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第2章
18「オメガの茶会」
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一時はお乳の出が悪くなったために赤子との生活、育児について悩むなどした璇と夾。
だがそれらが改善された途端、赤子は初めに着せていたお手製の衣が数日後にはすでに着れなくなったほどの驚くべき成長を遂げた。
まさにこれこそが男性オメガの子育てにおける特徴である。
小さく生まれた赤子は頻繁な授乳と睡眠によって女性体が産んだ新生児よりも速い速度で成長し、生後1か月もすれば見違えるほど大きくなるのだ。
璇と夾の長男である『いなみ』もその生後1か月を過ぎ、少しずつ起きている時間が増えてご機嫌な声を聞かせるくらいになってきた。
起きている時間が増えたことによって、この子の瞳の色が『茶色がかった黄色』であるということもはっきりする。
子の目の色は両親から引き継がれるとは限らないらしいのだが、しかし かかりつけ医によると赤子の目の色というのは成長していくにつれて色が薄くなるなどの変化があるものだそうで、この茶色がかったような黄色の瞳もいずれは夾によく似た色味になるのではないかということだった。
それを聞いて特に喜んだのが他でもない璇だ。
なにしろ彼は夾の黄水晶のようなその瞳を見るなり恋に落ちたほどなのである。それが我が子にも受け継がれたということがよほど嬉しかったのだろう。
とはいえ、夾のものとは異なって見える今のその茶色がかった黄色の瞳だって素晴らしく美しいものだ。
見方によっては透き通った橙色をしているようでもあるのだが、それが濃い蜂蜜のようにきらきらと輝くので、本当にいつまでも見ていられるというくらいなのである。
他にも赤子の愛らしい部分は語り尽くせないほどあって、璇も夾も『こんなに可愛い子が自分達の子だなんて』と毎日心を溶かされている。
もちろん赤子なので時々ぐずることもあれば夜泣きをすることだってある。
しかし日ごとに成長していく我が子の姿を見るというのには言葉では表すことのできない喜びがある上、アルファとオメガの番である彼らには【香り】というなによりも心強いものがあるためにそこまでてこずることはなかった。
というよりも泣き声を上げることで肺活量をも向上させることができるという観点から、璇達は体を丈夫にするためにもすぐに泣き止ませようとはせずになるべく様子を見守るようにしているのだが…赤子は璇や夾がそばにいるのに気がつくと声を張り上げるのをやめてフスフスと鼻を鳴らし、泣き止んでしまうのだ。
アルファとオメガが子を残すことに特化した性だとされているのは、ただ授かりやすいというだけではなくこういった部分も関係しているのだろう。
とにかく、そうして番として協力し合いながら毎日を過ごしていた璇と夾。
やがて赤子が無事に生後1か月半を超え、さらに夾の体調もすっかり良くなったことが確認されたことにより、夾はついにかかりつけ医から本来の仕事である荷車整備工房での職人として復帰してもいいというお墨付きを得ることができたのだった。
まだまだ赤子が小さいので工房へも一緒に連れて行かなければならず、仕事内容も補修用部品の調整といった軽いものしかできないが、しかしその旨を親方夫妻に伝えると2人は快く『赤ちゃんのためのゆりかごとか必要なものは何でも揃えて待ってるから安心して復帰しなさいな』と受け入れてくれる。
親方夫妻から息子同然に可愛がってもらっている夾は夫妻に対する信頼も厚いので、その言葉に甘えることにして仕事復帰のための支度をあれこれと整えていった。
そうしていよいよ来週から夾が仕事に復帰するということになったある日。
夾は仕事を始める前に赤子が新たな環境に慣れるかどうかのお試しをしてみるべく、息子を連れて工房を訪れた。
ーーーーー
(どうなるかと思ったけど…案外よく寝てるな)
実に約9ヶ月ぶりに仕事場である工房へとやってきた夾。
特に変わったところがあるわけでもないその見慣れた光景と加工に使われている木材の香りは家に居るときとはまた少し違った心地良さをもたらし、彼の気分を穏やかにさせる。
産後に自宅以外でそこそこの時間を過ごすのはほとんど初めてのことだったので、夾は我が子がまったく寝付けなかったらどうしようかと少々気になっていたのだが、そんな夾の心配をよそに赤子は新しく用意されたゆりかごの中で揺られながら うとうと としていて、夾も来週から仕事に復帰したとしてもなんら問題はなさそうだと胸を撫で下ろした。
夾と赤子がいるのは工房の作業場に面している親方一家の自宅の居間であり、普段揃って昼食を食べているような場だ。
夾は来週からこの居間のすぐそばで補修部品の調整などの仕事をするわけだが、その間は親方の妻や娘がずっと赤子のそばにいて様子を見てくれることになっている。
常日頃から信頼を寄せている彼女達の協力があればこその仕事復帰だ。
あらためてそのことのありがたさを感じていると、工房の親方の娘が「コウ君、お茶飲む?」と茶器の乗ったお盆を手に声をかけてきた。
「このお茶、いつもコウ君が飲んでるお茶だって璇さんから聞いたやつなんだけど…もし良かったら」
慣れた手つきで座卓に茶器などを並べていく親方の娘。
ふわりと香った茶の香りはたしかに夾が普段飲んでいる産後の体に良いとされているお茶のものだ。
一緒に差し出された素朴なお茶菓子も、甘さ控えめでありながらも炒った豆の粉の香りが良いという産後のおやつにはうってつけだとされているものである。
おそらく夾のためにわざわざ用意してくれていたのだろう。
夾が礼を言うと親方の娘は「ううん!お母さんも私もコウ君に喜んでほしいから」と朗らかに笑った。
菓子好きである夾はほっと一息つきながら親方の娘と共に一時を過ごす。
元々親方の娘とは同じオメガ同士ということもあって仲良くしており、昼休憩のときなどにはこうして2人で話すこともあったので、気まずさなどもなくゆったりと過ごすことができる。
兄妹のような、親友のような。そんな関係だ。
互いに普段は積極的に会話をするような性格ではないのだが、2人でいるときは波長が合うのか不思議と話が尽きない。
作業場の方から聞こえてくる小気味の良い作業の音がほどよい音量をお供にしながら『出産祝いのお返しとして贈った柿酢が美味しくてよく料理に使っている』とかというようなとりとめのない話をしてひとしきり盛り上がる夾と親方の娘。
そんな中で夾はふと親方の娘の髪型がいつもとは違うことに気づいた。
彼女は長い絹のような暗い色の髪が映えるようにと いつも上半分だけ結うという髪型をしていたはずだったのだが…今は珍しく髪をきっちりと結い上げているのである。
