オメガの妊娠では女性のそれとは異なることがいくつもある。
その中でも特に顕著なのが つわりの重さやお腹の大きくなり方、そして妊娠期間などである。
それらすべては本来妊娠や出産といったことに向いていない体をしている男性オメガ自身がなんとか無事に子を産もうと考えた末に生み出した独自の変化であり唯一無二のものだ。
胎内で子を大きく育ててしまうと出産時にかなりの高確率で難産になり、命を落としてしまうほどの危険な事態になってしまう男性オメガは、自らの子を 小さく産んだ後にアルファとの【香り】をも利用しながら注意深く子育てをすることで確実に子孫を残すことができるようにしたのである。
『男性器を備えていながらも孕ませることができず、妊娠や出産に適していない体でありながらも子を産むことが出来る』ということからして、男性オメガは男女を示す第1性別とアルファやオメガやベータを示す第2性別の組み合わせの中ではもっとも特異な性の持ち主だといえるだろう。
そんな男性オメガはほぼ正確に8ヶ月半と決まっている妊娠期間のうち、6ヵ月半から7ヶ月頃になってからようやく若干腹部が目立つようになりはじめる。
さらに女性であれば妊娠4、5ヵ月頃から感じられるという胎動が男性オメガの場合は赤子が小さいこと、そして元から備えている筋肉量が多いということもあってほとんど臨月近くにならなければはっきりと感じることはできないという。
…だが、初夏のころに新たな命を腹に宿した夾は、夏が終わり、秋になって、すっかり冷え込む冬になったある日に明らかな“動き”を感じるようになっていたのだった。
ーーーーー
「………」
雪でも降り出しそうな白っぽい空。
葉を一枚残らず散らした立派な枝振りの木々。
静寂の中に時々響く、山鳥の鳴き声。
そんな静かな環境の中にある家で1人製図台に向かっていた夾は手にしていた筆記具を置いて小さく伸びをする。
いつも通り璇が【觜宿の杯】へ仕事をしに行った後からずっとそうして荷車の設計図を描いていたので、さすがに少し気分転換をしようと椅子から立ち上がる夾。
未だに眠りつわりなどはあるものの、妊娠初期よりはいくらか落ち着いてきているので 体力をつけるためにも彼はこうして時間を見つけては歩くようにしているのだ。
璇からの贈り物である銀の鈴飾りを腰から下げて家の中をゆっくりと散歩するように歩き始めると、鈴の軽やかな音が響いて気分が良くなる。
居間の中央に置かれた食卓の周りを歩き、浴室や調理場の前を通って再び製図台のそばまで戻ってきた夾。彼はさらにもう1周してくるべく一歩踏み出そうとしたのだが、そこでふと壁際にある鏡台の方に目が留まって行く先を変えた。
彼の両親の形見である鏡台。
鏡面を保護するために掛けてある覆いをめくると、美しく繊細な彫刻に縁取られた大きな鏡に夾の姿が映る。
「………」
じっと鏡を見つめた彼は少し横を向いてさらに自分の姿を眺めた。
そっと右手で腹部を撫でてみると、そこには衣の上からも分かるくらいのわずかな膨らみがある。
それはつい先日になって夾が気付いた変化だった。
元々よく鍛えられていて割れていた彼の腹筋は少し前からその線が薄くなってきていて、運動不足のせいもあるのかもしれないと思っていたのだが、そこに膨らみが現れ始めたのだ。どうやらそれは運動不足というよりも赤子の成長に伴う変化の現れだったらしい。
なんだか不思議な、まだ少し信じられない気がして、彼は何度も鏡越しに自身の腹を撫でて確かめてみる。
(本当に不思議だな…ここに璇さんとの赤ちゃんがいて、俺がその子を育ててるだなんて)
(…本当に“いる”んだよな…?)