「あれ、珍しいねそんな風に髪を結ってるなんて。よく似合ってるよ、髪を結うようにしたの?」
夾が訊ねると、親方の娘は少し気恥ずかしそうにしながら「あ…ううん、これはコウ君達が来るから…結ってみたの」と答える。
「お母さんがね、赤ちゃんに会うときはきちんと髪を結って万が一にも毛先が赤ちゃんに触ることのないようにした方がいいって言ってたから。こうやって結うことはあんまりないから私も自分の姿に見慣れなくてちょっと恥ずかしいんだけど…」
「そうだったんだ、気を遣ってくれたんだね。でもよく似合ってるよ本当に」
「あ…ありがとう、その、彼にもさっき似合ってるって言われたわ」
えへへ、と照れて笑う親方の娘。
彼女が言う“彼”というのは夾と同じ荷車整備職人として働いている青年のことだ。
親方の娘に想いを寄せているその“彼”は現在『夾の代わりに親方の仕事を手伝う』ということでこの工房に通ってきているのだが、実際は『娘との交際は認めない』と頑なに言い張っている親方になんとか認めてもらおうとして頑張っている最中なのである。
つまり まだ正式には交際しているわけではないものの、彼女達は両想い同士であり、ゆくゆくは番、そして夫婦になるであろうという間柄なのだ。
夾が「はは、微笑ましいな」とお茶をさらに一口飲むと、親方の娘はゆりかごの中でいつの間にか眠ってしまっていた赤子を見て《わぁ…本当に可愛いなぁ…》と呟きながら微笑んだ。
「産屋から荷物を運ぶ手伝いをしに行ったときはまだあんなに小さかったのに…随分と大きくなったね?あれから1ヵ月半だなんて」
「そうだよね、毎日見てる俺達でもぐんぐん大きくなってるのが分かるくらいなんだから久しぶりに見た側からするとすごく大きくなった気がするでしょ」
「うん。もちろんまだまだ“赤ちゃん”って感じだけど…でも大きくなってる」
我が子を『可愛い』と言ってもらうと夾は『そうだろうとも』というようになんだか得意げになる。
だが、そうして赤子の寝顔を眺めていた親方の娘はそれから座卓の方に向き直ると「…ねぇ、コウ君」と話を切り出してきたのだった。
「あの…コウ君に聞きたいことがあったんだけど…いい?」
その遠慮がちな様子に夾が「もちろん。どうかしたの?」と訊ねると、彼女は少し言いづらそうにしながら、手の中にある茶器を見つめて言った。
「その…私はまだ結婚もしてないし、番にもなってないでしょ?でも…将来赤ちゃんが…その、ちびちゃんがほしいと思ってるの。これっていけないことだと思う?」
眉をひそめつつ「あ、あの、変なことを言ってごめんなさい、だけど…」と続ける親方の娘。
「…私ね、昔から将来“お母さん”になるのが夢だったの。自分がお父さんやお母さんからしてもらったことを私も自分の子供にしてあげたいと思ってたし、両親に孫を見せてあげたいって…信頼できる人と結婚をして、番になって、それでその人との赤ちゃんを一緒に育てたいって…ずっとそう思ってきたの」
「だけどこの間、草原に生ってる実を採りに行ったときに2人の女の子達が話してるのを聞いたのよ『結婚したとしても子供は欲しくない』って…そう話しているのを。たぶん私と同い年か…少し年上の子達だったと思う」
「もちろん面と向かって言われたわけじゃないの、でも…なんだか私すごく悲しくなってしまって……その、上手く説明できないんだけど、私は子供が欲しいと思ってるのに『子供を欲しがるなんてありえない、いらない』みたいに話されているのを聞いたから、自分の考えがおかしいことだと否定されているような…そんな気がしてきて……私は好きな人から自分達の子供が欲しいと言われたらすごく嬉しいと思うけど、でもそれって実は変なことなんじゃないか…って………」
心の内を吐露するように一言一言口にしていた親方の娘はそこまで話すと ふと口を噤み「…ごめんなさい、こんな話されても困るわよね」と苦笑いを浮かべる。
夾は首を横に振ると、ゆりかごの中で眠る我が子に目を遣ってから静かに話し出した。
「その子達がどういう子達でどういうことからそういう風な話をしてたのか知らないけど、でも1つたしかに言えることがあるよ」
「それは、君はちっとも変じゃないしおかしくもないってことだ」
すると親方の娘の表情がかすかに明るくなって、夾は言う。
「赤ちゃんを欲しいと思うかどうかっていうのは完全に人それぞれなんだ、その子達がいくら否定的だったとしても正反対である君の考えをおかしいことだと否定することにはならない。俺はすごく素敵なことだと思うよ、信頼できる人と一緒になって、その人との赤ちゃんを授かりたいと思うっていうことは。っていうより、俺もまったく同じ考えだったからその気持ちがよく分かるんだ」
夾の言葉に「え…そうなの?」と目を瞬かせる親方の娘。夾は「そうだよ、まったく同じだった」と頷いて答える。
「俺は小さい頃から自分の家族を持ちたいと思ってたんだ。自分のこの“オメガ”っていう特性のことを知ってから『いつか自分を大切にしてくれるアルファと出会って、番になって、その人との子供を産み育てたい』ってね。ほら、同じでしょ。もしかしたらこれもオメガの特性の1つなのかもしれないけど…でもだからってそういう気持ちや考えを自分で否定する必要はないんだ。それを含めて俺達なんだからさ」
「子供を望まないっていうのにはきっと何か理由があるんだろう。それこそ子供の声が苦手とか“子供”っていう存在にあまりいい思い出がなかったりとか、自分の育った環境とかも関係してたりして。そうでなくても子供を持つことに対して否定的になることは十分に考えられるよ、考え方は人によって違うからね。だから他人のそういう意見はただ単に『そういう人もいるのか、自分とは違うんだな』って考えるのがいいんじゃないかな。そもそも君と同じくらいの熱量を相手も持ってるとは限らないんだからそんなに深く考えることはないんだよ。“子供を持つことなんてありえない”って言ってたその子達だって『絶っっ対にありえない!』と思ってそう言ってるのか『まぁ“今は”ってだけでもしかしたら考えは変わるかもしれないけど』くらいの気持ちで言ってるのかは分からないからね。『この人との子供なら』って思うくらいの出会いがあったりするのが人生なんだしさ」
ふと璇との出会いを思い出して微笑む夾。
そんな彼の考えを聞いて親方の娘は「そういうものなのかなぁ」と小さくため息をついた。
「私は意外とそういう…他人の言うことがいちいち気になっちゃう性格をしてたみたい。今回のことだってさ、直接言われたわけじゃないのによく知りもしない子達の言葉をずっと気にしちゃってるでしょ?むしろ自分に向けてそういう話をされたんだったら考えの擦り合わせみたいなことができるかもしれないけど…相手がどういうつもりで話してたのかが分からないからこそモヤモヤするっていうか…」
「それは誰だってそうなんじゃないの。それこそ他人の考えてることが手に取るように分かることなんてそうそうないんだし、相手の意図がどんなものなのかが掴めなかったらモヤモヤするよ。それがよく知らない人 相手だったらなおさらだ」
夾は悩んでいる親方の娘に「“言葉”は意図や意思を伝えるものだけど、受け取る人によって解釈が違ったりするから難しいな。例えば…」と記憶を手繰りながら話す。
「これは俺が工芸地域にいた時のことなんだけどさ。工芸地域って他の地域に比べると女の人も工房に来て作業することが多いから産後もわりと早く仕事に復帰したりするんだけど、ある時俺が刺繍工房の近くを通りがかったらちょうど仕事復帰をした女の人がいて、仕事仲間の同い年ぐらいの女の人がその人に声をかけてたんだ『赤ちゃんを預けてきたんでしょう?もう仕事をして大丈夫なの?』って。これだけ聞くと『まだ乳飲み子の赤ちゃんを他の人に預けて仕事をしに来るなんて…』って言ってるようにも聞こえるでしょ。でもその声をかけた人は復帰した女の人が『“早く仕事に復帰しないといけない”って無理をしてるんじゃないか』『赤ちゃんの世話の他に仕事までしたら体を壊しちゃうんじゃないか』『成長が早い赤ちゃんの可愛い盛りを見逃すことになって、後から寂しく思うんじゃないだろうか。復帰するのはもっとゆっくり休んでからでも大丈夫なのに』っていう心配からそう言ったんだよ。他にも『本当は産まれたばかりの赤ちゃんを預けることに抵抗があるんじゃないだろうか』『赤ちゃんを預けてまですぐに仕事に復帰しないといけないような事情があるんだろうか、困ってるんじゃないだろうか』っていうこともあるかもね。たしかにそれはおせっかいなことかもしれないけど、でももしその人が本当に困ってたとしたらそういう風に声掛けをしてもらうことで『実は…』って悩みを相談するきっかけにもなるかもしれない。そういう声掛けを“おせっかいだと思う”ってことは本人も気がつかないうちに心のどこかでは自分が赤ちゃんを預けて仕事復帰することに後ろめたさがあって、ただ心配する声掛けでも本心を見透かされたような気がしてつい『余計なお世話だ』って感じることもあるのかな、うん」
「あとはその声掛けをした人との関係性も重要だよね。自分を非難したり否定するような人じゃないって分かっていれば『この人は自分のことを追い詰めるようなことを言うような人じゃない、だからこの発言にも何か他の意図があるはず』って気付くでしょ。俺がその話を聞いた時も声を掛けられた女の人は『うん大丈夫!私はどうも刺繍の仕事をして手作業に没頭する時間がある方が気が楽になるみたいで…まだ本復帰ってわけにはいかないから毎日3時間くらいずつになっちゃうけど』って言ってたからね。中には『自分は家で赤ちゃんとずっと一緒にいないとダメなんだ』って思い詰めちゃう人もいるかもしれないけど、でも声をかけた方は限らずしもそういう意図で言ってるわけないってことだ。そう分かってはいてもそんな風に思えない精神状態になってるってこともあるし、それはもう仕方がないことなんだけどね」
夾の実体験を交えたそんな話を聞いて「はぁ…なるほどねぇ…」と考えながら相槌を打つ親方の娘。
「私はいつも“仕事をしてる”っていうよりは“家のことを手伝ってる”って感じでいるし、赤ちゃんの面倒を一緒に見てくれるお母さんがいるからあんまりそういう生活の想像がつかないんだけど…でも もし自分が赤ちゃんをどこかに預けて他の仕事をしに行くとしたら…う~ん……そういう風に言われるとやっぱり気になっちゃうものなのかな…なんとなくだけど 今コウ君が言ったように『この人はそういうつもりで言ったんじゃないだろうな』って思ってその場で真意を訊くとかするかも。そもそも無神経なことを言うような人とは元からそういう話をするほど仲良くしてない気がするし」
「うん、それがいいと思うよ。少しでもモヤモヤとした感情を感じたんなら、なるべくすぐその場で解決できるようにした方がいいんだ。ずっと後まで気にする羽目になるのは精神的にもよくないし、なにより『こんなことを言われた』っていうような認識違いを続けるのもお互いに良くないから。…あ、そういえばもう1つあったな、そういう“認識違い”が起きそうになってたこと」
「それってどんなの?」
「本当にちょっとしたことだよ。やっぱりこれも工芸地域でのことなんだけどさ、俺がちょうど職人として一人前になったぐらいのときに建具職人の見習いをしてた男達の中でも特に恋愛ごとに興味のなさそうな感じだった男が“野菜の配達をしに来てる農業地域の女の子と付き合ってるらしい”ってことで話題になったんだ。その人は周りに交際してることを一切打ち明けてなかったみたいだし、意外性もあって余計 知り合い中で一気に噂が広まったんだろう。でその人の友達が声をかけたんだよ『大丈夫か?』って。これも二通り考えられるじゃないか?『あの子と付き合って大丈夫か?』っていう意味と『隠してきたのにこんな風に噂が流れちゃって大丈夫か?』っていう意味の二通り。仮に“付き合ってることを隠してた理由”があるなら、そういう言葉をかけられたら『噂が流れてこんな形で周りに交際がバレてしまったこと』を指してると思うだろうけど、そうじゃなくて交際してることを秘密にするつもりはなく、ただ周りに発表してなかっただけなら『俺達が付き合ってることに関して“大丈夫?”ってどういう意味だよ?』って思う、みたいな」
「あぁ…たしかに、それはまた微妙なところの話ね……」
交際を打ち明けるつもりがなかっただけなのか、それとも隠し通したい理由があったのか。
そのところの違いによって同じ『大丈夫か?』という言葉に含まれている意味合いが異なって受け取られる可能性があることを親方の娘も考える。
「ただ単に『わざわざ自分達が付き合ってることを周りに話すことはない』と思ってたんだとしたら、噂になってもバレたとしても特に問題はないから他の人に大丈夫かどうかを訊かれると『何が問題なんだ?』って感じるでしょうけど、でももし…例えば相手のご家族にしっかりとした姿を見せてからきちんと交際していることを伝えたいとかっていうように考えていたとしたら…その前にそんな話になっちゃったら本人達にしてみれば都合が悪いわよね。それこそ そういう時に『大丈夫か?』って聞かれたら悩んでることを打ち明けることができるかもしれないし、それが問題の解決につながったりもするかもしれない」
「…噂になったことを心配して大丈夫かどうかを訊いたとしてもそれが上手く伝わらないこともあるのよね」
相手を気にかけて心配する気持ち。