首をかしげながらそうして撫でていた夾。
するとその時、かすかにそこに何か小さな動きがあったのを感じ取ったのだった。
「…?」
思わず手を止めて夾は立ち尽くした。
まさか、と思いながらしばらく待ってみたのだが、それきり特に何かを感じ取ることはできず、彼は思い過ごしかと思いながら再び腹を撫でてみる。
するとやはり何かがそこから感じられた。
なんというか、妙な感覚だ。
しかしあまりにも微かすぎるのでやはり気のせいのように思えて仕方がない。
「赤ちゃん…?もしかして今、お腹の中で…動いたのか?」
そっと声をかけてみたものの、何の応えも返ってこない。
…もう少しそのまま鏡の前に立って確認していたかった夾だがその瞬間 にわかにあくびが出てしまい、彼は結局鏡台に覆いを戻してからいつも日中休む時に使っている長椅子へ横になりにいくことにした。
腰から下げていた鈴飾りをそばの小机の上に置いて寝台と同じくらい寝心地がいい長椅子に横になるとすぐに眠気が襲ってくる。
肌掛けを肩までかぶって瞼を閉じた彼が腹を冷やしてしまわないようにと気遣いながら大きく円を描くようにして手で撫でていると…。
(あ…また…)
腹部に感じる小さな動き。
夾はその正体について考えながらうとうと とし始めた。
(これが胎動、ってやつなのかな…でも違うような気もする…ただお腹が動いてるだけなのかもしれない……でも…でも………)
やがて夾はすやすやという寝息を立て始めた。
ーーーーー
夾が初めて腹部に小さな小さな動きを感じてからというもの、ごくたまに薄く感じるという程度だったそれは次第に体の内側から何かに突かれているようなはっきりとしたものに変わり、そして初めての妊娠で確信が持てていなかった彼にも ようやくそうした動きの正体が胎動であることを理解できるほどにまでなっていった。
いつ動くかは定かではないものの、あの鈴の音がするとかなりの確率でぐるりと大きく動くということも分かるようになったのだ。
あらためてその存在を近くできちんと感じられるようになったことで、夾の腹の赤子に対する愛情も輪をかけて大きくなる。
お腹の子とのたしかな繋がりが感じられるそれは他では決して味わえない特別なものであり、母性(この場合は“父性”と呼ぶべきなのかもしれないが)を湧き上がらせるものなのだ。
夾はそうして日に日にしっかりとしていく胎動を感じながら特に不満や不足はない生活を送りながら妊娠後期を迎えた。
だが、そんな彼には唯一気になっていることがあったのである。
たった一つだけ気になること…それは『璇がこれまでに一度も赤子について言及してきたことがないこと』についてだった。
もちろん璇は身重の夾をよく気遣っていて、食事を始めとした家事すべての他にも 少し足に浮腫みが出ているということを夾が話した際にはそれからずっと夜眠る前に足を揉んでくれたりするなどとても甲斐甲斐しくしているのだが。
しかしそれらはすべて『韶のために』というものであってお腹の子のことを気にしてのものではなかったのだ。
璇は赤子のためのものを揃えながらも、夾に『お腹の子は元気にしてるか?』というようなことは一切訊いてきたことがない。
それは人によっては『自分の血を分けた子だというのに興味がないのだろうか』と とても寂しく感じることだろうが、しかし夾にはよく分かっていた。璇はけっしてお腹の子に興味がないというわけではないのだということを。
なにせ自分でも妊娠してから胎動を感じられるようになった今の今まで赤子の存在を実感することができていなかったのだ。体でその変化を感じることができない璇はなおさらであり『もっと赤子自身に興味を持て』と言ったところでどうしたって無理があるだろう、と。
(まさかこんなにお腹の中で動いてるだなんて、璇さんはきっと知る由もないよな。たしかに産まれたら いくらでも手を握ったり笑い顔を見たりすることができるだろうけど、でも…やっぱり璇さんにも今しかできないこの触れ合いを感じて欲しい)
すっかり見ているだけでも分かるほど胎動が大きくなってきたのを見計らい、夾はある夜、就寝前に璇に声をかけることにした。
ーーーーー
いつものように先に夾を寝台へ横にならせたあと、家の戸締りと部屋の明かり消しをして回る璇。
夾がその様子を見つめながら待っていると、璇は寒さが押し寄せてくる窓にもきちんと分厚い窓掛けをして寝台に戻ってくる。
そんな璇を掛け具の中へ迎え入れながら「璇さん」と呼びかけた夾の声音はやけに明るいもので、璇は「なんだ?何か良いことでもあったのか?」と穏やかな笑みを浮かべながら夾のすぐそばに寝そべった。
夾はただただ笑みを浮かべてそんな璇の手を取り、指と指を絡めるようにして手を握る。
「どうしたんだ?」
甘えてくるような夾のその様子に、璇は「具合が悪い…んじゃないよな?」と少し心配そうにしながらも温かく受け入れてその手の甲に口づけた。
するとふわりと漂い始めた【香り】によって2人の寝台はこれ以上ない安らぎの場と化す。
番となっても、夫夫となっても、そして子を授かっても。
この手から伝わる温もりと触れ合った感触、そして【香り】や声やその眼差しは相変わらず夾の胸をときめかせるだけの力を持っている。
未だに慣れない気恥ずかしさに身を任せるようにして、夾は璇との繋いだ手を放さずに寝具の中で体の向きを変えた。
夾が璇の手を離すことなくそうしたので、ちょうど璇は夾を後ろから抱きしめるような格好になる。
ぼんやりとした明かりだけが灯る寝台で少し冷えている気温から身を守るようにしてくっつき、互いの【香り】に包まれることの甘ったるさを『心地良い』と感じるのは妊娠している人からするととても稀なことかもしれない。だが男性オメガである夾にはむしろそうして【香り】や触れ合いを通してアルファとの繋がりを肌で感じることは何よりも大切なことで、喜ばしく、そして落ち着くことなのだ。
うっとりとして瞼を閉じていると、璇は夾をさらに暖めようとするかのように背後からしっかりと腕を回して抱きしめなおす。
このまま眠るのも良いが…夾は繋いでいた璇の手を手の甲側から覆いかぶせるようにして重ねると、あらためて「…璇さん」と呼びかけながら、重なった手をそっと下に滑らせて移動し、ふっくらとしている腹部にあてがった。
「………」
璇の手の甲の上から自らの腹部をさするようにして手を動かす夾。
するとすぐに体の内側から“とある反応”が返ってきた。
「っ…!!」
はっとしたような璇の声が耳元に聞こえてきて、すっかり機嫌がよくなった夾がもう一度そこを撫でてみると、たしかにそこからグイっと押し上げてくるような動きが返ってくる。
「え…これって…」
その動きの正体が信じられないという様子の璇に夾は「そうです、璇さんが考えている通りです」とくすくす笑いながら答えた。
「少し前から俺は感じてたんですけど、でも最近になってようやくこうして外から触っても分かるくらいはっきりとするようになってきたんですよ」
「いつもはこんなには大きく動かないのに…きっとこの子も今触れてくれているのが璇さんだってことが分かっているんですね。今のこの俺の気分の良さが伝わってるっていうのもあるかもしれません」
本当に元気に動き回ってますね、と夾が小さく笑っていると、またググっという内側からの動きがあって、璇は驚きながら「待て…これはどういう動きなんだ…?」「触ってるだけでもこんなに動くのが分かるほどの力があるものなのか?そもそもこれはどうやって…足で蹴ってるってことなのか?」と訊ねてくる。
実際はっきりと胎内でどのような動きがなされているのかは分からないのだが、夾は「多分…今のは璇さんの言う通り足だと思います」と予測する。
「まだお腹の中では上のほうが頭のはずですからね。最初に動いてたのは手かもしれません」
「いつもこうやって動いてるのか?」
「そうですね、起きているときはこうして動いたりしてますよ」
「起きてるとき?寝てることもあるのか?」
「はい、赤ちゃんはお腹の中で俺たちと同じように寝たり起きたりを繰り返してるんだそうですよ。あまり動きがないときは寝てるんだと思います」
「そう…なのか…」
初めて実際に“胎動”というものを触れて感じた璇。
彼のその反応に心が暖められた夾は、そっと寝具の中で上衣の裾をめくって腹部を裸出させると、直接そこに璇の手を触れさせた。
「おい、お腹を冷やしたら…」
「璇さんがこうして手を当ててくれさえいれば暖かいですから。大丈夫ですよ」
こんな些細なことでも心配する璇のことを夾は改めて愛おしく思う。
そして、伝えたいと思っていたことを彼がきちんと受け取って理解してくれたという事実に心をほぐされた。