それは見方を変えればおせっかい、余計なお世話、になるわけだ。
夾は頷く。
「たしかにおせっかいだよな、そもそもそんな事を言うべきじゃないのかもしれないよ。だけど相手のことを大切に思っていればその人のことを気にかけるのは当然だし、何かの役に立てるならって声をかけるのも普通のことだと思う。それが受け取る側の心の持ちようによってはすごく印象の悪いものになるってだけでさ。だからこそそういうことを話す相手との関係性が大事なんだ」
「そうね…私も、よほど親しい人じゃないと言わないけど生活していて気になることは色々とあるわ…寒い日とか雨が降ってるような冷える日に赤ちゃんの素足が出てたりするとつい『赤ちゃんが寒そう』って思ったりね…そりゃあもちろん言わないけど………」
「あぁ、たしかにね。抱っこしてる親は暖かい衣をいくらでも上から着ることができるし、赤ちゃんと接してるところは体温で暑くなるからついそういう意識が向かなくなるんだろうけど…でも赤ちゃんの小さい手足は大人よりも冷えるから見てる方はすごく気になるんだ。俺もそうだよ、だから俺は自分が赤ちゃんを連れて歩くときは必ず布1枚でも体にかけることにしたよ。肌寒くても1枚布があるだけでいくらか違うし、夏は陽射しを避けることもできるからさ」
「コウ君もそう思ってたのね…」
「うん。その人なりの考えがあるだろうから直接言うことはないけど、やっぱり他の人から見たら気になることなんていくらでもあるんだよ。考え方も、置かれてる環境も、事情も。何もかもが人それぞれだからそれを気にしてたら大変だ」
いつにもまして心情的な、深い話をする夾と親方の娘。
話をしているうちに少々話の本筋から逸れてきてしまったようで、夾は「まぁ、とにかく」と仕切り直す。
「たとえ同じ状況に直面したとしても全員が全員同じ結論に達するかというとそうじゃないんだし、意見が違って当たり前なんだよ。自分が間違ってるのかもなんて思う必要は全くない、そんなに気に病むこともない。大丈夫だから」
「それと…子育てっていうのはやっぱり大変なことだし、苦労は目に見えるものじゃないからつい周りの人に『どんなに大変か』っていうのを話したくなるものだけど、実際は楽しいこともたくさんあるからね。苦労話を聞いた人の中には『そんなに大変なら子育てなんかしたくない』『自分の時間をとられたくない』って思う人だっていると思う。もしかしたら、子供をほしいと思うことを“性に奔放なことと同じだ”と考える人もいるかも。でもそうじゃないんだ、そんなことはないんだよ。俺は男のオメガっていう特殊な体だけど…でも普通は女の人にしか赤ちゃんは授かれないものなんだし、子育てに興味があるのは素敵なことだと思う。苦労することにばかり目を向けるのはもったいないよ。ふとした赤ちゃんの様子がものすごく可愛かったり、ちょっとしたことに笑ったり、感動したり…ってそういう言葉では表わせない何かがあるのがすごく楽しいんだから。…こればっかりは体験してみないと分からないと思うし人それぞれのことだから難しいんだけど…でもとにかくなんにせよそんなに後ろめたく思う必要なんかないってことだ。それに、結局大体のことはなんとかなるし、医者の先生とか周りの人達も“大変さを軽減するにはどうしたらいいか”を教えてくれるからそんなに心配することはないんだ」
まさに現在進行中で子育てをしている夾のその言葉にはなかなかの説得力があって、親方の娘もすっかり沈んでいた心が軽くなったらしい。
周囲と意見が違うことがあって落ち込んでしまったとしても、そんなときにこうして同じ考えだと話して寄り添ってくれる存在があれば心強くなれるものだろう。
彼女は手元の茶器に柔らかな目線を向けたまま「ありがとう、コウ君」と微笑んだ。
「こういう話って…いくら仲が良くてもなんだかお母さんとかとは話しづらいでしょ?知り合いにも結婚とか番とかって話になってる人はまだそこまで多くないし、赤ちゃんがいる子もいないから誰にも話すことができなかったの…でもコウ君がこうやって聞いてくれたからすごく気が楽になった」
親方の娘は々気恥ずかしそうに笑うと「うん…そっか、そうよね」とどこか晴れやかな声で言う。
「よくよく考えてみたら私は別にその子と番になるわけじゃないんだもん、関係ない話よね。そりゃあ結婚を考えてる相手が子供を望んでなかったらそれはちょっと考えないとだめだけど…でもそうじゃないもの。私は将来赤ちゃんが欲しいんだし、同じように考えてくれる人と一緒になればいいだけのことだわ」
すっかりいつもの調子を取り戻したような明るい様子でお茶を一口飲む親方の娘。
彼女はとても慎ましやかで、大人しく、優しい性格をしている気立ての良い娘だ。そういった意味での華やかさはないものの、涼やかな感じの雰囲気を纏っているとても美しい女性である。
思慮深いところもあるので例えオメガによる【香り】がなくとも引く手あまたであろうというくらいだ。そんな彼女を射止めたアルファの“彼”もなかなかのものなのではないだろうか。
夾は親方の娘と仕事仲間である荷車整備職人の“彼”のことを親しく思っているので2人には誰からも祝福されるような番となって幸せになってほしいと心から願っているのだが、きっとその願いはそう遠くないうちに叶うことになるだろう。
今は『娘との交際なんて認めない』と言っている親方でも、ひたむきに働いて仕事を学ぼうとしているアルファの青年の姿には心を動かされるに違いないのだ。
そしていつかはこの工房に彼女達の赤子による愛らしい声が響くことになるのである。
そんな光景を思い浮かべながら、夾はさらに話す。
「…でも将来ちびちゃんを迎えたいなら今からかかりつけ医の先生とかに色々と話を聞いておくのがいいと思うよ、授かる前からなるべく気を付けるようにしておいた方がいいこととかもあるからさ、食べ物とかも。体調を整えておくことで元気なちびちゃんを育てることができるっていうのもあるけど、そうやって備えておくことでつわりがひどくなるのをいくらか軽減させることにも繋がるらしいし」
「そ…そうなの?」
「うん。栄養とかが体に行き渡るには時間がかかるから、授かる前からそういうことに気を付けておくのがいいんだって。俺は男のオメガだからどっちにしてもつわりが重かったけど、体に十分な量の栄養があればつわりになってもいくらか耐えることができるっていうか、それ以上ひどくなるのを抑えることもできるんじゃないかっていうことらしいよ」
そこら辺は医者の先生とかに訊けば詳しく教えてくれるから、と話す夾。
その内容にすっかり興味津々になった親方の娘は時折質問を織り交ぜたりしながら手元の茶器のお茶が空になるのも構わず夾の話に聞き入った。
オメガ同士、同じ志を持つ者同士。