毎日経験していると忘れがちだが、自分に起きている何かしら変化や考えや気持ちを相手にも伝えるということは本当に重要なことであるのにとても難しく、コツと工夫がいることなのだ。
この場合は“胎動”というものがどういうものなのかを伝えることだったが、まだその動きが小さいうちから毎日感じている身にとってはごく当たり前のその感覚も、それを直接経験することのない人にしてみれば未知のものであり、知識として知っていたとしたってその動きが実際にどのような気持ちを湧き上がらせてくれるのかは知る由もないことなのである。
それは例えるなら、文字だけで構成された物語の中の登場人物の服装を想像することと似ている。
何気なく物語を読み進めていたとして、登場人物がどのような形、色、模様の衣を身に纏っているかというのは作中で詳細に言及されていない以上は読み手の想像に任せられているので、著者が思い描いている光景や姿を読み手も同じように思い浮かべるということは決してないのだ。
登場人物はいつもその人自身が好きな色の衣を着ているとは限らないし、素材もいつも同じではなく様々なものを着ているかもしれない。
たとえ仔細に描写されていたとしても、同じ表現を読んだ読み手が全員揃って寸分違わず同じ姿を思い浮かべるということはまずないだろう。
自分では当たり前に『こうだろう』と思っていても、他の人が思い描いたとのとはまったく違っていたりもするはずだ。
同じ表現を見聞きしても他人と自分では違う感想を持つということが『個性』と言われるものの一端であるに違いない以上、他人が自分と同じ考えや想像をするなどというのはほとんど不可能なのである。
だからこそ、同じものを共有したいと思った時にはしっかりとそれを伝える工夫が必要なのだ。
物語の登場人物の服装についてを改めて例にとれば、その場合における効果的な工夫とは“絵で表現すること”などだろう。
【百聞は一見に如かず】とはよく言ったもので、絵などを利用することで文字のみで仔細に表現した場合よりもより分かりやすく確実に著者の考えている姿を読み手に伝えることができるのである。
服装だけではなく、周りの建物の様子や登場人物達に対する周囲の人々の細かな反応(話し方の抑揚など)も表情を絵で細かく描写することができればさらに物語を鮮明に伝えることに役立つはずだ。
ただ『伝わらないから』『感じ取ってもらえないから』と嘆く以前に、物事を伝える側にある人間は自分の伝えたいことが切実であればあるほど工夫しなくてはならない。
夾にとっての『絵』は『璇に自らの腹へ触れてもらうこと』だった。
直に触れて胎動を感じてほしい。そして赤子の存在をもっと身近に感じてほしい。
言葉だけで伝える以上に、知識として知っている以上に…直接触れることで我が子の存在と成長を感じてほしい。
それこそが夾が璇に伝えたいことだったのだ。
そして、まさに璇は夾が伝えたいと思っていた“何か”を感じ、さらにそれを受け取ってくれたのである。
期待していた以上に夾は自らの腹に触れる璇の手が温かく柔らかく、愛に満ちたものだったことが嬉しかった。
自分の伝えたいことをきちんと相手が理解し、それ以上に返してくれることは本当に素晴らしいものだ。
きっとこうした関係性のことを『気が合う』とか『相性がいい』と表現するのだろう。
それは彼らが番になったからではない。番になったからなのではなく『そんな風に気が合う相手だから番になった』ということであり、【香り】の相性がいいのはそういったことを無意識のうちに嗅覚を使って感じ取っているということなのだ。
後ろから包み込むようにされながら腹を撫でられている夾は、璇に囁くようにして言った。
「…璇さん。俺達の赤ちゃん、お腹の中で元気に育ってますよ」
その言葉に答えるように肩に璇から口づけられた夾。
彼がくすくすと笑うと、またぐるりというような大きな胎動が感じられたのだった。
ーーーーー
夾が直接胎動を感じさせてからというもの、璇はことあるごとに夾の腹にいる赤子に話しかけたり撫でて触れたりするようになっていった。
璇はそれまで夾は腹部などに触れられることを快く思わないのではないかとも思っていたらしいのだが、夾がむしろ触れられたほうが落ち着くのだと話したことですっかり気が楽になったらしい。
そうして毎日が過ぎ、家族や友人達からの祝いのお返しとするために璇が家の近くに自然に生えている渋柿を利用して作っていた柿酢もいい具合に熟成が進む。