夕食にする分の料理を持った璇が迎えに来るまで、夾と親方の娘はそうしてありとあらゆる話をして過ごしたのだった。
だがそれらが改善された途端、赤子は初めに着せていたお手製の衣が数日後にはすでに着れなくなったほどの驚くべき成長を遂げた。
まさにこれこそが男性オメガの子育てにおける特徴である。
小さく生まれた赤子は頻繁な授乳と睡眠によって女性体が産んだ新生児よりも速い速度で成長し、生後1か月もすれば見違えるほど大きくなるのだ。
璇と夾の長男である『いなみ』もその生後1か月を過ぎ、少しずつ起きている時間が増えてご機嫌な声を聞かせるくらいになってきた。
起きている時間が増えたことによって、この子の瞳の色が『茶色がかった黄色』であるということもはっきりする。
子の目の色は両親から引き継がれるとは限らないらしいのだが、しかし かかりつけ医によると赤子の目の色というのは成長していくにつれて色が薄くなるなどの変化があるものだそうで、この茶色がかったような黄色の瞳もいずれは夾によく似た色味になるのではないかということだった。
それを聞いて特に喜んだのが他でもない璇だ。
なにしろ彼は夾の黄水晶のようなその瞳を見るなり恋に落ちたほどなのである。それが我が子にも受け継がれたということがよほど嬉しかったのだろう。
とはいえ、夾のものとは異なって見える今のその茶色がかった黄色の瞳だって素晴らしく美しいものだ。
見方によっては透き通った橙色をしているようでもあるのだが、それが濃い蜂蜜のようにきらきらと輝くので、本当にいつまでも見ていられるというくらいなのである。
他にも赤子の愛らしい部分は語り尽くせないほどあって、璇も夾も『こんなに可愛い子が自分達の子だなんて』と毎日心を溶かされている。
もちろん赤子なので時々ぐずることもあれば夜泣きをすることだってある。
しかし日ごとに成長していく我が子の姿を見るというのには言葉では表すことのできない喜びがある上、アルファとオメガの番である彼らには【香り】というなによりも心強いものがあるためにそこまでてこずることはなかった。
というよりも泣き声を上げることで肺活量をも向上させることができるという観点から、璇達は体を丈夫にするためにもすぐに泣き止ませようとはせずになるべく様子を見守るようにしているのだが…赤子は璇や夾がそばにいるのに気がつくと声を張り上げるのをやめてフスフスと鼻を鳴らし、泣き止んでしまうのだ。
アルファとオメガが子を残すことに特化した性だとされているのは、ただ授かりやすいというだけではなくこういった部分も関係しているのだろう。
とにかく、そうして番として協力し合いながら毎日を過ごしていた璇と夾。
やがて赤子が無事に生後1か月半を超え、さらに夾の体調もすっかり良くなったことが確認されたことにより、夾はついにかかりつけ医から本来の仕事である荷車整備工房での職人として復帰してもいいというお墨付きを得ることができたのだった。
まだまだ赤子が小さいので工房へも一緒に連れて行かなければならず、仕事内容も補修用部品の調整といった軽いものしかできないが、しかしその旨を親方夫妻に伝えると2人は快く『赤ちゃんのためのゆりかごとか必要なものは何でも揃えて待ってるから安心して復帰しなさいな』と受け入れてくれる。
親方夫妻から息子同然に可愛がってもらっている夾は夫妻に対する信頼も厚いので、その言葉に甘えることにして仕事復帰のための支度をあれこれと整えていった。
そうしていよいよ来週から夾が仕事に復帰するということになったある日。
夾は仕事を始める前に赤子が新たな環境に慣れるかどうかのお試しをしてみるべく、息子を連れて工房を訪れた。
ーーーーー
(どうなるかと思ったけど…案外よく寝てるな)
実に約9ヶ月ぶりに仕事場である工房へとやってきた夾。
特に変わったところがあるわけでもないその見慣れた光景と加工に使われている木材の香りは家に居るときとはまた少し違った心地良さをもたらし、彼の気分を穏やかにさせる。
産後に自宅以外でそこそこの時間を過ごすのはほとんど初めてのことだったので、夾は我が子がまったく寝付けなかったらどうしようかと少々気になっていたのだが、そんな夾の心配をよそに赤子は新しく用意されたゆりかごの中で揺られながら うとうと としていて、夾も来週から仕事に復帰したとしてもなんら問題はなさそうだと胸を撫で下ろした。
夾と赤子がいるのは工房の作業場に面している親方一家の自宅の居間であり、普段揃って昼食を食べているような場だ。
夾は来週からこの居間のすぐそばで補修部品の調整などの仕事をするわけだが、その間は親方の妻や娘がずっと赤子のそばにいて様子を見てくれることになっている。
常日頃から信頼を寄せている彼女達の協力があればこその仕事復帰だ。
あらためてそのことのありがたさを感じていると、工房の親方の娘が「コウ君、お茶飲む?」と茶器の乗ったお盆を手に声をかけてきた。
「このお茶、いつもコウ君が飲んでるお茶だって璇さんから聞いたやつなんだけど…もし良かったら」
慣れた手つきで座卓に茶器などを並べていく親方の娘。
ふわりと香った茶の香りはたしかに夾が普段飲んでいる産後の体に良いとされているお茶のものだ。
一緒に差し出された素朴なお茶菓子も、甘さ控えめでありながらも炒った豆の粉の香りが良いという産後のおやつにはうってつけだとされているものである。
おそらく夾のためにわざわざ用意してくれていたのだろう。
夾が礼を言うと親方の娘は「ううん!お母さんも私もコウ君に喜んでほしいから」と朗らかに笑った。
菓子好きである夾はほっと一息つきながら親方の娘と共に一時を過ごす。
元々親方の娘とは同じオメガ同士ということもあって仲良くしており、昼休憩のときなどにはこうして2人で話すこともあったので、気まずさなどもなくゆったりと過ごすことができる。
兄妹のような、親友のような。そんな関係だ。
互いに普段は積極的に会話をするような性格ではないのだが、2人でいるときは波長が合うのか不思議と話が尽きない。
作業場の方から聞こえてくる小気味の良い作業の音がほどよい音量をお供にしながら『出産祝いのお返しとして贈った柿酢が美味しくてよく料理に使っている』とかというようなとりとめのない話をしてひとしきり盛り上がる夾と親方の娘。
そんな中で夾はふと親方の娘の髪型がいつもとは違うことに気づいた。
彼女は長い絹のような暗い色の髪が映えるようにと いつも上半分だけ結うという髪型をしていたはずだったのだが…今は珍しく髪をきっちりと結い上げているのである。
「あれ、珍しいねそんな風に髪を結ってるなんて。よく似合ってるよ、髪を結うようにしたの?」
夾が訊ねると、親方の娘は少し気恥ずかしそうにしながら「あ…ううん、これはコウ君達が来るから…結ってみたの」と答える。