この柿酢は肉や魚の臭み取りの他にも色々と使える万能なものでありながらも、実は酪農地域以外では穀物酢などの他の酢に比べるとあまり作られることがないという希少さがあるので、方々からの贈り物のお返しとして最適ではないかと璇の兄が作ることを勧めてくれていたのだ。
毎年【觜宿の杯】や【柳宿の器】ではそれぞれが使う分を自作しているために璇自身も作業工程に慣れていたということもあって、夾とも話し合い、兄の助言通り贈り物のお返しとすることに決めていた柿酢。
秋にもいだ渋柿を一つ一つ丁寧に心を込めて下処理し、そして甕に詰めてから数か月。
柿酢が仕上がっていくにつれ、夾の出産予定日も近づいていく。
そしていよいよ夾は妊娠してから8ヵ月半となる日を迎えようとしていた。
その中でも特に顕著なのが つわりの重さやお腹の大きくなり方、そして妊娠期間などである。
それらすべては本来妊娠や出産といったことに向いていない体をしている男性オメガ自身がなんとか無事に子を産もうと考えた末に生み出した独自の変化であり唯一無二のものだ。
胎内で子を大きく育ててしまうと出産時にかなりの高確率で難産になり、命を落としてしまうほどの危険な事態になってしまう男性オメガは、自らの子を 小さく産んだ後にアルファとの【香り】をも利用しながら注意深く子育てをすることで確実に子孫を残すことができるようにしたのである。
『男性器を備えていながらも孕ませることができず、妊娠や出産に適していない体でありながらも子を産むことが出来る』ということからして、男性オメガは男女を示す第1性別とアルファやオメガやベータを示す第2性別の組み合わせの中ではもっとも特異な性の持ち主だといえるだろう。
そんな男性オメガはほぼ正確に8ヶ月半と決まっている妊娠期間のうち、6ヵ月半から7ヶ月頃になってからようやく若干腹部が目立つようになりはじめる。
さらに女性であれば妊娠4、5ヵ月頃から感じられるという胎動が男性オメガの場合は赤子が小さいこと、そして元から備えている筋肉量が多いということもあってほとんど臨月近くにならなければはっきりと感じることはできないという。
…だが、初夏のころに新たな命を腹に宿した夾は、夏が終わり、秋になって、すっかり冷え込む冬になったある日に明らかな“動き”を感じるようになっていたのだった。
ーーーーー
「………」
雪でも降り出しそうな白っぽい空。
葉を一枚残らず散らした立派な枝振りの木々。
静寂の中に時々響く、山鳥の鳴き声。
そんな静かな環境の中にある家で1人製図台に向かっていた夾は手にしていた筆記具を置いて小さく伸びをする。
いつも通り璇が【觜宿の杯】へ仕事をしに行った後からずっとそうして荷車の設計図を描いていたので、さすがに少し気分転換をしようと椅子から立ち上がる夾。
未だに眠りつわりなどはあるものの、妊娠初期よりはいくらか落ち着いてきているので 体力をつけるためにも彼はこうして時間を見つけては歩くようにしているのだ。
璇からの贈り物である銀の鈴飾りを腰から下げて家の中をゆっくりと散歩するように歩き始めると、鈴の軽やかな音が響いて気分が良くなる。
居間の中央に置かれた食卓の周りを歩き、浴室や調理場の前を通って再び製図台のそばまで戻ってきた夾。彼はさらにもう1周してくるべく一歩踏み出そうとしたのだが、そこでふと壁際にある鏡台の方に目が留まって行く先を変えた。
彼の両親の形見である鏡台。
鏡面を保護するために掛けてある覆いをめくると、美しく繊細な彫刻に縁取られた大きな鏡に夾の姿が映る。
「………」
じっと鏡を見つめた彼は少し横を向いてさらに自分の姿を眺めた。
そっと右手で腹部を撫でてみると、そこには衣の上からも分かるくらいのわずかな膨らみがある。
それはつい先日になって夾が気付いた変化だった。
元々よく鍛えられていて割れていた彼の腹筋は少し前からその線が薄くなってきていて、運動不足のせいもあるのかもしれないと思っていたのだが、そこに膨らみが現れ始めたのだ。どうやらそれは運動不足というよりも赤子の成長に伴う変化の現れだったらしい。
なんだか不思議な、まだ少し信じられない気がして、彼は何度も鏡越しに自身の腹を撫でて確かめてみる。
(本当に不思議だな…ここに璇さんとの赤ちゃんがいて、俺がその子を育ててるだなんて)
(…本当に“いる”んだよな…?)