「お母さんがね、赤ちゃんに会うときはきちんと髪を結って万が一にも毛先が赤ちゃんに触ることのないようにした方がいいって言ってたから。こうやって結うことはあんまりないから私も自分の姿に見慣れなくてちょっと恥ずかしいんだけど…」
「そうだったんだ、気を遣ってくれたんだね。でもよく似合ってるよ本当に」
「あ…ありがとう、その、彼にもさっき似合ってるって言われたわ」
えへへ、と照れて笑う親方の娘。
彼女が言う“彼”というのは夾と同じ荷車整備職人として働いている青年のことだ。
親方の娘に想いを寄せているその“彼”は現在『夾の代わりに親方の仕事を手伝う』ということでこの工房に通ってきているのだが、実際は『娘との交際は認めない』と頑なに言い張っている親方になんとか認めてもらおうとして頑張っている最中なのである。
つまり まだ正式には交際しているわけではないものの、彼女達は両想い同士であり、ゆくゆくは番、そして夫婦になるであろうという間柄なのだ。
夾が「はは、微笑ましいな」とお茶をさらに一口飲むと、親方の娘はゆりかごの中でいつの間にか眠ってしまっていた赤子を見て《わぁ…本当に可愛いなぁ…》と呟きながら微笑んだ。
「産屋から荷物を運ぶ手伝いをしに行ったときはまだあんなに小さかったのに…随分と大きくなったね?あれから1ヵ月半だなんて」
「そうだよね、毎日見てる俺達でもぐんぐん大きくなってるのが分かるくらいなんだから久しぶりに見た側からするとすごく大きくなった気がするでしょ」
「うん。もちろんまだまだ“赤ちゃん”って感じだけど…でも大きくなってる」
我が子を『可愛い』と言ってもらうと夾は『そうだろうとも』というようになんだか得意げになる。
だが、そうして赤子の寝顔を眺めていた親方の娘はそれから座卓の方に向き直ると「…ねぇ、コウ君」と話を切り出してきたのだった。
「あの…コウ君に聞きたいことがあったんだけど…いい?」
その遠慮がちな様子に夾が「もちろん。どうかしたの?」と訊ねると、彼女は少し言いづらそうにしながら、手の中にある茶器を見つめて言った。
「その…私はまだ結婚もしてないし、番にもなってないでしょ?でも…将来赤ちゃんが…その、ちびちゃんがほしいと思ってるの。これっていけないことだと思う?」
眉をひそめつつ「あ、あの、変なことを言ってごめんなさい、だけど…」と続ける親方の娘。
「…私ね、昔から将来“お母さん”になるのが夢だったの。自分がお父さんやお母さんからしてもらったことを私も自分の子供にしてあげたいと思ってたし、両親に孫を見せてあげたいって…信頼できる人と結婚をして、番になって、それでその人との赤ちゃんを一緒に育てたいって…ずっとそう思ってきたの」
「だけどこの間、草原に生ってる実を採りに行ったときに2人の女の子達が話してるのを聞いたのよ『結婚したとしても子供は欲しくない』って…そう話しているのを。たぶん私と同い年か…少し年上の子達だったと思う」
「もちろん面と向かって言われたわけじゃないの、でも…なんだか私すごく悲しくなってしまって……その、上手く説明できないんだけど、私は子供が欲しいと思ってるのに『子供を欲しがるなんてありえない、いらない』みたいに話されているのを聞いたから、自分の考えがおかしいことだと否定されているような…そんな気がしてきて……私は好きな人から自分達の子供が欲しいと言われたらすごく嬉しいと思うけど、でもそれって実は変なことなんじゃないか…って………」
心の内を吐露するように一言一言口にしていた親方の娘はそこまで話すと ふと口を噤み「…ごめんなさい、こんな話されても困るわよね」と苦笑いを浮かべる。
夾は首を横に振ると、ゆりかごの中で眠る我が子に目を遣ってから静かに話し出した。
「その子達がどういう子達でどういうことからそういう風な話をしてたのか知らないけど、でも1つたしかに言えることがあるよ」
「それは、君はちっとも変じゃないしおかしくもないってことだ」
すると親方の娘の表情がかすかに明るくなって、夾は言う。
「赤ちゃんを欲しいと思うかどうかっていうのは完全に人それぞれなんだ、その子達がいくら否定的だったとしても正反対である君の考えをおかしいことだと否定することにはならない。俺はすごく素敵なことだと思うよ、信頼できる人と一緒になって、その人との赤ちゃんを授かりたいと思うっていうことは。っていうより、俺もまったく同じ考えだったからその気持ちがよく分かるんだ」
夾の言葉に「え…そうなの?」と目を瞬かせる親方の娘。夾は「そうだよ、まったく同じだった」と頷いて答える。
「俺は小さい頃から自分の家族を持ちたいと思ってたんだ。自分のこの“オメガ”っていう特性のことを知ってから『いつか自分を大切にしてくれるアルファと出会って、番になって、その人との子供を産み育てたい』ってね。ほら、同じでしょ。もしかしたらこれもオメガの特性の1つなのかもしれないけど…でもだからってそういう気持ちや考えを自分で否定する必要はないんだ。それを含めて俺達なんだからさ」
「子供を望まないっていうのにはきっと何か理由があるんだろう。それこそ子供の声が苦手とか“子供”っていう存在にあまりいい思い出がなかったりとか、自分の育った環境とかも関係してたりして。そうでなくても子供を持つことに対して否定的になることは十分に考えられるよ、考え方は人によって違うからね。だから他人のそういう意見はただ単に『そういう人もいるのか、自分とは違うんだな』って考えるのがいいんじゃないかな。そもそも君と同じくらいの熱量を相手も持ってるとは限らないんだからそんなに深く考えることはないんだよ。“子供を持つことなんてありえない”って言ってたその子達だって『絶っっ対にありえない!』と思ってそう言ってるのか『まぁ“今は”ってだけでもしかしたら考えは変わるかもしれないけど』くらいの気持ちで言ってるのかは分からないからね。『この人との子供なら』って思うくらいの出会いがあったりするのが人生なんだしさ」
ふと璇との出会いを思い出して微笑む夾。
そんな彼の考えを聞いて親方の娘は「そういうものなのかなぁ」と小さくため息をついた。
「私は意外とそういう…他人の言うことがいちいち気になっちゃう性格をしてたみたい。今回のことだってさ、直接言われたわけじゃないのによく知りもしない子達の言葉をずっと気にしちゃってるでしょ?むしろ自分に向けてそういう話をされたんだったら考えの擦り合わせみたいなことができるかもしれないけど…相手がどういうつもりで話してたのかが分からないからこそモヤモヤするっていうか…」