首をかしげながらそうして撫でていた夾。
するとその時、かすかにそこに何か小さな動きがあったのを感じ取ったのだった。
「…?」
思わず手を止めて夾は立ち尽くした。
まさか、と思いながらしばらく待ってみたのだが、それきり特に何かを感じ取ることはできず、彼は思い過ごしかと思いながら再び腹を撫でてみる。
するとやはり何かがそこから感じられた。
なんというか、妙な感覚だ。
しかしあまりにも微かすぎるのでやはり気のせいのように思えて仕方がない。
「赤ちゃん…?もしかして今、お腹の中で…動いたのか?」
そっと声をかけてみたものの、何の応えも返ってこない。
…もう少しそのまま鏡の前に立って確認していたかった夾だがその瞬間 にわかにあくびが出てしまい、彼は結局鏡台に覆いを戻してからいつも日中休む時に使っている長椅子へ横になりにいくことにした。
腰から下げていた鈴飾りをそばの小机の上に置いて寝台と同じくらい寝心地がいい長椅子に横になるとすぐに眠気が襲ってくる。
肌掛けを肩までかぶって瞼を閉じた彼が腹を冷やしてしまわないようにと気遣いながら大きく円を描くようにして手で撫でていると…。
(あ…また…)
腹部に感じる小さな動き。
夾はその正体について考えながらうとうと とし始めた。
(これが胎動、ってやつなのかな…でも違うような気もする…ただお腹が動いてるだけなのかもしれない……でも…でも………)
やがて夾はすやすやという寝息を立て始めた。
ーーーーー
夾が初めて腹部に小さな小さな動きを感じてからというもの、ごくたまに薄く感じるという程度だったそれは次第に体の内側から何かに突かれているようなはっきりとしたものに変わり、そして初めての妊娠で確信が持てていなかった彼にも ようやくそうした動きの正体が胎動であることを理解できるほどにまでなっていった。
いつ動くかは定かではないものの、あの鈴の音がするとかなりの確率でぐるりと大きく動くということも分かるようになったのだ。
あらためてその存在を近くできちんと感じられるようになったことで、夾の腹の赤子に対する愛情も輪をかけて大きくなる。
お腹の子とのたしかな繋がりが感じられるそれは他では決して味わえない特別なものであり、母性(この場合は“父性”と呼ぶべきなのかもしれないが)を湧き上がらせるものなのだ。
夾はそうして日に日にしっかりとしていく胎動を感じながら特に不満や不足はない生活を送りながら妊娠後期を迎えた。
だが、そんな彼には唯一気になっていることがあったのである。
たった一つだけ気になること…それは『璇がこれまでに一度も赤子について言及してきたことがないこと』についてだった。
もちろん璇は身重の夾をよく気遣っていて、食事を始めとした家事すべての他にも 少し足に浮腫みが出ているということを夾が話した際にはそれからずっと夜眠る前に足を揉んでくれたりするなどとても甲斐甲斐しくしているのだが。
しかしそれらはすべて『韶のために』というものであってお腹の子のことを気にしてのものではなかったのだ。
璇は赤子のためのものを揃えながらも、夾に『お腹の子は元気にしてるか?』というようなことは一切訊いてきたことがない。
それは人によっては『自分の血を分けた子だというのに興味がないのだろうか』と とても寂しく感じることだろうが、しかし夾にはよく分かっていた。璇はけっしてお腹の子に興味がないというわけではないのだということを。
なにせ自分でも妊娠してから胎動を感じられるようになった今の今まで赤子の存在を実感することができていなかったのだ。体でその変化を感じることができない璇はなおさらであり『もっと赤子自身に興味を持て』と言ったところでどうしたって無理があるだろう、と。
(まさかこんなにお腹の中で動いてるだなんて、璇さんはきっと知る由もないよな。たしかに産まれたら いくらでも手を握ったり笑い顔を見たりすることができるだろうけど、でも…やっぱり璇さんにも今しかできないこの触れ合いを感じて欲しい)
すっかり見ているだけでも分かるほど胎動が大きくなってきたのを見計らい、夾はある夜、就寝前に璇に声をかけることにした。
ーーーーー
いつものように先に夾を寝台へ横にならせたあと、家の戸締りと部屋の明かり消しをして回る璇。
夾がその様子を見つめながら待っていると、璇は寒さが押し寄せてくる窓にもきちんと分厚い窓掛けをして寝台に戻ってくる。
そんな璇を掛け具の中へ迎え入れながら「璇さん」と呼びかけた夾の声音はやけに明るいもので、璇は「なんだ?何か良いことでもあったのか?」と穏やかな笑みを浮かべながら夾のすぐそばに寝そべった。
夾はただただ笑みを浮かべてそんな璇の手を取り、指と指を絡めるようにして手を握る。
「どうしたんだ?」
甘えてくるような夾のその様子に、璇は「具合が悪い…んじゃないよな?」と少し心配そうにしながらも温かく受け入れてその手の甲に口づけた。
するとふわりと漂い始めた【香り】によって2人の寝台はこれ以上ない安らぎの場と化す。
番となっても、夫夫となっても、そして子を授かっても。
この手から伝わる温もりと触れ合った感触、そして【香り】や声やその眼差しは相変わらず夾の胸をときめかせるだけの力を持っている。
未だに慣れない気恥ずかしさに身を任せるようにして、夾は璇との繋いだ手を放さずに寝具の中で体の向きを変えた。
夾が璇の手を離すことなくそうしたので、ちょうど璇は夾を後ろから抱きしめるような格好になる。
ぼんやりとした明かりだけが灯る寝台で少し冷えている気温から身を守るようにしてくっつき、互いの【香り】に包まれることの甘ったるさを『心地良い』と感じるのは妊娠している人からするととても稀なことかもしれない。だが男性オメガである夾にはむしろそうして【香り】や触れ合いを通してアルファとの繋がりを肌で感じることは何よりも大切なことで、喜ばしく、そして落ち着くことなのだ。
うっとりとして瞼を閉じていると、璇は夾をさらに暖めようとするかのように背後からしっかりと腕を回して抱きしめなおす。
このまま眠るのも良いが…夾は繋いでいた璇の手を手の甲側から覆いかぶせるようにして重ねると、あらためて「…璇さん」と呼びかけながら、重なった手をそっと下に滑らせて移動し、ふっくらとしている腹部にあてがった。
「………」
璇の手の甲の上から自らの腹部をさするようにして手を動かす夾。
するとすぐに体の内側から“とある反応”が返ってきた。
「っ…!!」
はっとしたような璇の声が耳元に聞こえてきて、すっかり機嫌がよくなった夾がもう一度そこを撫でてみると、たしかにそこからグイっと押し上げてくるような動きが返ってくる。
「え…これって…」
その動きの正体が信じられないという様子の璇に夾は「そうです、璇さんが考えている通りです」とくすくす笑いながら答えた。
「少し前から俺は感じてたんですけど、でも最近になってようやくこうして外から触っても分かるくらいはっきりとするようになってきたんですよ」
「いつもはこんなには大きく動かないのに…きっとこの子も今触れてくれているのが璇さんだってことが分かっているんですね。今のこの俺の気分の良さが伝わってるっていうのもあるかもしれません」
本当に元気に動き回ってますね、と夾が小さく笑っていると、またググっという内側からの動きがあって、璇は驚きながら「待て…これはどういう動きなんだ…?」「触ってるだけでもこんなに動くのが分かるほどの力があるものなのか?そもそもこれはどうやって…足で蹴ってるってことなのか?」と訊ねてくる。
実際はっきりと胎内でどのような動きがなされているのかは分からないのだが、夾は「多分…今のは璇さんの言う通り足だと思います」と予測する。
「まだお腹の中では上のほうが頭のはずですからね。最初に動いてたのは手かもしれません」
「いつもこうやって動いてるのか?」
「そうですね、起きているときはこうして動いたりしてますよ」
「起きてるとき?寝てることもあるのか?」
「はい、赤ちゃんはお腹の中で俺たちと同じように寝たり起きたりを繰り返してるんだそうですよ。あまり動きがないときは寝てるんだと思います」
「そう…なのか…」
初めて実際に“胎動”というものを触れて感じた璇。
彼のその反応に心が暖められた夾は、そっと寝具の中で上衣の裾をめくって腹部を裸出させると、直接そこに璇の手を触れさせた。
「おい、お腹を冷やしたら…」
「璇さんがこうして手を当ててくれさえいれば暖かいですから。大丈夫ですよ」
こんな些細なことでも心配する璇のことを夾は改めて愛おしく思う。
そして、伝えたいと思っていたことを彼がきちんと受け取って理解してくれたという事実に心をほぐされた。
毎日経験していると忘れがちだが、自分に起きている何かしら変化や考えや気持ちを相手にも伝えるということは本当に重要なことであるのにとても難しく、コツと工夫がいることなのだ。
この場合は“胎動”というものがどういうものなのかを伝えることだったが、まだその動きが小さいうちから毎日感じている身にとってはごく当たり前のその感覚も、それを直接経験することのない人にしてみれば未知のものであり、知識として知っていたとしたってその動きが実際にどのような気持ちを湧き上がらせてくれるのかは知る由もないことなのである。
それは例えるなら、文字だけで構成された物語の中の登場人物の服装を想像することと似ている。