「それは誰だってそうなんじゃないの。それこそ他人の考えてることが手に取るように分かることなんてそうそうないんだし、相手の意図がどんなものなのかが掴めなかったらモヤモヤするよ。それがよく知らない人 相手だったらなおさらだ」
夾は悩んでいる親方の娘に「“言葉”は意図や意思を伝えるものだけど、受け取る人によって解釈が違ったりするから難しいな。例えば…」と記憶を手繰りながら話す。
「これは俺が工芸地域にいた時のことなんだけどさ。工芸地域って他の地域に比べると女の人も工房に来て作業することが多いから産後もわりと早く仕事に復帰したりするんだけど、ある時俺が刺繍工房の近くを通りがかったらちょうど仕事復帰をした女の人がいて、仕事仲間の同い年ぐらいの女の人がその人に声をかけてたんだ『赤ちゃんを預けてきたんでしょう?もう仕事をして大丈夫なの?』って。これだけ聞くと『まだ乳飲み子の赤ちゃんを他の人に預けて仕事をしに来るなんて…』って言ってるようにも聞こえるでしょ。でもその声をかけた人は復帰した女の人が『“早く仕事に復帰しないといけない”って無理をしてるんじゃないか』『赤ちゃんの世話の他に仕事までしたら体を壊しちゃうんじゃないか』『成長が早い赤ちゃんの可愛い盛りを見逃すことになって、後から寂しく思うんじゃないだろうか。復帰するのはもっとゆっくり休んでからでも大丈夫なのに』っていう心配からそう言ったんだよ。他にも『本当は産まれたばかりの赤ちゃんを預けることに抵抗があるんじゃないだろうか』『赤ちゃんを預けてまですぐに仕事に復帰しないといけないような事情があるんだろうか、困ってるんじゃないだろうか』っていうこともあるかもね。たしかにそれはおせっかいなことかもしれないけど、でももしその人が本当に困ってたとしたらそういう風に声掛けをしてもらうことで『実は…』って悩みを相談するきっかけにもなるかもしれない。そういう声掛けを“おせっかいだと思う”ってことは本人も気がつかないうちに心のどこかでは自分が赤ちゃんを預けて仕事復帰することに後ろめたさがあって、ただ心配する声掛けでも本心を見透かされたような気がしてつい『余計なお世話だ』って感じることもあるのかな、うん」
「あとはその声掛けをした人との関係性も重要だよね。自分を非難したり否定するような人じゃないって分かっていれば『この人は自分のことを追い詰めるようなことを言うような人じゃない、だからこの発言にも何か他の意図があるはず』って気付くでしょ。俺がその話を聞いた時も声を掛けられた女の人は『うん大丈夫!私はどうも刺繍の仕事をして手作業に没頭する時間がある方が気が楽になるみたいで…まだ本復帰ってわけにはいかないから毎日3時間くらいずつになっちゃうけど』って言ってたからね。中には『自分は家で赤ちゃんとずっと一緒にいないとダメなんだ』って思い詰めちゃう人もいるかもしれないけど、でも声をかけた方は限らずしもそういう意図で言ってるわけないってことだ。そう分かってはいてもそんな風に思えない精神状態になってるってこともあるし、それはもう仕方がないことなんだけどね」
夾の実体験を交えたそんな話を聞いて「はぁ…なるほどねぇ…」と考えながら相槌を打つ親方の娘。
「私はいつも“仕事をしてる”っていうよりは“家のことを手伝ってる”って感じでいるし、赤ちゃんの面倒を一緒に見てくれるお母さんがいるからあんまりそういう生活の想像がつかないんだけど…でも もし自分が赤ちゃんをどこかに預けて他の仕事をしに行くとしたら…う~ん……そういう風に言われるとやっぱり気になっちゃうものなのかな…なんとなくだけど 今コウ君が言ったように『この人はそういうつもりで言ったんじゃないだろうな』って思ってその場で真意を訊くとかするかも。そもそも無神経なことを言うような人とは元からそういう話をするほど仲良くしてない気がするし」
「うん、それがいいと思うよ。少しでもモヤモヤとした感情を感じたんなら、なるべくすぐその場で解決できるようにした方がいいんだ。ずっと後まで気にする羽目になるのは精神的にもよくないし、なにより『こんなことを言われた』っていうような認識違いを続けるのもお互いに良くないから。…あ、そういえばもう1つあったな、そういう“認識違い”が起きそうになってたこと」
「それってどんなの?」
「本当にちょっとしたことだよ。やっぱりこれも工芸地域でのことなんだけどさ、俺がちょうど職人として一人前になったぐらいのときに建具職人の見習いをしてた男達の中でも特に恋愛ごとに興味のなさそうな感じだった男が“野菜の配達をしに来てる農業地域の女の子と付き合ってるらしい”ってことで話題になったんだ。その人は周りに交際してることを一切打ち明けてなかったみたいだし、意外性もあって余計 知り合い中で一気に噂が広まったんだろう。でその人の友達が声をかけたんだよ『大丈夫か?』って。これも二通り考えられるじゃないか?『あの子と付き合って大丈夫か?』っていう意味と『隠してきたのにこんな風に噂が流れちゃって大丈夫か?』っていう意味の二通り。仮に“付き合ってることを隠してた理由”があるなら、そういう言葉をかけられたら『噂が流れてこんな形で周りに交際がバレてしまったこと』を指してると思うだろうけど、そうじゃなくて交際してることを秘密にするつもりはなく、ただ周りに発表してなかっただけなら『俺達が付き合ってることに関して“大丈夫?”ってどういう意味だよ?』って思う、みたいな」
「あぁ…たしかに、それはまた微妙なところの話ね……」
交際を打ち明けるつもりがなかっただけなのか、それとも隠し通したい理由があったのか。
そのところの違いによって同じ『大丈夫か?』という言葉に含まれている意味合いが異なって受け取られる可能性があることを親方の娘も考える。
「ただ単に『わざわざ自分達が付き合ってることを周りに話すことはない』と思ってたんだとしたら、噂になってもバレたとしても特に問題はないから他の人に大丈夫かどうかを訊かれると『何が問題なんだ?』って感じるでしょうけど、でももし…例えば相手のご家族にしっかりとした姿を見せてからきちんと交際していることを伝えたいとかっていうように考えていたとしたら…その前にそんな話になっちゃったら本人達にしてみれば都合が悪いわよね。それこそ そういう時に『大丈夫か?』って聞かれたら悩んでることを打ち明けることができるかもしれないし、それが問題の解決につながったりもするかもしれない」
「…噂になったことを心配して大丈夫かどうかを訊いたとしてもそれが上手く伝わらないこともあるのよね」
相手を気にかけて心配する気持ち。
それは見方を変えればおせっかい、余計なお世話、になるわけだ。
夾は頷く。
「たしかにおせっかいだよな、そもそもそんな事を言うべきじゃないのかもしれないよ。だけど相手のことを大切に思っていればその人のことを気にかけるのは当然だし、何かの役に立てるならって声をかけるのも普通のことだと思う。それが受け取る側の心の持ちようによってはすごく印象の悪いものになるってだけでさ。だからこそそういうことを話す相手との関係性が大事なんだ」
「そうね…私も、よほど親しい人じゃないと言わないけど生活していて気になることは色々とあるわ…寒い日とか雨が降ってるような冷える日に赤ちゃんの素足が出てたりするとつい『赤ちゃんが寒そう』って思ったりね…そりゃあもちろん言わないけど………」
「あぁ、たしかにね。抱っこしてる親は暖かい衣をいくらでも上から着ることができるし、赤ちゃんと接してるところは体温で暑くなるからついそういう意識が向かなくなるんだろうけど…でも赤ちゃんの小さい手足は大人よりも冷えるから見てる方はすごく気になるんだ。俺もそうだよ、だから俺は自分が赤ちゃんを連れて歩くときは必ず布1枚でも体にかけることにしたよ。肌寒くても1枚布があるだけでいくらか違うし、夏は陽射しを避けることもできるからさ」
「コウ君もそう思ってたのね…」
「うん。その人なりの考えがあるだろうから直接言うことはないけど、やっぱり他の人から見たら気になることなんていくらでもあるんだよ。考え方も、置かれてる環境も、事情も。何もかもが人それぞれだからそれを気にしてたら大変だ」
いつにもまして心情的な、深い話をする夾と親方の娘。
話をしているうちに少々話の本筋から逸れてきてしまったようで、夾は「まぁ、とにかく」と仕切り直す。
「たとえ同じ状況に直面したとしても全員が全員同じ結論に達するかというとそうじゃないんだし、意見が違って当たり前なんだよ。自分が間違ってるのかもなんて思う必要は全くない、そんなに気に病むこともない。大丈夫だから」
「それと…子育てっていうのはやっぱり大変なことだし、苦労は目に見えるものじゃないからつい周りの人に『どんなに大変か』っていうのを話したくなるものだけど、実際は楽しいこともたくさんあるからね。苦労話を聞いた人の中には『そんなに大変なら子育てなんかしたくない』『自分の時間をとられたくない』って思う人だっていると思う。もしかしたら、子供をほしいと思うことを“性に奔放なことと同じだ”と考える人もいるかも。でもそうじゃないんだ、そんなことはないんだよ。俺は男のオメガっていう特殊な体だけど…でも普通は女の人にしか赤ちゃんは授かれないものなんだし、子育てに興味があるのは素敵なことだと思う。苦労することにばかり目を向けるのはもったいないよ。ふとした赤ちゃんの様子がものすごく可愛かったり、ちょっとしたことに笑ったり、感動したり…ってそういう言葉では表わせない何かがあるのがすごく楽しいんだから。…こればっかりは体験してみないと分からないと思うし人それぞれのことだから難しいんだけど…でもとにかくなんにせよそんなに後ろめたく思う必要なんかないってことだ。それに、結局大体のことはなんとかなるし、医者の先生とか周りの人達も“大変さを軽減するにはどうしたらいいか”を教えてくれるからそんなに心配することはないんだ」
まさに現在進行中で子育てをしている夾のその言葉にはなかなかの説得力があって、親方の娘もすっかり沈んでいた心が軽くなったらしい。
周囲と意見が違うことがあって落ち込んでしまったとしても、そんなときにこうして同じ考えだと話して寄り添ってくれる存在があれば心強くなれるものだろう。
彼女は手元の茶器に柔らかな目線を向けたまま「ありがとう、コウ君」と微笑んだ。
「こういう話って…いくら仲が良くてもなんだかお母さんとかとは話しづらいでしょ?知り合いにも結婚とか番とかって話になってる人はまだそこまで多くないし、赤ちゃんがいる子もいないから誰にも話すことができなかったの…でもコウ君がこうやって聞いてくれたからすごく気が楽になった」
親方の娘は々気恥ずかしそうに笑うと「うん…そっか、そうよね」とどこか晴れやかな声で言う。
「よくよく考えてみたら私は別にその子と番になるわけじゃないんだもん、関係ない話よね。そりゃあ結婚を考えてる相手が子供を望んでなかったらそれはちょっと考えないとだめだけど…でもそうじゃないもの。私は将来赤ちゃんが欲しいんだし、同じように考えてくれる人と一緒になればいいだけのことだわ」
すっかりいつもの調子を取り戻したような明るい様子でお茶を一口飲む親方の娘。
彼女はとても慎ましやかで、大人しく、優しい性格をしている気立ての良い娘だ。そういった意味での華やかさはないものの、涼やかな感じの雰囲気を纏っているとても美しい女性である。
思慮深いところもあるので例えオメガによる【香り】がなくとも引く手あまたであろうというくらいだ。そんな彼女を射止めたアルファの“彼”もなかなかのものなのではないだろうか。
夾は親方の娘と仕事仲間である荷車整備職人の“彼”のことを親しく思っているので2人には誰からも祝福されるような番となって幸せになってほしいと心から願っているのだが、きっとその願いはそう遠くないうちに叶うことになるだろう。
今は『娘との交際なんて認めない』と言っている親方でも、ひたむきに働いて仕事を学ぼうとしているアルファの青年の姿には心を動かされるに違いないのだ。
そしていつかはこの工房に彼女達の赤子による愛らしい声が響くことになるのである。
そんな光景を思い浮かべながら、夾はさらに話す。
「…でも将来ちびちゃんを迎えたいなら今からかかりつけ医の先生とかに色々と話を聞いておくのがいいと思うよ、授かる前からなるべく気を付けるようにしておいた方がいいこととかもあるからさ、食べ物とかも。体調を整えておくことで元気なちびちゃんを育てることができるっていうのもあるけど、そうやって備えておくことでつわりがひどくなるのをいくらか軽減させることにも繋がるらしいし」
「そ…そうなの?」
「うん。栄養とかが体に行き渡るには時間がかかるから、授かる前からそういうことに気を付けておくのがいいんだって。俺は男のオメガだからどっちにしてもつわりが重かったけど、体に十分な量の栄養があればつわりになってもいくらか耐えることができるっていうか、それ以上ひどくなるのを抑えることもできるんじゃないかっていうことらしいよ」
そこら辺は医者の先生とかに訊けば詳しく教えてくれるから、と話す夾。
その内容にすっかり興味津々になった親方の娘は時折質問を織り交ぜたりしながら手元の茶器のお茶が空になるのも構わず夾の話に聞き入った。
オメガ同士、同じ志を持つ者同士。
夕食にする分の料理を持った璇が迎えに来るまで、夾と親方の娘はそうしてありとあらゆる話をして過ごしたのだった。
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