何気なく物語を読み進めていたとして、登場人物がどのような形、色、模様の衣を身に纏っているかというのは作中で詳細に言及されていない以上は読み手の想像に任せられているので、著者が思い描いている光景や姿を読み手も同じように思い浮かべるということは決してないのだ。
登場人物はいつもその人自身が好きな色の衣を着ているとは限らないし、素材もいつも同じではなく様々なものを着ているかもしれない。
たとえ仔細に描写されていたとしても、同じ表現を読んだ読み手が全員揃って寸分違わず同じ姿を思い浮かべるということはまずないだろう。
自分では当たり前に『こうだろう』と思っていても、他の人が思い描いたとのとはまったく違っていたりもするはずだ。
同じ表現を見聞きしても他人と自分では違う感想を持つということが『個性』と言われるものの一端であるに違いない以上、他人が自分と同じ考えや想像をするなどというのはほとんど不可能なのである。
だからこそ、同じものを共有したいと思った時にはしっかりとそれを伝える工夫が必要なのだ。
物語の登場人物の服装についてを改めて例にとれば、その場合における効果的な工夫とは“絵で表現すること”などだろう。
【百聞は一見に如かず】とはよく言ったもので、絵などを利用することで文字のみで仔細に表現した場合よりもより分かりやすく確実に著者の考えている姿を読み手に伝えることができるのである。
服装だけではなく、周りの建物の様子や登場人物達に対する周囲の人々の細かな反応(話し方の抑揚など)も表情を絵で細かく描写することができればさらに物語を鮮明に伝えることに役立つはずだ。
ただ『伝わらないから』『感じ取ってもらえないから』と嘆く以前に、物事を伝える側にある人間は自分の伝えたいことが切実であればあるほど工夫しなくてはならない。
夾にとっての『絵』は『璇に自らの腹へ触れてもらうこと』だった。
直に触れて胎動を感じてほしい。そして赤子の存在をもっと身近に感じてほしい。
言葉だけで伝える以上に、知識として知っている以上に…直接触れることで我が子の存在と成長を感じてほしい。
それこそが夾が璇に伝えたいことだったのだ。
そして、まさに璇は夾が伝えたいと思っていた“何か”を感じ、さらにそれを受け取ってくれたのである。
期待していた以上に夾は自らの腹に触れる璇の手が温かく柔らかく、愛に満ちたものだったことが嬉しかった。
自分の伝えたいことをきちんと相手が理解し、それ以上に返してくれることは本当に素晴らしいものだ。
きっとこうした関係性のことを『気が合う』とか『相性がいい』と表現するのだろう。
それは彼らが番になったからではない。番になったからなのではなく『そんな風に気が合う相手だから番になった』ということであり、【香り】の相性がいいのはそういったことを無意識のうちに嗅覚を使って感じ取っているということなのだ。
後ろから包み込むようにされながら腹を撫でられている夾は、璇に囁くようにして言った。
「…璇さん。俺達の赤ちゃん、お腹の中で元気に育ってますよ」
その言葉に答えるように肩に璇から口づけられた夾。
彼がくすくすと笑うと、またぐるりというような大きな胎動が感じられたのだった。
ーーーーー
夾が直接胎動を感じさせてからというもの、璇はことあるごとに夾の腹にいる赤子に話しかけたり撫でて触れたりするようになっていった。
璇はそれまで夾は腹部などに触れられることを快く思わないのではないかとも思っていたらしいのだが、夾がむしろ触れられたほうが落ち着くのだと話したことですっかり気が楽になったらしい。
そうして毎日が過ぎ、家族や友人達からの祝いのお返しとするために璇が家の近くに自然に生えている渋柿を利用して作っていた柿酢もいい具合に熟成が進む。
この柿酢は肉や魚の臭み取りの他にも色々と使える万能なものでありながらも、実は酪農地域以外では穀物酢などの他の酢に比べるとあまり作られることがないという希少さがあるので、方々からの贈り物のお返しとして最適ではないかと璇の兄が作ることを勧めてくれていたのだ。
毎年【觜宿の杯】や【柳宿の器】ではそれぞれが使う分を自作しているために璇自身も作業工程に慣れていたということもあって、夾とも話し合い、兄の助言通り贈り物のお返しとすることに決めていた柿酢。
秋にもいだ渋柿を一つ一つ丁寧に心を込めて下処理し、そして甕に詰めてから数か月。
柿酢が仕上がっていくにつれ、夾の出産予定日も近づいていく。
そしていよいよ夾は妊娠してから8ヵ月半となる日を迎えようとしていた。
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